FUJITV Inside Story〜フジテレビで働く人〜

岩切 理子

「多くの人に『感動』を届けたい!」
若手VE岩切理子さんに聞く――
仕事をより楽しむ「秘訣」
トラブル対応に向けた「努力」
大切にしている「言葉」とは?

Vol.22

岩切 理子 Riko Iwakiri

フジテレビで働く人の仕事への取り組みや思いをシリーズで描く『FUJITV Inside Story』。
第22弾は、技術局・制作技術統括部に所属するVE(ビデオエンジニア)として、スポーツ中継やバラエティ・音楽番組など、数多くの番組やイベントに携わっている入社4年目の岩切理子さん。
「一人前のVE」を目指している岩切さんに、仕事のやりがいや苦労していること、仕事をより楽しむための「秘訣」、トラブル対処能力を磨く「方策」、今後の目標などを聞いた――。
(2024年06月06日掲載)

VEは多くの人に
“喜んでもらえる”仕事
技術担当を総動員・・・
「駅伝中継」は「システム祭り!」
敢えて“トラブル経験”を積んで、
対処能力を磨く

制作技術統括部に配属されて、現在、4年目と伺いました。どれ位の人数で、どんな仕事を手掛けているのですか?
制作技術統括部には、TP(テクニカルプロデューサー)/TD(テクニカルディレクター)、カメラ/SW(スイッチャー)、VE、音声、照明の主に5つの職種があり、私は入社以来VEを担当して現在4年目になります。VEはフジテレビ社員で10名程度、日々共に業務を行っている関連会社のフジ・メディア・テクノロジーのVEを合わせると、30名程度のメンバーがいます。そのうち女性は私を含めて3名で、その中で私が一番の年長者です!
主な業務は、担当する番組によって多少の違いはありますが、まずは事前に、収録に必要な機材を選定し、効率よく安全に番組制作するための技術システムのプランニングを行います。本番当日は、さまざまな機材を準備して、プラン通りセッティングを行います。大量なケーブルの接続や、機器の細かいパラメータの設定をして、システムが完成します。収録中は、カメラ映像の色や明るさを適正に整えるといった映像調整を行いながら、番組が正常に収録されているかも監視しています。
岩切 理子
VEとして、これまでどんな番組に携わってきたのですか?
バラエティ番組では『FNS27時間テレビ』や『VS魂』、音楽番組では『FNS歌謡祭』や『LOVE MUSIC』、あと音楽フェスなど、これまで本当に色々な番組やイベントに携わってきました。更に、ゴルフ、駅伝、バレーボール、野球など、さまざまスポーツ中継を、全国各地を飛び回りながら担当しています。
全国各地を飛び回っています!

全国各地を飛び回っています!

特に印象に残っている番組や取り組みはありますか?
どの番組制作も楽しいですが、『FNS歌謡祭』は印象深いですね。リハーサルの際、VEチーム皆で、アーティストごとに明るさや色の調整をして映像の雰囲気を変えたり、モノクロや残像表現の加工を施したりして、「かっこよく見せる」工夫をいろいろと試していたところ、ディレクターから「いいね」と、その映像効果を急遽採用してもらいました。本番終了後、「X」の投稿で、「めちゃめちゃカッコいい!」や「ありがとうフジテレビ!」など、数多くの視聴者の方々から反応をいただき、自分が携わっている仕事は、「多くの方々に喜んでいただけるんだ」と感動しましたし、とても影響力のある仕事なんだと実感できました。
「駅伝中継」も大変そうですよね。
そうですね。「駅伝中継」は私たち技術担当者にとっては「システム祭り!」のイベントです(笑)。マラソン中継車やバイクから走っている選手を撮影し、その映像を山の上や施設の屋上などの中継拠点に電波で飛ばします。そこを経由して、拠点となる中継車に信号を集約し「プログラム」を作ってフジテレビ本社に届けます。最終的に放送波として各ご家庭に送られるという「信号のバトンリレー」が行われています。
岩切 理子
駅伝中継は、機材量も大型トラック4~5台分と膨大で、スタッフもフジテレビ以外のFNS系列局技術者の協力も得ながら、1つの「プログラム」を作っています。私は、昨年初めて1つの中継拠点のTD(テクニカルディレクター:技術責任者)を担当しました。信号が通過する中継拠点で、ここでミスが生じれば、その先にバトンを繋ぐことはできず、放送事故になってしまいます。責任を強く感じる仕事でしたが、トラブルなく選手達の奮闘する映像を無事に届けられることができた時は、「役割を果たすことができた・・・」と本当にホッとした気持ちになりました。限られた時間の中で、協力いただいたFNS系列局技術者と共にチーム一丸となって、ゼロから中継システムを作り上げて安全に放送するという今回の「ミッション」において、責任あるポジションを任せてもらえたことも、とてもありがたく思いました。
岩切 理子
「ゴルフ中継」にも携わっていますよね?
はい。フジテレビが制作するゴルフ中継番組全てに携わっています。
ゴルフ中継の業務で特に大変なのは、現場で機器を設置したり、中継システム構築を行う「セッティング」です。まずは、カメラやアンテナ装置などの機器を高いイントレ(足場)タワーの上に設置する必要があり、ロープで引っ張り上げる作業など体力を使います。
また、ワイヤレスカメラの映像がどこまで届くかの確認をしたり、ドローンをどこまで飛ばして、どこで映像を送受信するかといったシステムを考えたり・・・。
セッティング作業も余念無く!

