前サッカー日本代表監督 フィリップ・トルシエ(後編)
インタビュー・文/李春成
[Q]前回大会では中村俊輔を外しましたが、理由は大きくふたつあると思います。まずフィジカル面と技術面の問題でディフェンスができない。それから、プレースキッカーの数があふれていたので、もうそれ以上は必要なかった。そう理解してよろしいですか。
[A]俊輔は、私のチームで最も鍵を握っていた選手です。彼のおかげでアジア杯も優勝できたし、ケガさえなければ、私はW杯の最終メンバーに入れていたでしょう。ところが'01年から本場ヨーロッパの強い相手と闘ったときに、俊輔にはフィジカル面で大きな問題があることを痛感させられたんです。
相手にコンタクトされると、簡単に飛ばされてしまうケースがひじょうに多かった。それに、タイミングも悪かったですね。たとえフィジカルが高くなくても、やはりこのチームには彼のような選手が必要なんじゃないか。私がそう考え始めた矢先に、またケガをしてしまったのです。そのために最終ステップに入った私の"実験室"に彼を呼ぶことができなくなり、必然的に、私と一緒にずっと闘ってきたアレックスを選んだわけです。
ただ俊輔には、そうした辛い経験があったからこそ、現在の素晴らしいポジションがあるんじゃないでしょうか。なぜ代表に選ばれなかったのか。それを彼なりに冷静に分析したときに、海外へ出る決意を固めたのでしょう。私は彼に、繰り返して言ったものです。「持てる才能とは、強いフィジカルがあったうえで発揮できるんだ」と。
彼の最初の挑戦は、イタリアのレッジーナでした。長いあいだスタメンで使われなかった俊輔に、イタリアのコーチたちは教えました。"強い肉体""我慢""戦術"の3つです。私が口を酸っぱくして言ってきたことに、彼はイタリアで初めて目覚めたのです。だから現在のセルティックの俊輔を見ると、フィジカルが非常に強くなってる。戦術も賢くなってる。かといって、彼の天才的な才能が失われたわけではなく、逆に輝きすら放っています。今回のW杯で日本のキーマンとなるのは、間違いなく彼でしょうね。
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