FUJITV Inside Story〜フジテレビで働く人〜

森 彬俊

アニメプロデューサーの
森 彬俊氏に聞く―
作品作りの原点は
「この映像を見たい!」との熱い思い…
“根っからのアニメ好き”が描く、
アニメの将来像・成長戦略とは

Vol.08

森 彬俊Akitoshi Mori

フジテレビで働く人の仕事への取り組みや思いをシリーズで描く『FUJITV Inside Story』。
第8弾は、アニメ制作部の森 彬俊プロデューサー。今年1月期にテレビアニメとして放送され、10月13日に劇場版が公開される『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』や、10月に「+Ultra」でスタートする『カミエラビ GOD.app』などの作品をプロデュースしている。新作アニメの制作秘話、アニメプロデューサーに求められること、またテレビ局が手掛けるアニメの今後、成長戦略などについて聞いた――。
(2023年9月29日掲載)

ビジネス感覚が必須・・・
アニメプロデューサーの
仕事・役割とは? 
作品作りの源は「熱い思い」

まずはアニメのプロデューサーの仕事について教えてください。
各プロデューサーが所属する会社によってそれぞれ仕事の幅や内容も違うので、あくまで“フジテレビの”アニメプロデューサーという話になりますが、まずは企画作りからですね。どういう制作会社さんやクリエイターさんと組むのか、原作あるいはオリジナルのどちらでやった方がいいかなど、クリエイティブの座組みを作る仕事です。また、アニメ制作はどちらかと言えば映画に近くて、同時並行的に製作委員会を立ち上げて、いろんな会社と一緒に作品を作っていくので、そうしたメンバーシップを集める作業も大事な仕事ですね。
森 彬俊
グッズ制作などにも携わっていると伺いました。
アニメは放送したら終わりではなくて、配信や商品化パッケージ、海外への販売などの二次利用を運用していくことで利益を上げていくビジネスモデルになっています。だから僕たちは、クリエイティブの座組を組み立てた上で、どうやってマネタイズしていくかということにも力を入れています。あとは宣伝ですね。アニメの宣伝はちょっと特殊で、主に宣伝会社さんなどと協力しながら行っています。
アニメ化する際の漫画や小説など原作選びには何か基準みたいなものがあるのでしょうか?
まずは、その原作をアニメ化した時にどれだけの人に喜んでいただけるか、「視聴者にとって」という観点があります。また、アニメを作ることは投資でもあるので、ビジネスとして成立するか、マネタイズできるかという観点もあります。でもそれはある意味「建前」というか、やはり究極的なところは、自分自身の「この映像を見たい!」「絶対に面白い!」という熱い思いですよね。多分アニメに限らずどの分野のプロデューサーのみなさんも同じだとは思いますが、企画を作る際の最初のきっかけは、やはり「熱意」だと思います。
森 彬俊

この夏、米・ロスで開催された「Anime Expo 2023」で作品を紹介する森P

「これはアニメ化できそう…」などと想像しながら漫画を読んだりするのでしょうか?
アニメプロデューサーなので、本来はそうあるべきかもしれませんが、僕は単純に漫画や小説が好きなので、一読者として楽しんで読むタイプですね(笑)。それで、結構な数の作品を読み終えた後、「あの作品はこんな風に映像化したら面白いかも・・」などと振り返ることが多いです。
自分の趣味嗜好が反映されてしまうので、そのバランスが難しいのでは?
趣味趣向はどうしても“漏れ出ちゃう”ので、自分の仕事に反映させていいのでは、と思っています。アニメは一つの作品を完成させるのに、数年がかりで、しかも数百人の関係者が関わるものなので、ものすごい時間と労力が必要なんですね。だから作品に対する「熱意」がないと最後まで走り切れませんし、プロデューサーの趣味嗜好だけが作品に色濃く反映され過ぎることもありません。そうした前提の上で、少なくとも僕の場合は「これをやりたいんだ!」という「熱い思い」が結構大事なのではと思っています。
森 彬俊
では、「熱意」に加えて、アニメのプロデューサーに必要なものとは?
まずは「体力」ですね。プロデューサーの大きな仕事の一つは「調整」ですが、あらゆるものの間に挟まれながら仕事をしていくのは、肉体面でも精神面でも相当大変なので、やはり両方の面で「体力」は重要ですね。敢えてもう一つあげるとしたら「共感力」ですかね。クリエイターやビジネス面の関係者など、多種多様で数多くの方々とパートナーシップを築きながら進めて行く仕事なので、相手の方が何を考え、何を求めているのかを察する能力というものは、かなり重要性が高いと思いますね。そうしたことを無視してもやっていける人というのは、才能が突出した一部の限られた人だけだと思うので、やはり僕みたいな凡庸な人間は、「体力」、「調整力」「共感力」で勝負!という感じですね(笑)。

