FUJITV Inside Story〜フジテレビで働く人〜

蒲田 智恵

一貫した思いは
“日本の作品を
世界中に売りたい!”…
IPプロデュース部の
蒲田智恵さんに聞く――
中国での生活で学び身に付けたこと
海外で人気のフジテレビ作品
IPの海外展開の課題や方策とは?

Vol.23

蒲田 智恵 Chie Kamata

フジテレビで働く人の仕事への取り組みや思いをシリーズで描く『FUJITV Inside Story』。
第23弾はフジテレビのドラマやバラエティ番組などを海外に販売している、ビジネス推進局・IPプロデュース部の蒲田智恵さん。中国の大学を卒業した蒲田さんに、現地での“学び”を今の仕事にどう活かしているのか、日々の業務におけるこだわりや大切にしていること、海外で人気のフジテレビ作品、
これからの目標などを聞いた――。
(2024年06月13日掲載)

海外で需要の多い作品は…
初プロデュース、中国アニメ
『ミニ豆ちゃん』制作秘話
海外の展示会は
大きなビジネスチャンス!

まずIPプロデュース部とは、どんな業務を担当している部署なのでしょうか?
IPプロデュース部は大きく4つの班に分かれています。1つ目は「ビジネスデザイン班」といって、外部企業と一緒に新規ビジネスを作り出すチームです。2つ目は「IPコンテンツ班」でFODのコンテンツを制作しています。3つ目が「ビジネス開発班」。海外の企業と番組を共同制作したり、IPを一緒に開発しているチームです。先日も、インドの「テックマヒンドラ」というIT企業と戦略的パートナーシップを締結し、共同で番組を制作していくことなどを発表しました。そして4つ目が、私が所属している「グローバルビジネス班」です。主にフジテレビのIPを海外へ販売するチームで、フジテレビのドラマやバラエティ番組などを、海外の配信プラットフォームや放送局に販売しています。また、リメイク権やフォーマット権も売っていますね。
具体的に、日々、どんなお仕事をされているんですか?
例えば、フジテレビのある作品を購入したいというオファーが海外から届いた場合、まずはそもそもその作品を販売していいのか社内で確認します。次に権利関係の処理をして、それが問題なければ販売するという流れになります。なので、社内や権利者の方との確認作業に多くの時間を割いている印象ですね。確認をお願いする対象者は、局内ではプロデューサー、外部の方では演者さんや脚本家の方、原作があれば、原作者の方や出版社と多岐にわたるので、班のみんなで手分けして作業をしています。
蒲田 智恵
どんな作品が海外で人気なんですか?
日本のドラマの需要が一番多いのはアジア地域で、恋愛ドラマ、中でもラブコメの売れ行きがいいですね。例えば、90年代では『東京ラブストーリー』(1991年)や『ラブジェネレーション』(1997年)、あと2000年代では『プロポーズ大作戦』(2007年)や『リッチマン、プアウーマン』(2012年)、最近では日本でも大きな話題となった『silent』(2022年)や『君が心をくれたから』(2024年)など、昔の作品から最新作までまんべんなく人気がありますね。バラエティは、海外では日本のコントなどは、文化などの違いもあって、なかなか伝わりにくい面もあるみたいで、『料理の鉄人』や『逃走中』などの“ゲームショー”や、『有吉くんの正直さんぽ』や『有吉の夏休み(冬休み)』などの旅番組の引き合いが強い印象ですね。旅番組は日本の街並みを知ることができ、「訪れてみようかな」という動機付けにもつながりやすい作品ですので。
昔のドラマも人気があるんですね。
そうなんです。すでに販売している国や地域には、例えば3年とか、複数年の契約で権利をお渡ししていますが、毎回、更新をしていただけるぐらい人気・需要がありますね。
これまで携わった中で、特に印象に残っているお仕事は?
『ミニ豆ちゃん』という中国のショートアニメの日本語版制作を、プロデューサーとして任せていただいたことですね。地上波で放送され、現在、FODで配信中のこのアニメは、「人間に美味しく食べてもらう」ことを夢見ている主人公のミニ豆ちゃんが、他のデザートたちと出会い、仲良くなっていく“ゆるい感じの”ストーリーです。ただ、中国でしか伝わらないようなネタや若い人たちの間での流行り、そして方言などにも触れているので、「どう翻訳すれば日本の視聴者にわかりやすくお届けできるか」本当に頭を悩ませました。また、作品に関するリリース文を書いたり、この作品の製作委員会の方々と一緒に「どのように広報展開していくか」検討したり、さらにイベントの企画やlineスタンプの発売など、当時入社2年目だった私にとっては初めて取り組む仕事ばかりで試行錯誤の毎日でしたが、周りの方々のサポートもあって、何とか上手く軌道に乗せることができました。
©Making Animation Co., Ltd.

