11月11日 オンエア
徹底取材! 謎のコインの正体を追え
 
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今から2年前、Twitterに投稿されたある呟きが、ネット界を騒然とさせた。
投稿者の自宅から発見されたというのが、このコイン。 表面には6つのタンクとその奥にヤグラのようなものが描かれ、周囲には「むつ小川原国家石油備蓄基地開発事業記念」と刻印されている。 これだけを見れば、その施設を作った際の記念メダルのようにも見えるのだが、実はこのコイン、裏面を見ると「日本国」そして「千円」と書かれているのだ。 一体このコインはなんなのか?

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我々は投稿者のハリジャンぴらのさんに話を聞くことが出来た。
「13年ぐらい前のことなんですけど、当時福祉の仕事をしていまして、同僚が高齢の利用者さんの引っ越しの手伝いをした際、その家に記念硬貨とか古銭とかがかなりあって、その中に入っていたのがあのコインだったそうです。」
その後、ぴらのさんは持ち主からコインを貰い受け、10年以上 自宅で保管していたというが、2年前、かつて起こったある事件の話題がインターネット上で盛り上がったことをきっかけに、このコインのことを思い出したのだという。

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今から9年前、茨城県内のコンビニで昭和65年という、存在しない年号が刻印された10000円硬貨を使い、お釣りを騙し取ったとして、男が逮捕される事件があった。 逮捕された容疑者は堂々と「使えると思った」と供述。
時がたって、「犯人はこの硬貨が本当に使えるパラレルワールドからやってきたのではないか」などと再び話題になり、Twitter利用者達が独自にこの偽硬貨についての調査を開始。 すると、たった数日で某玩具メーカーが30年以上前にカプセルトイとして作ったものであるということを特定してしまったのだ。
これは「インターネットの集合知」として近年注目されている。 一人の専門家よりも、たくさんの一般人の知恵と知識を結集させた方が正確な情報に早くたどり着くという考え方だ。

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この「集合知」を持ってすれば、手元にあるコインの謎もすぐに解けると思い、ぴらのさんはTwitterに投稿。 すると思惑通り、そのツイートは瞬く間に拡散され、多くの反響を呼んだ。 ところが、何日たってもこのコインに関する具体的な情報は全く上がってこなかったという。
番組でもまずこのコインが本当に記念硬貨なのか、財務省のHPに掲載されている過去発行された全ての記念硬貨を調べてみた。 ところが、一覧表にあのコインは掲載されていなかった。 つまり、千円と書かれてはいるが、これは記念硬貨ではないということだ。

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このコインの「違法性」について財務省に問い合わせたところ、文書での回答があった。
個別の事案ごとに判断されるため、断定はできないものの、そもそも自作のコインに千円と刻印すること自体が『通貨及び証券模造取締法』で規定されている『貨幣に紛らわしいもの』の製造に該当する。 特に今回のような、購入者が誤解する可能性があるものに関しては、より違法となる可能性が高いという。

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次に、表面に描かれている「むつ小川原国家石油備蓄基地」だが、実はこの施設は、本当に存在している。 むつ小川原国家石油備蓄基地は、今から36年前に青森県の六ヶ所村に建設された日本で最初の石油備蓄基地。 今も正常に稼働している。
施設が今もあるなら、この施設に聞けばわかるはず。 しかし、基地の管理会社に問い合わせたものの取材は不可という返事が。 実は、このコインに関する問い合わせは数年に一度あるが、作った記録はなく、管理会社としても全くわからないのだという。 さらに青森県庁、六ケ所村役場にも問い合わせたが、こちらも同様に何もわからないという返答が返ってきた。
千円と刻印されているが、正式な硬貨ではなく、行政や管理会社が作った記念メダルでもない。 とすれば、一体、誰が、何のためにこのコインを作ったのか?

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早くも調査に行き詰まった我々はこのコインの謎を2年間ずっと追いかけ続けているという大手ネットニュースサイト「ねとらぼ」の記者Kikkaさんに協力を求めることにした。
Kikkaさんは当初、ある仮説を立ててから調査に臨んだという。

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仮設1 「偽金詐欺」
千円と刻印されているにも関わらず、正式な硬貨でないということは、やはり詐欺の可能性が高い。 もし、悪徳業者が正式な記念硬貨と偽って販売したものであれば、材質は安物で加工技術も粗くなっているはず。 そう思ったKikkaさんはぴらのさんからコインを借り、専門家にコインの成分分析を依頼。
すると、コインの材質は純金でこそないものの、真鍮の上に本物の金メッキ加工が施されており、素材の原価だけで一枚500円から900円もかかることが判明。 これでは千円で販売してもほとんど利益が出ないというのだ。