「ノイタミナ」と「+Ultra」の
“枠”に込められた思い…
劇場版「大雪海のカイナ」の
制作秘話

森 彬俊

「ノイタミナ」で人気を博し、映画も大ヒット『PSYCHO-PASS サイコパス』
©サイコパス製作委員会

フジテレビでは、深夜のアニメ枠に「ノイタミナ」と「+Ultra」がありますが、どういった拘りや狙いがあるのでしょうか?
「作品が面白ければいい」という考えもあると思うので、視聴者やお客さまにとって「いつどこで放送されているか」は、あまり関係ないことなのでは、との思いもあります。一方で「枠」という存在は、僕たちが乗った船が海原を進む上での大切な指標みたいなものになっているんですね。僕たちの目標は、この作品って「『ノイタミナ』っぽい」「『+Ultra』っぽい」などとお客さまに言ってもらえることだし、クリエイターや原作者の方々からも「『ノイタミナ』や『+Ultra』で放送して欲しい」と言ってもらえる「枠」にしたい、そうした「ブランド」を確立したいという思いがあります。「枠」というのはある種の“縛り”でもあるのですが、「枠」があることで、作品のラインナップに対する自分たちの美学を持ちやすい環境にもなっていますね。
次に、10月に公開される劇場版『大海雪のカイナ ほしのけんじゃ』についてお伺いしたいのですが、まずは「+Ultra」で放送した経緯を教えてください。
もともとは『シドニアの騎士』や『BLAME!』などを描かれた原作者の弐瓶勉先生と、それらの映像化を手掛けてきたポリゴン・ピクチュアズさんがタッグを組んでオリジナル作品を作ろうというところから始まりました。めちゃくちゃ面白そうなので、僕たちから「是非、『+Ultra』でやりませんか」とお声掛けし、参加させていただくことになりました。
森 彬俊