©Making Animation Co., Ltd.

例えば、元ネタに中国ならではのダジャレがあった場合、日本語に翻訳するのが難しい、というようなケースがあったんですか?
そうなんです。日本人にはなかなか伝わりにくい中国語の“言い回し”に関しては、製作委員会の方々と「どうすれば日本の視聴者に伝わるのか」いろいろと知恵を出し合い、時には「意味は変わるけど日本風の面白さにアレンジする」こともありました。そんな議論の際に私は、中国の大学を卒業していて「中国の流行りを理解している」との自負心・こだわりもあったので、「これはちょっと違うのでは?」などと、中国人のスタッフもいらっしゃる製作委員会の方々と、つい激論を交わしたこともありました(笑)。ただもちろん、みんなの思いや願いは「いい作品を作り上げる!」ことで一致していましたので、しっかりと意見を出し合って、最終的に誰もが納得する着地点を見いだしていった感じですね。
そうしたビジネスの進め方の面で、日本と中国の違いを感じたことはありますか?
日本人は自分の意見を“遠回し”に相手に伝える。一方、中国の方々は言いにくい内容でも、割とストレートに相手に伝えるという印象がありますね。もちろんどちらが「良い」「悪い」ということではなくて、日本人の対応は相手に嫌な思いをさせることが少ないでしょうし、中国の方々の対応は、簡潔でわかりやすく効率的ですよね。だからとにかく、そうした双方の“特性”をお互いに良く理解しあって、向き合っていくことが大切だと思っています。
蒲田 智恵
では、海外ではどんな作品に需要があると感じますか。
先ほどもちょっと触れましたが、やはり「恋愛モノ」特に「ラブコメ」は、海外の人も見やすいし、世界のどの配信プラットフォームも女性の視聴者が多い傾向があるので、この分野の作品は人気があって引き合いが強い印象ですね。また、最近よく耳にするのは「テンポが早い作品」ですね。話しがゆっくりと進んでいくよりも、次の話題にポンポンとテンポ良く展開していく作品の方が、より魅力を感じる視聴者が多いようです。あと「クライム・サスペンス系」だと、アジアより欧米からの需要が多いので、地域によっても求められる作風が違う印象です。
時代劇とか、いわゆる“日本らしい”作品の需要はどうですか?
アジア、特に親日的と言われる国や地域で『大奥』は人気を集めていました。また昨年の『忍者に結婚は難しい』も高視聴率でしたし、あるプラットフォームの配信では、1位になったりしていました。忍者という日本っぽい、ポップな要素が含まれていたことや、普段の恋愛モノとはちょっと違う視点で作品が描かれていた点が評価されたのでは、と思っています。
世界各地での展示会への出展にも力を入れているとお聞きしました。
展示会では、海外の放送局や配信プラットフォーム会社がそれぞれブースを出展し、会場に足を運んでくださるバイヤーの方々に、最新作の紹介を含め自社の作品を売り込んで、商談を進めています。
趣向を凝らしたフジTVブースTIFFCOM(東京) / MIPCOM(仏・カンヌ)

趣向を凝らしたフジTVブース
写真左:TIFFCOM(東京)
写真右:MIPCOM(仏・カンヌ)

「売り上げUP」の使命を帯びた海外番販担当者としては、海外のバイヤーのみなさんに顔を売って関係を築く絶好の機会ですので、年に数回、各地で実施されるこのビジネスチャンスを最大限に活かすため、事前の準備から余念無く取り組んでいますね。特に力を入れているのが、東京での「TIFFCOM」とフランス・カンヌでの「MIPCOM」で、このうち昨年の「TIFFCOM」では、『逃走中』の番組内で実際に使用した「ハンターねぶた」を展示、またハンター二体がブース内で逃走者を探すように練り歩くイベントも実施しました。そうした試みに対しては、嬉しいことに「会場で一番華やかなブース」との評価もいただくことができました。これからも、バイヤーのみなさんの関心・興味をひきつけるようなブースを作り上げたいと思います!
蒲田 智恵

「日本と中国を繋ぐことをしたい」
との強い思い
堪能な中国語を活かし
ビジネスの一端にも触れ・・・
人との関わり…
最初の一歩を踏み出す勇気を!

