•  フィギュアスケートの世界選手権最終日は28日、男女のフリーが行われた。女子は、ショートプログラム(SP)3位で全日本女王の宮原知子がフリーで126.58点とSPに続き自己ベストをマークして、合計193.60点で銀メダルを獲得した。初出場で表彰台に立ったのは、2007年の浅田真央(銀メダル)以来の快挙。女子日本勢は10大会連続で表彰台を守った。
     「表彰台に乗ることは難しいと思っていたので銀メダルを取れて嬉しい。フリーの演技が終わった後は、もしかしたら3位にはなれるかなと思っていたので、2位になれるとは思っていなかった。すごく嬉しい。いままでロシアの強い選手に勝ったことがなかったので、今回2人に勝つことができて自信になった」

     国際大会で女子として史上6人目のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)をSPで成功させて世界歴代3位となる77.62点を出したエリザベータ・トゥクタミシェワ(ロシア)は、フリーでも132.74点の高得点をマークして合計210.36点の200点台に乗せて、初の世界女王に輝いた。ロシア勢としては2005年のスルツカヤ以来10年ぶりの制覇となった。
     「トリプルアクセルを跳べたときは鳥肌がたった。これは夢?本当に世界選手権で成功したの?と思った。トリプルアクセルを入れたSPをノーミスで滑ったのは初めてだった。今回の自分のパフォーマンスには満足しています。シーズン最後の大会で優勝できて嬉しい。感激でいっぱいですし、優勝が決まったときは驚くべき瞬間でした」

     総合3位は合計191.47点のエレーナ・ラジオノワ(ロシア)が入ったほか、日本勢ではSP5位の本郷理華が合計184.58点の6位、SP4位の村上佳菜子は合計179.47点の7位だった。日本女子は上位2人の合計順位を「8」として「13」以内だったので、来季の世界選手権出場枠は最多3枠を確保した。

  •  男子は、ソチ五輪金メダルでSP首位の羽生結弦がプログラム冒頭の4回転サルコーが2回転に、4回転トーループで転倒するなどの失敗を重ねて得点源を失ってフリーで175.88点の3位になり、合計271.08点に留まって銀メダルに終わり、日本選手初の大会2連覇はならなかった。
     「本当に悔しいです。今の自分にとって悔しいという言葉が一番合っていると思います。自分の気持ちをうまく言えないので悔しいという一言に全てを託したい。すごく練習してきたハビエルが練習の成果を出したことが嬉しい。いつも『おめでとう。誇りに思う』言ってくれていたハビエルと立場が逆になって、僕が2位でハビエルが1位になってみて、初めてハビエルを誇りに思うことが分かった。自分はそんなに心が広くないので悔しいし、絶対に勝ってやりたいと思います。でもその反面、自分と一緒に練習している仲間が優勝することはこんなにも嬉しいんだと思いました」

     SP2位のハビエル・フェルナンデス(スペイン)が2種類の4回転を2度成功させるなどで得点を伸ばして逆転で初の栄冠に輝き、世界選手権9度目の出場でついに頂点に立った。
     「何と言っていいのか、言葉が出ない。本当に世界一になったのか信じられない。世界チャンピオンは私の夢でさえありませんでしたが、ついにそれを成し遂げました。金メダルは来季に向けてのやる気にもなりますし、一生懸命に練習し続けること、そして毎試合でベストを尽くす私にたくさんのエネルギーを与えてくれるはずです」

     銅メダルはSP3位でフリー1位だったデニス・テン(カザフスタン)。そのほかの日本勢は、SP19位の小塚崇彦が総合12位、SP23位の無良崇人が総合16位に終わった。この結果、日本男子は上位2人の合計順位が「13」以内を上回って「14」になったため、来季の世界選手権出場枠を最多3から2に減ることが決まった。2008年から8年間は3枠を保持していたが、ベテラン2選手の惨敗が響いた。

  • 《大会総括》

     ソチ五輪翌シーズンの世界選手権は男女とも新しいチャンピオンが誕生した。中でも、特筆すべきは18歳のトゥクタミシェワがSPでトリプルアクセルの大技を完璧に決めたことだ。昨季までは女子では浅田真央しか競技会で跳ぶことができなかった浅田の代名詞とも言えたトリプルアクセルだが、2018年平昌五輪ではおそらく多くのトップを狙う女子選手が当然のように挑んでくる大技になる予感がする。3年後に迫るひのき舞台のメダル候補たちの戦いがいよいよ本格化してくるだろう。

     男女とも世代交代の流れが急速に進みそうで、今回表彰台に上がったトップ選手たちのポジションも決して安泰ではなく、来季以降は続々とシニアに参戦してくるジュニア上がりの有望選手たちとの勝負が激しく展開されそうだ。


    ※このコラムは、フリーランス記者の辛仁夏が担当しました。





  •  フィギュアスケートの世界選手権第3日は27日、中国・上海の東方体育中心で男子ショートプログラム(SP)が行われ、ソチ五輪金メダリストの羽生結弦が95.20点を出して首位に立った。日本人選手として初の大会2連覇を目指す羽生は今季、様々なアクシデントに見舞われながら決して諦めることなく、最終戦の今大会に出場を果たした。昨年12月の全日本選手権後、腹部の手術、入院、安静休養、右足首捻挫などでトータル約1カ月半も練習ができない期間があって試合勘もないと不安を口にしていたが、SPではまずまずの内容で今季の自己ベストをマークするなど上々の滑り出しだ。

