「・・・そろそろいかなきゃ」
「もうそんな時間?」
「うん。搭乗手続きとか手荷物検査とかあるし」
「・・・そうだね」

気分は海の底に沈んだ錨のように重かったけれど、A子の足取りに合わせて第1ターミナルまで向かった。

「今日はありがとう。わざわざ来てくれて」
「お礼なんて・・・来たかったから来たんだよ。向こうに着いたら連絡してよ」
「わかった。すぐ連絡する」
「待ってる」
「うん。必ずする」
「じゃあね、バイバイ!」
「バイバイ・・・」

振り回したシャンパンのように溢れ出る気持ちをひび割れたコルクの栓で押さえつけながら、A子がゲートをくぐったあともしばらその場にたたずんでいた。

午前11時35分。定刻通りに、A子を乗せたNH201便は遥かなるロンドンの空へと飛び立った。次にA子と会える日を頭の片隅で思い描きながら、僕は空港を出た。

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