神戸新聞の7日間
[記者たちが見た1・17]

◆一生に一度の大漁
この日、連休を取っていた陳は、早朝から垂水漁港で釣り糸をたらしていた。
普段なら夕方まで、5、6匹釣れれば、いいほうだ。しかしその日は、いつもと何かが違っていた。釣竿をたらした途端、魚が食いつくのだ。瞬く間に、持ってきた20リットルのクーラーボックスが魚で一杯になった。その数、なんと63匹。しかも釣れたのは、普通なら掛かりにくいカサゴやアイナメという寝魚(岩の間に隠れている魚)ばかり。
"一生に一度の大量だ"パンパンになったクーラーボックスを担いで自宅へ帰った。帰るなり、妻に言われた。 "こんな沢山釣ってきてどうするの"。その日の晩、食卓にはカサゴとアイナメしか並ばなかった。アイナメの煮つけを突付きながら、陳はぼんやり呟いた…"これからしばらく、アイナメ食べなあかんなぁ"。事実、震災直後の食糧難で、陳一家を救ったのは冷凍しておいたこの大量の魚であった。
この時の陳は、釣竿を垂らしていたこの場所がまさか、あの大地震の震源地の目と鼻の先だとは、夢にも思っていなかった…

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