オンエア

最愛の娘を狙うナゾの影
それは1本の電話からはじまった

あなたは知っているだろうか? 誰もが使っているSNSがあなたを想像だにしない、地獄の底へと誘う可能性があるということを。
今から8年前、テキサス州の小さな街に住んでいたシェラタン。 その前年に、長年連れ添ったブライアンと離婚。 だが3人の娘達に出来るだけ悪い影響を与えない様にと、元夫とは離婚後も良好な関係を保ちながら、10歳の末娘カムリンと二人で暮らしていた。

おてんばで活動的なカムリンには、器械体操の才能があり、体操教室の熱心なコーチの元でみるみるその実力を伸ばし、全国大会でも優秀な成績をおさめるほどだった。 シェラタンは車で体操教室への送り迎えを行なっていた。 ある日、コーチからこんなことを聞かれた。
「この前駐車場で、不審なワゴン車が目撃されたのですが見た事ありませんか?」
数日前、体操教室の駐車場で不審なワゴン車が目撃され、保護者達が不安がっているというのだ。 持ち主を特定する為、SNSで情報提供を呼びかけていた。 この時、彼女はまだ、自分の身に降りかかることになる悲劇を想像すらしていなかった。

そんなある日、健康維持の為トレーニングを行っていた時のこと…シェラタンはウェイトを重くし過ぎたせいで、右肩を負傷してしまった。診察の結果、肩の腱が切れていることがわかった。
シェラタンの両親は別の州に住んでいたため、元夫の母に娘を体操教室へ送ってもらうように頼んだ。 肩の痛みがひどく、疲れも溜まっていた為、この日は仕事を休み、気づくとソファーで寝てしまった。

午前11時25分、突然の着信によって、目を覚ました。
突然、男の声で娘をワゴン車で誘拐したと言ってきた。 電話からは助けを求める声が聞こえてきた。 犯人は、この電話を切ると娘を殺すと脅して来た。 もちろん、警察や誰かに連絡することも禁止された。 犯人からいくら用意できるかと聞かれ、シェラタンは5000ドル(当時のレートで約52万円)なら用意できると答えたが、それでは足りないという。

自分だけでは犯人が望む金額を用意できない…携帯を手放せない今、固定電話で助けを求めるしかなかった。 かけた相手は、1年前に離婚した夫・ブライアンだった。 だが、誘拐犯に悟られてはならないため、普通に話す事はできない。 電話にでたブライアンの声に犯人が「おい、男の声が聞こえたぞ!!」と反応。 咄嗟に電話を切り、テレビの音だと誤魔化した。

犯人は家の住所を教えるよう要求してきた。 シェラタンは、要求に従い 家の住所を伝えた。 犯人は「車を運転して、ATMへと向かえ」と指示してきた。
誰かの恨みを買った覚えなどない。 しかし、心当たりが一つだけあった…体操教室で目撃された謎のワゴン車

アメリカでは安全面などの理由から多くのATMで送金ができない。 犯人から電話を切るなと言われた為、携帯をスピーカーモードにしたまま運転、指定されたATMへと向かい…口座に入っていたお金を全額下ろした。 だが、その金額は、わずか140ドル。
実は…誘拐という予期せぬ出来事でパニックになり、相手を刺激しないよう、5000ドルなら用意できると言ってしまったが…シングルマザーの彼女に貯金はなく、すぐに大金を用意する方法も持ち合わせていなかった。

犯人は金を振り込める場所に移動するよう、細かい指示を出してきた。 どこかから、監視されている様にも感じた。 シェラタンは「お金を振込む時、周りに助けを求める事は出来ないかしら?」と考えたが…そこにいた全員が自分の方を見て来たように思えた。
彼らは何をするわけでもなくそこにいたが、シェラタンは何か違和感を覚えた。 この中に誘拐犯の仲間がいるかもしれないと思った彼女は、指定された振込先に送金する事しか出来なかった。

犯人は振り込まれた金額の低さに激怒した。
シェラタンは、必死に義母にお金を借りに行くと説明した。

午後12時15分、電話着信から50分経過。
元夫ブライアンから、「なんで電話に出ないんだ?」というメッセージが届いた。 だが監視されている可能性があるため、車を止め落ち着いて返信するのは危険だ。 右肩を負傷し運転しているシェラタンには、片言でカムリンが誘拐されたと返すのが精一杯だった。
するとブライアンから「どこにいる?」という返信が。 しかし、返信に手間取っているうちに、義理の母の家についてしまった。

