はい!美術タイトルです
タイトルデザイン:岩崎光明
Vol.10
写植テロップ
写植テロップはどう作られていたのか
昨年、『櫻井翔の〇〇ファクトリー』の取材で、若いディレクターに「写植テロップって何ですか?」と聞かれました。
「写真のしくみで文字を印画紙に焼き付けるんだよ」と説明したのですが、いまひとつ伝わっていない様子でした。
今は写真といえばデジタルが当たり前で、フィルムやネガといった言葉も実感しにくい時代です。あらためて考えてみると、自分でも写植テロップの仕組みをきちんと説明できていないことに気づきました。そこで今回は番外編として、写植テロップについて整理してみます。
今回の記事制作にあたり、当時フジテレビの写植業務を担っていた株式会社富士巧芸社と株式会社テレサイトの2社にお話を伺いました。現場を支えてきた方々の声をもとに、テロップ制作の仕事と技術の移り変わりを振り返ります。
手作業でつくる——テロップ制作の現場
富士巧芸社
内宮健社長
お話を伺ったのは、写植制作の流れについてよくご存じの株式会社富士巧芸社・内宮健社長です。さすがに当時の写植オペレーターはすでに在籍していないそうです。
——まずは、当時のテロップ制作について教えてください。
振り返ると、当時のテロップ制作は、現在のようにデータで処理するのではなく、すべて手作業でした。基本となるのは「文字盤」と呼ばれるものです。これを写植機にセットし、一文字ずつフィルムに焼き付けていきます。位置決めや露光時間もすべて手作業で、光を当てる時間によって文字の太さが変わるため、仕上がりは経験や感覚に頼る部分が大きい仕事でした。焼き付けたフィルムは、印画紙に焼き直してテロップとして仕上げます。この工程も暗室で行うため、常に細心の注意が必要でした。
写植文字盤(メインプレート)。
オペレーターは配列を記憶し、
瞬時に位置を合わせて露光を行っていた。
——制作量はどのくらいだったのでしょうか。
最盛期には、1日に300~400枚ほどを納品していました。番組数も多く、常に時間との勝負でした。ロールや歌詞テロップが重なると徹夜になることも珍しくなく、夕方に発注が来て「翌朝仕上げ」といったケースもあり、慌ただしい日々が続いていました。
——印象に残っている出来事はありますか。
夜中にスタッフが取りに来るテロップを会社の入口に貼っておいたことがあったんです。ところが、それが誰かに持っていかれてしまって……。放送前のテロップでしたから、今なら完全にアウトですよね。その日は深夜に会社へ戻り、すべて作り直すことになりました。
——現場ならではの苦労も多かったのでは。
そうですね。
CM関連のロゴ素材は広告代理店から来るため比較的きれいな状態で届きましたが、衣装協力のロゴなどは、ファックスが何度も繰り返された状態で送られてくることもありました。そのままでは使えず、修正や描き直しに時間がかかることも少なくありませんでした。
——変化を感じ始めたのはいつ頃でしたか。
1990年代の終わり頃です。
発注は少しずつ減り始める一方で、「紙ではなくデータでほしい」という要望が増え、フロッピーやMOで納品するようになりました。当時はまだネットで送る時代ではなかったため、データも手渡しでした。やがてMacによる制作に移行し、テロップ制作の環境は大きく変わっていきました。
写植オペレーターの記録ノート。番組ごとのテロップ設定が細かく書き残されている。(富士巧芸社)
テレビのテロップの変遷
写植機を操作する現場の様子(1990年頃)
こうした積み重ねを経て、テロップ制作は少しずつデジタルへと移っていきます。
ここからは、写植機時代からの作業に詳しい株式会社テレサイトの安藤浩道常務のお話をもとに、その変化を見ていきましょう。
写植機を操作する現場の様子(1990年頃)
写植機の時代(1960年代〜1990年代後半)
——当時のテロップ制作について教えてください。
写植機では、まず文字をフィルムに撮影(露光)して現像し、そのフィルムを印画紙に焼き付けて、さらに印画紙を現像することでテロップを仕上げていました。こうした制作は暗室で行われていましたが、2000年代前半には暗室が撤去され、写植機も次第に使われなくなっていきました。
Macによる制作(1990年代後半〜2000年代前半)
——制作はどのように変わっていったのでしょうか。
1990年代後半になると、Macを使ってテロップを作り、プリンターで出力する方法が広がっていきました。板テロップも、編集室のPCで入力する方法に変わりつつありましたが、エンドロールや協力ロゴなどは、2000年代後半まで紙の需要が残っていました。
