今から13年前の11月、アメリカ・ルイジアナ州、レイクチャールズ市郊外で、顔が判別できないほど殴られた若い女性と見られる死体が発見された。
その後の調べによって死亡推定時刻は、前日の夜ということが分かった。
だが、現場は街灯もない田舎道。
防犯カメラがないどころか、通行人さえほとんど通らない場所だったため、事件の目撃者は誰一人いなかった。
ところが、のちに捜査陣は、ある民間会社が開発したアンビリバボーな「最新技術」によっていなかったはずの「目撃者」をあぶり出すことに成功。
そして、それをきっかけに事件はとんでもない結末へと向かっていくことになる。
通報を受け、捜査にあたる保安官事務所からやってきたのは、マクギー警部補とマンキューソ保安官。 被害者の服装はタンクトップにミニスカート、所持品は無く、周囲には犯人と争った際に脱げたと思われるサンダルだけが落ちていた。
アメリカでは、人物を特定する重要な情報として、逮捕時などにTATOOが撮影され、データベースに登録されていることがある。
そこでマクギー警部補は、被害者の胸にあったTATOOの画像をリストと照合してみた。
被害者はこの辺りではあまり治安の良くない地区に住んでいたシエラ・ボージガード、19歳。
非行歴があったため、その時に撮影したTATOOが登録されていた。
さらに、検視の結果、爪の間からもみ合った時に取れたと思われる、シエラのものではない皮膚組織を発見。
そこから、犯人のものと思われるDNAを採取することが出来た。
FBIは過去に犯罪を犯した人物の膨大なDNAリストを所有している。
そのリストと今回のDNAを照合させれば事件は大きく進展すると思われた。
ところが、犯罪歴のある人物の中に採取されたDNAと一致する人物はいなかったのだ。
まだ19才の少女の未来を奪った犯人を、許すわけにはいかない。
目撃者のいないこの事件の手がかりを掴もうと、しらみつぶしに聞き込み捜査を続けた。
やがて、地道な捜査が実を結ぶ。
殺害される3日前、シエラがメキシコ人の不法労働者のグループが開いたパーティーに参加していたことが判明した。
パーティーには、入れ替わり立ち替わり、10人以上が参加していたという。
さらに殺される前の日にも、かなり親しくしているメキシコ人と一緒にいるところが目撃されていた。
すぐにマクギー警部補は、パーティーに参加したメキシコ人達に任意で事情聴取を行った。 しかし、有力な手がかりはひとつも得られなかった。
そこで、事件が起こる3日前から、シエラと接触のあった者たちのDNAを採取。
それをシエラの爪にあった犯人のものと思われれるDNAと照合すれば、確実な証拠を掴むことができる!
結果は…犯人と一致するDNAの者はいなかった。
実は…検査できたのは、シエラと接触があった者、全員ではなかった。 聴取や検査に応じた者の多くは、アメリカのビザを持っていた者たちで、大半の不法滞在者は捜査の動きを察知すると、すぐに国外へ逃亡してしまったという。 逃げた者たちの情報を得ようと、残った仲間に聞き込みを続けたものの、手がかりを掴むことはできなかった。 犯人を確実に特定できるDNAを持っているにもかかわらず、操作は全く進展しなかった。
そこでシエラの母親と相談のうえ、犯人逮捕につながる情報に対し1万ドルの報奨金を出すことを表明した。
しかし、その後も有力な情報は手に入らなかった。
打開策を見出せないまま3年が経ち、事件はコールドケース、迷宮入りとなってしまった。
だが、事件発生から6年後のこと、科学捜査を依頼している研究所の職員・モニカがマクギー警部補の元にやってきた。
DNAから似顔絵を作ってしまうという最新技術が開発されたというのだ。
それが…DNAフェノタイピング表現型解析だ。
DNAを用いた科学捜査は30年以上前から行われている。
だがこれまでは採取したDNAを容疑者と思われる人物のDNAと照合して、同一人物かどうか調べる、などということしかできなかった。
それに対し、このDNAフェノタイピングは、ジェネティック・ウィットネス=遺伝学的目撃者と呼ばれる最新技術だという。
一体、どんな技術なのか?