セッティング作業も余念無く!

あと、生放送の本番中で大変なのは、カメラマンの「球追い」ですね。選手がショットを打った瞬間に、カメラマンが素早くその飛球を空中で追いかけて撮影することは、カメラマンの技量も必要なのですが、実はカメラマンとVEの協力が必要なんです。ボールが飛んだ瞬間に、VEがうまく画面の明るさを調整しないと、明るすぎた場合、背景の空にボールがとけこんでしまい、カメラマンがボールを追えなくなってしまいます。ボールの出だしのタイミングでカメラマンと息を合わせて、明るさの調整をすることが大事なんです。また、ゴルフ中継では、プレーだけでなく綺麗な景色も見せたい要素です。海が綺麗な海岸沿いのゴルフ場などは、自分が現場で見たイメージを伝えたい一心でカメラの色調整を行い、映像表現にも力を入れています。
カメラマンとの連携・協力も大切です。

カメラマンとの連携・協力も大切です。

さまざまな番組を担当するのは楽しいし刺激もあると思いますが、大変な面もあるのでは?
とにかく、技術的に覚えることが多いです。機材の取り扱い方法、システム理解、パラメータ理解、作業順序など。番組によってもそれぞれ異なるため、覚えることが山のようにあります。また、日々技術は進化していて次から次に新しく覚えなければならないことが増え、大変ではあるのですが、日々新しい発見があり刺激もあります。
番組別にいうと、「中継番組」は現場でのシステム構築がメインである一方、ある程度システムが組み上がっている社内スタジオで収録する「音楽番組」などでは、システム構築よりも映像表現の細部にこだわることに重点を置くなど、番組によって必要とされる対応が異なります。だからこそ、番組ごとの演出意図をしっかりと理解し、内容を掴むことがとても大切だと思っています。またVEは、カメラ・音声・照明といった他の技術担当や、制作、美術スタッフと協力して作業を進めるので、互いに緊密に連携を図っていくことが大事だと感じています。
安全対策にも細心の注意を払っています。

安全対策にも細心の注意を払っています。

失敗やトラブったこともあったりします?
大阪で行われた音楽フェスに、ワイヤレスカメラの送受信機材の担当として、入社2年目に初めて一人で出張に行かせてもらいました。機材の設定手順などはもちろん事前に確認して臨んだのですが、本番中に機材トラブルが発生!「何がどう壊れたのか」「壊れたのではなく何か私の設定が間違っていたのか」「復旧するにはどうすればいいのか」などと、さまざまな対応策を考え、対処しましたが、復旧できませんでした。その時、現場に居合わせた関西テレビの技術担当者に、「とりあえず機材が熱いのは良くないから、一旦、冷してみましょう」とアドバイスをいただき、急ぎ近くにあった氷で機材を冷やしてみたところ、「あれっ、エラーサインが消えた」って・・・・。単に機材が熱くなりすぎたことが原因でした。しっかりと準備したつもりでも、トラブルは予期せず発生するので、あらゆる可能性を想定して、冷静かつ柔軟に対応することの大切さを、身を持って学ぶことができました。
岩切 理子
この件のように、普段は上手く運用できていても、機材というものはある時突然、エラーが発生したりして、トラブルを起こします。そうした際に、迅速にしっかりと対応できるかが、VEとしての一番の腕の見せ所だと思っています。だから今では、何かトラブルが起こった際には、自分がその仕事に直接関わっていない場合でもできるだけ首を突っ込んで、状況を聞きに行ったり、メーカーの方にお話を聞いたりするようにして、できるだけ多くの“トラブル経験を積む”ことにしています。
岩切 理子

「好きになって仕事に活かす」・・・
ゴルフにドはまり中!
「明確に理由付けできる人」が
VE向き?!
上司や先輩からいただいた
「大切な言葉」とは?

