FUJITV Inside Story〜フジテレビで働く人〜

中尾 歩

「モネ 連作の情景」の
中尾 歩プロデューサーに聞く―
イベントプロデューサーの
仕事・醍醐味とは?
新しい切り口で展開される
モネ展の魅力

Vol.09

中尾 歩Ayumi Nakao

フジテレビで働く人の仕事への取り組みや思いをシリーズで描く『FUJITV Inside Story』。
第9弾は、10月20日から「上野の森美術館」で開催されるクロード・モネの展覧会「モネ 連作の情景」を手掛ける事業部の中尾歩プロデューサー。イベントプロデューサーとしてのこれまでの歩みや拘り、また今回のモネ展の魅力をたっぷり聞いた――。
(2023年10月19日掲載)

“全てを見る!”
イベントプロデューサーの仕事とは?
休みの日の展覧会鑑賞は
「半分偵察で半分趣味」

まず、中尾さんはこれまでどのようなイベントを担当してきましたか?
この10年ほど事業局でイベントの仕事に携わっていますが、前半は舞台やミュージカル、バレエの公演などいわゆる「ステージもの」と展覧会を担当していました。この数年はもっぱら展覧会の仕事メインで、「フェルメール展」(2018年・2022年)「バスキア展」(2019年)「KAWS TOKYO FIRST」などを手掛けました。
ここ数年担当されている「展覧会」は、具体的にどのような流れで作業を進めているのですか?
ジャンルや規模によって多少の違いはありますが、まずは企画の立案です。展覧会だと2~3年、長いものだと5年ほど前に「こういう展覧会をやりましょう」と始まります。展覧会もそうですが、イベントは複数の会社で共同事業として取り組む形が多く、作品の借用先との契約や展示会場の確保などを行いながら、タッグを組む会社と上手く役割を分担して、ビジネスとしても成立するように組み立てていきます。具体的な作業に入るのは、イベントが開催されるおよそ1年半~1年くらい前からです。
中尾 歩
では、そうした作業の流れの中で、プロデューサーとして具体的にどのようなお仕事に携わっているのですか?
企画内容にもよりますが、まずはプロモーションです。やはりテレビ局の「強みを活かせる」プロモーションは、プロデューサーとして大きな仕事の一つと認識していますし、力を入れています。タッグを組んでいる他の会社からも「期待されている」分野でもありますし。サポーターをキャスティングして番組で発信していくのはもちろん、最近では、SNSや交通広告など複数の媒体を利用して、幅広いプロモーション計画を立てています。
その全体像を俯瞰し、どのタイミングでどれだけの期間、何にどのように予算を配分するかPR戦略をまとめ上げるのがプロデューサーとしての大きな役割です。また、予算管理も重要な担務ですが、“とにかく全てを俯瞰でも主観でも見る”ということが一番大きい役割かなと思いますね。たとえば、展示室のデザインや作品の運搬などは我々が直接手を動かせるわけではなく、それぞれの分野のプロの方とご一緒しますが、それらに関わることの全てに携わります。ドラマ制作で言えば、プロデューサー業も担当しつつ、宣伝物や展示の見せ方などについて、デザイナーさんと一緒にディレクションもしていく感じです。
《昼食》

