ブルーモーメント

2024年4月スタート 毎週水曜よる10時放送

気象監修・荒木健太郎先生の
気象解説!

ドラマ「ブルーモーメント」の気象設定

気象監修の基本的なスタンスとして、ストーリーを軸に気象シナリオやセリフなどを設定しており、なるべく科学的整合性を確保するようにしています。
あくまでエンターテインメントなので、作中の気象シナリオは実際の現象と多少異なる場合がありますが、ドラマのストーリーをより深みのあるものにするための設定ということでご承知ください。
また、作中で登場する気象関係の技術については、最新の観測やシミュレーションとして現在存在しているものから、近未来的なものも含めて登場させています。

南岸低気圧による大雪・暴風雪と表層雪崩

第1話で災害をもたらすのは「南岸低気圧」です。
南岸低気圧は秋から春にかけて本州南岸を通過し、太平洋側に雪を降らせる原因となる低気圧のことです。
作中では春の山地での大雪を想定しています。南岸低気圧による大雪が首都圏などにもたらされると、交通機関に影響するなど甚大な被害がありますが、平地では気温が高いために雨で影響は小さく、山地で大雪・暴風雪となる設定です。

南岸低気圧による大雪時には「表層雪崩」という雪崩が起こりやすいことも知られています。
そもそも雪崩とは斜面に積もった雪が滑り落ちる現象のことです。そのうち表層雪崩は、古い積雪の上に新たに雪が降り積もったときに、新雪の積雪層が滑り落ちる現象を指しています。

表層雪崩のしくみ。
ドラマ「ブルーモーメント」より。

表層雪崩の発生には、短時間に多量の雪が降り積もること、積雪層内に崩れやすい雪質の層(弱層)があること、降り積もる雪の結晶の種類が重要と考えられています。
特に山岳の風上斜面では地形の影響で局地的に雪が強まりやすく、短時間で多量の雪が降ることがあります。また、低気圧に伴う雪雲では、樹枝状の結晶や板状の結晶のほか、サラサラしていて流れやすい砲弾状や交差角板状などの低温型結晶が降りやすいことがわかっています。
このため、晴原が南岸低気圧による天気の悪化のおそれを察知したあと、SNS等で収集したという設定で大量の雪結晶データの解析をはじめます。

南岸低気圧による降雪時の雪の結晶。
『雲の超図鑑』(荒木健太郎/KADOKAWA)より。

このとき表層雪崩をもたらした低気圧はすでに福島県沖にあり、本州南岸には別の南岸低気圧があります。この南岸低気圧が急速に発達することが予想されており、福島県で大雪・暴風雪などによる災害が見込まれるため、SDM事案として晴原たちが動き出したのです。

最初の表層雪崩の要因となった南岸低気圧と、その後に暴風雪をもたらす南岸低気圧。
ドラマ「ブルーモーメント」より。

晴原は現場から気象研究所のスーパーコンピュータシステムにアクセスし、高解像度のリアルタイム気象シミュレーションを実施して解析を行い、現場の気象状況も踏まえてシミュレーション結果の妥当性を判断しながら災害リスクを検討して指揮をします。

また、作中で発生した雪崩は、移動速度は時速200km以上、雪崩の通る流下距離は全長約2km、堆積量は約10万トンと、国内でこれまで発生したことのある最大規模の雪崩となるように設定しています。

雪崩の様子。
ドラマ「ブルーモーメント」より。

雪崩の要救助者の捜索にあたり、晴原は樹の幹のまわりの積雪が樹から発せられる熱によって融けた「ツリーホール」に注目します。
このとき晴原が解析していたのは最初の低気圧による大雪が起きる前日の気象状況で、低気圧接近前に日照が出ており樹の幹が温められていた可能性を検討しています。

雪崩が発生する前日の日照観測の様子。
ドラマ「ブルーモーメント」より。

作中ではその後、急速に発達する南岸低気圧の接近により、福島県では暴風雪がはじまります。晴原の気象解析は第2話へと続きます。

南岸低気圧による暴風雪

第2話では引き続き「南岸低気圧」を取り上げ、暴風雪に注目します。
南岸低気圧は第1話時点では関東地方の南海上に中心があり、温暖前線と寒冷前線を伴う、いわゆる温帯低気圧です。
この低気圧が急速に発達しており、地上天気図上では寒冷前線が温暖前線に追いついて閉塞前線が形成されています(紫色の部分)。これは、南岸低気圧が成熟期にあることを意味しており、等圧線の間隔が狭くなっていることからも、福島県では東寄りの風が強まることが想像できます。
なお、成熟期の低気圧中心の北側では、低気圧に伴う冷たい空気の流れ(寒冷コンベヤーベルト)があるため、雪を伴って風が強まっているという設定です。

