11月15日 オンエア
アジアゾウ初めての出産に密着!
 
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北海道札幌市、円山動物園。 今から72年前(1951年)に北海道初の動物園として開園。 以来、北海道民だけでなく、日本中から年間100万人以上が訪れることもある、人気の動物園である。 中でも好評なのが、インドやミャンマーを中心に今や5万頭ほどしか生息していない絶滅危惧種、アジアゾウの展示。

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昨年10月、そんなアジアゾウの1頭に妊娠が発覚。
しかし、これまで日本でアジアゾウが無事出産できたのは、わずか16例しかない。 成功すれば、北海道では初。 そんな円山動物園、出産への挑戦に密着した。

円山動物園にゾウが初めてやってきたのは、今から70年前。 花子と名付けられたメスの象だった。
その後、他のメスも加わり、一緒に飼育されていたのだが、1999年にそのメスが2007年には花子が亡くなり…以来、円山動物園からゾウはいなくなった。

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そこで今から5年前、アジアゾウを群れで展示しようと、屋外、屋内併せて東京ドームより広いゾウ舎を建設。
野生のアジアゾウは、20頭ほどの血縁関係のあるメスだけで群れを作り、生活している。 オスは繁殖の時だけ、群れに合流するのだ。
しかし日本では、飼育のしやすさから、殆どの動物園ではアジアゾウを単独で飼育していた。 そこで、5年前の11月、ミャンマーからオス1頭とメス3頭を迎え入れ、群れでの展示と繁殖を目指す円山動物園の挑戦が始まった。

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まずはメスのパールとオスをペアリングさせ出産を目指す。
無事に産まれたら、パールとの関係が上手くいっていなかったもう一組の親子と、4頭での同居を目指す。

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群れでの展示と繁殖を成功させるには、野生本来の行動が取れ、ストレスを与えないような環境を整えることがカギとなる。 そこで、施設には様々な工夫を施した。
以前のゾウ舎は、掃除や衛生管理をしやすくするため、コンクリートだった。
今回作ったゾウ舎は、野生本来の行動をとることができるよう、屋外だけでなく、屋内も砂を敷いた。 すると野生のゾウが紫外線や寄生虫などから皮膚を守るためによく行う、砂浴びが見られるようになった。

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しかし、砂にしたことで、飼育員の作業は大幅に増加。 神経を使う作業が増えたという。
担当の飼育員、吉田翔梧さんに聞いてみると…
「有機物というか、糞とか、(エサの)乾草の残りとかをできるだけきれいに掃除してあげないと、そういったものが砂の中で腐っていってしまって…大変なことは多いですけど、それでもゾウにとってはそっちの方がいいということなので」

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さらに、エサの与え方にも工夫を欠かさない。 野生のゾウはその大きな体を維持するために、1日の大半、約18時間もの間、エサを探して歩き回る。 しかし、簡単にエサが手に入る動物園では、時間を持て余してしまう。 そんな「退屈」こそが大きなストレスとなり、病気や異常行動の原因となってしまうのだという。
そこで人がいない時でもエサが取れるよう、リモートで動く機械でエサを高い場所に吊るすようにした。 すると…転がした木の上に足を乗せ、器用にエサを食べる姿が見られるようになった。 さらに、穴を掘ってエサを埋め、匂いをたよりに掘って探させたり、壁に穴を開け、裏側にタイヤやかごを取り付け、エサを隠して探させたりといった工夫を施した。

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飼育環境を工夫することで、「砂浴び」「餌を探す行動」など、ゾウが野生で見せる行動を引き出すのだ。
そんな努力が実ったのか、昨年の4月、オスと同居していた、メスのパールに変化が! おっぱいが膨らんできたように見えたという。
吉田「これ明らかに通常の乳房のハリじゃないよね。妊娠しているかもしれないワクワクというか、興奮気味に話していたのを覚えています」

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妊娠を確かめるには エコー検査で直接胎児を確認するしかない。 しかし、いくら人に慣れ、飼育されているゾウとはいえ、簡単に検査が出来るわけではない。
ゾウの妊娠期間は22か月。 すぐに出産するわけではないが、急いでエコー検査をするためのトレーニングを開始した。 エサを与えながら、人が触っている間も動かないようにする訓練を重ねた。