     冒頭の4回転トーループは着氷で尻込みして両手をついたが、得意のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)はカウンターターンから鮮やかなジャンプを決めてGOEが2.43点もつき、3回転ルッツ+3回転トーループの連続ジャンプも少し乱れたが何とかまとめた。ノーミス演技を見せた2位のハビエル・フェルナンデス(スペイン)とは2.46点差とわずかだ。

     今回の世界選手権の会場は、昨年11月のGPシリーズ・中国杯で衝突事故に見舞われたリンクと同じ場所だった。羽生にとってはあの悪夢が思い出され、トラウマも少なからずあるはずだが、「過去の出来事」として捉えて「現在(いま)の世界選手権をしっかり戦う」気持ちでいっぱいのようだ。

     「世界選手権でスモールメダルをもらうのは初めてなので嬉しい。4回転トーループのミスは正直言って悔しいです。それでも、4回転で減点された分を他のエレメンツでカバーできていたので、この3週間ちょっとで追い込んで絞ってきた成果が出たので良かった。フリーでも「オペラ座の怪人」の曲をしっかり楽しみながら、ファントムを演じられる自分に感謝し、幸せを感じながら滑りたいです。今大会前はとにかく、通しの練習を何回も何回もすごくしてきたのでフリーは自信があります。全てのことを一つひとつ楽しんでできている」
     羽生本来の演技ができれば、日本人選手として初の金字塔を打ち立てる可能性は限りなく高いだろう。

  •  故障上がりの羽生が奮闘したのとは裏腹に、ベテラン勢の2人が大きく崩れた。小塚崇彦が19位、無良崇人においては足切りぎりぎりの23位と、来季の枠取り要員としてどちらか1人は10位以内に入るのは確実かと思われたが、予想外の順位に日本スケート連盟の強化関係者を慌てさせる事態になった。

     日本チーム最年長者として責任を全うしたいと言っていた小塚に期待していたが、思わぬ落とし穴が待っていた。冒頭の4回転トーループに成功したものの、トリプルアクセルの着氷でしゃがみ込んでのオーバーターンミス、3回転ルッツでは転倒して連続ジャンプを跳ぶことができず、得点を伸ばすことができなかった。
     「煮え切らない気持ちがいっぱい。気持ちも調子も良かったのに何か起こったのか分からない。後半の2つのジャンプを失敗するイメージはなかった。メンタルは強いほうだと思っていたが、こんな結果が出たということはメンタル面で落ち着いていなかったかもしれないですね。今大会に向けてしっかりやってきたのでいつも以上に悔しい。フリーは戦うしかない。自分自身との、スケートとの、この試合との、そして全てとの戦いになるのでしっかりやりたい」  フリーの滑走順は1番。点数が出にくいスタートだが、ノーミスの演技を見せて10位以内を確保したいところだ。

     シーズン後半に掛けて失速ぎみのジャンパー無良は、生命線とも言える武器のジャンプが不発でいいところなく大きく後退。得点源のトリプルアクセルがパンクして1回転アクセルになる規定違反の大過失を犯して無得点となったのが痛かった。  「どういう状態であってもしっかりやり切ることができなかったのが敗因。4回転は調子の善し悪しがあるんですけど、アクセルまで失敗したのは不甲斐ないし、どうしよもない。何より力不足だった。フリーはしっかり最初から最後までやり切って終わりたい」 来季につなげるためにも、フリーでの挽回を期したい。






  •  四大陸王者のデニス・テン(カザフスタン)は別な選手の音楽がかかるハプニングに見舞われて集中力を切らせたのか、プログラム冒頭の4回転トーループで転倒するなど精彩を欠いて3位発進となった。

     3人が出場する日本は、上位2選手の順位合計が「13」以内なら最多3枠の来季出場枠を確保できるが、SPを終えて「20」と2007年以来の2枠減になるピンチを迎えている。小林芳子・フィギュア強化部長は「2人の失敗は想像していなかった。今日のミスをしっかり修正してもらい、自分たちのためにも3人で3枠を取って欲しい」と話した。
















  •  フィギュアスケートの世界選手権第2日は26日、中国・上海の東方体育中心で女子ショートプログラム(SP)が行われ、初出場で全日本女王の宮原知子が自己ベストの67.02点を出して3位につける健闘を見せた。
     一番気をつけていたジャンプの回転不足もなく、プログラム冒頭の3回転ルッツ+3回転トーループの連続ジャンプを鮮やかに決めると勢いづいてスピードにも乗った。ステップも音楽に合わせてメリハリよく滑らかで華麗に踏んだ。目指していたノーミスの演技で、表彰台を狙える好位置につけた。

     「今日は自分のベストなSPでした。今大会ではSPとフリーで自己ベストを出すことが目標だった。それが出来たSPで3位になれてびっくりしたが、嬉しい。フリーでももっとしっかり集中して自信を持って両方とも自己ベストを出せるように頑張りたい」
     日本女子はこれまで2006年から9年連続で世界選手権の表彰台に立ってその座を死守してきた。また、国別枠でも最大「3」を13年も保持するなど、フィギュア王国としての威信を誇っている。全日本女王としてその責任をしっかり果たすことができるか。フリー「ミス・サイゴン」のプログラム後半にある得点源の2回転アクセル+3回転トーループの連続ジャンプを2本成功させ、完璧な演技を披露できれば文句なしに結果はついてくるはずだ。

  •  宮原以外の日本女子は、全日本選手権でSP9位に沈んで総合5位と惨敗した村上佳菜子が、復活の会心演技を見せて65.48点をマークして4位。はつらつとした演技が光る初出場の本郷理華が、こちらもガッツポーズが飛び出すノーミス演技で自己ベスト更新の62.17点を出して5位発進となった。

