フジテレビジュツの仕事
元彼の遺言状
2022年4~6月 毎週月曜日 21:00~21:54
- 美術プロデュース
- 三竹 寛典
- アートコーディネーター
- 森田 誠之/岡村 正樹
- 大道具
- 永井 武/大川原 祐也
- 大道具操作
- 谷古宇 稔
- 建具
- 岸 久雄
- 装飾
- 千葉 ゆり
- 持道具
- 廣田 朋夏
- 衣裳
- 塩野谷 由美
- メイク
- 栗原 里美/中野 明海
- 視覚効果
- 大里 健太
- 電飾
- 佐藤 信二
- アクリル装飾
- 鈴木 竜
- 小道具印刷
- 佐藤 好治
- 植木装飾
- 後藤 健
- 生花装飾
- 小柳 幸絵
- スタイリスト
- 椎名 直子/勝見 宣人
- フードコーディネーター
- はらゆうこ
ビジュツのヒミツ①
ミステリーの始まりは、
雪の中にたたずむ豪華別荘

謎の最期を遂げた元彼の別荘は、軽井沢の洋館。
“クラシックミステリー”の舞台にふさわしい世界観を
目指しました。

これはロケーション撮影の準備風景。
雪の中での門扉の設営です。

豪華な別荘ですから門からのアプローチもそれなりに。
大道具スタッフ総出の力仕事となりました。

こちらはスタジオに建てた室内セット。
雪景色の外観との「ロケマッチ」も意識した
光がふんだんに差し込む空間演出がポイントです。

クラシカルな明り取り窓にも雪影が。
綿を使ってそれらしく飾りました。

ダイニングとリビングが連なるメインスペースは
長いワンカット撮影もできる広さを確保。

調度品も巨額資産をイメージさせる高級品が並びます。

小道具にかける保険料もそれなりの額でございます。
ここだけの話ですが…。

ヒロインが宿泊する客間も
落ち着く空間に仕上げました。

今回のドラマでは、キッチンも重要な場所。
おいしそうな料理も必ず登場するので、
フードコーディネーターが大活躍しています。

キッチンの壁は、特製の“覗き穴”付き。

リビングやダイニングの様子がすべて監視できるよう
セットのほぼ中ほどに配置されているのです。

遺言状から始まるクラシックミステリー。
みなさんも“怪しい人物”を監視してくださいませ。
2022年5月
ビジュツのヒミツ②
オンボロ事務所は
“古本屋さん”の2階です

一方、ヒロインが「元カノの権利」として手に入れた
弁護士事務所。築70年とあって、かなり味わい深い物件です。

「お金にならない仕事はやらない」主義に反する空間だけに
元彼の別荘とのギャップを意識してデザインしました。

見上げれば、むきだしの配線がオブジェのようにぶらさがっています。火事にならないか心配ですが、ここはスタジオ。
廃材処理業者から譲ってもらった「小道具」であります。

水回りも年季が入っています。
水漏れやガス漏れが心配だと思ってくれたら、
ビジュツとしては本望。

「料理を作る男」と「食べる女」という場面が
いっぱい出てきますので、台所は重要なんです。

弁護士事務所なのに調理用具が揃っている
というミスマッチ感もお楽しみください。

出入口になっている1階は
とあるビルの一角をお借りしました。

美術スタッフがいろんな物を持ち込んで
古本屋さんにしてしまうことに。
いやぁ、お騒がせしております。

表に看板を取り付けて出来上がり。
階段を昇れば事務所にたどり着くかどうかは、謎でございます。
2022年5月
ビジュツのヒミツ③
「附帳(つけちょう)」で決まる
装飾スタッフの神業

暮らしの法律事務所には、古びた小物があふれています。
何気なく置いてあるように見えますが、実はこういう飾りこそ、装飾スタッフの腕が試されているのです。

もちろん法律関係の資料も揃えました。
配電盤の真下にあって危険な気もしますが、
前の住人は、そんなことは気にしない性格だったようで。

台所には“昭和感”満載のガス湯沸かし器。
おそらくもう売ってません。

中には几帳面に整理された調味料や、

なぜか「シェー!」をしている木彫りの熊も。
これらはれっきとした小道具。
ぜーんぶ装飾スタッフがチョイスしたアイテムです。

今回は、業界を代表する「高津装飾美術」や「藤浪小道具」の
倉庫から取り寄せました。膨大な在庫の中から、今回の
シチュエーションにふさわしい物を選びます。

高津装飾美術の倉庫
一度は実物を見ていないと選ぶことが難しい。
倉庫に何があるかを把握していないと仕事になりません。

藤浪小道具HPより
最近は、写真付きの「小道具検索システム」が整備されつつあります。しかし、かつてはすべての発注は「文字」で行われていました。

美術セット内の飾りに必要な物のリストが、小道具の「附帳」です。これは「暮らしの法律事務所」を飾るための附帳の一部。
手書きでセットの成り立ちや細かいシチュエーション、今後どう変化していくのかまで、詳細を倉庫担当者に伝えています。

