フジテレビジュツの仕事
SUPER RICH
2021年10~12月 毎週木曜日 22:00~22:54
- 美術プロデュース
- 三竹 寛典
- アートコーディネーター
- 山下 雅紀/村上 勇人
- 大道具
- 内海 靖之
- 大道具操作
- 伊藤 善起
- 建具
- 岸 久雄
- 装飾
- 稲葉 裕輔
- 持道具
- 木皿 洋子
- 衣裳
- 朝羽 美佳
- メイク
- 坂本 敦子
- 視覚効果
- 大里 健太
- 電飾
- 寺田 豊
- アクリル装飾
- 女屋 楓
- 小道具印刷
- 石橋 誉礼
- 植木装飾
- 後藤 健
- 生花装飾
- 牧島 美恵
ビジュツのヒミツ①
絶好調の“リッチ”カンパニーは
“いいカンジバイオレット”で

勢いのある電子書籍カンパニー「スリースターブックス」。
オフィスも機能性とセンスが感じられるデザインで
仕上げました。

随所に曲線を取り入れたデザイン。
棚やカウンターなど、おしゃれな造り付け家具も目を引きます。

既製品では出せない自由なフォルム。
すべてドラマのオリジナルデザインです。

棚のウラはこんな風。背板のパーツでは“曲げベニヤ”が本領を発揮。頑張れば、割れずにもうちょっと曲がります。

セットデザインの流れで、今回は会社のロゴも担当しました。
分厚い本を横から見て、ページがパラパラめくれてるイメージ。

こんなカンジでしょうか。
ウン?

というわけでテーマカラーの「バイオレット」を、セットの壁などにもさりげなく配置。うまく使わないといやらしい色になるので、色のくすみ具合や使う面積を工夫しています。

ちなみに、この“いいカンジバイオレット”は
色見本の番号でいうと「85-40D」を指定しました。

ストーリー上は、負債を抱えた挙句に、泣く泣く引っ越し。
書類もPCも本もすべて運び出すことになりますが、
美術セットでも同様に“大引っ越し大会”が決行されました。
実際はお隣のセットに移しただけなんですけど…。

もぬけの殻となってしまったオフィス。
「スリースターブックス」が復活したら、
セット内の小道具も戻ってくるんでしょうか。
2021年11月
ビジュツのヒミツ②
“和骨”ユニットで表現する転落後の拠点

「ゼロからのスタート」。その拠点となるのがココ。
畳部屋にデスクを持ち込んだ会社兼住居です。

引っ越し業者の段ボール箱があちこちに残る“急ごしらえオフィス”。ちなみにこの段ボール作りも、美術スタッフの仕事。
ネーミングもそれっぽく…スピードが売りの業者でしょうか。

こういう生活感あふれるセットには、「和骨」ユニットが活躍します。柱、壁、建具、床など、寸法が洋間とはちょっと違っています。これがクセモノ。

今回、基本となるのが「3寸柱」。もちろん4寸も5寸もあります。時にデザイナーから「3寸5分の方が見映えがいい」という声も。そうなると組み立て計算が大変なことになりますが…。

柱と柱の間に「壁」や「欄間」ユニットを取り付けます。
和骨の壁ユニットは、フジテレビジュツでは5尺7寸幅が主流。洋間では隠れる柱が、和室ではちゃんと見えるように組みます。よって、一辺の長さは3寸柱×2+5尺7寸壁=6尺3寸が基本となります。

洋間ユニットは計算しやすい6尺が基本ですが、和骨となるとそうはいかない。
さらに「パネルの厚みは?」「雑巾ずりのような打ちモノがあるか?」「畳は江戸間?本間?」「長押と鴨居の位置関係は?」などなど細かいチェックが必要なんです。

畳をきっちり敷くため、「畳寄せ」なる板片で隙間を埋めたり、建具がぴったりでなかったら、その場で調整したり、「和骨」ユニットの組み立てには現場での対応経験がモノをいいます。