では、蒲田さんの強みでもある中国での経験、学生時代について教えてください。
まず中国の大学に進学したきっかけですが、私の母が中国人で、自分も小さい頃から中国語を学んでいたので、中国には親しみを感じていました。そんな中、姉がまず中国の大学に進んだのですが、私がどの大学に進学するのか悩んでいた時に、姉から「中国行き」を勧められたんです。
お姉さんが中国の大学への進学を勧めた理由は?
私が大学生活を過ごした上海もそうですが、ご存じの通り中国には、数多くの日系企業が進出しています。で、そうした日系企業からは、インターンやアルバイトを依頼されることもあるのですが、現地の日本人学生の数は限られているので、姉が言うには、「日本ではなかなか経験できないような仕事にも、学生の頃から携わることができる」ということでした。私も「いろんな社会を早く知ることができたら・・・」と思い、中国の大学への進学を選びました。
どのような学生生活を送ったのですか?
「何か日本と中国を繋ぐことをしたい」という強い思いがありました。なので「友好学生団体」という日本と中国の学生が親睦を深める学生団体に入って、毎月一回、お互いの文化に親しむさまざまなイベントなどを企画しました。また、年に一度行われる「日中友好成人式」の開催に向けて、スポンサー集めの営業活動もしました。
「中国の伝統お菓子作り」や「マラソン」などさまざまなイベントを企画し参加!

「中国の伝統お菓子作り」や「マラソン」などさまざまなイベントを企画し参加!

大学3年生から「TikTok」(元musical.ly)の「日本チーム」に初のインターン生として入り、アプリの日本での事業開始に向けた仕事に携わりました。インターン生の意見も割と取り入れてくれて、「アプリの#(ハッシュタグ)チャレンジ」といった企画や広告のキャッチコピーの提案、話題動画のSNS発信などを担当しました。もちろん慣れないことも多く大変な面もありましたが、学生時代で一番思い入れがあり、やりがいを感じた仕事となりました。ほかにも、企業の日中通訳や翻訳業務、中国最大規模の“オタク”イベント「COMICUP」(2015年)では、通訳兼司会などの仕事にも携わり、学生ながら「いろんな社会に触れる」ことができました。
イベントでは司会役も / いろんなことを学んで、無事卒業!

写真左:イベントでは司会役も
写真右:いろんなことを学んで、無事卒業!

では、ホームシックや料理が口に合わないなどは、全くなかった感じですね。
ホームシックには全くかかりませんでした。小さい頃から母の手作りの中華料理に親しんでいましたし、年に一度は上海などに遊びに行っていたので、中国が“未知の世界”という感じではなかったですね。と言いますか、先ほどお話しした通り、授業、サークル活動、そしてインターンやアルバイトとしてのさまざま仕事と、ホントに忙しい日々を送っていた感じですね。
お話を伺っていると、蒲田さんはとてもコミュニケーション能力が高い印象ですが?
人と関わることは嫌いではないのですが、実はちょっとコミュニケーションをとるのが苦手な面もあって…と、多少、矛盾しているような感じなんです(笑)。もちろん、人と仲良くなることは大好きなので、“最初の一歩”は頑張って踏み出すようにしています。仕事に関しても、自分の強みである中国での経験や中国語が話せることなどのスキルを“できる限り頑張って”いろんな機会にアピールするように心がけています。そのおかげもあってか、現在、放送中のドラマ『ブルーモーメント』で、中国語の台詞の翻訳や発音の指導などにも携わらせていただき、とてもありがたく思っています。
蒲田 智恵