     「佳菜子スマイル」が久しぶりに戻った村上の得点は、3位の宮原との差は1.54点。5度目の世界選手権出場で逆転での初表彰台も狙える圏内だ。フリー「オペラ座の怪人」は今季、何度も曲や構成を変更しているプログラムだが、やっと「滑りやすい」作品に仕上がったと手応えを持っているだけに期待できるだろう。また、高校生として最後の試合で結果を出したい本郷は「今シーズン練習してきたことが出せ、自己ベストも出せて嬉しかったです。四大陸選手権の後、その大会でジャッジした審判からどこが足りなかったのか教えてもらって修正してきた。フリーではしっかり練習してきたことを出し切れるように思い切ってやりたい。気にするところは全部です」と最後まで気を引き締めて挑む。


  •  SPで首位に立ったのは、国際大会で認定された史上6人目となるトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を成功させたエリザベータ・トゥクタミシェワ(ロシア)。SPで歴代3位となる77.62点の高得点を上げた18歳は、今季絶好調だ。グランプリ・ファイナルと欧州選手権を制しており、この世界選手権で3冠を狙う偉業に王手を掛けた。
     「トリプルアクセルを跳んだときに鳥肌が立ち、これは夢?本当に世界選手権でトリプルアクセルを跳んだの?と思った。SPでトリプルアクセルを跳ぶことはリスクがあるけれど、フィギュアは進化しなければいけないのでチャレンジした。トリプルアクセルを入れたSPでは初めてクリーンに滑ることができた。男子ではすでに4回転を計3度も跳んでいるので、女子でもさらに発展させていかなければいけない」

     もうすでに世界女王のようなコメントと振る舞いだが、トリプルアクセルには挑戦しないというフリーで大崩れしなければ、このまま世界タイトルを初めて奪取できるに違いない。そんな確信が持てるほど、いまのトゥクタミシェワの視界は良好だ。2位は69.51点を出したロシアのホープ、エレーナ・ラジオノワ(ロシア)だった。女子フリーは28日にある。




  •  ソチ五輪から1年が過ぎ、次の平昌五輪に向けた最初のシーズンとなる今季の世界選手権が25日、中国・上海の東方体育中心(オリエンタルスポーツセンター)で開幕した。この日はアイスダンスのショートダンス(SD)とペアのショートプログラム(SP)が行われ、日本のアイスダンスのキャシー・リード、クリス・リード組はSD22位でフリー進出はならず、ペアの高橋成美、木原龍一組もSP19位の最下位に終わり、フリーに進むことができなかった。

     この日は、アイスダンスのSD後、大勢の観客が詰めかけた会場ではオープニングセレモニーが開かれた。2部構成のセレモニーはまるでどこかの冬季五輪の開会式のような演出で、単体のスポーツ競技会の開会式にしては大掛かりになっていたのは、中国の威信をアピールする狙いがあったのか。

     参加国・地域の旗が登場した後、中国の国歌斉唱や関係者の挨拶などが行われた後、「アイス・アーティスティック・パフォーマンス」と銘打ち、白いリンクを利用したプロジェクションマッピングを使ったアイスショーが披露されて観客を楽しませた。第1部には全身にLEDライトをつけたスピードスケーターの演舞が見られたり、歌声に乗って中国が最も力を入れているカップルスケーターのパフォーマンスがあったりした。

  •  第2部では、中国ではスーパーアスリートとして人気を博したバンクーバー五輪ペア金メダリストの申雪、趙宏博組が夫婦仲良く歌声を披露。その歌に乗ったカップルスケーターがワイヤーでつり上げられるなど、ド派手で大掛かりな演出に会場も大盛り上がりだった。その後、ゲストスケーターの2人と2組が紹介された中で、一番手に登場したのが、こちら中国では現役当時から人気を博したリレハンメル、長野の両五輪女子銅メダリストの陳露(ルー・チェン)だった。全身キラキラ衣装を身にまとった陳露がリンクに出ると、観客から「うぉー」「きゃー」と感嘆と悲鳴が混じった声が沸き起こり、大きな拍手で包まれた。ジャンプこそしなかったが、往年の美しいスケーティングをほんの少しだけ披露。現在はプロスケーターとして滑るよりも、自身が運営するスケートクラブで指導や普及活動などをしているようだ。

     それから、米国のアイスダンスペアのメリル・デービス、チャーリー・ホワイト組と「フィギュア界の皇帝」エフゲニー・プルシェンコが持ちプログラムの一部を踊ってみせ、最後に申、趙組が再び登場して挨拶した。セレモニーのエンディングでは可愛い雪だるまの着ぐるみスケーターがパフォーマンスをする中、男女のオペラ歌手が今大会のテーマ曲「Have a Date with Ice」を優麗に歌いきって魅了した。

     世代交代の波が押し寄せている世界のフィギュア界にどんなニュースターが誕生するのか。まだ20歳の羽生結弦が日本男子初となる世界選手権連覇を成し遂げることができるのか。いよいよ今季最後の大舞台に注目だ!