雨漏りのする建物ですから、当然壁にもシミがあるはず。
ちゃんと汚しておかないとね、ということで
“ザラ”壁と呼ばれるユニットがキャンバス代わりです。

小道具もだいたいは古びた本物を探してきます。

それっぽいブレーカーですが、もちろん配線は
つながっていません。

玄関へのアプローチも築ン十年のカンジで。

波板に溜まった枯れ葉。これも装飾スタッフの仕掛けです。
ちなみに葉っぱはホンモノ。
こういう時のために集めて保管しているんです。

中から見るとこんなカンジ。
季節や周辺の状況を表現します。

最近のドラマは四方を囲んだセットが多いので
スタッフ用の“玄関”はこういうセットの隙間です。

当然「ドキン(=土足禁止)」なので、
スタッフの履物は脱ぎ履きしやすいものが基本。
かつては雪駄が主流でしたが、
今はあまり見かけなくなりました。
2021年11月
デザインのヒミツ
ーこのドラマでは、同じ会社の「リッチな時」と「転落後」という2つのセットをデザインしたんですよね?
宮川
はい。でも実は、転落した後の会社をああいう形で出すということは、最初は全く決まっていなかったんです。リッチな会社としての「スリースターブックス」はもちろん決まっていたのですが、それ以外のセットについては、当初、社長の高級マンションの部屋と中華料理店の2つのセットを建てる予定でした。家と新会社を兼ねたセットをつくると決まったのは、華やかな「スリースターブックス」を建ててしばらくしてからです。

ー転落前の「スリースターブックス」のセットはどのようなイメージでデザインしましたか?
ウェブ出版会社という設定なので、できるだけ“今っぽさ”を出すよう心掛けました。フリーアドレスで、旧来型のオフィスに見えないオフィスですね。海外のウェブ関連企業の中にはビリヤード台を置いているところもあるので、遊びの要素としてバーカウンターも入れました。おしゃれな人達が働く所、というイメージです。

ー個人的にこだわったポイントはありますか?
オフィス全体の色味ですね。女性社長の会社ということで、細やかさを意識した色使いにしました。たとえば床の木目は、一般家庭のフローリングの茶色よりもファッショナブルな、アンティーク調の沈んだ色を混ぜたものにしています。それと、白は普通であれば色が飛ぶのでセットには使わない色なのですが、今回は窓枠や細い柱、壁の幅の狭い部分などに白を使い、それと一緒に濃いグレーなどの引き締める色も配置して、おしゃれな印象の色調を目指しました。

ー最も苦労した点は?
リッチなオフィスの広さの出し方、ですね。実際のウェブ出版会社を見ると、大抵が広いスペースにテーブルが点在している感じです。でもスタジオのスペースには限界があるので、いかに少しでも広く見せるかで悩みました。
1つの方法としては、段差を使いました。奥にある会議室やCEOルームを中央のフリースペースから1段高くすることで、奥にいる人達も見えて奥行きが出るようにしました。あとは、真ん中あたりに棚を置いて、その棚越しに向こう側を撮ることで距離感を出したりと。

ーデザインで遊んだところはありますか?
「スリースターブックス」のロゴも作ったのですが、柱のロゴの手前に、モチーフとなるオブジェを置いてみました。開かれた厚い本のページがパラパラとめくられるイメージのロゴそのままの、木(モク)の白いオブジェで、ページが光るようになっています。

ーそして、引っ越した後の会社のセットデザインのイメージは?
監督からは「とにかく“転落感”を出して」と言われたのですが、この民家に多い時で14人くらいのキャストが入るので、ある程度のスペースも確保する必要があって、広いけれど貧しく見える空間を作るのに苦労しました。具体的には、貧しさを表すのに“汚し”を強めに入れました。人が住もうと思わないくらい「古い」、でも「汚く」はならないように。たとえば、壁には隙間風が入りそうな波トタンを使ってさびを入れたり、壁紙を剥がしたり、壁のしみは多すぎると「汚く」なるので少しだけ入れたり、と。
それと、一等地にあった頃の会社のテーブル、椅子、ソファなどをあえて貧しい民家に持ってきて、使い回している様子も出しています。



ーデザイナーから監督に提案したアイデアはありますか?
会社と自宅を兼ねたセットで、台本では1階が仕事場で2階が主人公・衛の部屋となっていました。でも、仕事とプライベートのシーンを完全に切り離してしまうのはもったいないと思ったので、衛の部屋も1階に置いて、仕事場を通して撮った時の「抜け」を活かせるようにしました。そうすることで、行き来の動線で芝居もできますし。

ー収録が進んで行く中で変えていった部分はありましたか?
はい、家屋の中の芝居空間を広く取ったら、その分バックヤードが狭くなってしまって、撮影しにくくなってしまったんです。それで、当初は建てっぱなしの予定だったセットを、一部の壁にキャスターを付けて簡易的に建てバラシができるようにして、カメラスペースを何とか確保しました。
限られたスペースでいろいろと工夫を凝らして、美術スタッフ一同、頑張ってます!
(2021年11月)
