フジテレビジュツの仕事
監察医 朝顔
2019年7月〜9月
毎週月曜日 21:00〜21:54
- 美術プロデュース
- 平井 秀樹、三竹 寛典
- アートコーディネーター
- 村上 勇人
- 大道具
- 内海 靖之
- 大道具操作
- 吉田 精正
- 建具
- 岸 久雄
- 装飾
- 稲場 裕輔
- 持道具
- 木皿 洋子
- 衣裳
- 杉本 真寿美
- メイク
- 清家 いずみ
- 視覚効果
- 猪又 悟
- 電飾
- 寺田 農
- アクリル装飾
- 鈴木 竜
- 植木装飾
- 後藤 健
- 生花装飾
- 小柳 幸絵
- フードコーディネーター
- 山崎 千裕
ビジュツのヒミツ①
解剖室のリアル

“遺体からのメッセージ”を受け取る法医学の最前線がココ。
「解剖室」からあらゆるドラマが始まります。

中央の解剖台を中心に、リアルな設備が並びます。
検体に不純物が混じらないように設計されたステンレスの世界。

穴の開いた排水ボードもリアルに再現。
タイル床に見えるクッションマットはもちろん撥水仕様です。

こちらの保冷庫はメーカーから借りた“モックアップ”。

冷気こそ出ませんが、扉も内部の照明もすべて本物と同じです。

これは大道具スタッフが作った特注の照明設備。
実際の「解剖室」を取材したスタッフのこだわりが、
この“虫”対策のための青色光LEDです。

法医学の現場に欠かせないアイテムも、いろいろ準備します。
遺体の損傷部分や臓器の状態などを細かに記載した資料や、
専用のホワイトボード。

骨標本や燭台セットはもちろん、
警察向けのこんな貼り紙も作りました。

配役ごとにまとめられた道具箱。
どの場面でどんな器具を使うのか、
スムーズな収録のため、美術スタッフは毎日事前準備に
相当な労力を使うのでした。
2019年7月
ビジュツのヒミツ②
生活空間のリアル

万木親子が暮らす空間は、生活感に満ちたつくり。

1階のお膳を挟んだ親子の何気ない会話が、
主人公たちの心持ちを想像させます。

料理は、ごく普通のメニュー。
品数も多すぎず、見た目も美しすぎず、
その家庭を表現するアイテムとして重要です。

表情の演技に直接影響するので、
見た目どおりに「おいしい」料理。スタジオに併設された
「消え物室」でスタッフが毎回調理しています。
リハーサル用も含めて同じ料理を3~4セットは用意します。

収録スケジュールに合わせた準備時間のコントロールが
プロの技。この日はお弁当も登場するので大忙しでした。
役者の口に入るものなので、衛生面には特に気を遣っています。

2階にある「朝顔の部屋」も年季の入った木造和室。
大道具スタッフの“汚し”のテクニックで、時の流れが
表現されます。

鴨居も低い万木家では、長身の父親はかがみながら台所へ。
そんなちょっとしたカットが生活感につながります。
軋む床も張り方次第。古い建物のリアルを音で表現できます。

というセットなので、スタッフももちろん「土足厳禁」です。

ビールも、ジャムも、牛乳も。冷蔵庫の中身はリアルな配置。
あらゆるパッケージは、
特殊印刷のスタッフが作ったオリジナルです。
民放ならではの作業ですね。
2019年7月
ビジュツのヒミツ③
ロケーション撮影への出発準備

スタジオセットを上から見ると、無数のロープが南京結びで
パネルを支えている様子が分かります。

これが美術バトンの制御盤。
照明スタッフとコミュニケーションをとって、
慎重に操作します。

演技をするレギュラーセットは強度が必要なのでしっかり建て、
背景として映り込む程度のセットは、
飾り替えにも対応できるようバラしやすく建て込むなど、
大道具スタッフは技を使い分けています。