  •  ソチ五輪で思い描いたような結果を残せなかった村上佳菜子が、今季は苦しいシーズンを送ってきた。

     GP初戦の中国杯で総合3位になり、次戦だったNHK杯では優勝を狙いながら得点を伸ばすことができず、SP3位からフリー7位と崩れてまさかの総合4位。目標に定めていたGPファイナル進出はならなかった。ポスト浅田真央の座につくつもりだったが、そのお株を全日本女王になった後輩の宮原に奪われる羽目に。追い込んで練習をして臨んだ全日本選手権では予想外の結果に絶句するしかなかった。ジャンプでことごとく回転不足を取られ、スピンの1つではレベルなしという判定まで出たほどで、SPで9位と大きく出遅れ、フリーで4位と挽回して総合5位に食い込んだ。今季なかなか結果を出せない試練のシーズンになった原因は、癖のあるジャンプで回転不足を厳しく取られているからだろう。

     2月にオランダのハーグで行われたチャレンジ・カップに出場してSP、フリーともにトップの完全優勝を飾るなど、調子は上向きのようだ。それでも、SPで跳んだ2連続3回転トーループが回転不足になってしまうなど、課題解消まではまだのようだった。その試合から約1カ月が経ち、いよいよ5度目の世界選手権をどんな思いで迎えるのか。

  •  23日深夜に上海入りした村上は翌24日に練習を行った村上の状態は悪くなかった。ジャンプや演技構成、曲などを修正して来たという。フリーはよりファントム色の強い曲をセレクトして編集。「やっぱりファントムを演じたかったので直したことで自分としては演じやすくなった。すでにオランダでの大会で滑って失敗はあったが、いい感じかなと手応えはあります」と手直しの意図を話した。全日本でミスを重ねながらも、世界代表の座を射止めたチャンスに対し、20歳は気合をみなぎらせた。

     「全日本で悔しい思いをした中でチャンスを与えてもらったので、無駄にしないように思い切りよく滑りたい。ここまで、ジャンプは1から見直して練習してきたので変わっていて欲しいなと思います。かなりジャンプとスケーティングの練習をすごくやってきたので、ジャンプでは回転不足をなくし、すごく練習してきたスケーティングは高く評価して欲しいです」

     平昌五輪に向けて来季の枠取りも懸かってくるだけに、絶対的エース不在のいまの日本女子チームにとって村上の奮起が待たれる大会になりそうだ。果たして課題はクリアできているのか。勝負の分かれ目は26日のSPになる。得点源となるジャンプに注目だ。


  •  ソチ五輪王者の羽生結弦が、昨年12月の全日本選手権以来、約3カ月ぶりに元気な姿でリンクに戻ってきた。上海で25日に開幕する世界フィギュアスケート選手権の公式練習が行われた24日、試合会場のメインリンクに登場。練習でもいいから羽生を見たいと中国のファンも大勢詰めかけた中、大会期間中では最後の機会となるメインリンクでの練習にじっくりと取り組んでいた。

     「27日のSPまでこのメインリンクでは滑ることが出来ないので、ジャンプの位置を確認したり、目線や動きなどをどこに合わせるかを考えたりして、イメージをしっかりと作りました」
     一つひとつのエレメンツでチェックポイントを見極め、聞き役に回っていたブライアン・オーサーコーチに時折、笑顔で話し掛けながら、入念にジャンプなどを詰めていく作業を繰り返し、少しずつ調子を上げていった。

  •  昨季はソチ五輪金メダルを含めたフィギュア界の3冠を達成するなど輝かしい金字塔を打ち立てた羽生にとって、五輪翌シーズンの今季は予想外のアクシデントに何度も見舞われるなど、過酷なシーズンになった。予定していた初戦の試合を故障で欠場することを余儀なくされるシーズンイン。グランプリ(GP)シリーズの一戦目だった中国杯では、フリーの6分間練習で中国の閻涵と激突するアクシデントに見舞われ、大けがを押しての強行出場。体調が万全でない中で、NHK杯にも出場して総合4位。ぎりぎりで進出を決めたGPファイナルでは日本男子初の2連覇達成という偉業を成し遂げた。そして、迎えた全日本選手権では体調が思わしくない中で奮闘して完全優勝の3連覇を飾った。そして、その直後に病気が分かり、すぐに入院して手術をした。その後の状況がどうだったのか、正確なところが分からなかったが、この日の練習後に久しぶりに報道陣の前に立ち、質疑応答の場を持った。

  •   「いまは、戻ってきたなという気持ちです。久しぶりにこんなにメディアに囲まれたので緊張しますね。全日本選手権から3カ月経ち、その間にいろいろなことがありましたけれど、やっとこうやって皆さんの前に立って演技できるという覚悟をつけられるぐらいのコンディションになったということなので、まずはそのことについて幸せだなと思っています」

     五輪で金メダルを獲得して一つの大きな夢を実現させても、なお挑戦者の気持ちを失っていない羽生。大好きなスケートをまたできる喜びは故障や怪我、病気を克服する度に増大してきたのではないだろうか。
     世界選手権前にきちんと復帰しようと焦ったことで、2月頭に右足首を捻挫してしまった。まだテーピングをしているが「自分の中では問題ない程度」まで回復しているようだ。日本男子史上初となる連覇が掛かる今大会に向けて本格的に練習を再開したのは3月に入ってからだという。

  •  「全日本後に2週間入院していてその中で手術があって、それから約4週間弱、スケートに上らないで自宅療養して安静してしっかり回復を待っていました。その後滑り初めて、若干焦ったというのがあって、焦ってやるが故に捻挫をしてしまって、また2週間ほど動かないで休んで、そこからまた一つ一つゆっくりとここまで追い込んできました」

     昨年の中国杯で起こった衝突事故があった同じ会場で行われる今回の世界選手権だが、「今日(24日)、滑ってみてこんなことがあったなとは思ったけれど、僕にとってはあの事故は過去。とにかく、いまできることをしっかりとやるだけです」。連覇に懸ける意気込みは口にしなかったが、負けず嫌いの羽生の闘志は、心の中でメラメラと燃えているに違いない。どんな演技でどんな戦いになるのか、役者がそろった世界選手権になったので楽しみになった。




