7月4日 オンエア
郵便局員へのサプライズ
 
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アメリカ・ジョージア州にある、人口6万人の街、マリエッタ。フロイドはこの街で生まれた。
早くに父親を亡くしたが、温和な母親のもと、心優しい青年に育ち、高校時代には学校の投票で『最もフレンドリーな学生』に選ばれるほど、〝親切心〟に溢れた人物だった。
高校卒業後、銀行で働いた後に、マリエッタ郵便局の配達員に転職。その5年後に、マリエッタの住宅街の西側を担当することとなった。

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フロイドの配達ルートには、およそ500軒の家があり、毎日同じルートで配達を行っていたのだが…
「彼は働き者で、本当に特別な存在なのよ。」
そう語るのは、50年近く、フロイドの担当する地区に暮らす、ロリアン。
「フロイドは私宛の郵便がない日でも、どんな天気の日でも、必ず笑顔で手を振ってくれたのよ。」
実は、ロリアンは9年前に夫を亡くして以来、一人暮らしを続けていた。そんな彼女を気遣い、郵便物があってもなくても、フロイドは、毎日、手を振った。
「彼は私に、1日の元気のかけらみたいなものを与えてくれていたのよ。フロイドほどの郵便配達員はどこを探してもいないと思っているわ。」

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住民にとって特別な存在である郵便局員。そう語る女性が 他にもいる。
今から19年前、トリッシュが第一子を妊娠していたとき、フロイドは、彼女の自宅の郵便受けに郵便物を入れるではなく…
「当時、私はソファーを離れて郵便受けまで行くのがとても辛く、フロイドさんは それを知っていたので、家の中まで荷物を持ってきてくれたんです。」
さらに 出産後も子育てで忙しくしていると、子供が大きくなるまでの間、フロイドは必ず家の中まで届けてくれた。

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そして、昨年にはこんなことも…
「息子が高校卒業するとき、フロイドさんは、お祝いのメッセージカードを郵便受けに入れておいてくれたんです。すごく嬉しかったです。」
実は、フロイドには子供がいない。そのため、配達ルートに暮らす子供たちを、我が子のように思い、成長を見守っていた。

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中でも 特に仲良しだったのが、サラの娘・メイ。彼女が小さい頃、フロイドは郵便物を手渡しで届けていたのだが…
「彼はいつも車にキャンディを用意していて、子供をみかけると必ず それをくれたんです」
さらに、彼女の携帯電話の中には、こんな写真が…
サラ「これは、メイが3歳の時にフロイドさんの格好をした写真です。」
メイ「フロイドさんは、みんなにとても優しかったから、彼みたいになりたかったの」

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フロイドの大きな愛は、人間だけでなく、動物にも向けられていた!
エミリー「この子は郵便トラックの音が聞こえると、郵便受けの方に走って行くんです。フロイドさんがいつもおやつをくれるから。」

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さらに、エミリー自身もフロイドの大きな愛に助けられた事があるという。
彼女は、クリスマスツリーのオーナメントをネットで購入。出荷され郵便で届くはずが、経由地のどこかで行方が分からなくなってしまっていたのだ。ショックを受けたエミリーは、SNSに〝届かなくて悲しい〟と投稿。すると、彼女の投稿を見たフロイドは、営業時間外にも関わらず、様々な郵便局に問い合わせ、そこに出向いては、エミリーの荷物が紛れていないか調べた。
「フロイドさんは、オーナメントを見つけてくれて、家の玄関に置いてくれました。頼んだわけではないのに、自ら私の荷物を探しに行ってくれたんです。涙が出るほど嬉しいと伝えました。」

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このように、住民たちに親切に接して来たフロイド。しかし、なぜ、ここまでやろうと思ったのか?
「自分がされて嬉しいことを、他人にもしなさいと母から教わりました。親身になって人に接する。それが人生の指針なのです。」
こうしてフロイドは、暑い日も、嵐の日も、トラックに乗り、この街の住民のために郵便物を届け続けた。

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しかし、そんな彼も、今や61歳。
年々体への負担を感じていた彼は、今年の5月、35年間続けた郵便配達の仕事を退職する事に決めたのだ。
今年5月23日木曜日、この日が最後の配達日となった。

