10月21日 オンエア
無実の罪を晴らせ!勝ち目のない裁判に挑む
 

東京、神楽坂で寿司店を営む二本松進さん。 若い頃から真面目に仕事に打ち込み、平穏な日々を過ごしていた二本松さんだが、今から14年前のある日を境に突然、人生が一変することになる。

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ここ数年、視力の低下で運転を控えていた二本松さんは、その日も仕入れのため、妻 月恵さんの運転で築地を訪れていた。
買い忘れた食材があったため、彼は再び買いに戻った。 月恵さんは運転席で夫の帰りを待つことに。

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そして数分後、二本松さんが買い物を終え、戻ってくると…なぜか車の前方と後方に女性警察官が1人ずつ立っていたという。
女性警察官が法定禁止エリアで駐車違反だと言ってきた。 だが、警察官が仕入れ目的の車ならば駐車可能な場所だと言ったため、自分たちもそうであると説明したのだが…車が乗用車だからダメだと言うのだ。

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困惑していると…警察官のあまりの剣幕に、あたりには人だかりができていた。 これでなんとか開放してもらえる、そう思った。 ところが、怒りの収まらない警官たちは、今度は運転席にいたわけでもない二本松さんに、違反切符のケースを突きつけてきた。

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これ以上相手にしていられないと判断した二本松さんが、月恵さんに声をかけ帰ろうとすると…ついには外からドアを掴んでまで、二本松さんたちの出発を妨害してきたという。 結局、根負けし、すぐに帰ることを諦めた二本松さん。
さらにこのあと彼は、耳を疑う言葉を聞くことになる。

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なんと警官が突然、暴行を受けていると、無線で応援を呼んだのだ。
そして、通報から3分。 応援に駆けつけた警察官により、二本松さんは逮捕されてしまったのだ!

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逮捕された翌日、二本松さんの身柄は検察へと送られた。
暴行の通報をした藤本巡査が、検察官に供述した内容とは…
事件当日、パトロール中の午前8時5分ごろ、放置駐車されている車両を発見。 運転席に人の姿はなく、車両の後方に女が立っていたので、班長がその車に近づいてきた女性に「駐停車禁止場所なのですぐに移動してください」と警告。
するとその女性は、運転席に乗り込み、エンジンをかけたものの動かさず、その後の警告も無視。 それからおよそ3分後、ビニール袋を持った男が帰ってくると…「なんでダメなんだよ 後ろの車をやれ」と怒鳴ってきた。

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その後、数分に渡り駐車違反の説明をしても男は納得せず、さらに怒りを露にすると、藤本巡査の胸を両肘を曲げた状態で両腕を交互に前に出して3回くらい連続して押してきた。 公務執行妨害だと思った藤本巡査は、緊急ボタンを押した。
またその時、運転席には女性がおり、ドアは45度くらい開いた状態になっていたため、逃げられては困ると思い、車が発進できないように開いていたドアと、車体の間に自分の体を入れて前方向を向いて立ち、ドアを閉めさせないようにした。

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しかし、それでも男が無理矢理ドアを閉めてこようとしたため、閉まってきたドアのドア枠が藤本巡査の右手首の小指側に強く当たり、強い痛みを感じた。 藤本巡査は車のちょうどこの辺りに右手の小指が当たったと主張。

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その後、逮捕という言葉を聞いた男性は運転席に乗り込み、助手席にいた女性とともに逃走を図ろうとしたが、藤本巡査と班長は車の右前方の方に立ち、逃走を防止した。
その後、駆けつけた応援隊により、男性を8時15分、公務執行妨害で逮捕。 さらに警察は傷害の容疑も視野に入れ捜査を開始した。
これが、巡査の供述だった。

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すべてがでっち上げ。 何より駐車禁止をめぐっての言い争いだったにもかかわらず、それがいつ間にか傷害事件にすり替わっている。
さらに、確かにあの日、彼らのやり取りを多くの人が目撃していたのだが、なんと警察はあれだけ人だかりが出来ていたにも関わらず、目撃者は一人も見つからなかったと検察に報告していたのだ。

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藤本巡査の嘘を証明するだけならまだしも、もし相手が警察組織そのものだとすれば、どうすることもできない。 そんな絶望の淵に立たされていた二本松さんに、小さな光を届けてくれたのは、妻の月恵さんだった。 目撃者が1人、見つかったのだ。