  •  新生・全日本女王の宮原知子が、いよいよ世界の舞台でお披露目となる。今月26日で17歳になる宮原が、結果を出して自らのバースデーを祝うことが出来るか。勝負の鍵は「スケーティングスピード」に懸かってくるだろう。
     あとわずか、ノーミスの演技をしていれば、目標に掲げていた優勝を勝ち取れた四大陸選手権のフリー。「ミスなく演技しようとして緊張し過ぎてしまってスピードを出せなかった」と反省したように、ガチガチの滑りはスピードを奪い、ジャンプミスを誘発した。
    「自分がしっかり演技できていれば優勝できたはず。昨年は嬉しい2位でしたが、今年は悔しい2位になりました」
     よほど悔しかったのだろう。普段は見せない熱い感情を吐露した。

     これまでバトンを受け継いできた世界における日本女子のポジション。全日本女王としての重責を担った宮原が、どこまでその存在感を示すことができるのか。そして、平昌五輪にも影響する来季の出場権の枠取りという責任もあるだけに、宮原の奮闘を期待したいところだ。
     今季はGP2大会とも3位で目指していたGPファイナル進出は逃したが、その悔しさを全日本選手権制覇という形で晴らし、四大陸選手権では優勝宣言も飛び出すなどやる気をみなぎらせていた。これから本格的に世界で戦っていくステップを踏む今季に、少しずつ自信をつけてきたに違いない。

     「初めての世界選手権は楽しみですが、(四大陸選手権での失敗を)挽回しなければいけない。次こそはしっかりやるという気持ちを強くもって、世界選手権では自分に集中してSPもフリーも頑張りたいです」
     強豪ロシア勢に一矢を報いて表彰台の一角を狙うには、まずはノーミスの演技が絶対条件だ。

  •  今季のシニアデビューを華々しく飾った本郷理華は、シンデレラガールだ。GP初戦だったスケートカナダでは総合5位だったが、2戦目のロシア杯ではスケートカナダ優勝のアンナ・ポゴリラヤ(ロシア)を抑えてGP初優勝をSP2位からの逆転で飾った。その後、日本女子は14年ぶりに出場を逃したと騒がれたGPファイナルに、進出選手の欠場によって補欠1位として出場を果たした。結果は6位と最下位だったが、運にも恵まれ、思いがけない経験をしたことは、大きな財産になったと言っていいだろう。
     勢いづく18歳は全日本選手権でも総合2位に入って、シニアの国際大会の初代表の座を射止めた。2月にソウルで行われた四大陸選手権でも、手足の長さを生かした思い切りのいい迫力ある演技を見せて、初出場で総合3位と健闘して表彰台に上った。
    四大陸選手権では「ISUのメダルをもらうのは初めてで嬉しい。自分よりも上手な選手たちと滑る経験をGPファイナルでしていたので、それをこの四大陸で生かすことができた」と周囲に飲み込まれなかった。

     世界選手権の前哨戦でまずまず納得のいく演技ができただけに、初めて挑むひのき舞台でも飛躍のきっかけを掴みたいところだ。目標は合計点で180点以上。四大陸選手権までSPでは60点以上を出すまでになったので、フリーで120点を超える演技を見せる必要がある。ジャンプの回転不足やスピンでレベルの取りこぼしなどをなくせば、もはや狙えない得点ではない。

     目指す「力強さとスピードのある演技」でカルメンになりきれば、長久保裕コーチが遠慮がちに設定した目標順位の10位以内というよりも、上位争いに顔を出せるはずだ。「初めての世界選手権なので思い切って納得のいく演技ができるように頑張りたい」。チャレンジャーとして無欲で臨めばチャンスは必ず掴める。


  •  2月に26歳となった日本チームの最年長者・小塚は「今のベストを尽くすということしかない」と、7度目の世界選手権に挑む。ソチ五輪出場を逃して現役引退に一度は気持ちが傾いた中で、今季も現役生活を続けることにした。しかし、出場したGP2大会での結果は散々なものだった。1戦目のスケートカナダは8位、2戦目のロシア杯は6位と内容的にも振るわず、7季ぶりに両大会ともにメダルを獲得できなかったほどだ。練習を積み上げることが最良の道だと信じる小塚は地道に練習に取り組み、背水の陣で臨んだ正念場の全日本選手権で踏ん張りを見せた。SPで6位と出遅れながら、フリーで納得のいく演技を見せて2位と順位を上げて総合3位に食い込む起死回生の復活劇だった。

     「目標を持つことは大事だと思ってやった全日本選手権では、僕も含めて誰もが実際に今季結果を出せていなかった僕が表彰台に到達できるか半信半疑だったと思います。それでも「ずっと表彰台に乗る」ということを目標に掲げていました。だから、世界選手権でもう一度、表彰台に立つことがいまの僕の目標です」

     全日本選手権で初優勝して代表になった2011年の世界選手権で銀メダリストになった。今回は五輪王者で大会連覇が懸かる羽生結弦や四大陸王者のデニス・テン(カザフスタン)ら年下の強豪選手たちに挑戦者としてどんな戦いを見せるか楽しみだ。

  •  前哨戦の四大陸選手権で大会連覇はおろか、表彰台にも立つことが出来なかった無良だっただけに、世界選手権では是が非でも名誉挽回したいところだ。  「(体調不良に陥り)調整しきれなかったのが悔しい。試合前になって調子が崩れるようでは、自分はまだまだ。世界選手権では万全の調子でできるようにやり直したい。今回の四大陸選手権はちょっとした動きの失敗でレベルが取れなかったので、ミスの理由は自分の中ではっきりしている。もう一度チャンスがある世界選手権でしっかりやりたい」

