今年3月、ドイツ人の双子、アルネとヘルゲはヨットを運搬する仕事を行っていた。
運搬するヨット自体に乗り込み、ニュージーランドからブラジルまで行く予定であった。
この日は快晴。
波も穏やかだったため、交代で操縦することに決め、アルネは船室で休息をとった。
だが、しばらくして、アルネは激しい揺れで目を覚ました。 海上には3メートル近い波が立っており、船体が大きく揺れていた。 さらに強風に煽られ、帆を固定していたロープが外れてしまった。 固定し直そうとした、その時!アルネは、海に投げ出されてしまった!
ヘルゲはすぐに浮き輪を投げた。
しかし…潮の流れは思った以上に速く、アルネは船から遠ざかって行く。
ヘルゲはヨットをUターンさせると、全速力で兄の元へ向かった。
しかし、あと少しのところでエンジンが故障!
救助は要請したが、発見されるまでかなりの時間を要すると思われた。
それまでアルネが溺れずにいる確率は、極めて低い。
絶体絶命の状況の中、アルネにある考えが浮かんだ!
そして、不意に履いていたジーンズを脱ぎだし、裾同士をきつく結ぶと…ウエスト部分を持ち、思い切り振った!
こうして出来たのが…空気の入った浮き輪!
アルネは、ズボンを使って即席の浮き輪を作ったのだ!
しかし、ジーンズは布製品。
繊維の隙間から空気が抜けてしまうのではないか?
実は、水分子には、互いに引っ張り合いまとまることで、表面積を小さくしようとする力、【表面張力】が存在する。
それが分かる実験がある。
ふるいの編み目の上に水の入ったグラスをかぶせ、持ち上げると…下から水はこぼれない。
これは、ふるいの網目に水が入り込み、それぞれの網目の中で分子が引き合うことで上にひっぱりあげる力が大きくなるためだ。
ジーンズで作った浮き輪の場合も、生地の隙間に入り込んだ水に表面張力が働き、穴を塞ぐような状態になる。
これにより、空気が漏れにくくなるのだ。
実は数年前、アルネはこの方法を紹介した動画を見たことがあった。
一度も試したことはなく、忘れてしまっていたが、なんとしても生き延びたいという執念が記憶を呼び覚ましたのだ。
浮き輪をお腹に入れ、体全体を水温が比較的高い水面に浮かせる。
果たして、アルネの運命は?
ジーンズで作った浮き輪をお腹に入れ、体を水平に保ち救助を待った。 そして…漂流から3時間後、アルネは無事救助された。 ヨットに取り残された弟・ヘルゲも救助艇が発見、事なきを得た。
アルネさんは、フィリピンに自宅を構えているが、事故以来、帰れておらず、最愛の家族に会えていなかった。
だが先月、1ヶ月ぶりに帰国、家族と再会した。
そして、娘・スカーレットちゃんの誕生日には、洗礼式に父親として参加した。
今後の夢は、家族で地元ドイツに戻り、船舶の仕事に携わることだという。