このDNAフェノタイピングを開発したパラボン社のエレン博士に話を伺った。
「DNAフェノタイピングとは主にDNAサンプルから誰かの見た目を予測するものです。」
実はごく最近まで体の設計図であるDNAの配列が体のどこの形を決めているかといった具体的なことはほとんどわかっていなかったのだが、長年の研究で、顔や体の形を決める配列がどこにあるのかということまではわかってきた。
そこで、パラボン社は2万人以上のサンプルとなる目や鼻の形とDNA配列のデータを収集、それらの特徴を関連づけてAIに分析させることで、ついにDNAから人の顔を予測することに成功したのだ。
しかし、この似顔絵は、あくまで持って生まれたDNA情報をもとにしているため、人種や目の色などは正確にわかるが、年齢や体形などは分からない。
さらに、あくまで予測なため、必ずしも正確に再現できるとは限らない。
これまで証拠や目撃者がなく、打つ手がなくなり迷宮入りしていった事件は数多い。
しかし、この技術を使えば、捜査が進展する新たな糸口となる可能性はある。
そう思った彼女たちは、シエラの爪に残っていた犯人の皮膚から抽出したDNAをすぐにパラボン社に送り、似顔絵の作成を依頼。
数日後、ついに解析された情報をもとにCGで作られた似顔絵が届いた。
そこには、捜査官たちがずっと追ってきたメキシコ人に多いヒスパニック系の人物とは似ても似つかない、北欧系と思われる白人男性の顔だった。
すぐに、マンキューソ保安官はこの似顔絵を公開。
広く情報提供を求める記者会見を開いた。
すると、すぐに多数の情報が保安官事務所に寄せられた。
その中に気になる通報があった。
通報者「実は離婚した元夫が、あの似顔絵にちょっと似ているんです。」
すぐに、マクギー警部補は通報者のもとへ向かった。
その元夫の名は、ブレイク・A・ラッセル。
さらに、実は彼女が電話をしてきたのは、なんとなく顔が似ていると思ったからだけではなかったという。
似顔絵が公開されたニュースを一人で見ていた時、ラッセルから電話があり、「シエラが殺された夜、俺は君と一緒にいたのを覚えているよな?」と言われたという。
突然のラッセルの言葉に不信感を抱き、当時の記憶を懸命に思い出した。
確かにその日は一緒にいたが、近所のコンビニにタバコを買いに行くと言って、ラッセルが出ていき、何時間も戻ってこなかった。
戻ってきたラッセルは、すごく不機嫌だったという。
マクギー警部補たちは、早速ラッセル本人から直接DNAを採取したり、家宅捜索をしてDNAを入手したりするために必要な捜索令状を裁判所に申請した。
ところが、なんと裁判所はこの申請を却下。
理由はDNAフェノタイピングの信憑性。
新しい技術であり、まだはっきりとした実績がないため、信用できないというものだった。
これではラッセルを捕まえ、直接DNAを採取することができない。
そこで警察は、捜査とは気づかれないようにラッセル自身から彼が触った何かを手に入れることにした。 ラッセルの住所を調べ、その行動を監視。 すると、仕事帰りにラッセルがよく通っているバーがあることがわかった。
実はアメリカの裁判では、例えば店員などが飲み終えた瓶を回収して廃棄した場合、ラッセル以外の人物もその飲み口にに触れたと判断される。
例えDNAが一致しても、ラッセルがそのことを主張したら、証拠として採用されない可能性があった。
確実を期すには、あくまでラッセル本人から直接、受け取る必要がある。
そこで、一人の刑事がある突飛な作戦を考えた。
果たして、飲んだビール瓶を他の誰かが触れる前にラッセル本人から貰い受ける方法とは?
その日から発案者の刑事は、連日 バーに通った。
そして、ついに作戦を実行する日がやってきた。
ラッセルが、ビールを飲み終わった直後だった。
「じつは今夜、みんなにお願いして回っていることがあるんだ。僕のおばあちゃんのために、ビール瓶を使ったクリスマスツリーを作ってプレゼントしたいんだ。良かったら、その空き瓶もらえないかな?」と言って声をかけた。
こうして、ラッセルが飲んだビール瓶を手に入れた。
すぐに、口をつけた場所からDNAを採取。
そして、シエラの爪から採取されたものと照合が行われた。
すると、二つのDNAは見事に一致!!
こうしてシエラ殺害事件から7年後の2016年、殺人犯ブレイク・A・ラッセルは逮捕された。
その後、裁判の中で警察が発表した事件のあらましは、あまりに身勝手なものだった。
あの夜シエラが道を歩いていたところ、煙草を買いに行ったラッセルが声をかけた。
言葉巧みに車に誘い、乱暴を働こうとしたがシエラが抵抗。
逆上したラッセルは凶器のタイヤレバーで、顔が判別できなくなるほど殴打し殺害したという。
迷宮入りしかけた事件は、最先端技術と捜査官たちの執念によって解決へと至った。
現在、このフェノタイピングはFBIをはじめ、アメリカ中にある多くの捜査機関で採用され、その精度も日々高まり続けているという。