では、仕事に臨むにあたって何か心がけていることはありますか?
番組制作システムを理解する上で、幾つかのアプローチがあるのですが、先輩が設計したシステムであっても、なぜ今回はこのシステムにしたのかを一旦、自分自身で考え直し、その上でわからない点を質問したり、自分であればどう構築するかを考えるよう心がけています。
また、時間を大切にしています。特に中継対応の場合は、朝も陽が登る前から始動したりする時もあるのですが、チームワークが大切な現場なので、みんな時間厳守を徹底しています。そのような中で私は、集合時間前の時間は、朝早くても十分余裕を持って行動しています。化粧もゆっくり、紅茶を飲みながら一息できるくらい余裕ある朝の行動を取って仕事に臨むように心がけています。どちらか一つを、という場合は、迷わず紅茶を優先しています(笑)。あと、常に「効率を重視」していますね。
「効率を重視」とは具体的には?
私はどちらかというと、元々、効率良く行動するタイプではないと自分自身では思っているのですが、制作技術統括部に所属してからは、一つ一つの細かいところに効率が求められているなと感じることが少なからずあります。機材をトラックに積む場合一つとっても、大きいものを下に、小さいものを上にして何となく“綺麗に”積むのではなく、実際にその機材を使う場所などを考慮した順番で積んだ方が、現場でより効率良く作業を進めることができます。また、機材をどこに設置すれば効率よくスペースを確保できるかなど、各現場にはいろいろな先輩方の効率を追求した工夫が、至る所に散りばめられています。そうしたことを自分も汲み取れるように、さらに新たな工夫を追加できないかを考えながら、日々の業務にあたっています。
仕事仲間と“フュージョン”して、パワーアップ!

仕事仲間と“フュージョン”して、パワーアップ!

携わっている番組の内容に、「興味を持つ」ことも大切ですよね?
スポーツ番組に携わるのなら、実際に自分もそのスポーツをやってみる。音楽番組を担当するなら、実際にそのアーティストの曲をいくつも聞いて、ミュージックビデオや他局の歌番組の映像も見てみる。そうやって自ら体験することで、その対象を深く理解することができ、更に興味を持つようになり、好きになる。その結果、適した映像表現にもつながると思っています。仕事も一層楽しくなります。ちなみに今、ゴルフに「どハマリ」していますが、それもせっかくゴルフ中継の担当に就かせてもらったので、「自分もやって、ゴルフを知ろう!」との思いからです。最初は、「+2」とか「△」などの表記も、「一体、何?」って感じで、ルールも全く理解していませんでした。でも、ルールを勉強して、自分自身もプレーするようになると、視聴者のみなさんが何を見たいのかある程度わかってきて、VEとしてどの映像に優先して対応した方がいいのかなど、徐々に自分の仕事に活かすことができるようになりました。
岩切 理子
では、VEにはどんな人が向いていると感じていますか?
私の印象では、VEさんって「気が付くタイプ」の方が多いと思います。
仕事柄、「理論派」かつ「細かい」方が多いイメージです。「なぜこうしたのか?」との問いに対して、「明確に理由付けできる」方がほとんどで、「なんとなく・・・」っていう人はあまりいない感じですね。
岩切さん自身も、そういうタイプ?
いえいえ、だいぶ合わせられるような性格にはなりましたが、元々は根っからの「なんとなく」側の人間ですので、この3~4年間で、なんとか育ててもらいました(笑)。
大切にしている上司や先輩からのアドバイスや言葉はありますか?
私は特に、生放送の本番中に緊張してしまうんです。「もしミスしたらどうしよう」「怒られないかな」って。そんな時、上司から「誰でも緊張するんだよ」「緊張しないことに慣れたら、それはもうVEとして終わりだから」「その緊張感は大事に持ち続けなさい」などと、声を掛けてもらいました。その言葉を聞いて「緊張してもいいんだ」「私だけじゃない、みんなそうなんだ」って、すごくホッとしました。そして、もちろん今でも、そのありがたいアドバイスを大切にしています。
岩切 理子