《昼食》1868-69年 油彩、カンヴァス 231.5×151.5cm
シュテーデル美術館
© Städel Museum, Frankfurt am Main

これまで手掛けたイベントで特に印象深い取り組みは?
2018年に携わった「ミラクル エッシャー展」でPR用のチラシを作成する際、あるデザイナーさんたちとお仕事できたことが強く印象に残っています。エッシャーは不思議な作風の版画家なので、その不思議さを魅力的に表現してくださるのは…と考えた時にご一緒したいと思ったのがそのデザイナーさんだったんです。本の装丁を多く手掛けていらっしゃる方で、エッシャーの作品の特性を連想できる「回転しながらでないと読めないチラシ」など、私たちでは想像もつかないようなデザインに仕上げていただきました。いろいろとお話をしながら制作物を作れたことはとっても楽しい体験でした。
「ミラクル エッシャー展」
逆にイベントプロデューサーとして大変だと感じたことは何かありますか?
大変なことはありすぎて、全ては振り返れないのですが・・・(笑)。
「想像しながら作業を進めることの難しさ」でしょうか。あるイベントを実施する時には、どれくらいのお客さまに来場していただけるのか、どの年齢層の方に興味を持っていただけるか、過去の例も参考にしながら、自分たちで可能な限り分析してプロモーション活動などに反映させていきます。ただ、結果は「水物」の面もありますので、想定していたより若い層の反応が良かった、あるいは悪かったなど予測しきれないことがあります。だからこそ、データだけでなく「これまで培ってきた経験や勘みたいなもの」も活かしながら、ポイントポイントで判断せざるを得ないところは「難しくて大変だな」と感じています。
ちなみに中尾プロデューサーは美術を専攻していたり、絵にかなり造詣が深かったりするのですか?
元々、展覧会や音楽、演劇、そしてドラマなどの「エンタメ」全般が好きでしたが、意識して展覧会を見に行くようになったのは現在のように仕事で関係するようになってからかもしれません。実際に会場に足を運ぶことで、どのような方が来場されていて、どのような反応を示されているのか、わかる面もありますので。休みの日に美術館を訪れても「半分偵察・半分趣味」みたいな感じになっています(笑)。また学生の頃、特に美術を専攻していた訳ではありませんが、現在は展覧会の監修の先生にお話を伺ったり、関連する書籍や記事を読んだり、画家に関する映画があれば見たり、と「こういうところがこの画家や作品の魅力です!」と語れるように知識を深めることを心掛けています。そうした「蓄積」は、「このイベント企画を是非、やらせて下さい!紹介して下さい!」と提案する時の“はったり”にも、結構、役に立っているかもしれません!(笑)。
中尾 歩
では、テレビ局がイベントを開催する意義・強みはどこにあると思いますか?
先ほどもお話ししましたが、やはりテレビ局の強みはプロモーション。誰もが能動的ではなく自然に情報に触れられるものですし、ターゲットを絞ることなく、不特定多数の幅広い方々に知ってもらえるマスの部分はいまもなおテレビの強みだと思います。実際、会場で「番組で放送していたので見に来ました」というお客様の声を聞きますし、他の媒体とはまた違う反応がありますので、「こちらの想定を超える方々が来場してくれる可能性」を感じるんです。さらにフジテレビは地上波だけではなく、いろいろな分野にもビジネスを展開しています。そうした様々な部署とも連携できる状況は「テレビ局ならでは」「フジテレビならでは」と思っています。

積みわら“帽”に“パフェ”も…
新しい切り口の「モネ展」とは?
キャッチコピー「100%モネ」に
込められた意味

続いて、10月から開催される「モネ 連作の情景」についてお聞きします。今回、なぜ、モネなのでしょうか?
モネは作品数も多く、展覧会自体もこれまで数多く開催されていますが、2024年はモネが仲間の画家たちと初めて開催した「印象派展」から150年を迎える年で、こうした区切りの数字の年は、企画を立てることが多いタイミングです。また、今回のモネ展のように画家の名前を掲げた展覧会は企画内容を伝えやすく、モネが日本で人気の画家であることも大きな理由のひとつです。
さらに作品数が多いからこそ、新しい切り口で紹介できるのでは、と考えることができました。
《睡蓮》

《睡蓮》1897-98年頃 油彩、カンヴァス 66.0×104.1cm
ロサンゼルス・カウンティ美術館
Los Angeles County Museum of Art, Mrs. Fred Hathaway Bixby Bequest, M.62.8.13,
photo © Museum Associates/LACMA

