番外編:それからしばらく経った2月末のある日
朝から一点の曇りもない透き通るような光に包まれた青空。僕は成田空港にいた。A子のロンドン行きを見送るためだ。彼女の乗るANA NH201便はすでに第1ターミナルに到着していた。すこし恨めしい視線を投げかけた瞬間、僕の携帯が奏でた。
「もしもし?」
A子だ。
「もしもし。もう着いてる?」
「着いてるよ。今スタバに着いたところ」
「ごめんね。準備が遅れちゃって。今空港に着いたから」
「わかった。待ってるよ」
A子が息をはずませながらスタバに姿を現したのはそれから5分後だった。あと1時間でA子は日本を離れてしまう。A子から留学の話を聞いて以来、僕は何度もイメージトレーニングを積み重ねた。落ち着いて見送る訓練をしたのだ。
「ごめんね。準備出来てたつもりだったけど、今日になってバタバタしちゃって」
「いいよ。今日は見送ることが一番の目的だから」
「何飲んでるの?」
「カフェモカのショートだよ」
「じゃあ私も同じの買ってこよ」
「いいよ、買ってくるよ」
「ありがとう〜」
ロンドンまで12時間半かかるだとか、両親を説得したとか、友達におみやげを頼まれたとか、どうでもいいような話題で、貴重な時間はあっという間に過ぎてしまった。
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