しかし、偽金詐欺でないとしたら一体なんなのか? Kikkaさんがそんな疑念を抱いていた頃、別の大手ニュースサイト「ハフポスト」がコインの謎に関係するかもしれない、ある「新聞記事」を見つけたと発表した。 それは備蓄基地の建設が決定した40年ほど前、むつ小川原地区にある土地が「原野商法」と呼ばれる詐欺に使われていたことを報じるものだった。

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仮説2 「原野商法詐欺」
原野商法とは、鉄道などの開発計画によって山林などの土地の価格が上がると偽り、実際には「開発対象から外れた区画」を、法外な値段で販売する悪徳商法のこと。
当時、備蓄基地の建設計画が進んでいた むつ小川原地区は、そんな悪徳業者達の格好のターゲットになっていたという。 そしてこのコインは悪徳業者が客を信用させるためのツールとして作ったのではないかと、ハフポストは推測。 確かに、それならばコイン自体で儲ける必要はない。 また、信用を得るためにコストをかけて作ったという点でも辻褄が合う。

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しかし、ぴらのさんのツイートからおよそ半年後の昨年3月、ねとらぼKikkaさんの元にこれまでにない新情報が舞い込んできた。 なんとここに来て新たな所有者が現れたのだ!
連絡してきたのは所有者の娘さんで、コインは父が40年位前に手に入れたものだという。 その入手した場所というのが、備蓄基地がある青森県六ケ所村からほど近い、八戸市にある、陸上自衛隊八戸駐屯地だったというのである。

実は、情報提供者のお父さんは元自衛官。 高齢のため記憶が鮮明ではないが、当時駐屯地に出入りしていた「行商人」から額面通りの千円でコインを購入したという。
突然浮上した謎の行商人。 額面通りに販売していただけという話が事実なら、コインは原野商法とは無関係、ということになる。 しかし、だとしたら一体何なのか?

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令和の高度情報化社会においても全く詳細が明らかにならないこのミステリーを解明するために現地に行って調べるしかない! そうKikkaさんが思っていた矢先、新型コロナの猛威が世界を襲い、残念ながら現地での取材は中止せざるを得なくなってしまったのだという。
しかし、彼女は全く諦めていなかった。 その後も読者に向けて幾度となく情報提供を募ると、自らもわざわざ青森県や六ヶ所村の郷土史を取り寄せるなど、むつ小川原開発の歴史を徹底的に洗い直した。 その結果、ぴらのさんや元自衛官の他にもコインを持っているという人を複数発見することに成功。

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そして…ついに長かった緊急事態宣言が明けた先月中旬、Kikkaさんはコインの正体を探るべく、念願だった青森県の現地取材を敢行。 その取材に我々も同行させてもらった。

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まずアンビリ取材班が訪れたのは八戸市立図書館。 実は、青森の東奥日報という新聞に記念コインが販売された記事が載っているかもしれないという情報があったのだ。 この裏をとるため、42年前の昭和54年から3年分の記事を全てチェックしてみることにしたのだ。 もし記事が見つかれば、行商人の謎を探るよりも早く、真相にたどり着ける可能性が高い。 だが、結局、記事を発見することはできず、この調査は空振りに終わった。

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一方その頃、Kikkaさんはある重要な人物に話を聞きにいっていた。
当時、石油備蓄基地建設の誘致に関わり、現在も基地の運営に携わる、むつ小川原アシスト社長、小笠原三孝さん。 彼なら何か知っていてもおかしくない。 すると…小笠原さんは備蓄基地は国家プロジェクトのため、箱に「青森県」と銘打たれていることがそもそもおかしいと指摘。

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さらに、明らかに絵が本物と違うと言うのだ。 そう、実はコインに描かれているタンクの先にあるこのヤグラのようなものは、実際の備蓄基地には存在しないのだ。 これらの事実から、コインは基地建設の中枢に近い人間が作ったものとは思えないという。 だとすれば、民間人が非公式で作ったということになるが、一体誰が、なぜ? という疑問の手がかりは、残念ながら得られなかった。

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こうなればやはり、当時購入した所有者たちに直接聞いてみるしかない! こちらの男性 河村さんは、製紙メーカーに勤めていた40年ほど前にコインを会社内で購入。 金額も額面通りの千円だったというのだが、肝心の「誰から買ったのか」ということに関しては…売りにきたのは外部の人で間違いないが、会社のセキュリティ上、行商人が来ることはありえず、あるとするなら保険の外交員だったのではないかとのことだった。
さらにその後、河村さんに「自衛隊」との接点について聞いてみると…なんと河村さんが勤めていた会社と八戸駐屯地は道一本を隔てただけの間近にあることが分かったのだ。 これは、偶然なのか?それとも?

