今から20年前、オーストラリアのウェストレイクスショアで、幸せに暮らす5人の一家がいた。
この日、仕事を終えた父親ケビンは、子供たちを連れてレンタルビデオ店へ向かった。
子どもたちにとって、レンタルビデオ店に連れて行ってもらうのは、特別な楽しみだった。
家族にとってはありふれた日常だったのだが…それは、突然 惨劇に変わった。
ケビンと息子たちが家を留守にしていた、わずか30分ほどのあいだに、キャロリンが惨殺されたのだ!
帰宅したケビンと息子たちは、愛する家族の無残な姿を目の当たりにした。
すぐに救急車を呼んだものの、その場で死亡が確認された。
キャロリンの身体には、胸からお腹にかけて複数の刺し傷があり、現場の床には犯人のモノと思われる靴跡が残されていた。 また、庭の茂みから犯行に使ったナイフが発見された。 そのナイフは、もともとこの家のキッチンにあったものだった。
事件について、心当たりはなかったが、以前、盗みに入られたことはあったという。
この日、盗まれたモノはなかったが、警察は今回も何者かが盗みに入った可能性があると考えた。
犯人は自宅にいたキャロリンに気づかれ、騒がれたため、キッチンのナイフで殺害。
金目の物を物色しようとしていたとき、父親と息子たちが帰ってきたため、慌てて逃げたのではないかと警察は睨んだ。
行きずりの強盗殺人の可能性が高かった。
その後、庭で発見されたナイフからは指紋が検出されたが、すぐに犯人の特定には至らず、捜査は難航した。
そして事件から1週間後、キャロリンの葬儀が行われ、悲しみに暮れる家族の姿は多くの人の涙を誘った。
キャロリン殺害事件から数週間後、ある男が、スピード違反で警察に捕まった。
男の名はデビッド。
警察は100キロを超える悪質な違反だったということもあり、その身柄を拘束した。
警察がデビッドの所持品を調べたところ、とんでもないモノが見つかった。
それは、この街に実在するダレンという男性を殺害するという契約書だった。
ダレンの顔写真の他、仕事先や日常の行動パターンなどが記されていた。
だが、追及を受けたデビッドが供述を拒否したため、これ以上の情報は聞き出せなかった。
そこで警察は、ダレンの自宅を訪れ、探りを入れてみることにした。
すると…妻と財産など離婚の条件で揉めている最中だという。
ダレンの妻の名は、ミシェルと言った。
そして、警察がダレンの妻ミシェルの周辺を調べてみると、驚くべき事実が判明した。
なんと、ダレンの妻ミシェルとデビットは恋愛関係にあったのだ。
デビッドは独身だったが、既婚者ミシェルとの不倫にのめり込んでいたという。
だが、この時点では殺人契約書が発見されただけ。
犯行は実行されていないため、もし言い逃れをされてしまえば、二人を罪に問うのは困難と考えられた。
そこで、次に刑事たちが訪れたのは、デビッドの姉の家だった。
実は彼女はミシェルの親友だった。
デビッドも姉からの紹介がきっかけで、ミシェルと知り合っていたのだ。
彼女の話によれば…なんとミシェルはあの殺人契約書を不倫相手であるデビッドの姉に見せていたというのだ!
だが、デビッドの姉は本当に殺し屋を雇うなんて思っていなかったという。
そして…こう言ったのだ。
「でも、まさか、まさか本当に実行するなんて。」
実は彼女によれば、なんと殺人契約書は2枚あったという!
そしてそれはすでに発見されているダレンのものと、数週間前に家で何者かに殺されたキャロリンのものだったというのだ!
さらに、この衝撃的な証言を裏付ける決定的な証拠が…あの日、殺害現場に残されていた凶器についた指紋と靴跡が、今まさに身柄を拘束中のデビッドと一致したのだ!
しかし、デビッドもミシェルもキャロリンとは全く接点がないはず。
動機は一体何だったのか?
実は、その点に関しても警察はデビッドの姉から思いもよらない驚愕の真実を入手していた。
なんと、ミシェルが語っていた「恋人」というのは、デビッドのことではなく、殺されたキャロリンの夫、ケビンのことだった!
つまりミシェルは結婚していながら二股をかけており、しかも、本命はケビンの方だったのだ!
ミシェルは自分とケビンの関係は隠した上で、デビットを色仕掛けで操っていたにすぎなかった。
その後、警察からミシェルの本心を聞かされたデビッドは、ミシェルに対する激しい怒りを表すと、やがて犯行を全面的に自供。
ダレンについてもスピード違反で捕まったあの時、ちょうど殺しに向かう途中だったことを告白した。
これで全て解決したかに思われた一連の事件。
だが、デビッドの供述によって、まだ最も大きな秘密が残っていたことが明らかになる。
なんと、キャロリンの殺人契約書を書いたのは、ケビンだと言うのだ!
ケビンは、妻を家で一人きりにするために、息子たちをレンタルビデオ店に連れ出したのだ。
デビッドとミシェルは、キャロリンが一人になったのを見計らい、家を訪れた。
犯行前、デビッドはケビンが書いた殺人契約書をわざわざキャロリンに見せつけた。
そうするようにミシェルが望んだからだ。
そして、キッチンにあったナイフで、デビッドが殺害を実行。
だが、何を思ったか、デビッドは犯行に使ったナイフを庭の茂みに無造作に投げ捨て、またミシェルもそのことを気にとめなかった。
結果的にナイフについた指紋がデビッドの逮捕に結びついた。
一方、ケビンは、息子たちを自分のアリバイ作りに利用し、惨殺された母親を目の当たりにさせた。
40歳のケビンは、13歳年下の不倫相手ミシェルに溺れ、彼女の望むまま妻の殺人契約書を書いた。
ミシェルとケビンとデビッドは逮捕され、裁判でデビッドには懲役20年。
ミッシェルとケビンには終身刑が言い渡された。
幸せな家族を襲った惨劇の黒幕は、不倫に溺れた父親だった。
そんな父親について、のちに息子の一人はこう語った。
「母を殺すために殺し屋を雇い、不倫関係にあった『愚かな女』のために家族の人生を台無しにした父を決して許さない。」