あらすじ
<第1回> <第2回> <第3回>

<第1回> 「彼女が出て行った朝僕は彼らと出会った」
 小林晋平(織田裕二)は「銀河ツーリスト」に勤務する31歳。そして同期の中で一番最後にようやく主任になったばかり。  幼い頃観た『2001年宇宙の旅』に夢をはせ、旅行会社に就職してみたものの、本日の行き先は、修学旅行の添乗員のフォローで巡った都内の名所・・・・・・と現実は今だ小林の夢に追いついていない。

 そして1週間前、同棲していた彼女が突然出ていってしまう。

 トラブル続きで夢のトラベルどころじゃない! さらに追い討ちをかけるように、父からは強制的に見合いをセッティングされてしまう。  どうしたらいい? でも見合いは気が向かず・・・・・・そんな思いで歩いていたところ、通りかかった球場。 時間つぶしのつもりで座ったスタンドで、小林はまたも一球のファウルボールが引き起こした新たなトラブルに遭遇する。

小林「わっ!」

   ボールが売り子を直撃する。
   彼女が背負っていた生ビールのタンクが割れて、ビールが勢い良く吹き出し小林に引っかかる。
   「なにするんですか!」と口を開きかけた時、別の客・田中武徳(28)の怒声が聞こえる。
田中「なにしやがんだコノ野郎!おいおい!スーツにビールかかっちまったじゃねえか!」
見ると田中はビールの水たまりの中、立てない状態で怒っている。
小林「・・・・・・」
田中「ヘイ! 女! シカトすんなよ女!」
売り子「すいませんでした」
田中「すいませんじゃねえよバカ! 売り子! オーダーメードだぞコノ野郎!」
売り子「・・・・・・(半泣き)弁償します」
田中「弁償しますじゃねえよバカ! おめえの時給じゃ10年かかっても買えねえんだよ!」
売り子「・・・・・・(泣く)えへ〜〜〜ん」
田中「泣くんじゃねえよバカ! だいたい誰だよ! こんな真冬にビールなんか飲むバカは」
小林「・・・・・・あの」
鈴木「私です」
   見ると、先程ビールを注文した客・鈴木善行(30)と連れの女がびしょ濡れで座っていた。
小林「・・・・・・」
鈴木「あの、彼女カゼ引いちゃうんで、何か拭く物ください」
田中「うるせえ! テメエの女よりオレのスーツの方が高ぇんだよ!」
女「なにそれ、むかつく!」
鈴木「じゃあ、そちらのスーツ問題が解決したら彼女に拭く物を・・・・・・」
女「ちょっとぉ」
鈴木「や、やっぱり、まず彼女に拭く物を」
田中「オレの方が濡れてんだよ」
鈴木「そうですよねー」
女「なんですぐ折れるの?!」
鈴木「しょうがないだろ、あの人のほうが濡れてるんだから」
女「どうせアタシは安いわよ!」
鈴木「高い、高いって!」
田中「安いんだよ!」
鈴木「そこがいいんだよ!・・・・・・あ、ウソウソ!」
田中「早く拭くもんくれよ!」
売り子「私だってボール当たったもん!  痛かったもん!」
田中「・・・・・・あ?」
鈴木「じゃあ痛み分けということで、野球を観ましょう」
田中「責任者呼んで来い!」
小林「(旗を振って)みなさん! みなさーん!」
田中「なんだよ!」
小林「あの、とりあえずこれ止めませんか?」
   タンクから出続けていたビールが、やっと止まる。
小林「・・・・・・止まりましたー、ハハハ。あ、タオル使います?」
   小林、桜木にもらったタオルを差し出す。
田中「アンタ、いちばん濡れてるじゃん」
小林「あー・・・・・・」

 

