5月4日 オンエア
円山動物園 初めてのゾウ出産計画
 
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北海道札幌市円山動物園。 1951年に北海道初の動物園として開園。 生き生きとした動物の姿が間近に見られると、年間100万人以上が訪れる人気の動物園である。

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そんな円山動物園が、日本でも16例しかないという、アジアゾウの出産を間近に控えている。 野生のアジアゾウは、メスをリーダーとする12頭から20頭ほどの群れで生活している。 しかし、日本では飼育のし易さから、1頭や2頭で展示している動物園が殆どだった。 円山動物園でもメスの花子1頭を飼育していたのだが、2007年に亡くなって以来、ゾウはいなくなった。

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そこで5年前、新たなゾウ舎を建設。 屋外と屋内に放飼場を作り、ゾウを群れで飼育しようという新たな挑戦が始まった。
2018年11月30日、アフリカゾウより一回り小さいアジアゾウ、オス1頭とメス3頭をミャンマーから迎え入れた。 小さな群れとして暮らす4頭。 オスのシーシュ、一番若いメスのニャイン、ニャインのお母さんのシュティン。 メスのパールはオスとの繁殖を期待されている。

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担当飼育員は8人。 円山動物園にゾウがいたのは15年前なので、全員がゾウの飼育は初めて。 7年目の飼育員、吉田翔梧(しょうご)さんにゾウが初めて施設に来たときのことを聞いて見ると…
「朝早く来た時にゾウが横になって寝てて、ゾウの体なので、呼吸でお腹が膨らんだりとかは見えないので本当に生きてるのかなって、すごい心配になるくらい最初は不安が大きかったですね。でもその後、無事に起き上がってくれてというのを確認できた時にはホッとしました。」

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吉田さんの心配をよそに、ゾウたちはすぐに施設を気に入った様子で、次の日から自然と遊び出した。 最も苦労したのは、意外にもエサだったという。
「もともとミャンマーでは夜は山に放たれていて自然に森の中に生えている植物を自由に食べているゾウたちだったので、日本の動物園のゾウがみんな食べるリンゴやキャベツとかニンジンとか、そういう野菜や果物類も食べてくれなくて、園内の熱帯鳥類館にバナナの木が生えているので、そこからバナナの木を1本切って持ってきて、それをやっぱりバリバリ食べてくれたので今では全然気にせず食べてくれるのでよかったですけど、ヒヤヒヤものでしたね。」

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群れの飼育を成功させる鍵は、いかにストレスなく過ごさせるか。 そこで、野生の環境に似せる工夫も怠らない。
プールではホースで水をかけ、水浴びをさせる。 これは、ゾウの皮膚が乾燥するのを防ぐためだが、この姿をお客さんはガラス越しに眺めることが出来る。

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飼育下では通常、落ちているエサしか食べないゾウだが、エサの干し草を天井から吊るすことによって、普段使わない筋肉を鍛えている。 こちらでは、ゾウが壁に空いた穴に鼻を伸ばしている。 壁の裏側を見てみると、エサが入ったタイヤやかごがある。 ゾウが鼻で探して食べているのだ。
吉田「向こう側からゾウは見えない状況のところに餌を置いておくことで、鼻で探しながら匂いを嗅いで餌を探させるという。ゾウは野生では寝ているとき以外はエサを食べている生き物だと言われていて、その環境に近づけるために少しでもちょっと難しくして探させて、それを見つけて食べるという時間をできるだけ長く取れるように工夫しています。」

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万全の準備が実ったのか、ペアリング中のオスのシーシュとメスのパールの間ですぐに交尾が確認された。 ゾウを群れで飼育する目的、それは繁殖だ。 メスの多い群れでは繁殖の可能性が上がる。
これまで群れで飼育することのなかったアジアゾウの出産は、国内でわずか16例しかない。 もちろん、北海道では初めてとなる。

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2020年、パールの乳房が膨らんできたように見えたという。
吉田「一番はっきり(妊娠が判別できる)しているのは血液ですね。採血をして血液の中のホルモンの数値を調べることで妊娠しているかどうかと言うのがわかるんですよね」
耳から採血するのだが、すぐに採取できるわけではない。 当然、針を刺し血をとっている間は動かないようにしなければならず、エサで誘うトレーニングが必要となる。

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吉田「やっぱり痛みが伴うものなので採れるようになるには結構時間がかかりまして、動物園に来てから4年くらい経った2022年の4月からようやく安定して採れるようになって、その採った血液を調べたらもうホルモンの値が非常に高いと言うことで、妊娠しているかもしれないという風になっていったと言う状況です。」

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しかし、まだホルモンの異常の可能性もある。
そこで、昨年10月エコーを撮って確認することに。 すると、そこには頭部と鼻らしきものが写っていた。

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まさに、吉田さんを始め飼育員の努力の賜物だった。
ゾウの妊娠期間は、約22か月 。 しかし、交尾を確認してから血液検査で妊娠がわかるまで時間がかかったため着床時期ははっきりせず出産は今年の5月から9月とはっきりしていない。

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出産にむけての準備も怠らない。
採血する時に針を刺す飼育員をパールが嫌がらないように、必ず終わった後には、その飼育員が好物の野菜をあげるようにしている。 出産もこの室内放飼場、群れの中でさせることにしている。

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そこには、円山動物園の理念があった。
吉田「他のメスにも出産のシーンを見てもらって自分が出産するときの参考にしてもらいたいという思いがあるので、群れで生きる生き物なんだから群れで飼う。それは当然のことだっていう感覚を身につけて欲しいなって思っていて、この動物はこんな動物なんだということまで興味を持ってもらえるということができたら嬉しいな思うんですよね。それが一番伝えたいところかもしれません。」
パールはいつ出産してもおかしくはない。 そして、我々はその出産を見届けるまで追い続ける。