データ納品へ(1990年代後半〜2010年代前半)
——さらに変化は進みますか。
テロップはフロッピーやMOで納品するなど、データとして扱われるようになっていきました。
制作にはMacだけでなくWindowsも使われ、テロップ専用の機材も使われていました。また、操作のしやすさからIllustratorやPhotoshopで作ったデータを画像として取り込み、納品する方法も一般的でした。
——デジタル化で作業はどう変わりましたか。
テロップが入力出来るPCが編集室に設置され、ADや編集アシスタントがその場で入力することが当たり前になりました。それにより編集用テロップの発注は減少していきましたが、代わりに局内で生放送に対応するテロップの入力や送出の需要が拡大しました。
受け継がれていくもの——テロップ制作のこれまでとこれから
写植機による手作業の時代から、Mac による制作、そしてデータ納品へ。テロップ制作は大きな変化を経て、現在の形へとつながっています。デジタル化の流れの中で積み重ねられてきた現場の経験や工夫は、決して短い時間で築かれたものではありません。それぞれの時代の現場で育まれてきた試行錯誤が、今の制作を支えています。そうした知恵や技術は、作り方が変わった今も、形を変えながら受け継がれ続けています。
写植テロップ制作の必需品
写植テロップ制作に使われた道具類。
定規や級数表など、
正確な配置とサイズ管理を支えた。
写研の写真植字見本帳
写植級数表
写植ピッチ表
テロップ制作定規
写植から仕上げまで
テロップができるまで
写植機では、まず文字盤の文字をフィルムに露光し、現像処理を行います。これはカメラで撮影したフィルムを現像するのと同じ仕組みです。
現像されたフィルムは、文字の部分が黒く、それ以外は透明な状態になります。このフィルムを暗室に持ち込み、引き伸ばし機で印画紙に焼き付けていきます。焼き付け作業では、テロップ制作定規をガイドにしながら、安全フレームに収まるよう位置を丁寧に合わせて露光します。
露光後に印画紙を現像すると、光が当たった部分は黒くなり、光が当たらなかった文字の部分が白く浮かび上がります。
その後、乾燥・裁断を経て、スーパーテロップが完成します。
テロップの制作工程。
フィルムを印画紙に焼き付け、
現像・乾燥を経て完成する。
完成したテロップ
ロールテロップができるまで
ロールテロップの制作工程。
複数のフィルムを分割して作成し、
印画紙に焼き付けて仕上げる。
このようにして1枚ごとのテロップを作成していましたが、文字数が多く画面を縦に流れるロールテロップの場合は、また別の工程が必要になります。写植機では、1枚あたり約30センチほどのフィルムに収まる分量しか文字を打つことができません。そのため、文字数が多いロールテロップは、いくつかのフィルムに分けて作られていました。
分割して作成したフィルムは、暗室で巻紙状の印画紙に順に露光し、現像・乾燥を経て1本のロールテロップとして仕上げていきます。とにかく手間も時間もかかる、根気のいる仕事でした。
現像とは、フィルムや印画紙に写り込んだ目には見えない像(潜像)を、薬品の作用によって目に見える形として浮かび上がらせる作業のことです。
フィルムや印画紙は、光が当たっただけではすぐに画像として見えるわけではなく、その段階ではまだ像の情報が記録されているだけの状態です。これを現像液に浸すことで、光が当たった部分に化学反応が起こり、像が徐々に現れてきます。
その後、定着液に入れることで、それ以上変化しないように画像を固定します。これによって、光に当たっても像が消えたり変化したりしない安定した状態になります。
この一連の工程によって、フィルムや印画紙に記録された像が、初めて写真や文字としてはっきりと確認できるようになります。
協力
https://www.fujikoogei.co.jp/
[株式会社富士巧芸社]
1959年の創業以来、写植によるテロップ制作からテレビ業界を支えてきた映像プロダクションです。時代の変化に合わせてデジタル編集や字幕制作、ポストプロダクション業務へと領域を広げ、現在も数多くのテレビ番組や映像制作を支える存在として活動を続けています。
https://www.telesight.co.jp/
[株式会社テレサイト]
テレビ番組やイベントにおけるCGデザインや映像制作、テロップ・字幕制作を手がける映像制作会社です。放送現場で培った技術と表現力をもとに番組づくりを支えるとともに、制作スタッフやクリエイターの派遣・マネジメントも行い、幅広く放送の現場を支えています。