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そして、エコー検査ができるようになった、昨年の10月。 検査の画像には…頭部と鼻らしきものがはっきりと写っていた。
いつパールが妊娠したのか正確には分からないため、出産は今年の3月から9月の間と考えられた。

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そして8月に入り、パールに変化が…尻尾でお腹を叩く。 そしてお腹に砂をかける。
実はこれ、象の出産が近づいた時に見せる行動なのだ。 パールの出産は確実に近づいている。

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しかし、吉田さんには不安に思うことがあった。 ゾウには、呼吸や規律を促すために生まれた子を蹴る習性が、あると考えられている。 野生では群れで生活しているため、若いメスも出産を目にしている。 ただ子供を生んだことのないパールが、ミャンマーで他のゾウの出産を見た経験があるかどうかはわからない。
吉田「飼育されているゾウの中には、そういった経験のないゾウが子ゾウを攻撃してしまって、本当に最悪の場合は母親が子ゾウを殺してしまう場合もあるので。海外の動物園でもそういった事例は結構起きているので。」
最悪の場合、パールが赤ちゃんゾウを認識できず、そのまま蹴り続けて殺してしまう可能性も考えられるのだ。

出産は屋内で行われるため、すぐにゾウ舎を閉鎖。 24時間シフトで、パールの出産に備えることにした。
そして8月19日、夜10時38分。
パールが出産した。
そして、赤ちゃんを蹴り始めた。 果たして、パールは赤ちゃんを認識しているのか?
赤ちゃんを蹴り続けるパール。 これ以上続くようなら、高圧の水をかけるなど赤ちゃんと引き離すしかない。
吉田さんも焦り始めたその時、パールの様子が変わった。 明らかに赤ちゃんを立たせようとしている。
そして、赤ちゃんが立ち上がると、蹴るのをピタリと止めた。 出産は無事に終わった。

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しかし、まだ安心はできない。
もしパールが授乳をしなかったり、拒否したりする場合は人の手でミルクを与えなければならない。 母乳には病気への抵抗力を高める免疫物質が含まれている。 しかし人工ミルクにはそれがないため、病気になる可能性が高くなるのだという。
出産から1時間後…赤ちゃんゾウがおっぱいを飲み始めた!
吉田「ものすごく嬉しかったですね。細かい課題というか、心配事もたくさんあったんですけど、それら全て順調に乗り越えてくれて、本当に優秀なゾウだと思っています」

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その後、赤ちゃんゾウはメスと判明。 名前も公募から『タオ』に決定。
順調に育ち出産から1か月後の9月15日、ついに一般公開が開始された。
ここから、円山動物園が目指す群れでの飼育が始まる。

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パールとタオの親子。 そしてもうひと組の親子、母と娘ニャイン。 二つの家族を同居させ、メス4頭の群れを作りたい。 今はそれぞれが柵越しの放飼場で過ごしている。
野生では血縁関係で群れが作られるのだが、パールと他2頭に血の繋がりはない。 その場合、群れを作るのは非常に難しいという。

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そこで、タオを常に気にかけているニャインと、まずは同居を試すことにした。
吉田「ポール越しだと穏やかなのに、ポールがなくなると急に態度が変わる。なぜか攻撃的になったりとか、そういったこともあるので、絶対いけるという自信は今はまだないです」

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そして、先月10月25日。 ニャインとパール親子を隔てるゲートを開け、ニャインだけ中に入れることに。
普段からタオを気にかけていたニャインがすぐに駆け寄る。 しかし、警戒したパールがニャインを攻撃し、排除し始めた。 同居は失敗に終わるのか?
しかし、時間が経つにつれ、ニャインがタオに触れるのを許し始めたパール。

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この日は、お互いのストレスを考え、同居は15分ほどで終了。
徐々に慣らし、来年にはニャインとの終日同居を開始する予定だという。

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吉田「子ゾウがまた大きくなって、大人になるまで成長して、さらにそのゾウが繁殖して子孫を繋いでいくところまでがゾウの飼育だと思っています」
円山動物園が目指す、ゾウの群れでの飼育は、まさに始まったばかりだ。