憧れた「諸々の職業」の
きっかけは「テレビ」
同期の頑張りに、
OA中、思わず涙が・・・!
「笑顔、個性、気持ち」の言葉を胸に
「『感動』を届けたい!」

では、学生時代についてお伺いします。てっきり「電気系」の学科で学んだと思っていました・・・
そうなんです。テレビ局の技術者になったので、情報系や物理、電気系を学んでいたと思われがちですが、専攻は「化学」なんです。レポートはなぜか手書きで、パソコンもほぼ使わず、扱っていたのは試薬とガラス製の実験器具でした。
毎週のように、実験とレポートに追われる日々を送っていたため、週1ペースで徹夜をしていた気がします。ちなみに徹夜の際のお供は「FOD」や「U-NEXT」、「hulu」などで配信されていたドラマでした。
ドラマ好きだったのでテレビ局を志望したのですか?
私は元々、科学警察研究所(科警研)や科学捜査研究所(科捜研)を舞台としたドラマが大好きだったんです。大学で「応用化学」を学んだこともあって、警察で鑑識の仕事をしたいと思っていました。
これまで「やってみたい」と思ったり「憧れ」た職業は、弁護士や医者など色々あるのですが、全てテレビを見てそう思った記憶があり、きっかけをくれたのは「全てテレビ」でした。だから、自然とテレビの仕事に関心が向いていった気がします。
岩切 理子
大学ではテニスサークルに所属していたようですね?
テニスサークルと言っても体育会に近く、1限前の朝練、平日の夜練、土日練など、シーズンが始まるとテニス三昧でした。一方で、所属していた学科では、日々、試験や実験、レポートに追われていて、寝る間を惜しんでサークルと勉強の二つを両立していた記憶があります。
岩切 理子
ドラマ好きということですが、最近、どんな番組を見ていますか?
やはり、元気かつ熱心に仕事に励んでいる女性の活躍ぶりを描いたドラマを見ちゃいますね。「私も頑張ろう!」って、元気をもらえますので。
昨年の『27時間テレビ』で、個人的な“ハプニング”があったようですが・・・
昨年の『FNS27時間テレビ』で生放送中、私はスタジオのVEを担当していたのですが、同期入社の山本賢太(やまけん)アナウンサーが、100㎞マラソンのゴール直前、足がもつれそうになりながらも、最後の気力・体力を振り絞って走っている中継映像が入ってきました。そのシーンを目にした瞬間、同期のアナウンサーが奮闘している姿に胸を打たれて、涙があふれ出てしまいそうになりました。仕事に集中するべく涙をこらえていたのですが、涙がこぼれ落ちてしまい、周囲のスタッフにも気づかれてしまいました。番組に集中するあまりに感情移入してしまったハプニングでした。泣き虫であることも知られてしまいました(笑)。
岩切 理子
では、最後にこれからの目標をお聞かせ下さい。
私は、「笑顔、個性、気持ち」、この3つの連続させた言葉が、リズム感も含めて好きです。
常に笑顔を忘れず、自分の個性を大切にして、強い気持ちを持って物事に向かえば、どんなに困難な状況でも乗り切れると信じています。
制作技術の仕事は、「ザ!現場!!」の仕事がたくさんあって、さまざまな感動の現場に立ち会うことができます。青春に対する感動、動物の命に対する感動、努力に対する感動、アイドルに対する感動、誰かの熱い思いに対する感動・・・。そんな「感動」を間近で体験できて、世の中のたくさんの方々にその「感動」を伝えることができるこの仕事を、私は誇らしく感じています。そしてこれからも、一人でも多くの方にさまざまな「感動」をお届けし味わっていただけるよう、日々、努力を積み重ねていきたいと思っています。
いつの日か、一人前のVEに成長できることを願いながら・・・
岩切 理子
仕事仲間からひとこと
岩切さんは入社4年目の若手VEとして、まさに現場を走り回っています。数か月前には富士市役所ビルの屋上で駅伝中継の電波を受信していたと思ったら、ある日はスタジオ収録番組「しおこうじ」でVEチーフを務めたり、また、来週には神戸のゴルフ場でヘルメットを被って高いイントレ(足場)に登っていそうな予感、、、という大活躍です。忙しいはずですが、いつも元気いっぱいで本当にびっくりするくらい楽しそうです。しかしながら、岩切さんの担当するVE業務は番組制作を支える大切な役割を担うため、常に緊張感も漂い、映像や機材の高度で幅広い知識が必要です。一人前の技術力をつけるには長い時間と多くのシビアな経験も必要です。そんな中でも岩切さんは持ち前の粘り強さで日々努力してきたこともあり、最近急激に力をつけたような印象があります。目つきが変わりました(良い意味です!)。時には辛い事もある番組制作の現場ですが、岩切さんは誰とでも前向きなコミュニケーションを取れるムードメーカーです。それがチーム力となって番組制作クオリティの向上につながっています。その一方で、自分のミスがあったときなどは、一人でこっそりと悔し涙を流しているのを見たこともあります(また涙話ですみません)。技術として冷静に機材に向き合うだけでなく、仲間との番組作りにとにかく「熱い想い」をもって取り組み、底抜けに明るく元気に努力する姿を見ると、私も技術の先輩として嬉しく感じます。さらなる活躍を期待しています!

制作技術統括部 真崎晋哉

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