     今季はスケートカナダでフリーと合計で自己ベスト更新の優勝を飾ってGP2勝目を挙げ、NHK杯では自己ベストを出したSPで首位に立って初優勝を狙えたが、フリーで自滅して総合3位に甘んじた。そして、その後のGPファイナルも全日本選手権も武器のジャンプで精彩を欠いて総合5位に留まり、四大陸選手権でも総合7位だった。

    オフに長野五輪金メダリストのイリヤ・クーリックに指導を受けて4回転のコツなどを習得して安定性が増したと同時に、表現力にも磨きが掛かってきた。。SP「カルメン」とフリー「オペラ座の怪人」は無良のダイナミックなジャンプが映える構成になっているだけに、ノーミスの滑りさえすれば高得点が期待できる。あとは、上海の本番リンクでしっかりとコンディションを整えてどこまで無良らしい演技ができるかに懸かっているだけだ。


  • デニス・テン
     ソチ五輪銅メダリストで今季の四大陸選手権で王者となったテン。この2、3年で一気に頭角を現し、カザフスタン出身選手として初となる五輪メダルと国際スケート連盟(ISU)主催の国際大会で初タイトルを手に入れた。もともとジュニア時代から一目置かれた選手だったが、シニアではこれまで鳴かず飛ばずでGP大会でも目立った活躍ができなかった。それが、ソチ五輪前年の2013年3月にカナダのロンドンで行われた世界選手権で、SP2位、フリー1位のパーフェクト演技を見せて自己ベストを大きく更新して銀メダル獲得。優勝したパトリック・チャンにあと一歩に迫る快挙だった。この結果が大きな自信を生み、不安定だったジャンプが劇的に上達し、メンタル面の強化も図られた。

     4回転とトリプルアクセルの大技ジャンプが安定したことで、定評のあるスケーティングが見映えするようになり、演技全体のスケール感が増したことで得点がぐんと伸びた。先の四大陸選手権ではSP(97.61点)、フリー(191.85点)、合計(289.46点)のいずれも自己ベストを更新する出来だった。

     今季もシーズン前半戦はまったく滑り込めていなかったが、四大陸選手権を見る限りでは心技体の三拍子がそろっており、6度目の出場となる世界選手権でミスない滑りができれば初制覇の可能性は高く、ソチ五輪王者羽生結弦の強力なライバルになるに違いない。

  • ハビエル・フェルナンデス
     欧州選手権3連覇を達成したスペインの英雄フェルナンデスは、世界タイトル奪取に向けて虎視眈々と狙ってくるはずだ。一昨季と昨季と2季連続で世界選手権は銅メダルに甘んじており、ソチ五輪でもメダルにあと一歩及ばず総合4位に終わった。羽生のコーチでもあるブライアン・オーサーコーチに2011年春に師事してから急成長を遂げ、2012-13シーズンからは国際大会で優勝争いに顔を出すようになった。GP大会での優勝は2度ほどあるが、遅咲きの23歳はGPファイナルや世界選手権などの大きな大会でのタイトルはまだない。

     それだけに世界タイトルはのどから手が出るほど欲しいはず。これまでのタイトル保持者だったトップ選手が引退や休養している今季は、絶好のチャンスではないか。来季以降は、若手有望スケーターが続々と登場してくると予想されるからだ。武器の4回転サルコーと4回転トーループの出来が命運を握る鍵となるだろう。








  • マキシム・コフトゥン
     「フィギュア界の皇帝」プルシェンコの後継者として王国ロシアが最も期待を懸けているコフトゥンは、1歳上の羽生を同世代のライバルとして追いかけている。今季はただ一人GP大会で2連勝するなど、実力を着実につけてきた19歳だ。サルコーとトーループの2種類の4回転ジャンプをSPとフリーで計5回も跳ぶことができるなど、高い身体能力を持つ。まだ荒削りな演技に課題を残しているが、まだ伸びしろは十分にあるだけに今後の成長が注目される。
     欧州選手権ではSP4位からフリー2位と順位を上げて、フェルナンデスに次ぐ銀メダルに輝いたが、ジャンプに精彩を欠いたこともあり得点が伸びなかった。今回の世界選手権でも優勝候補に挙げられるが、得点源の大技ジャンプを完璧に決めることが絶対条件になるだろう。


    閻涵(ハン・ヤン)
     今季は、GP大会初戦だった中国杯での6分間練習で羽生と激突するアクシデントに見舞われるという最悪のスタートだった。驚異的な回復と根性を見せた羽生とは違い、シーズン前半戦はまったくいい結果も滑りも出すことができなかった。後半戦になってコンディションも上向きのようで2年ぶり2度目の出場となった四大陸選手権では前回と同じく銅メダルを手にした。武器であるダイナミックなトリプルアクセルは、GOE加点が3点近くにもなり、4回転トーループの基礎点よりも高い点数を叩き出すことができるほど。勝負の行方を左右する4回転を成功させ、ジャンプで失敗がなければ、メダル争いに加われるはずだ。



  • エリザベータ・トゥクタミシェワ
     2011-12シーズンに15歳で華々しくデビューしたトゥクタミシェワはまだ18歳と若いが、今季はどこか凄みのある成熟した演技を見せている。17歳で迎えた昨季のソチ五輪シーズンは、体の成長期だった影響もあったのか体重増によるジャンプ不振に陥ってしまった。得点源となっていた連続ジャンプが跳べなくなったことで、結果を残すことができずに一時低迷。自国開催の五輪代表も逃す羽目に。それでも、人一倍の負けん気を持つ彼女は今季、見事に復活した。

