F1 スーパースター列伝Vol.3
文・山口正己

去年9月のイタリアGPでも、バトンの人柄を現すちょっとした出来事があった。ホンダの二代目社長を務めた河島喜好さんがモンツァを訪れているのを知ったバトンは、ホンダの広報部員を通じて、河島さんにあいさつしたいと申し出た。土曜日にそれが実現し、ホンダのモーターホームの河島夫妻の前に現れたバトンは、とても緊張した面持ちで、"よろしくお願いします"と丁寧に頭を下げた。河島さんが、バトンに好感を持ったことは言うまでもない。

マシンのフィードバックも、神童時代からの武器だが、唯一、物足らないとすれば、勝利に対する貪欲な姿勢かもしれない。ホンダF1レーシングの最高責任者である中本修平シニア・テクニカル・ディレクターから、こんな話を聞いた。
「テストを走ってクルマを降りたジェンソンに"どうだった?"と聞くと、"悪くないです"という返事なので、"それじゃこれで勝てるの?"というと、"いや、そこまでは"と言う。"オレたちは勝ちに来てるんだから、それじゃダメじゃないか"ってことなんです」。

しかし、8月6日以後、優勝できなかったドライバーから、優勝したドライバーに生まれ変わったバトンは、そこで勝利の味を充分に知ったはずだ。10月8日に決勝レースが行なわれる日本GPは、バトンが初めて"ウィニングドライバー"として迎えるレースである。鈴鹿は、ジェンソンにとってアイルトン・セナ・トロフィーを授かった思い出のコースだが、その前にホンダの地元であることを、バトンは充分に知っている。

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