4月18日 オンエア
妻を救いたいと願う夫 夫婦愛を越えた大きな奇跡とは?
 
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アメリカ・ユタ州・ソルトレイクシティの北部にある小さな街、ファー・ウエスト。 今から4年前、この街に暮らすウェイン夫妻。 妻・ディアンは、この数年前から腎不全を患い、闘病生活を送っていた。

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血液を濾過し、老廃物を体外へ排出する腎臓。 腎不全はその機能が低下し、体内に有毒な物質が溜まり、疲労感や吐き気・意識障害などを引き起こす病気だ。 ディアンの腎不全が発覚したときには…既に病状は5段階のうちのステージ4、腎臓の機能は30%以下にまで低下していた。 ディアンはもともと糖尿病を患っており、その合併症として腎不全を発症したのだ。

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病気が発覚してから3年後。 ディアンの腎不全はステージ5に進行。 一般的に腎不全がステージ5に突入すると、人工透析という治療が行われる。 人工透析とは、腎臓の代わりに機械で血液をろ過、老廃物を取り除き、体内に戻す治療である。

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しかし、健康な腎臓と全く同じ働きが出来るわけではない。 何もしないよりは、予防効果は期待できるものの、高血圧や動脈硬化など、様々な合併症のリスクはある。 個人差はあるが、ディアンの場合、動脈に硬化の症状がみられたことから、心不全を起こす可能性を告げられていた。 ウェインは、毎晩 妻が眠るたびに、もう2度と目を覚まさないのではないか…そんな不安に襲われた。

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他に有効な治療方法は、腎臓移植のみ。 腎臓移植には、亡くなった人から腎臓を提供してもらう献腎移植と、生きている人から腎臓1つを提供してもらう生体腎移植の2つがある。 献腎移植を受けるには、事前に臓器移植ネットワークに登録。 亡くなったドナーの中から適合する腎臓が見つかれば移植できる。 当時 全米では、移植希望者がおよそ10万人。 そのうち移植手術が行われるのは年間でおよそ一割。 さらに毎年、3000人ほど希望者が増えている状況だった。

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献腎移植と違い、生体腎移植は提供希望者の腎臓が適合すれば、すぐに移植が行える。 だが、ウェインは高齢のためドナーになれなかった。 さらに、子供たちの腎臓も適合せず、残された道は臓器移植ネットワークに登録することだけ。 人工透析しながら、移植の順番を待つしかない。

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1日おきに医療機関に通い…1回に4〜5時間。 吐き気をもよおすなどの副作用もあり、高齢のディアンにとって、体力的にも厳しいものだった。 人工透析を続ける日々の中で、同じく腎臓移植の順番を待つ子供たちと出会い、ディアンは「私みたいな年寄りより、子供に移植するべきよね」と思っていた。

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一昨年10月、ウェインは、体の前後に看板をぶら下げ、交通量の多い幹線道路をひたすら歩き始めた。 そこには、『妻のために腎臓が必要です』というメッセージ、ディアンの血液型、そして自分の電話番号が書かれていた。

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全く願っていなかったわけではないが…生体腎移植のドナーを自分で見つけ出そうとしたわけではない。
実は、ウェインのこんな想いがあった。 「私の行動で人々が何かを感じ、ドナー登録をしてくれたらと思いました。」

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メッセージボードをぶら下げ、町を練り歩くのは、『サンドウィッチマン』と呼ばれる 広告宣伝の手法だった。 しかし、なぜ彼は、サンドウィッチマンになろうと思ったのか?
妻のために自分にできることはないか、ネットで調べている時、ウェインは ある興味深い記事を発見した。

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アメリカ・サウスカロライナ州に住むジニーは腎不全を患い、一刻も早く移植が必要な状況であった。 そこで、夫ラリーは、サンドウィッチマンとなり、ドナーを求めて歩き始めた。 お腹と背中に 妻のために腎臓が必要というメッセージを掲げて。 すると、およそ1年後、ある女性が生体腎移植のため腎臓の提供を申し出てくれたのだ。 女性の腎臓は妻に適合、移植をすることができたのだった。

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こうして、ウェインは歩き始めた。 当時 76歳、少し歩くだけでも疲れが出るはず。 それでも妻のため、毎日 午後3時から2〜3時間、スーツ姿にメッセージボードをぶら下げて歩き続けた。

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サンドウィッチマンという方法は、記事と同じだが…実はウェインの看板には、一つだけ違う部分があったのだ。
『ユタ州・アイダホ州では1000個もの腎臓を必要としています』
妻だけでなく、移植を待っている他の人たちのために、ドナー登録を求めるメッセージが書かれていたのだ。 子供たちに腎臓が必要だということを伝えることは、ディアンの想いでもあるからだった。

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そんなウェインの想いに…看板屋は、無料でメッセージボードを製作してくれた。 そして、車を止め彼に声援を送る人が現れ、ウェインの代わりにSNSで彼の想いを投稿する者も。 さらには、ニュース番組でも取り上げられ、大きな反響を呼んだのだ。
これにより、生体腎移植を申し出る人物も現れたが…適合せず。 それでも諦めることなく歩き続けた。

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2017年12月23日、ウェインの誕生日。 病院から電話がかかってきた。 この日、ドナー登録をしていた人が亡くなり、ディアンに移植の順番が回ってきたのだ。
腎臓は無事適合し、すぐに手術が行われた。 しかし、この時ディアンは74歳。 長時間の移植手術に最後まで体力が持つかは…わからなかった。

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移植手術から1年3ヶ月が経過した、今年3月、我々はウェインさんの自宅を訪ねてみた。 78歳となったウェインさんが出迎えてくれた。
部屋に案内されると…そこには、ディアンさんの元気な姿が。 無事に手術は成功。 日常生活に支障はなく、現在は夫婦で幸せに暮らしている。

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実は、ディアンさんの手術が成功した後、アメリカでは、ウェインさんの行動に触発され、腎臓提供を求めるメッセージをジャケットに書く人や、Tシャツにプリントし、それを着る人も現れたのだ。
ウェインさんは、妻の移植が叶った今も、当時の看板を持っているという。 実物を見せてもらうと…うん?前とちょっと違う? 書かれていたのは…『腎臓を探すのに手助けは必要ありませんか?』というメッセージ。
ウェインさんは、妻の移植が成功した後も、この看板を下げて道路を歩き、困っている人を助ける活動を行っている。