2月21日 オンエア
地下から聞こえる子ネコの声 消えかかる命を救え
 
 
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去年6月、神奈川県横浜市の路上で、その事件は起こった。
連日の雨で肌寒い梅雨の朝、近くに住む嶋野さんが、犬の散歩をしていた時のこと…何かが聞こえた気がした。 耳をすましてみると…歩道脇にある小さな蓋のあたりから、子ネコの声が聞こえた。 しかし…地面の下で声が反響し、はっきりとした位置がわからなかった。
 
 
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一旦、帰宅したものの、どうしてもあの声のことが気にかかった。 そして、嶋野さんは、知り合いの木下さんと堀さんに電話。 それをきっかけに…3人の女性が現場に集まった。
歩道脇の蓋の上にはパイプがあり、その上には…雨水が流れるU字溝があった。 U字溝の中にいたネコが、あやまって排水パイプに入り、蓋の中まで落ちてしまったのではないかと考えられた。
 
 
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このままでは、地下を流れる水によって、いつ猫が流されてしまうかわからない。 そんな時、救助のため呼んでいた、消防が到着。 歩道にある蓋を開けてもらったが、そこにネコの姿は見えなかった。
しかし、消防の説明により、歩道にある穴からは、雨水を流すためのパイプが4mほど離れたマンホールへと繋がっているということがわかった。 そこで、車道の方にあるマンホールの中を確認したのだが…ネコはいなかった。 しかも、消防が来て以降、一度も鳴き声が聞こえなかったこともあり、消防の人たちは帰ってしまった。
 
 
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そこで3人は、ある人に連絡した。
大網直子さん…彼女は『おーあみ避難所』という、動物保護ボランティアを運営している女性。 そう、3人の女性は、動物保護のボランティアだった。
大網さんは、自宅で常時100匹ほどの犬やネコを保護。 スタッフたちと世話をしながら、里親探しをしている。
 
 
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きっかけは、今から8年前に発生した東日本大震災。
福島出身だった彼女は、偶然、インターネットで現地に取り残された犬やネコの存在を知り、いてもたってもいられなくなり、そこで知り合った人と共に現地に赴いた。 その際、飼い主に連絡を取るも、避難所の生活の中で飼えない人がほとんどだった。 そこで、行き場のない犬やネコを保護する為に自宅を解放。 その活動に賛同するボランティアたちが集まり、いつしか、親しみを込めて『おーあみ避難所』と呼ばれるようになったのだ。
 
 
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仲間から子ネコの声が聞こえなくなったと聞き、流されてしまったかもしれないと思った大網さんは、現場に駆けつけることにした。 再び、歩道にある蓋を開け、中をのぞいてみると…ネコの声が聞こえたのだ。 しかし、声は聞こえるものの、ネコの姿は見えなかった。 消防が車道のマンホールのほうを確認した時も、中に何も見えなかった。 よって、2つの穴をつなぐパイプの途中にネコはいると考えられたが…消防によって、すでにマンホールの蓋は閉じられていた。
近所の人によると、2日以上前から声は聞こえていたという。 季節は梅雨、予報ではこれから大雨が降るという。 もし降り出したら、ネコが流されてしまう可能性もある。
 
 
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そこで大網さんたちは、100円ショップで買ったワイヤーラックを結束バンドで連結、先端に焼きガツオをくくりつけるという作戦をとった。 蛇腹式になっているので、曲がりくねったパイプ内も進むことができる。 餌に釣られたネコが乗ったら、そのまま引き出せば、救出は完了だ! だが…作戦は失敗。
やはり、車道側のマンホールからではないと救出は無理だった。 しかし、女性の力ではとうてい開けられそうにない。 もし自分たちで開けられたとしても、落下して大怪我をする可能性もある。
 
 
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その時…大網さんは、家を出る時に目にした水道工事の看板を思い出した。 大網さんは自宅にいるボランティアに電話、水道工事を行っている事業所を調べ、連絡してもらった。 すると…担当していた横浜市の土木事務所 下水道係が駆けつけてくれることになった。
 
