#100 スタッフからのメッセージ
■今回取材に訪れたナンチュアは、リヨンから車で東に向かうこと約1時間、周囲を小高い山に囲まれたナンチュア湖の畔にある小さな町。山から見下ろすと、そこには、快晴の青空を映し出した清らかな湖、その湖を囲む山の緑、更には静かな町から子供達が遊ぶ声が聞こえ、町並みから突き出した教会の塔から時折鐘の音が鳴り響き、まさに「絶景」という言葉が相応しい、そんな景色が広がっています。そして、このナンチュアで昔から作られていた料理。それが、16世紀、ルイ11世がこの地で食べ、後にルイ14世がベルサイユ宮殿のパーティでも食べたという記録が残る「クネル」だったのです。
リヨンなどの都会に行けば、今でこそ、川魚だけではなく鶏や子牛の肉をすり身にして作った「クネル」が食べられるようになっていますが、そもそも「クネル」とは、山間の川や湖など冷たい水の中に棲むBrochet(カワカマス)の身をすり潰して作ったものでした。
当時の人は、身が締まり脂の乗ったカワカマスは美味しいけれども小骨が多くて食べづらい。それならこの魚の身をすり潰し、ミンチ状にすれば食べやすいのではと考え、色々と工夫した結果生まれたのが「クネル」だったというのです。ですから、クネル工場の社長をはじめナンチュアの人達が口にするのは「カワカマスのすり身を使っていなければナンチュアのクネルとは言わない」という一言。今も、昔ながらの伝統を受け継ぎ、頑固一徹、正統派のクネルを作る事で、リヨンなどで作られている新しい都会派のクネルと対抗しているのが、この町の人達だったのです。
それからもうひとつ、今回はシーズンオフで詳しくは紹介できなかったナンチュア風クネルの秘密があります。それは、このナンチュア湖周辺の川で捕れる「アスタキュス」という名のザリガニです。ザリガニというと日本では、昔、田んぼや川にいたアメリカザリガニを連想する人が多いと思いますが、このザリガニは、ヨーロッパでよく食べられている手長エビのようなもの。その「アスタキュス」のミソを煮詰め、そこにすり潰した身を入れて作るザリガニソースは、ここナンチュアでクネルを食べる時にはなくてはならない必要不可欠のもの。澄んだ水の中にしか棲めないアスタキュスは、やはり、ナンチュア周辺でしか手に入らない貴重な食材。クネル工場では、6月末以降、アスタキュスが捕れるシーズンになると、まとめてザリガニソースを作り、年中いつでも、クネルを食べる時にはこのソースで煮込めるようにしています。リヨンなどの都会では、レストランによってクネルをトマトソースで煮込んでいる所もあるようですが、どうせ食べるなら、伝統の味を受け継ぐザリガニソースで食べる方をお勧めします。料理名が「クネル・ド・ナンチュア」となっていれば、きっとザリガニソースで煮込んだクネルが出てくるはずですから…
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