はい!美術タイトルです

タイトルデザイン:山形憲一

Vol.6

手書き全盛時代の達人⑤
川崎利治デザイナー

岩崎光明 プロフィール

1982年よりフジテレビタイトルデザイン室でタイトルデザイン、イラストなどの制作を担当。
代表作は「邦ちゃんのやまだかつてないテレビ」「ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!」
「ダウンタウンのごっつええ感じ」「世にも奇妙な物語」など。
この連載では主にアナログ時代のタイトルデザインについてご紹介します。
題名の“美術タイトル”(略称は美タイ)は河田町フジテレビ時代の名称。美術タイトルは報道以外の全番組を担当していました。
報道番組の写植などを制作する“報道タイトル”は報道部にあり、役割は全く違っていました。

創り続ける人 川崎利治

1991 年タイトルデザイン室にて

川崎利治
(かわさきとしはる、サインはRijiKを使用)
1935 年福岡県飯塚市出身。
フジテレビ在籍期間:1962年~2000年

オールラウンドなクリエイター

川崎さんは、まさに「オールラウンドなタイトルデザイナー」と呼ぶにふさわしい人物です。バラエティ番組の親しみやすいポップなロゴから、シリアスなドラマの緊張感を演出する手書きの筆文字、さらにはデッサン力を活かした美しいイラストレーションまで、そのデザインのバリエーションは非常に豊かで、どの作品も独自の魅力にあふれています。
今回は、長年にわたってフジテレビのトップタイトルデザイナーとして活躍し、数多くの視聴者に親しまれてきたタイトルをデザインした川崎利治さんをご紹介します。川崎さんが手掛けた人気番組は数え切れないほどあり、その中でも代表作といえば『北の国から』(1981年)を挙げないわけにはいきません。この倉本聰原作のドラマは、放送開始と同時に大きな話題を呼び、レギュラー放送終了後も2002年まで続編が特別編として放送され、常に高視聴率を誇っていました。
『北の国から』のタイトル文字は、太めの明朝体をベースにしながらも、手書きの柔らかさを取り入れた独特のデザインです。いくつかの案が出されましたが、最終的には川崎さんの手書き文字が採用されました。川崎さんは文字のデザインに強いこだわりを持っており、メインタイトルの制作には既成の写植やフォントを使わず、手書きの温かみと個性を大切にしていました。思い出深い作品について伺った際には、『北の国から』以外にも『夕やけニャンニャン』を挙げてくださいました。『夕やけニャンニャン』は夕方放送の番組としては異例の高視聴率を記録し、番組内で誕生した「おニャン子クラブ」は社会現象を巻き起こすほどの人気を博しました。

1981年

1985年

川崎さんは、『平岩弓枝ドラマシリーズ』のような落ち着いた番組のタイトルを手掛ける一方で、『オールナイトフジ』や『欽ドン!』といった軽快なバラエティ番組のタイトルも数多く担当しており、その柔軟性は特筆すべきものです。どのジャンルの番組においても、その番組が持つ独特の雰囲気やテーマを見事に捉え、視覚的に表現する技術は業界内でも非常に高く評価されていました。川崎さんの多彩な才能と確かな技術力で生み出されたデザインは、フジテレビの番組に彩りを添え、視聴者の心に深く刻まれています。そのデザインは、どの作品も「川崎さんらしさ」を感じさせるものであり、今なお多くの人々に愛され続けています。

1983年

1981年

福岡県出身の川崎さんは、東京の美術大学を受験するため、アルバイトで貯めた2万円を手に上京しました。どのようなアルバイトをされていたのか尋ねたところ、特技である書道やレタリングを活かし、看板作りなどさまざまな仕事を引き受けていたそうです。また、デザインの勉強として、新聞に掲載されている映画のロゴや広告の文字などを徹底的に模写していたことが、現在のスタイルの基礎になっていると語っていました。
川崎さんの達筆ぶりから、小さい頃から書道を習っていたのではないかと想像しましたが、実際には学校の授業で経験した程度とのことでした。やはり生まれ持った才能というものがあるのだと感じさせられます。
1962年、友人の紹介でフジテレビのタイトルデザイン室に入社した際には、すでにテレビタイトル制作に必要な技術を身につけていたそうです。しかし、当時はタイトルデザイン室の仕事だけでは十分な収入を得られず、ブックカバーや雑誌のイラストなど、テレビ以外の仕事も多数手掛けていたといいます。ここでは、テレビ以外の当時の作品もあわせてご紹介します。

「名誉と栄光のためでなく」
ハードカバーの表紙イラスト(1966年)
左のデザインで決定していたが
発売直前に表紙デザインが変更になり
右のシンプルなデザインに描き直した。

美輪明宏主演の映画『黒蜥蜴』のタイトル文字(1968年)
文字の中にイラストがびっしり!

