数年前、その女性は地方都市で小料理屋など数軒の飲食店を経営していた。
誰にでも優しく、気さくに接する彼女目当てに通う常連客も多かった。
彼女は独身で、マンションで一人暮らしをしていた。
だが、この時はまだ知らなかった。
恐ろしい魔の手がすぐそばまで忍び寄っていることを。
ある日、仕事を終え、帰宅したときのこと。
普段からドアのカギをはじめ、戸締まりには気をつけていたのだが…家に男が忍び込んでいたのだ!
その男には、見覚えがあった。
部屋に浸入していたのは、何年も前から店に通う常連客だった。
その常連客は独身で、いつも愛想よく接してくれる彼女に恋心を抱くようになっていた。
しかし、彼女にとってはただの常連客の一人。
特に恋愛感情などなかった。
だが、男は勝手に想いを募らせ…好意を伝えるメールを送るようになった。
一方、彼女は冗談を交えたちょっとした社交辞令だと思い、はっきりと拒絶しなかった。
すると、男は脈があると思い込んだ。
だが、当然のことながら、2人の関係は特に進展することはなく、彼は悶々とした日々を過ごしていた。
やがて、こんな考えを抱くようになった。
「もしかしてオレの他に、男がいるのか」
交際相手がいるのではと勝手に疑った男は、ある行動に出る。
彼女が住んでいるマンションをつきとめると、彼女が住むマンションの一室に引っ越すことにしたのだ!
入居するとすぐに…部屋のベランダに小型カメラを設置、彼女が出入りする様子を監視するようになった。
目的は、交際している男がいないか確認するため。
数日後、彼女が男性といるところを目撃。 男は、一方的に裏切られたと思い込み、罰を与えようと決意。 密かに彼女の部屋に忍び込んだのだ。
男はスタンガンと手錠を用意していた。
彼女に激しく拒絶された男は、怯んだ様子を見せ、そのまま部屋から逃走。
彼女は軽いけがをしたものの、ことなきを得た。
通報を受けた警察は、マンション近くのコンビニで逃走した男を発見、逮捕した。
常連客の男は、浴室の点検口から部屋に忍び込んでいた。
実は、男が彼女のマンションについて調べた時…空いていた部屋は、彼女の住む部屋のちょうど真上だった。
そして、その部屋に引っ越した男は、身勝手な復讐を決意。
自分の部屋の浴室の点検口を見て、とんでもない策略を思いついた。
部屋の浴室の床に穴を開ければ、真下にある彼女の浴室の点検口から、忍び込めるのではないかと。
男は、女性が留守の時間に電動ドリルやノコギリを使い、10日間かけて慎重に穴を開けた。
そして浴室の点検口から侵入、待ち伏せしていたのだ。
裁判で常連客の男には、懲役3年6カ月が言い渡された。
部屋の床に穴を開け、真下の浴室に侵入するという、前代未聞の手口。
対策はあるのだろうか?
一般社団法人 日本防犯学校 学長の梅本正行氏は、今回の手口そのものが、マンションなどにおける通常の防犯対策の想定を超えたものであることを強調した上で、入居者ができる対策として、こう話してくれた。
「センサーを付けると、とってもいいと思います。何者かが侵入者があった場合に、その侵入者をキャッチしてその情報をスマホや何かに送ってくる。場合によってはその現地で(警報の)音も鳴らす。それもできるセンサーがありますから、そういったモノを活用する。」
ただし本来の使い方ではないので、注意が必要。
センサーは湿気に弱いため、湿気に注意した上で脱衣所などに設置し、浴室の扉を開けておけば、点検口からの侵入者にも対応できるのだという。
歪んだ愛が引き金となった、侵入事件。
通常の防犯対策の想定を超える犯行にも目を向けるべき時代なのかもしれない。