ニューヨークに暮らすトミー、妻と別れたあと、男手ひとつで娘であるキムを育ててきた。
コンピューター事業などで成功を収めた彼は、娘のためならどんなことでもする父親だった。
車が盗まれたと聞けば、すぐに新車を買ってやり、一人暮らしがしたいとせがまれれば、ガレージ付きの高級アパートを自ら探し、契約した。
1日に数度、連絡を取り合う、そんな親子だった。
だがそんなある日、トミーは娘と連絡が取れないといって、警察に駆け込んだ。
刑事がトミーと一緒にアパートに向かうと、ガレージに彼女の車はなかった。
ガレージで刑事が見つけたのは、片方だけのピアス。
キムの友人のエイプリルとその彼氏ジョシュも、これはおかしいと主張した。
エイプリルは、自分の家のリフォームが終わるまでの間、彼氏と2人でキムのアパートの一室を借りて住んでいた。
警察は本格的に捜索を開始した。 キムは学業に励みながらも、青春を謳歌する活発な女の子だった。 流行りの音楽がかかるナイトクラブなどに顔を出すこともあり、姿を消した夜も友人女性とナイトクラブに行っていたことが判明した。 一緒にいた友人は踊ったあと普通に別れたと証言。 それが最後の目撃情報だった。
身代金目的の誘拐であれば、犯人から何らかの連絡がくるはず。
しかし、電話が鳴ることはなかった。
トミーは街頭に立ち、情報収集を開始した。
キムの友人たちも協力、みんな彼女の無事を祈っていた。
そんな中、キムが行方不明になって3日後、衝撃の知らせが舞い込む。
トミーが呼び出されたのは、警察の殺人課だった。
実は、ブルックリン近くにある空き家で地下室が燃える火災が発生。
その地下室から、黒焦げになった遺体が発見されていた。
年齢や身体的特徴などから、警察はキムの可能性があると判断、父親のトミーに連絡したのだ。
その後、歯科記録などから遺体はキムと断定された。
キムの気管が焦げていたことから、生きたまま焼かれたことが判明した。
犯人はキムに強い恨みを持った者だと考えられた。
警察はサイコと呼ばれる男が怪しいと睨んだ。
ギャングとも繋がりがあると噂される男で、キムに言い寄ったものの相手にされなかったという証言があった。
キムに拒否されたサイコが激昂、怒りに任せて殺害したのではないか?刑事たちはそう考えた。 しかし彼はアリバイこそなかったものの、事件への関与を頑なに否定。 その後も警察は、サイコの周辺を洗ったが、有力な情報は何も出てこなかった。
そんな中、町の中心部から30km離れたところでキムの車が発見された。
車のトランクから、キムのもう片方のピアスが見つかった。
この状況から、彼女はガレージで自分の車のトランクに無理やり入れられ、そのまま殺害現場となった空き家に運ばれたと考えられた。
しかし、その後も交友関係から新たな容疑者が浮かんでくることはなかった。
警察が手がかりを見つけられない中、トミーは犯人探しに奔走し続けた。
自費で1万ドルの懸賞金もかけ、それどころか仕事も辞め、犯人探しが唯一の生きる目的のようになっていた。
そんなある日、若い男性が路上で至近距離から射殺される事件が発生した。
男性にはドラックの密売で逮捕歴があったことから、麻薬事件の発砲事件かと思われた。
だが、この銃撃事件が事態を大きく動かすこととなる。
この事件の捜査も掛け持ちで担当することになったルイス刑事は、被害男性の妻に話を聞きに行った。 その時、被害男性の妻が実家に息子を預けに行くところだったため、ルイス刑事たちが送って行くことになった。 予定になかった訪問だったのだが…その家の隣がなんと、キムが殺された空き家だったのだ!
妻は、犯人の顔は見ていないと言うが…心当たりはあると言う。
それは、驚くべき人物の名前だった。
ルイス刑事はすぐに夫を殺害したと思われる男の元に向かった。
それは…キムと仲が良かったエイプリルの彼氏でキムのアパートの一室を借り、住んでいた男…ジョシュだった。
ジョシュは犯行を否認。 以前ジョシュは警察に、友達みんなに連絡をしたがサイコからだけ折り返しの電話がなかったと証言をしていた。 だが、ジョシュの通話記録を調べたところ、誰にも電話した形跡がなかったのだ。 限りなく怪しくはあったが、決定的な証拠がなかった。
さらに3ヶ月程がすぎたある日、1人の女性が警察に駆け込んできた。
女性は彼氏に暴力を振るわれ、こう脅されたという。
「俺を困らせた奴は生きたまま燃やされたんだぞ」
彼氏の名は…ジョシュ・トレス。
この証言は、すぐにルイス刑事にも報告された。
実はジョシュは、恋人だったエイプリルとは別れていた。 しかし、無職だったこともあり、別れた途端、金に困りだした。 そこで新しい彼女と交際を始めたのだが、金づるにならないと分かると激昂。 自らの口でキム殺害をほのめかしたのだ。
この証言が決め手になり、事件から半年後、ジョシュと共犯の男がキム殺害の容疑で逮捕された。
ジョシュは口を割らず、黙秘。
共犯の男が全てを語った。
「ジョシュが俺たちにアイデアを持ちかけた。キムを誘拐すれば彼女の家族から金を取れるかもしれないって」
計画を考えたのはジョシュで、目的は警察がないと考えていた身代金だった。
裕福なキムに狙いを定めたジョシュは、仲間に誘拐させた上で公衆電話から身代金を要求する電話をかけた。
だがこの時、家には誰もいなかった。
身代金要求の電話は父の留守中にかかってきていたのだ。
留守番電話の応答メッセージを本人が出たと勘違いしたジョシュは、そのまま身代金を要求。
要件を伝えると電話を切った。
しかもメッセージの録音が始まる前に電話を切ってしまったため、身代金の要求は記録されなかったのだ。
身代金の要求に応じないことに憤ったジョシュは、なんの落ち度もないキムに躊躇いもなく、火を放ったのだ。
もう一件の殺人事件についての立件は、証拠不十分で見送られたが、キムの誘拐や殺害、放火に関しては、ジョシュと共犯の男の犯行だと認められた。
2人には死刑制度がないなか、無期懲役の判決がくだされた。
判決を受け、父はこう語った。
「ジョシュには死刑でも足りないくらいです。」
事件から15年後の2005年、トミーさんは肺がんのため60歳でこの世を去った。
その死について、ある親族はこう語った。
「死因はがんではなく、娘を失った失意だ」
今、父の遺体は愛してやまなかった娘の横に眠っている。