その新しい切り口とは・・・?
作品数が多く様々な美術館が所蔵していて、世界中に散らばっているモネの作品を1箇所で見られることが一つの新しい切り口です。今回、60点ほどの作品が展示される予定ですが、1つの美術館からほぼ1~2点しかお借りしていないので、国内外合わせて40館以上から作品を集めています。それだけの数の美術館を自分で巡るのは、なかなか難しいですよね。でも上野に行けば一挙に見ることができます。また〈積みわら〉や〈睡蓮〉など、同じモチーフを違う季節や天候で描いた“連作”が、モネ作品の代名詞でもあるので、そこにもスポットを当てました。これまでのモネ展にはあまりなかった切り口だと思いますし、「モネ 連作の情景」という今回の展覧会の名前にも打ち出しています。
では“連作”でも別々の美術館にあったりするということですか。
例えば今回展示する〈ウォータールー橋〉という3点の作品のケースだと、2点は同じ美術館の所蔵ですが、1点は別の美術館が所蔵しています。そうした作品が一つの空間に集められるのは珍しいことで、今回の企画展ならではと思っています。
では、キャッチコピーの「100%モネ」には、どのような意味が込められているのですか?
「モネ展」といっても、モネに関連する他の画家たちの作品を併せて展示した展覧会も少なくないですし、一人の画家の作品だけを展示する展覧会も決して珍しくはありませんが、スペースを上手く活かして展示室をモネの作品だけで埋め尽くすという発想から、「100%モネ」というコピーが生まれました。
《積みわら、雪の効果》

《積みわら、雪の効果》
1891年 油彩、カンヴァス 65.0×92.0cm
スコットランド・ナショナル・ギャラリー
© National Galleries of Scotland. Bequest of Sir Alexander Maitland 1965

今回はグッズやタイアップ展開にも、相当力を入れているということですが?
〈積みわら〉を模したポーチや、積みわら“帽”とか(笑)、モチーフに遊び心を加えたグッズを展開していますし、色彩が鮮やかなモネの画風を意識した「モネ風グラデーション」のグッズも作っています。メニューのタイアップも実施していて、中でも私の一押しは、〈睡蓮〉と〈積みわら〉を模したパフェです。「アフタヌーンティー・ティールーム」さんとコラボしたメニューで、下の部分は〈睡蓮〉風、上の部分は〈積みわら〉風になっていて、とても面白いものを考案いただけたと思っています。他にも、〈積みわら〉をモチーフにしたカレーが作れないだろうかとか、担当者でアイデアを出し合ったり、作品そのものではない“周辺”の作業も楽しむことができました。
「モネ 連作の情景」展コラボレーション 渋皮栗と紅茶のパフェ

「モネ 連作の情景」展コラボレーション 渋皮栗と紅茶のパフェ
11/15まで

そうした取り組みはプロモーション全体にも大きな役割を果たしているのでは?
そうですね。もちろんテレビCMを放映する、広告を掲出する、といった“直球系”も大切ですが、「“周辺”を賑やかにすること」もとても大事だと思っています。 “周辺”が賑わうと、盛り上がっている雰囲気が出ていくんですよね。展覧会にそこまで興味を持っていない方が、コラボメニューの可愛いパフェを見て「こんな展覧会があるんだ!」と思って下さるようなちょっとしたアタックポイントを作ること、「ふとしたことで作品や画家に触れてもらう」ことで、「なんだか最近、賑わっているね!」といった雰囲気を作り出すことも目指すところです。「流行っているなら行ってみようかな」と考える方も一定数いらっしゃるのでは、と。もちろんコアなファンの方にも「モネ展」にいらして欲しいですが、「賑わっているから気になる、行ってみよう」という層の方々をいかに惹きつけられるか。そうした「なんだか盛り上がっている空気感」を作り上げていくのは、難しい面もありますが、とてもやり甲斐があります。
今回の展覧会で、個人的に特に注目してほしいところを教えてください。
画家は、作品だけでなく波乱万丈な人生そのものが注目されることもありますが、その中でモネは幸せなタイプだったのでは、と思います。もちろんひとつも苦労しなかったわけではありませんが、悲劇的な人生を歩んでいる画家も少なくない中、モネはこの時代では長生きでしたし、自身で庭を作って睡蓮を育てるなど、わりとゆとりもあったのではないかな、と。それゆえ、絵にも「幸せな雰囲気」が漂っていますので、是非、そこを感じていただけたらと思っています。企画が動きだしたのはコロナ渦で、「モネの作品を見て、少しでも幸せな気持ちになってもらえたら・・・」という願いを込めて企画を進めていたので、是非とも「ほっこりとした気分になっていただきたい」と思っています。今回は風景画も多いので、モネが旅した作品の中を歩いて、ちょっとした旅気分も味わっていただけたら、こちらもプロデューサー冥利に尽きますね。
中尾 歩