     グランプリ(GP)シリーズ第一戦のスケートアメリカで2位になると、中国杯では3シーズンぶりのGP制覇を飾った。2季ぶり3度目の出場となったGPファイナルではSP、フリーともに1位の完全初優勝を遂げると、欧州選手権もSP2位からフリーで141.38点の高得点をマークして、合計210.40点でいずれも自己ベストを更新しての初優勝を果たした。名伯楽で「フィギュア界の皇帝」の異名を持つエフゲニー・プルシェンコが師事するアレクセイ・ミーシンコーチが、その才能を見いだした逸材で愛弟子だ。ジャンプも踊りも器用にこなしてしまう才能の持ち主だけに伸びしろはまだまだある。今季の世界選手権で3冠達成も夢物語ではないだろう。ただ、欧州選手権後の2月にあったババリアンオープンのSPで初めて挑んだトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)の着地に失敗した後、フリーを棄権しているだけにコンディションが気がかりだ。

  • エレーナ・ラジオノワ
     今季のロシア女王となった16歳のラジオノワは、フィギュア王国ロシア期待の新星だ。2013年、14年の世界ジュニア選手権で連覇するなど天才少女として昨季シニアデビューを飾った。ソチ五輪シーズンのGP2大会で表彰台に立ち、GPファイナルにも出場して活躍し、ロシア選手権でも3位に入ったが、年齢規定のために自国開催のソチ五輪には出ることができなかった。早咲きのホープが目指すのは、18年平昌五輪の金メダルだろう。3年後に迫るひのき舞台に向けて、着実に成長を遂げている。
     今季はスケートアメリカとフランス杯を制してただ一人GP2連勝と好スタートを切った。また、2年連続出場となったGPファイナルと初出場した欧州選手権でそれぞれ銀メダルを獲得したほか、4度目の出場だったロシア選手権では初優勝を飾った。難しいジャンプ構成の連続3回転ジャンプを跳ぶことができ、スケーティング技術も高い万能タイプのスケーターが、今季最後の世界タイトルを虎視眈々と狙っていることは間違いない。


    グレイシー・ゴールド
     フィギュア大国期待のゴールドだが、今季は調子の波が激しい。GP初戦のスケートアメリカで3位、2戦目のNHK杯で優勝したが、GPファイナルは進出を決めながら故障を理由に欠場。1月の全米選手権で復帰したが2位に終わり、前哨戦となる四大陸選手権でもSP2位からフリーで5位に沈んで総合4位と振るわなかった。調子がいいのか悪いのか定まらないが、今季の世界選手権では優勝候補の一人に挙げられる。若手の台頭が目立つ昨今の女子シングルの中で、まだタイトルもメダルも獲ったことがない19歳が奮起できるか注目だ。

  • ポリーナ・エドムンズ
     2月の四大陸選手権でSP4位からフリー1位となって逆転の初優勝を成し遂げたエドムンズは、まだ16歳の高校生だ。ジュニアで実績を残して頭角を表した昨季、初出場した全米選手権で総合2位になってソチ五輪代表入りを決めたシンデレラガール。シニア初の国際大会だったソチ五輪では総合9位だった。
     シニアデビューした今季はGP2大会でも表彰台に立てず、全米選手権でも4位に終わったが、3位の選手が年齢制限のためにシニアの国際大会に出場できないために四大陸選手権と世界選手権の代表に選出された。そして、チャンスを掴んで四大陸女王の称号を得た。初めての大きなタイトルを獲ったことで自信をつけた伸び盛りのスケーターが、世界選手権で旋風を巻き起こすかもしれない。


    李子君(ジジュン・リ)
     18歳の李はその容姿端麗で可憐な演技が持ち味の中国期待のスケーターだ。
     2010-11シーズンのジュニア選手のときに中国選手権で初優勝を飾って一躍、国内トップ選手の仲間入りを果たすと、12-13シーズンにはシニアデビューしてGP大会や世界選手権、四大陸選手権に出場して上位争いに顔を出すようになる。昨季は四大陸選手権で銅メダルに輝き、ソチ五輪代表にもなった。今季も気合の入った滑りを見せているだけに、ノーミスの演技で3度目の出場となる世界選手権で表彰台に乗りたいところだ。







  •  ソチ五輪翌シーズンの今季は、2018年平昌五輪に向けての新たなシーズンの始まりだ。髙橋大輔、浅田真央、パトリック・チャン(カナダ)、キム・ヨナ(韓国)ら国内外のトップ選手が引退や休養する中で、平昌世代の有力選手たちが自分たちの出番を虎視眈々と狙い始めている。そして、さらに次世代の若手たちの台頭が見られるなど、世界のフィギュア界では急速に世代交代の流れが起こっていると言っても過言ではないだろう。

     果たして、これから平昌までの数シーズンに誰が君臨するのか。はたまた、勢いと輝きのある10代選手がすい星のごとく出現するのか。まずは序章とも言える今季最終戦の世界選手権上海大会が25日に開幕する。どんな戦いが繰り広げられ、表彰台に立つ顔触れがどうなるか。男女とも群雄割拠の様相を呈しているだけに目が離せない。