ドラマタイトルデザイン集

300作以上のドラマタイトルを手掛けた川崎さん。その中からいくつかを厳選してご紹介します。台本を深く読み込み、作品ごとに表情を変える豊かなデザインは、まさに川崎さんならではのものです。
通常、タイトルデザインはドラマの台本を読み込み、プロデューサーやディレクターと打ち合わせを行い、数パターンのデザインを作成した上で進められます。しかし、完成イメージに乖離があると、なかなか決定に至らないことも少なくありません。川崎さんのようなベテランデザイナーでも、30回以上書き直しを求められたことがあるそうです。
人の頭の中にあるイメージを形にすることは容易ではありませんが、若いデザイナーの皆さんには、1回や2回の失敗にめげず、粘り強く作品づくりに取り組んでほしいと思います。

1968年

1984年

1986年

1976年

1970年

1983年

1987年

1973年

1981年

1970年

1982年

1975年

1969年

1987年

1986年

1980年

1973年

1972年

1978年

1984年

1983年

1991年

1974年

1983年

1979年

1982年

1970年

1984年

1987年

1979年

初期の受賞作

1969(昭和44)年「日本レタリング年鑑」。ロゴタイプ部門で『スパイ大作戦』銅賞。『人斬り』入選。

外国TV映画『スパイ大作戦』タイトル

映画『人斬り』タイトル

映画『人斬り』のプレスシート

受賞作が掲載された「日本レタリング年鑑1969」(グラフィック社)には、川崎さんの作品に加え、和田誠、篠原榮太、金田全央といった実力派デザイナーたちの名が並びます。当時のレタリング界をリードした彼らの作品が、年鑑を彩っています。

バラエティタイトル

1997年10月から現在まで放送が続いており、
今もエンドロールには川崎さんの名前が確認できます。

1988年

1986年代

1970年

1990年

1982年?

1969年

1988年

1983年

1982年

1988年

1978年

1973年

1980年

1970年代

1975年

1970年

1974年

手書きテロップ

40代以上の方なら、昔の映画放送で本編の前後にこのようなテロップが使われていたのを覚えているかもしれません。このテロップ(『惑星ソラリス』)は私がタイトル室に入ったばかりの頃に川崎さんが手掛けたものです(このときの様子は横でじっくりと見学させていただきました)。資料を読んだあと、映画の雰囲気に合わせた背景を即興で作り、その上にタイトル文字と声優などの名前を筆で書き込んでいきます。わずか1時間足らずで5枚のテロップを完成させるそのスピードと技術には、とても驚かされました。

映画「惑星ソラリス」のテロップ 1982年

この画像は放送画面をキャプチャーしたものです。画素数の低い当時の放送において、テロップの文字や色彩がどのように映るかを確認することは、デザインにおいて欠かせない作業でした。川崎さんの仕事を間近で見て学んだことは、私にとって貴重な財産となりました。

倉本聰作品、平岩弓枝作品

川崎さんは数多くのドラマのタイトルデザインを手掛けており、特に1977年から1985年に放送された『平岩弓枝ドラマシリーズ』のタイトルデザインやタイトルバックのイラストのほとんどを担当しました。また、倉本聰作品でも『あなただけ今晩は』『北の国から』シリーズ、『君は海を見たか』『ライスカレー』などの話題作のデザインを手掛けています。

「かあさんの四季」1972年

「あなただけ今晩は」1975年

1989年、新宿区河田町の
フジテレビタイトルデザイン室での制作風景。

1994年8月3日の東京新聞より

定年後、プロの画家として再スタート

「赤い部屋」20F、油(2010)

「ハシビロコウ」50F、油(2024)

