2月3日 オンエア
ナイアガラの滝! 最悪のレスキュー
 

世界最大級の滝、ナイアガラ。 世界有数の観光地であり、幅260m、落差57mのアメリカ滝と、幅670m、落差57mのカナダ滝の二つを合わせたもので、その迫力は…圧倒的!
そんなナイアガラで、目を疑うような事態が起きていた。

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今から19年前の3月19日、午後5時8分、ニューヨーク州立公園警察のレスキューチームの責任者 パトリックは、その日の勤務を終え、帰宅しようとしていた。 その時、ナイアガラの滝から緊急連絡が入った。
パトリックは驚いた。 実は、ナイアガラの滝そのものへの出動は、滝に落ちた人間の遺体の処理が主で、そこでのレスキューなど想定外のことだったからだ。

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戸惑いながらも、ナイアガラの滝に急行したパトリック。 そこで彼を待ち受けていたのは、想像を絶する光景だった。
滝のふちからわずか5メートルの場所に男が立っている! 男が立っていたのは、2つの滝の中でも幅が広い、カナダ滝の真上! この時、滝の淵の水深は60センチ。 水の速度は時速20キロほど。 男の体に加わる水の力は、最大265キロにもなっていたと考えられた。 そんな激しい流れの中、奇跡的に立っている男。 川底の岩場に割れ目があり、そこにしっかり足を挟むことで、男はなんとか体を固定していた。

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パトリックは、各方面への応援要請を指示。 さらに、上流の発電所に川の水位を下げてもらうように連絡した。
問題は激流だけではなかった。 3月なかばとはいえ、ナイアガラはまだ雪に閉ざされ、気温はわずか4度、水温も0度に近かった。 そんな状況で男に迫っていた危機、それは…低体温症。 人の体温は通常およそ37度だが、これが4度~5度下がると、運動障害や意識障害が起こり、10度下がれば心停止の可能性も。

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現場には消防がすぐに駆けつけ、隊員の一人、ゲーリーがパトリックと一緒に川に入ることになった。 パトリックとゲーリーは完全防備をし、命綱をつけ、川に大きく張り出した雪の斜面を滑り降りた。 命がけの過酷な任務だった。
上流の発電所は放水量を3割ほど減らしていた。 だが安定した電力の供給には水量が不可欠なため、これ以上は無理があった。 それでも、ももぐらいまであった水位は膝下まで下がっていた。 だが足元には、まだ80kgもの水の力がかかっていた。

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そして、冬のナイアガラには、さらなる危険が潜んでいた。 川の流れに氷の破片が混ざっているのだ。 ぶつかれば、バランスを崩す大きさのものもあった。
それでもパトリックたちは、男から15メートル程の位置まで近づいた。 しかし…川底の足場が悪すぎて、これ以上は近づけなかった。

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通報から42分、応援のヘリがようやく到着した。 ヘリのパイロットのケビンは、レスキュー暦15年のプロフェッショナルだった。
足元には80kgもの水の力がかかり、ちょっとしたことでバランスを崩してしまう。 ヘリは慎重に男に近づいていった。

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だがその時、ナイアガラが思わぬ牙を剥く。 視界を遮るおびただしい水滴。 雨ではない…それはナイアガラの滝の巨大さが引き起こす現象だった。 ナイアガラの滝の水飛沫が細かな粒となって漂い、ヘリの視界を悪化させていた。

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さらに、ヘリを激しい揺れが襲いかかった。 限界間近の男を前に、ヘリは立ち去るしかなかった。 一体何が起こったのか?
滝の落差は50メートル以上、そこをビル風のような風が吹き上がり、乱気流を作っていたのだ。 最初はバランスを取って持ちこたえていたが、墜落の危険があり、現場から離れるほかなかったのだ。

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次々と襲い掛かる自然の脅威。 パトリックとゲーリーの二人は決して岸には上がろうとしなかった。 なぜなら…近くにいる自分たちの姿こそが、男の心の支えだと考えたからだった。

