12月20日 オンエア
女子中学生に訪れた決断の時
 
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今から4年前の8月、福岡県大島。 人口700人ほどの自然豊かなこの地に暮らす、幼馴染3人組。みな同じ中学のバレー部員だ。
「この大島で生まれたからには、海とともに生きていかなくちゃいけない」が、口癖の漁師の父の元育った、中学2年生の海琴(みこと)
キャプテンでアタッカー。 そして、バレー部1の俊足でセッターとして活躍する、1年生の寧彩(ねいろ)
同じく1年生の悠(はるか)。 年下の妹がいた彼女は優しい性格。
幼い頃からいつも一緒の三人組。 正に親友と言える間柄だった。

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普段は、3人だけで練習をしていた彼女たち。 しかしその日は特別に、九州本土から他校のバレー部を招き、約1年ぶりの合同練習が行われていた。
その見送りのため、港を訪れていたのだが…ついつい井戸端ならぬ、波止場会議が盛り上がってしまった。
すると、その時だった。 近くにいた小さな少女が海に落ちてしまったのだ!

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少女が落ちたのは、約150メートルはある防波堤の先端。 釣りに夢中になっていた父親が目を離した一瞬の隙に、海に落ちてしまったようだ。 この時、引き潮で波は高かった。
その上…父親はパニック状態! 救助に向かっても、彼自身が溺れてしまう可能性が高かった。 傍らには小さな男の子もいた。
さらに不幸なことに、周囲には人影はなく、大人がいる可能性があるフェリー乗り場までは、約250メートル。 助けを呼んでいる間に少女が完全に溺れてしまうかもしれない。

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3人は、私たちがやるしかない!!と決意。 しかし、この状況でどうやって少女を助けるのか?
親子は軽装でライフジャケットはつけておらず、近くに浮き輪の代わりになるようなものもなかった。 海琴は、3人の中で一番足の速い寧彩に少し離れた場所にある荷物から、あるものをとってくるよう依頼。 妹がいる悠には、パニックになっている父親を落ち着かせるよう指示。 そして自らは、海に飛び込み、少女を救助することを決意した。

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海琴は父親から海難に関わることだって人生で1度や2度じゃないと、それに対する備えを教えられていた。
「空のペットボトルがあったら人は浮く、あとは、溺れた人に力を入れさせないことだ。」
それは、海の恵みで暮らし、誰よりも海の恐ろしさを知る父親から学んだ、生きた教えだった。
実は、水中では500ミリリットルの空のペットボトルでも、十分な浮力を得ることができる。 2リットルのものなら、安定した姿勢を保つ事ができるのだ。

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この日は、ちょうど練習帰りで水分補給のため、2リットルのペットボトルを持ってきていた。 とはいえ、試したことなど一度もなく、少女が暴れてしまったら、自分も溺れてしまう可能性だってある。 だが…やるしかない! そして、海琴は少女を抱えながら、堤防の反対側、階段がある側まで泳ぎ、父親の手を借りながら、少女を陸へと引き上げた。
その後、通報を受け駆けつけた消防によって、少女の体に何も異常がないことが確認された。 それぞれの長所を活かし、レシーブ、トス、アタックの見事な連携により…救出は成功したのだ!

そんな3人にはこの翌年、危険を顧みず人命を救ったとして、社会貢献者表彰を受賞した。
現在、海琴さん、寧彩さん、悠さんは、大島を離れそれぞれ別々の高校に進学。
仲良し3人組は離れ離れになってしまったが…今でも連絡を取り合い、大島に戻った際は親交を深めているという。

救助された少女からは、その後、彼女たちに手紙が送られた。
「たすけてくれた、おねえさんへ。たすけてくれてありがとうございます。たすけてくれたときいっしょに うみでおよいでくれたとき、すごくたのしかったです」
海琴さんはこう話してくれた。
「手紙に楽しかったですって書いてあって(女の子に)海を嫌いになってほしくないと思っていたので、楽しかったと思ってくれていたなら本当に良かったなと思いました。」