『大海雪のカイナ ほしのけんじゃ』©弐瓶勉/東亜重工開拓局

この作品は絵が出来上がる前に声を入れる“プレスコ”で制作したと聞きました。
プレスコとはシナリオしかない段階で、「先に音入れをして、後から絵を付ける」やり方です。この手法だと、クリエイターさんが最初から声優さんのセリフ・演技が入った状態で絵を作れるので、声優さんの感情をより的確に絵に反映できるという利点があります。また、今回の作品は「フルCGアニメ」なので、素晴らしく作り込んだ画面やカメラワークを自由に行える反面、手描きのアニメに比べると、どうしても登場人物の表情などが、多少、柔らかさに欠けたりする側面もあるんです。だから、先に音声を録って登場人物の感情をしっかりと理解した上で絵を作り上げた方が、そうした硬さを減らすメリットもあると思いますね。
それでは、劇場版はどんな作品になっていますか?
テレビシリーズでは、危機に瀕している国同士の戦争状態を止めるというところまで描いたのですが、根本的な世界の謎や問題は解決していないんですね。劇場版では、「水不足」や「そもそもこの世界は何なのか」などの謎が一気に全て解明されます。テレビシリーズに続いて劇場版を見ていただいた方は、「こんな仕掛けがあったんだ」という大きな驚きがあると思います。また、危機に瀕した世界で少年と少女が世界の謎を解いて世界を救うために冒険するという比較的わかりやすいストーリーなので、劇場版から見ていただいても十分に楽しめる作品になっています。「弐瓶先生がファンタジーを手掛けるとこうなるのか!」という驚き満載の作品ですね。
森 彬俊
10月にスタートする『カミエラビ GOD.app』にも携わっているそうですが、こちらはどんな作品でしょうか?
『NieR:Automata』という世界で大ヒットしたゲームのディレクターを務めたヨコオタロウさんが、初めてアニメの原案を手掛けた作品です。ヨコオさんは先が読めない作劇をする方で、そんなヨコオさんがアニメを作ったらどうなるんだろう?というところからスタートした企画です。自分のスマホに突然「カミエラビ」という謎のアプリが入ってきて、その選ばれた候補者同士で「神様」になるため殺し合いをしていく、いわゆるデスゲームものですが、話がどんどんツイストしていってどういう展開になっていくのか全く予測できない驚きの内容になっていますよ(笑)。9月30日にYouTubeで1話と2話の先行試写をして、キャストさんとのトークショーもあるので、放送に先駆けてこの世界に浸ってほしいなと思います。
森 彬俊

©カミエラビ製作委員会

映画監督を断念し、
アニメPに“転身”/
一番の目標はクリエイター
飛躍のお手伝い!
テレビ局のアニメ成長戦略は・・・

森プロデューサーは大のアニメ好きと伺いましたが、そのきっかけは?
子供の頃、隣の家に伯父さん夫婦が住んでいて、その伯父さんが戦隊モノや特撮の脚本を手掛けていたんです。だから物心つくかつかない頃から、その家に遊びに行っては、もう毎日、映画館にでも通っているみたいに、映画やアニメなどいろんな映像を楽しんでいました。そうしたことが僕の原体験になって、アニメや映像作品が好きになったんだと思います。高校生の時にはすっかり、「映画オタク」が出来上がっていましたね(笑)。
ではテレビ局を目指したきっかけはなんですか?
大学に進学してからは、自主映画のサークルに入って映画監督を目指していたのですが、明らかに同期のみんなが撮る映画の方が面白いんですよね。だから「映画監督になるのは無理かも・・」とめちゃくちゃ落ち込んで…。そんな僕が映画監督になるために、無い知恵を絞って考えたのが、テレビ局に入社することでした。今考えるととんでもなく甘い考えなのですが、フジテレビは当時から映画制作に熱心だったので、ディレクターとして手掛けたドラマがヒットして映画化されれば、映画監督になれるのでは、と思っていて・・・。そうしたとても不純な動機で、フジテレビに入社しました(笑)。
森 彬俊
そこからどのような経緯でアニメ制作の部署で働くようになったのでしょうか?
入社後最初は、DVDやブルーレイを作る部署に配属されました。そこでドラマの制作現場に少しだけ触れることができたのですが、自分が考えていたような甘い世界ではないと、身にしみて感じました。その頃、たまたま隣の部署が「ノイタミナ」を担当していて、その仕事ぶりを間近で見ていると、アニメの方が僕の憧れていた映像制作のスタイルに近いように思えました。そこで異動希望を出したところ、幸運にもアニメ制作に携わらせてもらえることになりました。
では、これまでアニメを制作してきた中で、一番大変なこととか辛いことって、どんなことですか?
予期しないトラブルが起きることかもしれないですね。アニメ制作は基本的に、毎回違うチーム、違う座組みで動くので、いつも違う種類のトラブルが起きるんです。そうした未体験のトラブルを解決していかなければならないというのが一番大変かもしれないですね。でもそんな面倒なトラブルを逆に楽しめるぐらいの人が、プロデューサーには向いているのかもしれませんね。僕はまだまだですが、トラブルが発生すると血が騒ぐ、じゃないですが、アドレナリン全開で「どんどん来い!」という感じで(笑)。
森 彬俊
逆に、アニメプロデューサーとして一番喜びを感じる瞬間とは?
もちろん作品が評価された時やヒットした時もすごく嬉しいですが、やはり一つの作品が完成した時ですかね。アニメ制作には短くても2~3年、長ければ5~6年、下手すると10年位かかることもあるんです。だから、そこまで一緒に並走してきた人たちとの作品が一つの形になった時というのは、「シェイクハンドできる瞬間」というか、本当に嬉しいしホッとするし、心からやってきて良かったと思いますね。それが世の中に受け入れられてヒットすれば、「なお嬉しい!」という感じですね。アニメ制作では、ボツってしまう企画も数多くあるんですよね。制作が走り出した後でダメになることもザラにあるし、そうした状況がある中、最後まで走り切ったというのは、やはり格別な思いがありますよね。
そんな森プロデューサーの今後の目標を教えてください。
サラリーマンとしては「ヒット作を世に出す」と言わなければならないところだと思うのですが(笑)、それよりは、一緒に仕事をしてきたクリエイターがヒットメーカーになることが一番の目標かもしれないですね。努力を惜しまない才能ある人たちが、日の目を見ることができるよう少しでもお手伝いすることが、一番の目標かもしれないです。
森 彬俊