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実は、事件翌日から、月恵さんは目撃者探しを開始していた。 すると、あの日の一部始終を目撃していたという人物が話しかけてくれたのだ。
後日、目撃者の男性は検事の前で…自身が目にした事実を明確に証言してくれた。 その結果…逮捕、勾留されてから実に19日後、ついに検事も傷害の事実はなかったと認めてくれた。

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これでようやく釈放されると思ったのだが…検察官はこう言ってきた。
「藤本巡査が、切符ケース越しにあなたに胸を突かれたとも言っているの。」
「もし二本松さんが、この事実を認めるなら、傷害ではなく単なる暴行として処理するので、起訴猶予であなたを釈放します。でも、認めないのなら、検察はあなたを起訴し裁判で争うことになります。」
それはまさに、司法取引まがいの提案だったという。

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日本の刑事裁判は起訴されてしまえば有罪率は99.9%。 その間どれだけ拘留されるかもわからない。 一方、起訴猶予なら犯罪があったことは認定されるが前科がつくこともない。
こうして、二本松さんは罪を認める調書にサイン、起訴猶予を選んだ。

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だが、この時二本松さんは同時に国家賠償請求訴訟をする決意も固めていた。 だが、依頼した弁護士にこれを断られてしまった。
国家賠償請求訴訟とは、個人や団体が国または公共団体の責任を追求して、賠償を求める訴訟のこと。 その勝率は、恐ろしく低いことで知られている。 被告には、証拠となる内部資料を法廷に提出する義務がなく、その責任を立証しづらいというのが最大の理由だ。

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さらに、二本松さんの場合、起訴猶予のため、もっと厄介だという。
国賠訴訟は起訴された被告が、刑事裁判で無罪を勝ち取ってから、改めて国の責任を追求するというのが大半である。 だが、起訴猶予では、起訴は見送るというだけで、犯罪自体は行われたとされたままの状態で戦うことになる。 そのため…どれだけ資料請求を訴えても、断られて終わりになってしまうという。

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二本松さんは、自分1人で戦うことを決意。 こうして、還暦が目前に迫る年齢で、それまで全くのど素人だった法律の勉強を開始した。
寝る間も惜しんで裁判に必要な知識を学ぶ中で、知り合った2人の弁護士が、勝ち目は薄いと知りつつも、この裁判を引き受けてくれることになった。

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そして釈放されてちょうど丸2年たった2009年10月29日。 ついに二本松さんは、国と東京都を相手どり、国家賠償請求訴訟を起こしたのだ。
ついに裁判が始まった。 覚悟していたつもりだったが、現実は想像以上に厳しかった。 何度請求しても、被告側は供述調書など、基本的な資料すら全く出してくれない。 その上…なんと目撃者の証人申請まで裁判官から却下されてしまったのだ。

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二本松さんたちはその後も腐ることなく、警察側の資料がなくても追求できるポイントを探し、それを糸口に公判で捜査資料提出の必要性を訴え続けた。

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そして本当に少しずつ、少しずつではあったが、当時の捜査資料を提出させては、その矛盾点を追求し、ついに裁判開始から4年後…念願の一つ、当事者、藤本巡査の証人尋問を実現させるまでにこぎ着けた。
この日までに何とか手に入れていた4つの調書には、暴行の様子に関して、明らかにおかしな点が幾つも存在していた。 「腕で突き飛ばされた」と書かれていたかと思えば、「胸などを両肘などで強くついてきた」など、一番重要であるはずの暴行の描写がバラバラ。 それだけではない、最終的に結論づけられた「切符ケース越しにに胸をつかれた」点は、全く書かれていなかったのだ。

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さらに…事件当日、警察が撮影したという再現写真には、なんと「切符ケース」すら映っていたなかったのである。 そして、二本松さんたちが逃走を図ろうとしたという供述にも、ありえない矛盾があった。
藤本巡査の供述では、二本松さんたちに逃亡の恐れがあると思ったのでドアの内側に入り、それを阻止しようとした。二本松さんにドアを外から閉められそうになり、右手を打ち付け負傷した。 その後、二本松さんが運転席に乗り込み、助手席にいた月恵さんとともに逃亡を図ろうとしたので、藤本巡査たちが身を挺してそれを止めたとあった。