吹き出したビールをまともに浴びてしまった小林は、同じようにびしょぬれになってしまった鈴木善行(ユースケ・サンタマリア)、田中武徳(市川染五郎)という二人の男と出会う。 得意先であるラーメン屋の娘との結婚話に悩む鈴木と一見エリートに見えて実は問題を抱えている田中。 小林はこの偶然出会った2人に不思議な共感を覚えた・・・・・・。

小林「あ、どうも、あの、小林です。名刺濡らしちゃって、なんつってアハハハ・・・・・・えーと」
田中「田中でいいッスよ」
小林「あ、いいんだ」
田中「ナメられちゃいけないと思ってさ。なんか普通じゃん田中ってさあ、ナメられっから さあ。アフター5は仕事も田中も忘れるようにしてんだ。でもまあ5時前だし、小林も鈴木も似たようなもんだから、今日は田中でいいッスよ」 鈴木「どちらにお勤めですか?」
田中「代理店です」
小林「わ、奇遇ですねえ、ボクも代理店なんですよ」
田中「どちら? ウチ、大日本広告だけど」
小林「あ、銀ツーです」
田中「電通?」
小林「ウソです、銀ツリ、銀河ツーリスト・・・・・・ 広告じゃなくて、旅行代理店の方でした、すいません」
田中「謝んなくていいッスよ。代理店なんて明日この世から消えても誰も困んないんだから。 勝手に旅行すりゃいいし宣伝すりゃいいし。で? オタクは何の代理店?」
鈴木「いや、ボクは食品メーカーの営業です。皆さんの食卓に並ぶメンマを売っています。ボクがこの世から消えたらメンマが食べられなくて困ります」 田中「(小林に)仕事楽しいッスか?」
鈴木「なんで無視すんの?」
田中「メンマは食卓に並ばないから」
小林「楽しいって?」
田中「だって、いろんな所行けるし」
小林「ああ、楽しいと思ったことはないなあ、昼間も修学旅行の引率で東京見物だったし」
鈴木「ショボいなあ」 小林「いきなりトラブル処理ですよ、今日から主任だってのに」
田中「そうなの、じゃ、おめでとうだ」
小林「いやあ相撲で言ったら霧島ですよ(笑)
」 田中「相撲で言うなよ」
小林「それに、どっちみち、ホントに行きたい所には行かせて貰えないし」
鈴木「どこ?」
小林「・・・・・・いいじゃないッスか」
田中「宇宙だったりしてな」
鈴木「ハハハハ、2001年だけに」
小林「ハハハ、言われちゃった」
鈴木・田中?!」
小林「小学生の頃にキューブリックの『2001年宇宙の旅』観てね、漠然と2001年になったら宇宙に行けると思っちゃったんですよ」
鈴木「それで?旅行代理店に就職したの?」
小林「でも、宇宙行けないし、キューブリック死んじゃうし、親は結婚しろ結婚しろってうるさいし、踏んだり蹴ったりッスよ」
田中「・・・・・・スケール大きいねぇ」
小林「そうですか?」 鈴木「って言うかバカじゃないの?! なに、本気で宇宙行けると思ってるわけじゃないよね?」 小林「20代の頃は真面目に働けば行けると思ってましたね。上司も連れてってやるって言うし、だんだんウソだって分かりましたけど」 鈴木「おめでたい人だな」 田中「モテようと思ってんじゃない? そーいうなに? モラトリアム? 少年の夢を捨て切れない男みたいな自己演出でさ。どうせ女騙すネタなんでしょ?」
鈴木「オレまさにそれ。野球選手になりたかったんスよ。だから女連れてナイター観て、終電なくなるまで夢語って、そのままホテル行こうと思ってたのに、なんでここにいるんだ?」
小林「じゃあ・・・・・・」
田中「田中でいいっつの」
小林「田中は」 田中「呼び捨てかよ」
小林「田中さんは仕事、楽しいですか?」
田中「楽しいねぇ。子供の頃、野球選手になりたいってヤツの大半は大学生になると広告マンに憧れるんだよ」 鈴木「うわぁ、それもオレ!」
田中「結局さ、『何になりたいか』じゃなくて『何になれるか』だと、オレなんか思うわけ。実際、ギリギリんとこで仕事してりゃ夢なんか見る暇ないし、充実してれば夢なんて必要ないよ。あ、だけどモテるよ」
小林「・・・・・・」
鈴木「話、終わっちゃったじゃないですか!」