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そして新たな作戦がすぐに立てられた。
作戦はこうだ…救命リングをヘリで男の少し上流まで運ぶ。 その時、ロープの端は河岸のレスキュー隊が持ち、ヘリがリングを落下させた後、男の方へ誘導、キャッチさせ、河岸まで引っ張り上げるという手はずだった。

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通常の川や海ならともかく、滝の淵の男を救うには困難で危険な作戦だった。
第一に、水が激しくうねり、流れる方向の予測がつかない。 そのため、救命リングはなるべく男のそばまで運ぶ必要があった。 だが、近づき過ぎるとプロペラで煽り、バランスを崩させ、滝から落下させかねない。
第二に、もし無事に浮き輪を掴めても、引っ張るタイミングが遅れれば、滝から宙づりになり、体力を失っている男は間違いなく落下してしまう。

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そして第三の危険、それはロープを引っ張るレスキュー隊員たちが直面する危機だった。
この時、ナイアガラの河岸は、あらゆるものが雪に埋もれ凍りついていた。 滑りやすい雪の上でロープを引っ張らなければならないのだ。 ロープの長さは75メートルあったが、届く範囲で 端を固定できるものは何もなかった。 もし、流される男の重みに、隊員達がバランスを崩すような事があれば、次々と河に滑り落ちてしまう。

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レスキュー達の命をかけた作戦が開始された。 ヘリは慎重に男に近づいていった。 救命リングは、ケビンの合図で副操縦士が投げ入れることになっていた。
パトリックとゲーリーは河の中で待機。 だが、やがて予想もしていなかった事態に直面する。

あともう少しというその時…再び激しい揺れがヘリを襲った。 滝の真上では無かったが、乱気流から完全に逃れることはできなかった。 懸命にヘリの安定を保つケビン。
だが、滝の上で必死に耐え続けていた男がついに力尽きた。 男がナイアガラの滝へ吸い込まれていく様子を皆、凍りついたように見つめていた。
しかし、信じられないことが起きていた。 なんと男はギリギリのところで川底の岩にしがみつき、流れを遡ろうとしていた。 生きることへの執念が最後の力を振り絞らせていた。

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男たちは最後の奇跡にかけた。
投げ入れられた救命リング…それは男に届くのか?
リングは男に届いた。 だが…さらなる悪夢が男を襲う!

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男は必死に浮き輪にしがみついていたが、河岸からせり出した氷の下に入ってしまったのだ。
氷と水の間はわずか30センチ、顔は水に浸かり、足は滝の淵にぶら下がっていた。 気がついたのは、間近にいたパトリックとゲーリーの二人だけ。 二人は水の流れと戦いながら懸命に男の救出に向かった。 パトリックとゲーリーが氷を叩き割り、なんとか男を引っ張り出した。 そして男は…無事救出された。
第一報が入ってから、1時間20分後のことだった。 彼は軽い低体温症にかかり、ひどく消耗していたが、命に別状はなかった。

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男は会計士でギャンブルにのめり込み、多額の借金があった。 それを苦に自殺するつもりで滝を見つめていたが、覚悟を決める前に足を滑らせてしまったという。
男は救出された後、謝罪。 極寒の水で頭を冷やされたことで自殺願望は消え、生まれ変わったつもりで借金を返すと涙を流した。

19年前、世紀の救出劇で中心的な役割を果たしたヒーローたちは、現在どうしているのだろうか?
ナイアガラ消防局のゲーリーは、いまも在籍し、トレーニング担当の教官として後進の指導にあたっている。 ニューヨーク州立公園警察のパトリック、ヘリのパイロットのケビンは、すでに退官し、レスキュー業務を引退していた。

今回、ケビンさんと連絡をとることができ、当時の過酷なレスキュー体験についてあらためて語って貰った。
「私のレスキュー人生で、最も過酷な任務だったよ。あの状態で男を救出するのは難しいかもしれないと思っていた。あの件以来、パトリックやゲーリーと会っても、やっぱりあの時のことを話してしまうんだ。信頼の絆が生まれたんだと感じたね。」