フィリピン共和国

フィリピン共和国概況
■国の概要

フィリピンは7,109の島々から成る国で人口は約9,401万人、そのうち約40%が18歳未満の子どもです。ASEAN唯一のキリスト教国であり、国民の83%がカトリック、10%がその他キリスト教、5%がイスラム教(ミンダナオ島ではイスラム教徒が人口の2割以上)です。公用語はフィリピノ語及び英語で地域によって80前後の言語が使われています。

フィリピンは第二次世界大戦直後はアジア全体で見ても最も先進的な国の一つでしたが、マルコス独裁政権等を経た1970年代以降、他のASEAN諸国に比べ経済成長の低迷が続きました。

しかしここ数年、フィリピン経済はアジア主要国の中でも特に高い成長を果たし、2012年の実質GDP成長率は6.8%を記録しました。総合株価指数の最高値は年間を通して連続更新され、2013年に入ってからは大手格付け機関による信用格付けの引き上げが相次ぎ、同国の国債は投資適格級となりました。対内直接投資額は前年比12%増で、過去最高を更新しました。国家経済開発庁(NEDA)は高い経済成長の要因として好調なサービス産業、世界経済の回復による輸出の伸び、安定したインフレ率、財政改革による赤字の削減を挙げています。フィリピン経済は長年、海外就労者による本国送金をその大きな柱としてきましたが、こちらは世界経済の低迷時にも堅調に増加し、国内の民間消費を下支えしました。同時に近年ではIT-BPO(IT‐ビジネス・プロセス・アウトソーシング)産業が国内で急激な成長を遂げ、政府も当産業をフィリピン経済における重要産業と位置付けています。

2012年10月には、約40年にわたりミンダナオ島で繰り広げられてきたフィリピン政府とモロ・イスラム解放戦線(MILF)の武力衝突に関し、政府及びMILFが「枠組み合意」へ署名を行ったことで問題は解決へ向けて大きく前進しましたが、2013年9月に大規模な武力衝突が発生、13万人が避難を余儀なくされる事態が発生しました。

また、フィリピンは台風や地震の被害にたびたび襲われています。2012年には台風24号(ボファ)が9億4700万ドルにも及ぶ被害をもたらし260万人の子どもたちが被災しました。2013年10月には、中部ボホールでマグニチュード7.2の地震が発生、大きな被害が出ました。そして、2013年11月、未曽有の規模の台風30号(ハイエン)が上陸し、甚大な被害が発生しました。被災者は1,410万人以上に及び、そのうち約590万人が子どもたちです。いずれも懸命の復興作業が続いていますが、フィリピンの島沿岸部は台風が頻繁に来襲する地域であり、同地域の貧困率の高さと自然災害に対する脆弱性の関係も指摘されています。

■子どもたちや女性たちの状況

フィリピンのHDI(人間開発指数)は順調な経済成長に支えられ、2012年には187ヶ国中112位となり、同国は東アジア太平洋諸国の中でも中位に位置づけられました。HDIランキング上昇の大きな要因となったのは所得の増加であり、特にマニラ首都圏外における増加が大きく寄与しました。

目覚ましい経済成長の一方で貧困問題の解消に大きな進展は見られません。主な理由は大きな所得格差、首都圏を中心とした高い人口増加率(2000年から2010年まで年平均1.9%)、紛争問題、自然災害、行政/司法のガバナンスの弱さなどが挙げられます。フィリピンは貧困、初等教育、栄養及び衛生などの分野においてMDG(ミレニアム開発目標)の達成は厳しいと見られています。

フィリピンでは人口の36.8%が貧困層と位置付けられ、このうち47.5%が一日2米ドル以下で生活しています。2009年の政府調査によると、10人中4人の子どもたちが貧困の中で生活しています。経済成長とともに改善は見られますが、引き続き多くの子どもたちが家族を支えるために児童労働に従事しています。2011年の政府調査によると5歳から17歳までの子ども2900万人のうち299万人の子どもが危険を伴う児童労働に従事しています。2010年の調査によると児童労働に従事している子どものうち54.8%が義務教育及び無償の基礎教育を受けていません。

武力紛争が続いたミンダナオ島では紛争により開発が遅れ、国内でも貧困率が高い地域となっています。これまで年間約3‐5万人の子どもたちが紛争に巻き込まれ、強制的に武装勢力に加担させられる子どもたちも多く存在します。

5歳未満児の死亡率は低下傾向にあり、2003年の1,000出生中40人から2011年の25人にまで減少しています。うち乳児死亡率は1000出生中20人となっています。5歳未満児の死亡率は過去20年で半減しましたが、新生児(生後1か月未満)の死亡率は引き続き高く、同期間での低下率は2%に留まっています。5歳未満児の死亡率は、国内でも貧困率が高く、教育普及率の低い地域や僻地、または都市の無認可居住区の住民の間で最も高くなっています。また、フィリピンでは約170万人の子どもの出生登録が行われておらず、保健、教育やその他の基本的な公共サービスを受けることができずにいます。

子どもの栄養に関する深刻な問題も根強く存在します。0-59ヵ月児童360万人が低体重、400万人が発育不良であり、この数は過去20年間で改善されつつあるものの、その改善のペースではMDG達成は見込めません。貧困に加え、育児習慣の問題や妊娠中及び授乳中の女性の栄養不良、保健サービスへのアクセスの欠如や不衛生な環境が主な要因となっております。

現アキノ政権は2011-2016年フィリピン開発計画の中で「雇用増加」「多数を経済社会の主流へ」「貧困削減」を3本の柱として取り組んでおり、2007年からCCT(条件付き現金給付)を開始、子どもの数に応じて各世帯へ補助金を給付しています。2012年現在、CCT受給世帯では96%の子どもが初等教育を受け(非受給世帯は91%)、非受給世帯に比べて教育に38%、また保健サービスに34%多く出費しており、今後のさらなる普及が期待されています。

(出典:ユニセフ・フィリピン事務所ホームページおよび年次報告書等資料、JETRO・JICA等ホームページ情報)