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最初の配達先、それは、毎日必ず手を振り合った、ロリアン。家に近付き、いつものようにクラクションを鳴らそうとすると…
いつもは窓から顔を出しているはずのロリアンが、この日は、郵便受けの隣に立ち、フロイドが来るのを待っていたのだ。
「あなたがいなくなると私も寂しいと、直接伝えたかったのよ。あなたの笑顔が恋しくなるということをね。」

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そして、次の家へ向かうと、そこにも外で待っている女性の姿が。彼女の名は、ドレーン。実は、認知症が進んでおり、家族の事すら忘れてしまっているのだが、毎日、直接手紙を届けてくれるフロイドの事だけは忘れず、彼が来るのを楽しみにしていたのだ。

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さらに、これだけではなかった。
次の家でも、その次の家でも、そのまた次の家でも…配達ルートの家々で住民たちが 外に出てフロイドを待っていた。
そう、この日、住民たちは、今まで親切にしてくれたフロイドのために、みなで感謝の気持ちを伝えるというサプライズを決行したのだ。

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これらの写真を撮影したのは、マリエッタに住む記者 ジェニファー。
彼女は 最後の配達を取材するために同行していた。
「たくさんの人が道沿いで待っていて、引退の日を迎えたフロイドさんが来るのが待ちきれない様子でした。この日、フロイドさんは沢山の手紙を手渡しで受け取りました。そしてたくさんのハグと握手もね。すごく特別なひとときでした。」

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どうしてもスケジュールが合わず、留守にせざるを得なかった住民は、郵便受けにフロイドへのメッセージを残していた。
クリスマスツリーのオーナメントを届けてもらったエミリーも…
「これが私が飾り付けた郵便受け。風船をつけて、“あなたがベスト”と書きました。」
毎日お菓子をもらっていたメイと その母・サラも、郵便受けに『35年間ありがとう』というメッセージを残した。

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退職を知り、住民たちに呼びかけを行ったのは ベッキー。
チラシをフロイドの配達ルートにある500軒全てに配り、街の皆で彼に感謝の言葉を伝えようと声をかけたのだ。

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こうして、35年間、配達を行った街の住民たちから、思いがけないサプライズを受けたフロイド。
配達ルートを回り終え、いつも帰り道に通っていた公園の脇道に差し掛かった時、さらなる驚きが待っていた!
なんと、その公園に多くの住民たちが集まっていたのだ。
そう、この場所で行われたのは…彼の退職パーティー! その数、およそ300人! いつも郵便物を受け取っていた大人たちも、毎日、お菓子をもらっていた子供たちも、子供の頃からフロイドが成長を見守ってきた若者たちも、彼の引退を惜しんだ。
フロイドが当たり前のように行っていた、小さな親切。それが知らぬうちに積み重なっていき…、結果、彼は町中の人たちに愛される存在となっていた。サプライズで開催された退職パーティーは、マリエッタの住民たちからの最大級のお返しだったのだ。

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パーティーは、フロイドから、街の住民たちに向けてのメッセージで幕を閉じた。
「皆さんは知らず知らずのうちに、私の支えになってくれていました。皆さんの愛に感謝しています。愛を感じています。贈り物にも感謝してるよ。皆さんがここにいてくれたことに感謝しています。皆さんは私にとって家族みたいなものです。客と配達員の関係ではなく、友人です。皆さんのことが大好きです。皆さんを本当に愛しています。こうした愛や気遣い、思いやりの気持ち、お互いを気にかけることが今の世界には必要なんだと思います。どこでそういったことが我々の世界から薄れていったかはわかりませんが、皆さんにはその心を見せてもらいました。ありがとう。これからもお互いを気にかけてほしいですし、私のことを思い出して笑ってくれると嬉しいです。愛しています。皆さんを愛しています。」

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最後の配達から2ヵ月。
マリエッタの住民に郵便を届けるという仕事は終わったが、フロイドと町の人たちとの温かい関係は、今も続いている。
「最初はお客様でした。ですが月日が経つにつれ、家族になっていきました。人に対して愛や思いやり、親切心を持って生きたいと思っていたので。それがいい意味で、まるでウイルスのように広がっていきました。今、世界は愛を必要としていますからね。親切にすることは難しいことではないのです。」