シェラタンは、義母にお金を貸してくれるようにお願いするとともに、犯人にバレないように助けを求めた。 だが、犯人に助けを求めたことがバレそうになったため、お金を借りることを諦めて、急いで義母の家を後にした。
金を借りられなかったことに犯人は激怒、「次こそ絶対なんとかするから!!お願い」というシェラタンに、犯人が次に金を用意できなければ娘のカムリンを殺すという。

シェラタンはブライアンに「お願い!お金をかき集める良い方法を教えて!」とメッセージを送った。 するとすぐに「最初に住んだ家覚えてる?」と返信がきた。
それは10年前、結婚して初めて暮らした家だった。 ブライアンはそこにシェラタンを呼び出した。 何故そんな場所に呼び出すのか、理由は全く分からない。 次にお金を用意出来なければ娘の命はないだろう。 だが…今は彼に頼るしかない。

その家は、誰も住んでいない状態だった。 携帯の充電は、残りわずかになっていた。
やって来たブライアンはシェラタンに「電話を切れ!」と言った。 そして、シェラタンからスマホを取り上げると電話を切ってしまった。

数時間後…シェラタンが家で呆然としていると、ブライアンが娘を連れて帰って来た。 娘は無事だった!
一体どう言うことなのか?

シェラタンが、ブライアンに娘の誘拐を伝えた時、そこでブライアンは何が起きているのか確かめるため…娘が通っている体操教室へと向かった。 中には体操の練習をするカムリンの姿があった。 娘の無事は確認出来た。
そこでシェラタンに連絡し、伝えようとしたのだが、この時、彼女は電話に出られる状況にない。 ブライアンからすれば、彼女が何らかの犯人と一緒にいるケースも考えられるし、まだメールの相手がシェラタン本人ではない可能性も残っている。

そこにシェラタンのスマホから「ブライアン、お願い!私は何でもするから、お金をかき集める良い方法を教えて!」というメッセージが届いた。
そこでブライアンは、「最初に住んだ家、覚えてる?」と返信。 本当にシェラタンであるなら場所がわかるはずだと考えた。

最初に住んだ家に行くと、シェラタンの姿は確認できた。 だが、犯人が近くにいるかもしれない…付近に誰もいない事を確かめると、シェラタンの電話を切り、真実を告げたのだ。
その後警察に通報し事情を話すと、驚くべき事がわかった。 今回の件は、バーチャル誘拐だという。

バーチャル誘拐とは、SNSなどから個人情報を得て 電話などで連絡。 あたかも本当に誘拐が行われたかのように思いこませ、“ゆすり” を行う詐欺のこと。
FBIが調査を実施した2013年から2015年の3年間に、全米で80件の被害届の提出があったという。 そして、この数字は氷山の一角とも言われている。

シェラタン「バーチャル誘拐なんて聞いた事もありませんでした。突然電話が来て、女性の声で『ママ、ワゴン車に乗せられた』と言われ、パニックに陥ってしまいました。さらに体操教室で目撃されていた不審なワゴン車とリンクする話を犯人がした為、誘拐を信じてしまったのです」
このワゴン車は、後日、体操教室の関係者の父が偶然、駐車していたものであったことが判明した。
ブライアン「今回、幸いだったのは、私が犯人のプレッシャーを耳元で感じることなく、一歩引いて対応できたことです。何が起こっているのか確かめるために冷静に行動することができました」

そしてその後の捜査によって、電話の発信地域が判明。 その場所は…メキシコの刑務所! 犯人は海外の刑務所から電話をかけてきていたのだ。
捜査の結果、今回の事件は次の様なものだったと考えられている。 犯人は、刑務所の中で看守を買収し携帯電話を入手。 SNSで情報収集を行い、電話番号などの個人情報を調べ…女性の共犯者と共に犯行に及んだと。 だが、有力な手がかりがつかめず、国を跨いだ事件で、捜査が思う様に出来ない事から、犯人の特定には至っていない。

シェラタン「私は、SNSに娘のことを投稿していたのですが、こんな詐欺の被害に遭うなんて思ってもいませんでした。バーチャル誘拐という犯罪の手口をみなさんに知って貰いたいです。そして、これ以上被害者が増えないようになってくれたら嬉しいです」