入社のきっかけは
テレビっ子でドラマ好き
“好きなことを仕事にしたい”を実現 
これからの目標は・・・

話は変わって、中尾さんがフジテレビに入社したきっかけを教えてください。
テレビっ子で、特にテレビドラマが好きだからテレビ局を志望した、ただそれだけです(笑)。入社当時はイベントには全く興味がなかったといいますか、テレビ局がイベントを手掛けていることにすら、ピンと来ていなかったですね。
最初に配属されたのは営業局とお聞きしました。テレビドラマに関わりたくて入社したのに戸惑いはなかったですか?
入社後、最初に配属されたのは、編成部と一緒に仕事をすることも多い営業推進部という部署で、自分たちで番組作りこそしませんが、さまざまな番組と密に接していました。自社他社問わず多くの番組を見ましたが、日常的に新しい情報にも触れることができました。そのため、テレビっ子の私は、思いの外、テレビ局らしい仕事に携わることができて純粋に楽しかったですし、すぐにその環境に順応できたのかもしれません。番組やコンテンツを直接作る仕事だと目の前の放送に向けて手一杯で、なかなか他の番組を見る時間を取れなかったりもするようですが、私がいた部署は番組を見るのも仕事の一つだったので、そういう点でも自分に合っていたのかな、と思います。
中尾 歩
そうした営業局での経験が、今のお仕事にも何か役に立っている点はありますか?
やはり自分のいる会社がどのように成り立っているのか、ビジネス面に関することを入社してすぐに肌感覚として学べたことです。今もイベントというビジネスに真正面から向き合っていますので。また、イベントにスポンサーさんから協賛いただくこともありますが、営業局にはイベント担当の部署もあり、そこで学んだことも現在の仕事に繋がっています。その後、人事局で採用や研修を担当し、社内中の部署の方々と仕事をしたことで、自分の興味の幅も広がり、とても勉強になりました。
最後に中尾さんの今後の目標を教えてください。
私は自分が好きなこと、そして形に残ることを仕事にしたいと思っていました。ありがたいことに現在、そうした思いはある程度実現できています。番組でもイベントでもそれがどのようなジャンルでも構わないのですが、これから先も少しでも、人の何かに触れるようなもの、何かを感じ取ってもらえるものを提供し続けることができたら、と思っています。もちろん日常的に、ちょっとした悩みがないことはないですが、好きなことを仕事として続けられていますので、このまま楽しく働けたらいいですね。
私、適応力が高いんです!(笑)。
中尾 歩

「好きなことを仕事として続けられていることがホントに楽しい」と笑顔で語った中尾歩プロデューサー。勉強熱心で、休みの日に展覧会を訪れるのは「半分偵察で半分趣味!」とおどけてみせた。これからも持ち前のフレキシビリティを存分に発揮しながら、「人の何かに触れるようなものをお届けする」ために、さまざまなイベントに彼女ならではの彩りを添える日々が続くことになりそうだ。

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