入社動機は
「テレビ局でコンテンツを売りたい」
欧米・南米など
世界中にフジの番組を!
これからも
大切にしたい言葉・思いとは…

では、どういった経緯でテレビ局を目指そうと思われたんですか?
大学一年生の頃、今から8年ほど前の話しですが、中国の人たちは、私が思っていた以上に日本のコンテンツを見ていたんです。だからある友人に「どうやって日本の作品を見ているの?」って聞いてみたら、その人のその時の答えは「海賊版のサイトで見てる」というものでした。その時、「日本のビジネスとして、もったいないなぁー」と感じたのが、テレビ局を目指した最初のきっかけです。「中国の人たちに日本の素晴らしい作品を、別の形で楽しんでもらえたら」と思って、日本に戻ったら「テレビ局に入社して、私がコンテンツを売る!」って心に誓いました。
蒲田 智恵
では「番組を作りたい」というよりは、「日本の作品を海外に売りたい」という思いで、テレビ局を志望したんですね。
同期のみんなも、ドラマやバラエティなどの番組を作りたいとか、報道記者になりたいっていう人がほとんどだったので、確かに珍しい志望理由だったと思います。採用面接でも「それ一本!」で通しましたが、運良く入社できたことを考えると、自分の熱意を伝えやすかった面もあったのかもしれません(笑)。
では実際に希望の部署に入られた印象はどうですか?
「思っている以上に難しい」…という印象ですね。私が学生時代に過ごしたのはアジアの中国で、日本のドラマの需要はかなりあると感じていたので、「日本のドラマもきっと売れる」って思いが正直ありました。確かにアジアでは売れ行きは良かったのですが、世界全体で見ると、アメリカやヨーロッパ圏では、日本のドラマはまだあまり普及していない状況があって・・・。「どのように世界中にもっと売りこんでいくのか」という点は、現在の「グローバルビジネス班」が取り組むべき大きな課題であると考えています。
蒲田 智恵
日頃から、日本のドラマなどを「海外へ売り込めるか?」という視点で見ていたりするんですか?
そうですね。キャスティングも「海外で人気のあるキャストさんなのか」、ストーリーも「海外で受けそうか?」という「ものさし」で、ドラマを見てしまいますね。例えばストーリーに関しては、内容があまりにも悲しすぎたり、日本的な要素が強すぎる作品は、素晴らしい作品ではあるのですが、海外に販売するという観点からすると、ちょっと難しい面もあったりします。海外で売れるには「日本に関する知識があまりなくても理解できる“わかりやすい”作品」が求められたりする面もあるんです。作品があまりにも“コアな日本”になりすぎてしまうと、コアなファンにしか見ていただけないので(もちろんそれもとてもありがたいのですが)、そうした点も気に留めるようしていますね。
以前と比べて日本だけでなく海外に目を向けた作品も増えていると思うのですが・・・
フジテレビの作品では、最初から海外市場に向けてドラマなどを制作する動きは、「これから・・・」なのかもしれません。ただ、現在、実際にドラマを手掛けているプロデューサーのみなさんなどに、例えば番組でどんな楽曲を使用した方が海外番販に適しているのか、二次利用に関する権利関係やそれに伴う費用面の観点から具体的な事例も示しながら、いろんな意見をフィードバックしています。制作側のみなさんも理解を示して、とても協力的に対応してもらっているので、ありがたく思っています。
上海メディアグールプ(SMG)にて

上海メディアグールプ(SMG)にて

では最後に今後の目標を教えてください。
「グローバルビジネス班」としての目標は、先ほども申しましたが、やはり「もっと世界中にフジテレビの番組を売っていきたい」ということですね。アジアではある程度需要があり、売り上げも見込めますが、ヨーロッパ圏や中東、南米など、まだ開拓できていない地域について、まずは足場を築いて、徐々に進出していくことが一番の目標です。
そのためにもまずは、“起爆剤”となるような番組が、日本、そしてフジテレビから生まれることに期待しています。そうした番組がきっかけとなって、日本のアニメが世界中で人気を博しているように、連鎖的に番組販売の輪が広がり、更なるステップに繋がっていくのでは、と思っています。

また、個人的な目標としては、入社当初からの一貫した思いなのですが、「中国に関する仕事は、ずっと続けていきたい」と思っています。是非、中国企業と一緒に番組を共同開発したり、新たなビジネスを展開していくことを目指したいと思っています。

私の好きな言葉は「只有足够努力才配得上自己的野心」、
日本語に訳すと「自分の野望を叶えるにはそれに値する努力をしなさい」です。

この言葉を胸に、これからも日々の努力を怠ることなく、歩を進めたいと思っています。
ビジネスデザイン班・熊本

ビジネスデザイン班・熊本

仕事仲間からひとこと
蒲田さんは、素直で裏表のないキャラクターと気配りができるところ、 また決して強く自己主張するタイプではないけれど仕事はしっかりやるところが魅力です。
中堅が多かったこの班に久しぶりに来た若手として、番販、ミニ豆ちゃん、社内調整、 クライアントとの人間関係構築など、一生懸命、丁寧に仕事している姿が印象的です。
また、チームで唯一中国語ができる貴重な存在としても活躍していて、言語+海外生活で培った文化や慣習への理解は世界中のクライアントと距離を縮める上で活きていると思います。
会社として放送外収入への期待が益々高まっていますので、ふんわりした雰囲気の奥に秘めた野望をかなえるべく(笑)、さらなる活躍を期待しています!

IPプロデュース部 秋元 優里

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