ロケ撮影になると、
現場での作業はさらにスピードが要求されます。
撮影時間が限られていることが多い上に、
撮影終了後は通常、原状復帰することが必須だからです。

オープンセットを建てないかぎりは、
撮影協力をしてくれる施設の看板を変えるなど、
設定に合わせて「飾る」ことが主流です。

地方行きのバスターミナルも、
テレビジュツの技でつくり出します。

ロケ撮影の前の積み荷チェックは入念に。
「美トラ」に載せ忘れたなんてことがあっては、
取り返しがつかないからです。
2019年7月
デザインのヒミツ

興雲大学・法医学教室、研究室
ー前クールの“月9”『ラジエーションハウス』に続く医療ものですが、法医学ドラマのセットならではの特徴的なところはありますか?
宮川
法医学ドラマを担当するのは初めてだったので、このドラマに決まってからまず、都内の病院の解剖室などに取材に行きました。普通は病院といえば治療をする場所ですよね。ところが法医学研究室は人を治す所ではないので、病院とは雰囲気がまるで違いました。部屋の中に金槌やざる、虫よけテープなど、病院では目にしないものがたくさん置いてあって……。ですから、セットにもそういったもの、ナイフ、バケツ、掃除機などを置きました。
ー特にこだわったデザインは?
メインセットとなる解剖室のクロス形デザインです。四角いスペースの真ん中に大きく、十字架のような形で解剖スペースを設けて、四隅に保冷庫や、隣接する設定の警察官控室などを置きました。クロス形にすることで、単純な四角形の広くてゆるんだ空間では出せない、締まった空気感を作って、同時に、撮影で使えるスペースと映って見える奥行きもとれるようにしています。芝居の動線も、直線でなくぐるりと回り込むことになるので、単調でない深みのある動きになるかな、と。
保冷庫は実際には解剖室の中にありませんが、解剖室の画(え)を引き立てる強いアイテムとして、同じ部屋の中に入れ込みました。また警察官控室は、対角線上から撮ったときに映り込ませて奥行きを見せる役割もあるし、そこからガラス越しに解剖の様子が見えるようにして、警察官と監察医たちとのやりとりの芝居もできるようにしています。

朝顔の部屋
ー朝顔の自宅セットのデザインで意図したものは?
自分の中でのコンセプトは「夏を感じる、懐かしさを覚える家」。そこから、古い家の象徴とも言える縁側と庭を設けて、朝顔と父親が向き合う、メインスペースとなる居間のすぐ後ろに置きました。
それともう一つ、古い民家にあるような回り廊下も、庭を囲む形で取り入れました。古い家屋の雰囲気を出すためと、物理的にも庭越しに回廊のこちら側と向こう側とで会話ができるし、庭からのアングルで回廊を歩くシーンを撮ることもできます。

万木家
ー“懐かしさ”以外に、家のセットでこだわった部分は?
「行方不明になっている母の帰りを待ち続ける家」として、居間に鏡台や籐のタンスを置いて、母親の面影が随所に感じられるようにしています。
朝顔の部屋は、女性が好むような小物の装飾を極力省いて、おしゃれでない、真面目さを強調したセットにしました。ピンクなどの暖色もほとんど使わず、白木を見せて素朴な空気感を出したりもしています。

ーセットデザインにあたって配慮したことは?
主張をしすぎるセットにならないように気を付けました。ドラマのセットは、内容によって独特のデザインを求められることもありますが、このドラマでは、ロケ(撮影)とセット(での収録)の画の境界が明白に出ないように気を配りました。今回、セットはあくまでも空間の一つ、人間模様をしっかりと見せるためのツールだという意識をストッパーにして、やりすぎないようにしました(笑)。
個性を出しすぎない、それでも味わいがある。そういうセットを悩みながらデザインしていくのはこの仕事の苦労でもあり、楽しさでもありますね。
(2019年7月)

スタジオ平面図