あなたはもしも自分の生活、その全てを誰かに見られていたとしたら、どうしますか?
ウェブ漫画家ちなきちさん。
読者から寄せられる恐怖体験などを基にした作品で人気を博し、インスタグラムのフォロワー数は56万人。
そんな売れっ子の漫画家だが、実は彼女自身が学生時代に身の毛もよだつとんでもない恐怖を体験したことがあるという。
大学進学のため上京しておよそ1年。 あの頃、私は浮かれていました。 初めての一人暮らしに、初めてできた彼氏の一馬くん。 でも、私は彼に一つだけ隠し事をしていました。 それは…ボロボロのアパートに住んでいること。
家賃の安さにつられて、慌てて決めたこの築30年のアパート。 あちこちガタがきていて、壁も薄く、当然セキュリティー設備なんてありませんでした。 それでも私自身、田舎でおおらかに育てられたこともあり、あまり深く考えないようにすることで、一応この一人暮らしを満喫していました。
ですが…ある日、郵便受けの封筒が開封されていたのです。
この頃からでした。
私の家に不思議な現象が起こり始めたのは…。
大学が夏休みに入ったある夜、お風呂に入ろうとしていたときでした。 玄関のドアから光が漏れてるのに気がつきました。 確かめてみると、ドアに穴が空いていました。 私の部屋に脱衣場などなく。お風呂に入る時は、いつもお風呂場の前で服を脱いでいました。 もし、この穴から誰かに中を見られていたら…。
翌日大家さんに報告すると、玄関のドアスコープのレンズがまるごと抜き取られていたことがわかりました。 ドアスコープは一般的に外から綺麗に外すことが出来ない仕組みになっていて、無理に外すと内側に部品が残ってしまうそうです。 それが跡形もなく外れていたということは、誰かが家の中に侵入し内側から取り外した、それ以外考えられないということでした。
ちなきちさんはこう話してくれた。
「その時の私は本当に危機管理が欠如していて、田舎の感覚のままだったんですよね。田舎だと玄関の鍵なんかずっと開けっぱなしなので、コンビニに行くとかちょっとゴミを出しに捨て場に行くぐらいは、まあいいだろうていう感じで鍵をかけずに出て行ってしまっていて、入ろうと思えばそのタイミングで、いつでも入ることができたかなとは思います。」
幸い、大家さんはすぐに修理を手配してくれました。
気持ち悪さは消えないものの、とりあえずは直してもらえることになって良かった…そう思ったのですが…ドアスコープの所に貼ったテープに穴があけられていることに気がつきました。
恐る恐る、その穴を覗いてみると、外から覗いている誰かと、目が合ったのです。
恐怖に怯えていると、友人が家に訪ねてきました。
穴から覗いていたのは友人だったのかと、安心したのですが、彼女たちは覗いていないと言うのです。 穴から覗いていた目と目が合った後、友人たちが訪ねてくるまではわずかな時間しかありませんでした。 しかし、彼女たちは誰もいなかったと言うのです。 その夜、二人は私を心配して、明け方まで一緒にいてくれました。
そして二人を駅まで送って戻ってきた、そのときです。
私の部屋を覗いている男を目撃したのです。
その人物は隣に住んでいる男性だったのです。
私は、背筋が凍りました。
それまで、この男と薄い壁を隔てただけのわずか数センチの距離で暮らしていたのですから。
おそらく私はこの男にずっと電話での会話を聞かれ、郵便物を見られ、部屋を覗かれていたのです。
目が合った夜、友人たちと出くわさなかったのも隣人だからだったのです。
もうあの部屋には帰れない!
私は必死で走りました。
そしてその時、私が向かった先は…彼氏の一馬くんの家でした。
そして、彼にすべてを話しました。
これでひとまず、あの男の恐怖から逃れることができたと、思ったのですが…彼はこう言ったのです。
「でもさ、ちなちゃん、俺以外の男に、裸、見られたんだね。汚れたんだね。」
「うそうそ、もう大丈夫。これからは二度と同じことが起こらないように、俺がずっとそばにいるから。いい?これからは俺の許可なしにこの部屋からは絶対に出ないこと。」
あとから思えば、その時がもう一つの恐怖の始まりでした。
こうして家から逃げてきた私はしばらくの間、一馬くんに匿ってもらうことになったのですが、決して一人で外に出ることは許されず、買い物に行く時もいつも一緒。 さらに…友人たちとの連絡もチェックされました。 まるで私は“見えない首輪”に繋がれているも同然でした。
ついに耐えきれなくなった私は、一馬くんには黙って実家に帰る決心をしました。
でもそれも一馬くんにバレていました。
彼は私の指の動きでパスコードを盗み見て、真夜中に私の携帯を勝手に操作しメッセージのやりとりを自分の携帯でも見られるようにしていたのです。
それでもこの時はまだ、そんな彼の行動も私を守りたい一心でのことだと思っていました。
しかし、やがてそうではないということに気づく瞬間が訪れたのです。
私が入浴していると…一馬くんが雑誌を丸めてたものを目に当て、ドアスコープの穴から覗かれた時のことを揶揄ってきたのです。
それは私が一番嫌がることでした。
彼は私をおもちゃにして楽しんでいるだけ、この時ようやく目が覚めました。
そして、ついにその日がやってきたのです。
目を覚ますと、彼は外出していました。
私はこの隙に部屋を出て行くことにしたのです。
それから私は実家に帰り、両親に全てを話しました。
隣の住人のことを知ると、両親はすぐにセキュリティーのしっかりしたマンションを見つけてくれました。
こうして私はあのアパートからも、彼氏だった一馬くんからも離れることができたのです。
そして、数年後大学を卒業し、会社員になっていた私は、趣味で漫画を描いてSNSに公開するようになっていました。
そして、気持ちの整理のためにこの体験を漫画にすることにしました。
すると、漫画は反響を呼び、たくさんの読者さんから、励ましや応援の言葉を頂くことができました。
「一人でずっと抱えているよりは、色んな人に見てもらえたってことは良かったかなとは思います。」
それでもあの日の恐怖は…今でも心のどこかにひっかかったままです。