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第61回(2002.11.08)
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坂井治

「来週は特別講議で・・・」と授業のおわりに先生がホワイトボードに名前を書いた。

−野村辰寿

「辰寿」とは立派な名前。「野村辰寿」はどっしりと椅子に腰掛け、腕組みをしたまま、太く吊り上がった濃い眉の下の、分厚い目蓋の奥から覗く大きな黒目で、ぼくらをガンと睨みつけるんだ。眉間に寄せる深いしわは、何十年の苦労や経験を刻み込んでいて、貫禄ある巨体からは、ちょっとやそっとじゃ人を寄せつけないオーラを発しているだろう。目からは光線が出たりして・・・。
「〜やSTRAY SHEEPを作っていらっしゃる・・・」と先生は書き続けながら、言った。

 ああ、知ってる。夜中にやってた羊のヤツだ。ありゃすごいもんな。なるほど、すごい人が来るんだ。
「〜で、こういう人。」とホワイトボードの左下にサラリと描いたお得意の似顔絵。

 ・・・手塚治虫のなにがし博士?やっぱり、偉大な人なだけある・・・。

 もう夕方ともなると肌寒い季節だというのに、冷房で目一杯冷やされた教室で「野村辰寿」の妄想を膨らませていました。もちろん次の週は、拍子抜けしたもので、それが何故かなんてこともなく、講議に登場した野村さんが「野村辰寿」とはだいぶ違っていたから。
 それは大学生も3年目で、ちょうど、その頃からアニメーションに興味を持ち始めていたぼくですが、その時は、まさか、その野村さんにこんなにお世話になるとは、思ってもいませんでした。

 申し遅れましたが、ぼくは、この春から野村さんのもとで、お仕事をさせていただいております、坂井治と申します。野村さんに初めてお目にかかってから、3年程経った今、改めて考えてみると、あの妄想も案外いい線いっていたと思います。太く吊り上がった眉、分厚い目蓋、どっしりと腰をすえ腕を組むたたずまい、目からではなかったですが、光線も放ってたし・・・。
 あの頃のぼくが拍子抜けしたのは、何より、その人柄でした。威圧感なんてものはなく、目じりなんてトロンとしていて、なんと言うか、ナマ温かいオーラが「発する」と言うより、「滲みでている」ような人でした。今となっては、目につくものには何でも興味を持つし、思いつけばすぐ口に出るし、面白いと思えばどんどんはまり込んで行くし・・・、それが野村さん。その人柄は、仕事場にも目一杯染み込んでいて、そこは片付けてもキリがない子ども部屋のようで、その中で仕事をしている野村さんは、集中していると言うよりも、夢中になっていると言った方が的確で。
 「見た目だけ大人になってしまった子」のような野村さんです。悩んでても、怒ってても、真面目にしてる時もなぜか楽しそうに見えてしまう野村さんです。学ぶことは多いです。
 とにかく、そんなこんなで、日々、楽しく仕事をさせていただいてます。ポーを100匹、200匹と描いたり、ポーのほこりを落としたり、ポーの友だちを作ったり、いろいろです。最近は、某国営放送の某「みんなのうた」をやらせていただきました。

 思い起こせば、あの特別講議から今もずっと「どうよ、アニメーションはおもしろいだろう?」と教えられている気がします。おもしろいです。
 ぼくの後の机で野村さんが仕事をしています。夢中でお話を考えて、夢中で絵を描いて、夢中でキーボードをたたいて・・・。そんな野村さんから教わることは、まだまだ、山のようにありそうです。野村さん、これからもよろしくお願いします。


次回は、株式会社ファンタランド 中田修次さんです。


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