#88 スタッフからのメッセージ
■今回取材したムーズ川は、フランスのアルデンヌ高原を水源とし、ベルギーを経由して、オランダのロッテルダム港で海に辿り着くという大きな川でした。その上流寄りにある沿岸の町は、夏になると釣り人でいっぱいになる事で有名な場所。毎年、稚魚が放流され、川の清流で育った獲物を狙ってやって来る釣り人は数多く、中には竿一本で魚を釣り上げるプロの漁師も存在するほど、この川には、たくさんの淡水魚が棲んでいるのです。しかし、今回取材した時期は、冬の真っ只中。一般的に、冬の寒い時期ほど魚に脂が乗っていて旨い、などと言いますが、果たして冬の寒空の下釣り人が現れるのか、魚が釣れるのか、そんな心配の中、それでも無事釣り上げるシーンを撮れる事を信じて撮影を始めたのが、今回の取材だったのです。
撮影の日。ようやく日が昇り、明るくなり始めた午前8時頃。毛皮の衣装に身を包み、まるで狩をする猟師のような格好をした漁師がムーズ川に姿を見せ、私達撮影班に向かっていきなり言った一言。それは「今日は釣れそうにないな…」というものでした。彼が、列をなして空を飛んでいく渡り鳥を見ながら言うには、「あの渡り鳥は1羽で800グラムもの餌(魚)を食べる。あいつらが、こうやって川の上を飛んでいくということは、もう餌を食べたということ。こんな日には、魚が釣れない」という事なのです。地元の漁師は、長年の経験と勘から、身体で天候を読み、その日の収穫を知る。この言葉に、我々撮影班は大きなショックを受けながら、それでも釣れることを信じ彼らの姿を追いかけました。そして、身体を堅くして寒さに耐えること数時間…スタッフの中に、早くも諦めかけた人間が出た頃に、見事釣り上がったのが番組で紹介している80センチ級の魚でした。これには、地元の漁師も大喜びで、嬉しさの余り歌まで歌ってしまうほど…しかも、その魚の思わぬ大もの振りに、釣りを見守っていただけの我々スタッフも、自分が釣り上げたかのように大喜びしてしまいました。恐らく、この嬉しさが癖になって、皆、釣りを辞められなくなるのでしょうね。
さて、料理の話ですが、白身の魚なので味は淡白でしたが臭みもなく、脂が乗っていて、エシャロットと白ワイン、生クリームで作ったソースと共に食べると、非常に良い味を出していました。しかし、食事中の彼らが話題にするのは、やはり料理の事よりも釣りの話。もちろん、皆料理に満足していたようですが、彼らにとって一番楽しいのは釣りの話題なのでしょう。それが、この日のように大きな獲物を釣り上げた日であれば、それが一番の「酒の肴」になるのは、世界中何処に行っても同じなのかもしれません。

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