この原稿を書いている今まさに、川崎さんは毎年恒例の個展を銀座で開催中です。取材を行った際には、50号サイズの油絵「ハシビロコウ」がほぼ完成しており、その圧倒的な存在感に引き込まれました。80歳を超えた現在もなお、毎年数々の新作を生み出し続けるそのエネルギーには、ただ感服するばかりです。「芸術は爆発だ!」と表現した人もいますが、川崎さんの芸術は決して消えない赤い炎のように、穏やかでありながら燃え続けている。創り続けることの大切さを、その姿勢から学ぶことができました。

川崎利治さんが手掛けたドラマタイトル
  • アイドルを探せ
  • あなただけ今晩は
  • あの妓ちゃん
  • アルザスの青い空
  • いけない恋人
  • いつも輝いていたあの海
  • エステに通う女たち
  • おゆきさん
  • オレゴンから愛
  • お嫁にいきたい
  • 悪の紋章
  • 悪魔のささやき
  • 陰獣 屋根裏にひそむ脅迫者!
  • 女たちの海峡
  • 女たちの場所
  • 女と女 華やかな春
  • 女と男が愛する時
  • 女の顔
  • 女の気持
  • 女の座
  • 女の暦
  • 青い瞳の聖ライフ
  • 青の伝説
  • 青空にらくがきしよう
  • 赤福のれん
  • 男の家庭科
  • 追いかけたいの!
  • 明日天気にしておくれ
  • かあさんの四季
  • カディスの赤い星
  • ガラスの動物園
  • がんじがらめ
  • キューピットの旅立ち
  • きんらんどんす
  • クセになりそな女たち
  • ことしの牡丹はよいぼたん
  • ご近所の星
  • 影ある旅装
  • 家族の食卓
  • 鎌倉はるなつ
  • 肝っ玉ママとオチャメな天使
  • 球形の荒野
  • 君は海を見たか
  • 湖水祭
  • 五代家の嫁
  • 荒野の流れ者
  • 黒い葬列
  • 殺す風
  • 小春ちゃん
  • 飾りのついた麦わら帽子
  • 風祭
  • 北の国から
  • 北の国から'83 冬
  • 北の国から'84 夏
  • 北の国から'87 初恋
  • 北の国から'89 帰郷
  • 北の国から'92 巣立ち
  • 北の国から'95 秘密
  • さそり座の11 人・一発勝負!
  • さよなら李香蘭
  • シャボン玉ママといたずら天使たち
  • ジュニア・愛の関係
  • スパイ大作戦
  • 砂に消えた女
  • 砂の器
  • 彩の女
  • 新米ママとぼくたちの大戦争
  • 新OL三人旅 十和田、奥入瀬殺人事件
  • 親戚たち
  • 戦国の女たち
  • 早春スケッチブック
  • 白い巨塔(田宮二郎主演)
  • ただいま見習中
  • どくとる親子奮闘記
  • 太陽ともぐら
  • 断崖の女
  • 蝶々さんと息子たち
  • 亭主はつらいよ
  • 泥棒志願
  • 天の花地の星
  • 東海道姉ちゃん仁義
  • 時にはいっしょに
  • 夏の家族
  • なつかしい春が来た
  • にたもの夫婦
  • 熱帯夜
  • ハトに豆鉄砲
  • ピーマン白書
  • ふたりぼっち
  • フレッシュマン
  • ボクたちの宝島
  • ボクの花嫁
  • ポケットの中の死体
  • 花の影
  • 花はとしごろ
  • 花ホテル
  • 花嫁のれん
  • 花祭
  • 春の都会
  • 春らんまん
  • 春一番
  • 春風の中の女
  • 人見おんな物語
  • 人斬り
  • 走れ!おふくろ
  • 冬の恋人
  • 冬化粧の女たち
  • 微笑は風のように
  • 夫婦ずし繁盛記
  • 夫婦の戸籍
  • 変身願望
  • 望郷
  • 本郷菊坂赤門通り
  • 陽はまた昇る
  • 晴海コンパニオン物語
  • Vの悲劇
  • マニゴン・バゴン・タオン
  • ママの涙はハートは色
  • もうれつ大家族
  • 真夜中の匂い
  • 窓を開けますか?
  • 息子の縁談
  • 舞妓はん
  • ゆびきりげんまん
  • 嫁の座
  • 雪やこんこん
  • 勇者マッコード
  • 誘惑
  • 陽気な逃亡
  • ライスカレー
  • 離婚学入門
  • 隣人戦争
  • 若い恋人たち
  • 別れていい友
  • 別れは春のささやき
  • わたしの可愛いひと
  • わたしはカモちゃん