 
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最初から現場にいた3人の1人、木下さんの夫・真司さんは、特別ネコ好きというわけではなかったが、何となく気にかかり、様子を見にやって来た。 すると…そこにはネコの鳴き真似をする女性たちの姿が…。
真司さんは、一旦 そのまま仕事に向かったのだが、ネコの救出のため万全の準備をして現場に戻って来た。 実は、小さな命を救おうと必死になっている女性たちの姿に心を動かされたのだ。 真司さんは、建物の設備工事などを行う会社の取締役、会社には道具類が豊富にあった。 真司さんは、車道のマンホールを開け、中を確認。 しかし、ネコの声は聞こえてこなかった。
 
 
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そこへ…ついに、土木事務所の職員が到着。
マンホールに降りて、確認してもらった結果、地下の実際の構造が判明した。
パイプは2つの穴を斜めに繋いでいることがわかったのだ。
 
 
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懐中電灯の光が途中で遮られ、先まで見通すことは出来なかった。
そこで、真司さんが作ったオリジナルの救出道具を使ってみることにした。 それは、ホースの先に丸めたテープをくっつけたものだった。 もし中にネコがいれば、歩道側からこのホースを通すことで押し出すことが出来ると考えたのだ。
しかしネコは…出てこなかった。
 
 
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ネコの声もいつしか聞こえなくなっていた。
実は…マンホールはそこを起点に下水管によって、さらに奥のマンホールへと繋がっていた。 ネコはそちらまで移動したのではないかと考えられた。 奥のマンホールに降りた土木事務所の職員が下水管の中を確認するも…ネコの姿は見えなかった。
 
 
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だが…真司さんはまだ諦めてはいなかった。 下水管の長さは30m、長すぎるため、暗くて見えなかったのではないか? そう考え、反対側のマンホールに降りていった。 すると…ネコを発見!
真司さんの想像通り、暗くて見えなかっただけで、30mの下水管の中にネコはいたのだ!
 
 
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そして真司さんが作った救出道具で再びネコを押し出すことにした。 すでに声が聞こえ初めてから、2日以上が経過。 猫の体力も限界のはず。 小さな命を救いたい…ただその思いで現場は一つになっていた。
そして…ネコを無事救出!!
 
 
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彼女たちが声を聞いてから、7時間後。 全員の力で成し遂げた救出劇だった。
その後、大網さんは動物病院へ直行。 ネコはおよそ生後2ヶ月のオスだった。 獣医によると、パイプを流れる水に濡れ、低体温症になりかけており、あと少し遅かったら命が危なかったという。
 
 
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救出された子ネコは今どうしているのか?
大網さんの元を訪ねてみると、『ドカン』と名付けられ、後遺症もなく、すくすくと成長していた! ドカンちゃんは大網さんの元で、里親になってくれる人を今か今かと待っている。
 
 
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現在100匹ほどの犬やネコを保護している『おーあみ避難所』。 運営費は、年間およそ1000万円。 引き取りが決まった里親や、一般の人からの寄付金はあるが、足りない分は個人の持ち出しによって運営している。
代表の大網さんの元には、ひっきりなしにレスキューの連絡が入る。 時には県外から連絡があることも…保護の依頼は、子ネコが生まれるシーズンの2月〜4月になると急増、1日10匹以上に上ることもある。 最近増えているのが、年老いた飼い主が亡くなったり、施設に入ったりして、行き場がなくなるケース。
 
 
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大都会ではあまり見られなくなったとされる野良ネコ…だが、今もなお、住宅密集地ではペットが捨てられるなどして、増加した野良ネコの苦情が行政に数多く寄せられている。 現在、大網さんが力を入れているのがTNRと呼ばれる活動。 地域で餌を貰っている野良ネコを捕まえ、避妊・去勢をして再び地域に戻すというものだ。 これにより、野良ネコの増加が抑えられるため、近所の人たちの理解が深まり、ひいては殺処分のネコが減るという効果が期待されている。
 
 
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だが、大網さんは自らの活動に、日々ジレンマを感じてもいる。 大網さんはこう話してくれた。
「全てが人間の都合で、捨てられたことも人間の都合だし、手術するのも人間の都合で、避妊だ去勢だっていう風にするのが実際本当に正しいことかどうかはわからないって思うことがあります。ただ外にいるネコちゃんたちを全部は救えなくて、少しでもその子達が安全にいろんな人と人間と共生していくためには、今一番やれることなんじゃないかなっていう風には思います。」