黒部の太陽
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■撮影リポート その2

しかし、技術スタッフは着々と収録準備を進め、制作、美術スタッフも撮影環境を整えていく。後発隊だったキャストチームも到着。設定が6月ということで軽装な登山服、そして手元は軍手という格好のため、すっかり手はかじかんでしまい、頬も紅潮している。
特にボッカ隊は先述のように、蓑を着けた下には、木綿のちゃんちゃんこ、綿入れ、ニッカボッカと現代のハイテク防寒装備を一切身につけていないためかなり寒そうだ。こんな山の上にまで、制作チームはスタッフ、キャストのため、と温かいコーヒー、お湯の入ったポットを持ち運んでいた。皆、コーヒーの味に「うまい!」と感激。小林薫さんたちもそんなスタッフの優しさに「えらいねえ」と感想を述べてくれていたほど。
しかし山の天気は変わりやすいため、「少しでも(景色の)抜けがよくなった瞬間に広い画は撮りましょう」と助監督が機転を利かせ、瞬時の決断を下しながら撮影できるものからどんどんと撮り進めていく。たった今、遠くの山々まで見渡せていたかと思うと、一瞬にして雲に覆われてしまう。これから立ち向かう険しい山脈を遠くに見て、関西電力の滝山は愕然とするというシーンだけに、山々をなんとかして撮影したい。しかしとにかく秒単位で天気がめまぐるしく変わっていく。
「山の天気はきまぐれですからね」と監督に声をかけるスタッフに対し、監督は「『きまぐれ』よりもっと短い。「きまぐれ」はもうちょっと時間があるんじゃない。」と語ったほど。スタッフは雲が晴れることを祈り、天気、そして夕暮れまでに撮影を終えなければならないという時間との戦いの中、もくもくと撮影に取り組む。時間がない、しかし「せっかくここまで来たんですから」とスタッフたちはなんとかして少しでもよい画を撮影しようと決してあきらめない。撮影対象となる「雄山」が姿を現した!「早く急いで!」とカメラをまわす。常に動きが早く、働き続けるカメラアシスタントの雪山でも変わらぬフットワークの良さに、監督も「スーパーカメアシ(カメラアシスタント)!」と声をかける。場合によっては、様々なリハーサルは飛ばし「テスト本番!」という声のもとどんどん収録を進めていく。「本番!」「カット」「いやもう一回!」と時間のない中も監督、制作スタッフ、照明、音声、録音など全ての技術スタッフが一切の妥協を許さず、収録を進める様子はもはや戦いだ。戦いの中、撮るべきシーンの収録を終えようかという瞬間、急に雲が切れ始め、谷底の方までも見えてくる。撮影の加藤氏が「(谷底が)見えるか見えないとでは全然違う!」と大きな声を上げる。少しでも良い映像を撮ろうというスタッフの強い信念、プロ意識は黒部の雲さえも蹴散らしたのだった。

付き添ってくださった山のガイドの皆さんもこのプロの仕事ぶりに「山のプロでもこんな寒い中で待機しているのは辛いのにすごい」と感嘆する。こうして恐るべき黒部の山々を目の当たりにした滝山、吉村両氏のシーンは無事撮影を終えた。

皆の本気、信念、妥協を決して許さないプロとしての仕事が積み重なり、「黒部の太陽」は撮影され続けているのである。

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