こちらは、パッと見ただけでは同じような物の羅列に見えますが、サイズはもちろん、「木製」なのか「スチール製」なのか、「キャビネット」「書棚」「書庫」という用語の使い分け、
「コンビ」「観音」「引違い」「吹き抜け」など、専門用語を
使った細かい指定が満載です。

実際の現場では附帳の通りきっちり飾るのではなく、
全体のバランスを見ながら他の場所に移したり、
別な物を足したりしてイメージに近づけていきます。

藤浪小道具の倉庫
ゆえに“一人前の装飾家”への道のりは果てしなく長い。
モノの名前はもちろん、模様の種類、材質による質感の違い、
歴史や時代背景、道具の選択などなど、正確な「附帳」が書けるようになるには多くの経験を積み、地道に記憶を重ねていくしかないのです。

今は演出チームとは画像のやり取りでイメージを共有することが普通になりましたが、会話の中で飛び交う指示を瞬時に具体的な小道具に変換し、幾多の在庫の中から的確なものを提案できる
能力こそが信頼される「プロの証」。

飾りのセンスを磨き、必要な知識を常にバージョンアップしながら現場で奮闘する装飾の世界。
装飾スタッフにとっては、これからも果てしない勉強の日々が続くのであります。
2022年5月
デザインのヒミツ

ー元彼の別荘のセットデザインのポイントは?
― 「クラシックミステリー」ということなので、西洋風の重厚感を意識しました。といっても、普通にデザインしてしまうと「ホテルのロビー」になってしまう。あくまで個人の別荘ですから「趣味性」や「クセ」が感じられる空間にしています。“一品モノも多いのにどこか統一性もある”というニュアンスを出すため、装飾スタッフとはかなり細かく打ち合わせをしました。

ー構造上で特徴的な点は?
奥行き重視の配置で、どこから撮っても背景の空間が生きるような構造になっています。長いストロークのショットも可能です。あとこれは私と装飾スタッフだけの密かなこだわりなんですが、実はそれぞれのエリアにはそれぞれ色があるんです。リビングは「緑」、ダイニングは「黄」、キッチンは「青」、ヒロインが滞在する客間は「赤」。壁やステンドグラスの色使いに、少しだけニュアンスを入れています。ミステリーの世界観を壊さない“深みのある”色合いなので、多分誰も気付いていないと思います(笑)。



ー窓から射し込む光も効果的です
光が映えるように大きめの窓を作りました。実はミステリー物では光の演出がとても重要で、たとえば光を背負うと表情が陰になる。“逆光”や“片明かり”によって謎めいた雰囲気を表現できるんです。


ー 一方の「暮らしの法律事務所」はどのようなイメージですか?
ボロボロの事務所で「もらっても、ほどほどに要らない物件」というイメージです。この“ほどほどに”のニュアンスで苦労しました。“昭和感”満載のボロい物件というよりは、少し外国映画っぽいクラシックなところもある落ち着いた空間を目指したのですが、バランスが難しい。一度本当にボロボロのソファを置いてみたのですが、監督から「やり過ぎ」と言われてやり直したこともありました。構造的には正面奥がロフトになっているのが特徴で、手前と奥の芝居ができるようにしています。


ー1Fにある古本屋さんもユニークな設定です。
実は古本屋さんのシーンはロケーション撮影なんです。制作サイドが見つけてきた建物のつくりが面白くて、監督がそれを生かして古本屋さんの設定にしました。美術スタッフはそう決まってからロケ飾りの準備に取り掛かったんです。

「暮らしの法律事務所」

ー美術サイドからの見どころを教えてください。
ミステリー作家の卵はいつも料理を作っていますよね。ということもあって、彼の居場所である「キッチン」には力を入れています。別荘のセットでもほぼ中央にキッチンがあって、絵画の裏に覗き穴があったりします。すべてを“監視”できる配置です。法律事務所でも、オフィスなのに台所に存在感があります。毎回出てくる料理も様々で、まさに彼のキッチンスタジアム。フードコーディネーターも活躍していますので、調理・食事シーンにも注目してもらえれば。
(2022年4月)