閉塞する南岸低気圧。
ドラマ「ブルーモーメント」より。

そもそも暴風雪とは、雪を伴った強い風が吹くことです。
低気圧が急速に発達するときや冬型の気圧配置が強まるときなどには、天気が急変して暴風雪となることがあり、作中でもこのような状況になっています。

暴風雪のときに警戒しなくてはならないのが、猛吹雪によって視界が白一色になる「ホワイトアウト」です。雪によって数m先さえも見えなくなって方向感覚がなくなり、自分の位置がわからなくなるため、遭難の危険が高まります。風速が1m毎秒強くなると体感温度が1℃下がるといわれており、屋外にいると低体温症の危険があります。
また、暴風によって運ばれる雪がたまる「吹きだまり」にも警戒が必要です。吹きだまりは周囲より低い道路に発生しやすく、車の走行が困難となって立ち往生の原因になるため危険です。

吹きだまりの中に突っ込んでいる車の場面。
ドラマ「ブルーモーメント」より。

作中では母親が娘と一緒に移動中、突然の暴風雪により道路脇にできた吹きだまりに車が突っ込み、遭難する場面があります。
この地域では、ちょうど谷間の出口で風が強まる「地峡風(gap wind)」の影響を受け、暴風雪となっています。
晴原は気象研究所のスーパーコンピュータシステム上にリモート接続をしてリアルタイムの高解像度シミュレーションを実施し、この暴風雪を解析します。このときの解像度は10~50m程度の設定としており、詳細な地形データを持っている山形と協働しています。現実の計算機資源ではこのようなことはできませんが、晴原だからこそ未来のシミュレーション技術を使っているという設定です。

地峡風の高解像度シミュレーション結果(イメージ)。
ドラマ「ブルーモーメント」より。

晴原は山形の協力を得て、その後も高解像度シミュレーションを行い、気象状況を解析します。

急速に発達する低気圧が接近するにつれ、福島県では東寄りの風がさらに強まります。
この影響で海岸沿いの地域で停電が発生します。
南岸低気圧に伴う雪は水を多く含む「湿雪」で、電線への着雪が起こりやすいです。電線に着雪した状態で強い風が吹くと、電線が大きく揺れる「ギャロッピング現象」が起こり、電線同士が接触してショートすることで停電が発生します。さらに、海岸沿いでは海からの風により、塩を含んだ雪が吹きつけます。このような雪は電気を通しやすく、電源装置に付着するなどして停電の原因となるのです。
過去には暴風雪による塩害とギャロッピング現象が原因で、日本海側の地域などで大規模停電が起きたことがあり、作中でも同様な設定としました。

その後、晴原は佐竹と要救助者・前田琢巳の救助のため、ヘリで現場に向かいます。
この間も高解像度シミュレーションを実行して解析しているものの、シミュレーションは誤差を含むため、観測データでその妥当性を評価することが重要です。
対象地域には観測データがないので、晴原が目視で視程(見通せる距離)を測ることで、ごく局所的な風の変化を調べてシミュレーション結果の評価をしながら現場指揮をしようとしています。

そして、一時的に風が弱まって佐竹と前田の救助を行っているところに、暴風雪が迫ってきます。

ヘリを飲み込む暴風雪。
ドラマ「ブルーモーメント」より。

このときすでに、南岸低気圧は茨城県沖付近まで進んでいるという設定になっています。
閉塞段階にある温帯低気圧の中心の北西象限では、低気圧に伴う暖かくて湿った空気の流れ(温暖コンベヤーベルト)が上昇して低気圧の雲上部まで進入し、水蒸気が供給されます。すると、雪の急速な成長をもたらす生成セル(generating cell)が発生し、降雪が強まる場合があることが近年の研究でわかっています。
実際、作中で設定している南岸低気圧による太平洋側の山地での大雪についても、特に閉塞段階の低気圧中心の北西象限に位置するときに短時間での大雪がもたらされると指摘されています。
ヘリを飲み込む暴風雪は、このような閉塞段階の低気圧に伴った局所的な降雪の強まりで視程が低下しているという設定です。

作中では暴風雪への対応としてSDM本部が自治体に避難指示を発令するように働きかけていましたが、現実でも天気が急変して暴風雪になる場合があるため、気象情報を活用して早め早めに安全を確保することが重要です。

気象監修
荒木健太郎(あらき・けんたろう)
雲研究者・気象庁気象研究所主任研究官・博士(学術)。
1984年生まれ、茨城県出身。慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業。地方気象台で予報・観測業務に従事した後、現職に至る。専門は雲科学・気象学。防災・減災のために、気象災害をもたらす雲の仕組みの研究に取り組んでいる。映画『天気の子』、ドラマ『ブルーモーメント』気象監修。監修にマンガ『BLUE MOMENT』など多数。『情熱大陸』『ドラえもん』など出演多数。
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