米「Anime Expo 2023」で一緒に作品を手掛けたメンバーと登壇

アニメの成長戦略についても聞かせてください。アニメの世界展開を目指して「+Ultra」を立ち上げて5年程になりますが、手応えは感じていますか?
そうですね。やっと出てきたかなっていう感じですね。主に日本のアニメを日本以外の国や地域で配信しているクランチロールさんや「+Ultra」枠アニメの宣伝を手掛けてもらっているスロウカーブさんと一緒に考えた企画が、まさに10月から始まる『カミエラビ GOD.app』なんですね。アニメ業界だと珍しいことなのですが、この作品は英語版のSNSのアカウントを作ったり、欧米でリリースを出したりするなどさまざまな取り組みによって、放送前のオリジナル作品にも関わらず、海外でも徐々に認知度が上がってきているんです。日本のアニメの海外展開というと、国内で話題になった作品が海外でヒットするという流れが定石なのですが、国内で人気が出る前の作品についても、海外で事前に宣伝して話題作りができるのでは、という前向きな思いがありますね。そういう意味では、クランチロールさんやスロウカーブさんとの取り組みは、非常に期待が持てると感じていますね。
では最後に、これからのテレビ局のアニメ制作についてどのように考えているか、教えてください。
おそらくアニメというジャンル自体は、ドラマやバラエテイ、報道などと同様に、「マスコンテンツ」に向かっていくと思います。その過程で、本来すごく狭いところにしかアピールできなかった作品でも、お客さまへのアピール度や注目度、露出度を、テレビならもっと高めることが可能だし、テレビで放送することで、広く、そして数多くの人に届けることができると思っています。そうしたシステムを作り上げていくことが、今後、テレビ局がアニメという分野に携わっていく上で、最も重視すべき成長戦略なのではと考えています。また、そうした取り組みによって、人気の高い原作や実力のあるクリエイターさんらが、これまで以上にテレビ局に集まってもらえるような状況を生み出せるのでは、と思っています。
森 彬俊

「ホント僕は、“超”が付くくらいのアニメオタクなんですよ」と笑みを浮かべ、「作品の原点は『熱意』!」と和やかに語った森プロデューサー。その一方で言葉の端々に、作品がしっかりとマネタイズできるか冷静に見極めるビジネスマンとしての貪欲な一面も覗かせた。「好きな事を仕事にすると苦労する」との言葉は、きっと彼には当てはまらない。アニメプロデュサーとしての絶妙な“バランス感覚”で、これからもクリエイター始め多くの制作仲間に“優しく楽しく伴走”しながら、魅力的で思いの詰まった「作品」を手掛け続けてくれそうだ!

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