  •  男子の優勝候補筆頭を挙げるならば、何といってもソチ五輪王者の羽生結弦を置いて他にはいないだろう。今季は不運が重なり、シーズン初めの故障、中国杯での衝突事故、12月末の体調不良による手術など数々のアクシデントに見舞われている中で、戦線離脱もせずに戦い続けている。1月末に練習を再開した直後に捻挫するなど、本番に向けたコンディション作りが心配されるが、不屈の精神の持ち主だけに戦わずして今季を終えることはないのではないか。ただ、どんな状態で上海入りするのか。調子がどこまで戻っているのか。復調も気になるところだが、日本人初となる世界連覇を懸けた戦いの行方も注目されるはずだ。

     羽生の対抗馬には、四大陸選手権で初優勝したソチ五輪銅メダルのデニス・テン(カザフスタン)がくるだろう。前哨戦となった四大陸では、SPで1回、フリーで2回の4回転ジャンプを成功させて、フリーと合計で世界歴代3位の高得点を出すなど、シーズン後半に来て波に乗っている。また、優勝争いを含めたメダル争いには、欧州選手権3連覇で世界選手権2年連続3位のハビエル・フェルナンデス(スペイン)や欧州選手権2位で強豪ロシアを背負うマキシム・コフトゥン、GPファイナルと欧州選手権で3位と健闘したセルゲイ・ボロノフ(ロシア)、四大陸選手権で表彰台に立った2位のジョシュア・ファリス(米国)、同選手権3位の閻涵(中国)らが顔を出してくるはずだ。その戦いの一角に全日本選手権3位の小塚崇彦や無良崇人がどう絡んでくるのか、楽しみだ。

  •  女子は、今季の活躍目覚ましいロシア勢のエリザベータ・トゥクタミシェワ、エレーナ・ラジオノワ、アンナ・ポゴリラヤの3人がそろって表彰台を独占しそうな勢いがあると言ってもいいだろう。特に、GPファイナルと欧州選手権で2冠を達成した18歳のトゥクタミシェワが、世界タイトルを奪って3冠に輝けるかは見ものだ。絶好調のトゥクタミシェワを追い掛ける一番手には、ホープのラジオノワを挙げたい。世界ジュニア女王の称号を持つ驚異の16歳は、GPファイナルでも欧州選手権でもあと一歩及ばずに2位に甘んじた。それだけに、今季最後の世界タイトルは是が非でも手に入れたいはずだ。

     そのほか優勝争いには、米国期待のグレイシー・ゴールド、全米女王のアシュリー・ワグナー、四大陸女王のポリーナ・エドムンズ(米国)に加え、四大陸選手権2位で全日本女王の宮原知子、同選手権3位と健闘するなど今季飛躍した本郷理華、そして今季やや調子が出ない村上佳菜子の日本勢が顔を出して欲しいものだ。



  • 激動のシーズンラストを飾る、世界最高峰の戦いが始まる。
    ~羽生結弦 日本人初の連覇へ、ニッポン女子は最強ロシア勢に挑む!~


     羽生結弦が初の世界王者に輝き、国民的ヒロイン・浅田真央が五輪の雪辱を果たし3度目の女王となった超満員のさいたまスーパーアリーナでの激闘から1年、今年もまた世界最高峰の戦いがやってきます。2018年平昌五輪へと向かう新たなフィギュア新世紀の幕開けとなった今シーズンはまさに激闘のシーズンでした。GPシリーズでの激突をはじめアクシデントに苦しめられた王者・羽生結弦、樋口新葉・宇野昌磨などニューヒーロー・ヒロインたち新世代の台頭、そして町田樹の突然の引退劇など、それぞれが我々の想像を超えるドラマの数々でした。

     そんなシーズンのラストを飾る世界選手権は、新世紀の王者と女王を決める戦いです。

     男子の注目はなんといっても世界王者・羽生結弦(20)。体調面での不安があるものの、日本人初の世界選手権連覇を狙う戦いに最大の注目が集まります。そして打倒羽生へ向かう海外勢は欧州チャンピオンのハビエル・フェルナンデス(スペイン)やソチ五輪銅メダリストのデニス・テン(カザフスタン)ら、また日本の小塚崇彦(26)、無良崇人(24)のベテラン勢も再び世界の舞台でどのように輝きを取り戻してくれるのかに注目です。
  •  一方、女子は昨年末の全日本選手権で新女王となった宮原知子(16)、今季大躍進のシンデレラガール・本郷理華(18)が初の世界最高峰の舞台にたちます。立ち向かう先は今季の欧州選手権で13年ぶりに表彰台を独占したトゥクタミシェワ、ラジオノワ、ポゴリラヤの最強ロシア勢、それに待ったをかけるワグナー、ゴールドらアメリカ勢たち。また、今シーズンジャンプに悩まされている、村上佳菜子(20)は唯一の五輪代表としての意地でどこまで復活してくれるのでしょうか。

    決着の舞台は中国・上海、ここで激しく、驚きに満ちたシーズンのすべてが決着いたします。


    フジテレビ系列にて4夜連続独占放送
    放送日程:
    3/26(木) 女子ショートプログラム 19:00~21:24
    3/27(金) ペア・フリー/アイスダンス・フリーダンス 14:00~16:50 ※関東ローカル
    3/27(金) 男子ショートプログラム 19:57~23:07
    3/28(土) 女子フリー/男子フリー 18:30~23:10
    3/29(日) エキシビション 19:00~20:54

    解説:荒川静香(女子)、本田武史(男子)、若松詩子(ペア)、
    宮本賢二(アイスダンス)
    ゲスト解説:鈴木明子(男子、女子、エキシビション)
    実況:西岡孝洋(男子)、鈴木芳彦(ペア/アイスダンス)、
    中村光宏(女子)
    MC/インタビュー:三田友梨佳