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だが、藤本巡査がドアの内側に入る直前の状況を説明している一文と矛盾していると弁護士は指摘。
その一文には…「私が気づいた時には、女性は車の運転席に乗り込んでおり」とあった。 そう、藤本巡査は当初、月恵さんが運転席にいたため…逃走を阻止しようとドアの内側に入り込んだと供述していた。 にも関わらず、二本松さんが逃走しようとした際、月恵さんはいつの間にか助手席にいたことになっていたのだ。
しかも二本松さんは、ここ数年、視力の低下で車の運転はしていない。 そんな中、夫から何か言われたわけでもないのに、月恵さんが助手席に移動するとは考えられない。

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そして最後に「ドア枠の窓とドア部分の境目、すなわちこの辺りに右手があたった」という供述について。 事件後、藤本巡査の右腕を映した写真をみると、確かに腫れているようにも見えるが…このケガが、本当にあの時できたものなのかについて、二本松さんたちは厳しく追及した。

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二本松さんや目撃者の証言によれば、この時 二人の位置関係は、内側に二本松さん、外側に藤本巡査がいたという。
このような状況であれば…右手の小指を調書にあるような場所にぶつけて怪我することは、まずありえない。

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藤本巡査はあくまでも自分はドアの内側、それもハンドルに近い位置まで入り込んでいたと主張。 だが、たとえ藤本巡査が内側にいたとしても、供述は不自然だった。
このような位置関係でドアが急に閉められ、それを阻止しようとした場合、右手がぶつかるのは…窓ガラスのはず。

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もし彼女の主張するように、ハンドルに近い位置に入り込んでいた場合、右手の小指が『ドア枠の窓とドア部分の境目』あたりにぶつかったとすると…不自然な体勢になるのは明らか。
その後も二本松さんたちは可能な限り、被告側の矛盾を突き続けた。 あとは裁判官が、どう判断するか。

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そして…事件発生から9年、ついに判決の日を迎えた。
この裁判で請求した賠償金はおよそ900万円。 だが仮に賠償金が1円でも認められれば、国や警察に責任があったとして、二本松さんの勝利。 逆に一円も勝ち取ることができず、請求を棄却されれば二本松さんの負けとなる。
そして多くの支援者らが見守るなか、下された判決は…
「被告・東京都は、原告・二本松進に対し、240万円を支払うものとする」

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大方の予想を覆し、原告、二本松夫妻の勝利だった!
判決では、二本松さんが暴行を働いたという藤本巡査らの供述は、著しく一貫性にかけるため信用できないと却下された。 暴行の事実はなかったことが、はっきりと認定されたのだ!

だが、二本松さんはこの判決を受け、手放しで喜んだわけではない。
「10%くらい勝ったのかなという感覚ですね。90%は不満でした。実際には。9年間、ほとんど仕事をサボタージュしてね。裁判にかかりきっているのに、240万、全部弁護士費用でも足りないくらい。こんな判決をするのは、裁判官は事実というものがわかんないのかと思った。」
二本松さんは、この経験を糧に現在、少しでも透明性の高い社会を実現するための講演活動などを行なっている。 いつか、誰も理不尽な思いをすることのない未来が来ることを信じて。

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起訴猶予の身でありながら、国賠訴訟で賠償金を勝ちとった二本松進さん。 その大きな決め手となったのが、藤本巡査への証人尋問だった。
当日、鋭い指摘を連発した今泉弁護士は、あの日のことをどう思っているのか?
「手応えはばっちりというほどでもなかったんですけど、それなりに彼女の矛盾する発言とか、不自然な発言というのは引き出せたなと」

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だがそれでも、今泉弁護士は判決の日、本当に勝訴判決が出るとは全く思っていなかったという。 最後まで目撃者の証人申請が却下され続けていたこともあり、裁判官は最初から、二本松さんに勝たせる気がないと思っていたという。
そして、その勝因については…
「一つ言えるのは、二本松さんの執念が凄かった。そういう執念が届いたというのと、あとは二本松さんを応援してくれる人たちが毎回毎回、裁判所にたくさん来てくれて、やっぱりこんなに応援してくれる人がいるというところは裁判官にも響いたとは思う。やっぱり何かおかしいんじゃないか、警察の方がと。」

一方、当の二本松さんは、この経験を通じて、国賠訴訟の問題点を痛感したという。
「歴然と犯罪を犯していながら、官だけは許される…これはちょっとやっぱり、改善すべきじゃないかなと。これはおかしすぎるよと、声を上げる日本になってもらいたいと思う。」