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そんな疑問を抱きつつ、次に話を聞いたのは、河村さんと同じ会社に勤めていた小岩さんという男性。 だが、コインは持っているが、昔のことで詳細は全く覚えていないとのことだった。
しかしその数時間後、話を聞き、別れた小岩さんから連絡があった。 実は小岩さん、数年前コインを売却しようと買取業者に持ち込んだことがあったと言っていた。 取材中には思い出せなかった店名を思い出したということで、わざわざ電話をかけてきてくれたのだ。

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確かに、もしコインを持っていたら、質屋などの業者に買取を依頼するケースはありえる。 もちろん、可能性は高くないが、もしかしたら新たな所有者につながるヒントなどが見つかるかもしれない。
そう思い、小岩さんに教えてもらった八戸市内のお店「大吉」を訪ねると‥なんと、この店だけで過去5枚ものコインが持ち込まれているというのだ! しかも、そのほとんどがこの八戸市内の人だという。
残念ながら個人情報ということもあり、今回 それ以上の情報を教えてもらうことは出来なかったが、間違いなくコインは40年前にここ青森の地で、それなりの数が販売されていたことがわかった。

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さらに、Kikkaさんがずっと探っていた行商人についても意外なところから、その謎が紐解かれる。
以前、情報提供してくれた元自衛官の娘さんに会い、今回会った二人の所有者に関する報告をしていると…なんと彼女のお父さんの記憶も曖昧で、当初は行商人だったと言っていたが、最近になって保険の外交員だったかもと言い始めているというのだ。
これでまた一つ点と点が繋がった。

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自衛隊と河村さんたちの会社にコインを売っていたのは同一人物、または同じ組織の人物。 そして、保険の外交員だった可能性が極めて高い。
作っていたのは、基地開発計画の中心に近い人物ではなく、さらにそれを売っていたのは保険外交員。 とすると、ここにもう一つの仮説が生まれる。

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仮説3 「裕福な民間人の個人的な趣味説」
コインを売っていたのが行商人ではなく、保険外交員であるならば、製造者はコインを売る販売ルートを他に持っていなかった可能性が高い。 となると、やはり作ったのは企業や行政ではなく個人。 しかし、その人物はなぜこのコインを作ったのか。

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実はこの石油備蓄基地は、およそ50年前に起こったオイルショックをきっかけに、石油を貯蔵しておけるようにと作られた、日本最初の施設。 制作者は、単純に地元の人間として、その事実を誇らしく思った。 そして、他の地元の人々にもこの基地を誇りに感じてほしいと、儲けを度外視して記念硬貨風のコインを自前で制作、馴染みの外交員を通じてほぼ原価に近い値段で売ってもらったのではないか。
その場合、違法の可能性もあるコインではあるが、悪意をもって作られたものではないということになる。 我々は今回の調査で、そんな可能性を考え始めていた。

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もちろん真相はまだわからない。
だがKikkaさんはこう話してくれた。
「私の私見ですけど、このコインから嫌なものは感じないんですよ正直。最初にこのコインを写真で見た時は、きっと何かの詐欺で作ったんだろうなとか、またこんなもの作ってお年寄りダマしてと思ったんですけど、でも実物を見て 背景を調べると、コインから悪いもの 嫌なものをあんまり感じないんですよね。よかれと思って誰かが作って、よかれと思って1000円で譲った。そういうものだからトラブルにならなくて、今まで見つかってこなかった。」

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その後も我々は、何とかコインを売っていた人物を特定しようと、40年前にこの地で保険外交員を務めていた人物を探し調査を継続。 そして、40年前八戸駐屯地に常駐していたというある保険会社の外交員を見つけ、話を聞くことまではできた。 だが、残念ながらその先に続く、新たな手がかりを得ることは叶わなかった。

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また記念メダルの制作は当時、徽章会社やスポーツ用品店などが請け負っていたことから、青森県内に古くからあるそれらの企業にも一軒ずつ取材して情報を探った。
しかし、こちらも、決定的な手がかりを得るまでには至らず、残念ながら今回の調査は終了することになった。

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取材の最後、Kikkaさんが今回どうして訪ねたかった場所にやってきた…「むつ小川原石油備蓄基地」だ。
kikka「今回 逆に青森に来たことで、私たちがこうなんじゃないかと思っていたことが実は そうじゃなかったり、現地に来たからこそ、所有者の方が 自衛隊の方と製紙メーカーの方がいらっしゃって、働いていた所がちょうど真向かいだったのは、来てみないと実際見ていないとわからないことなんで、すごく青森に来られてよかったし、さらにもっと調べたくなりましたね。」
Kikkaさん、そしてアンビリバボーの謎コイン真相究明への旅は、これからも続いていくことになる。