親父の一番長い日
- あらすじ -
父は浅草のちょうちん屋「墨田屋」の5代目・墨田栄一郎(國村隼)。妻の輝代(仁科亜季子)、長男である僕・正一郎(伊藤淳史)、長女の千晴(長澤まさみ)がひとつ屋根の下に暮らしている。それに近所のマンションで悠々自適の生活をしている親父の"虹バア"こと墨田虹子(銀粉蝶)の5人家族。さらに、家族ではないが、"辰さん"こと車田辰治(小倉久寛)と、村迫昇(今野浩喜)が職人として「墨田屋」で働いている。辰さんは先代からの職人だ。
昭和の古臭い親父とでも言おうか、曲がったことが大嫌い。筋が違うと思えば、女・子ども関係なく怒鳴り散らす。しかめ面の親父が笑う時はめったにない。頭に血が上ると勢いで行動する。妹の千晴が生まれる時も自宅で日本シリーズに熱中している真っ最中だった。病院からの電話で女の子が生まれたと知ると僕を小脇に抱え下駄で一目散に病室に駆け込む。そして赤ん坊を抱き上げ、「これはべっぴんになるぞ!」と叫んだ。
親父は一週間、ちょうちんを前にうんうんとうなっていた。親父は病院で「命名、千晴」と書かれたちょうちんを母親に見せた。それは「どんなに雨が続いても、いつか必ず晴れの日が来る、千の晴れに恵まれる」という親父の思いが込められていた。
親父にとって千晴は、文字通り目の中に入れても痛くない存在になった。ある日千晴は親父の目を盗んで仕事場に入りちょうちんに絵を落書きした。が、それはいたずらではなく、ちょうちんには親父の下手な似顔絵と"おとうちん"という文字が。そう、それは父の日のプレゼントだったのだ。それを知った親父は号泣。親父の喜ぶ姿を見て千晴はその年から毎年ちょうちんをプレゼントするようになった。
わが家が何があっても欠かさなかったのは、火の用心の夜回りだ。家族4人で近所周りをすることはどんな寒い年末でも怠ったことはない。親父は千晴のプレゼントしたちょうちんを掲げて大声を出した。親父にとっては自慢のちょうちんだった。
そして中学生になった千晴が、親父に新しいちょうちんを差し出す。親父はうれしそうに受け取って、また壁に飾る。親父は、こんなふうに千晴と一生、一緒に過ごせると思っていたろうか。それがいつか終わってしまうなどと、このころは想像もできなかっただろう。
そんな関係に影が差し始めたのは、千晴が高校に上がったころ。妹は初恋を覚えたのだ。その年のバレンタインデー。手作りチョコを初恋相手に渡そうとするが、千晴は渡せずに帰ってくる。結局、千晴は親父に渡した。親父は、まさか初恋相手に渡そうとしていたとはつゆ知らずえらく感動していた。僕はそれが本当は別の人にあげるはずだったチョコだとはとても言えなかった。
父へのちょうちんプレゼントは時と共にどんどん増えていく――。そして千晴は大学生になっていた。作業場で仁王立ちする親父の前に門限ギリギリに滑り込んできて千晴はその鬼の形相をにらみ返した。それから「大学に入ったんだから門限9時はキツイ」と千晴は訴える。でも親父は一刀両断、嫁入り前の娘の夜遊びなど許さないという。千晴が怒って居間を飛び出すと、親父はちょっと寂しげな顔で酒を飲む。以来、千晴は親父にちょうちんをあげることをやめてしまった。
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