鹿男あをによし
ストーリー
《7/7》

下宿で一睡もできないまま夜が明けたころ、小川は昨日、せんべいを食べた奈良公園へやってくる。しばらくぼんやりしていると、なんとなく視線を感じ、その方向を見てみると、小川の目線の先に二頭のオス鹿が立っている。二頭は向かいあうと同じペースで近づきはじめる。さらに、二頭の間にメスの鹿がいて、小川のほうへ近づいてくる。三頭が歩くさまは、まるで女主人と侍従のよう。その動きに小川が目を奪われるうち、メス鹿は小川の眼前にまで迫ってくる。すると、鹿は「びい」と一声鳴いたあと、唐突に言葉を発した。

「鹿せんべい、そんなにうまいか」

人間の、しかも、男の声でそう言ったのだ。驚愕する小川に鹿は、

「さぁ、神無月だ。出番だよ、先生」

とさらに言葉をかける。あり得ない事態に小川は、自分はついに神経衰弱になってしまったと思い…。

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