そして思い出したように小林が「今日は見合いのため親父が田舎からでてきている」と話すと、鈴木と田中も小林の見合い相手にがぜん興味を抱き同行することを勝手に決めたのだ。

 小林は「最悪の日」の次の現場へと向かおうとしている。鈴木、田中二人の真新しい友人!?と共に・・・。

<第2回> 「そして僕らは変わり始めていた」
 林晋平(織田裕二)の部屋に突然、両親が晋平の見合い相手で幼なじみの君江(京野ことみ)を連れてやってきた。だが、すでに部屋には、鈴木(ユースケ・サンタマリア)を捜して乗り込んできていた鈴木の彼女の光子(須藤理彩)の姿が・・・。「不謹慎だ!これが東京のスタイルか!」と父・学(山本圭)は晋平が光子を一緒に暮らしていると勘違いし攻め立る。そのあまりの勢いに晋平が説明するタイミングさえ見つけられないでいたところ、朝御飯を買いにコンビニエンスストアに出かけていた鈴木がひよっこりと戻ってきてくれた。

 そして、誤解だらけではじまった朝イチの修羅場は、なぜか光子の自宅であるラーメン屋「チョロ松」に場所を移して話し合われる展開になった。学は、光子の父・佐助(岩松了)とは初対面にも関わらず、「熱海の旅館を経営してまして・・・親の責任としては大学まで入れ、30までの期限付きで東京に出したのに・・・」とひとしきり小林について愚痴ると、佐助に小林の見張り役を頼むと言い残し、東京駅へとむかった。

 見送りにいった小林は、そこで初めて君江が料理学校に入学し、東京に住むことになったことを知らされるのだった。「なにかあったら電話して・・・・・・」小林は何とかそれだけ言うことができた。

 そんな事が小林の心境に変化を及ぼしたのか、小林はその後、8年もつきあっていたのに突然出ていってしまった橘亜希子(中島 朋子)にもう一度会うために、彼女の勤める映画会社へと足を向けていた・・・。だが、「戻ってきてほしいっていいにきた?」といきなり切り出され、結局は何一つ自分の気持ちを伝えられないまま、すごすごと帰ってきてしまうのだった。  その夜、小林は例のビアレストランに行き、鈴木と会った。

 鈴木はまたも光子と喧嘩したのかひどく落ち込んでいる様子だ。とそこへ、いつものようにハイテションな田中(市川染五郎)も姿を現した。田中は、鈴木の落ち込みの原因が、リアリティを増しつつある結婚のことだと知ると、「メンマの営業からラーメン屋!ある意味出世コースじゃん!」「そんなの悩んでるうちにはいらねぇ!贅沢、贅沢病」としけた話しに酒がまずくなるとばかりに言い放ったのだ。

 だが、これを聞いた小林は思わず声を荒げて田中にくってかかった。「カッコ悪い人間にカッコいい生き方押し付けるんじゃないよ!カッコ悪くて何が悪 いョっ!」と言いながら小林は、どこかで開き直ってるだけのような自分を見つけもしたが、結局最後まで思いのたけをぶつけていた。

 小林は亜希子に電話を入れて会う約束をとりつけていた。 だがその前に、小林には契約を打ち切られた得意先を訪問するという何とも気の重 い仕事が課せられていたのだ。応接室で、以前割烹で接待した担当者を前に、とにかく土下座する小林。その時、小林の携帯に田中から電話が。「ちゃんと会社いってるかと思って電話してやったんだよ・・・」田中はとりとめもない事を話しはじめた。「君江ちゃん可愛かったねぇ・・・あのあと俺さぁ・・・・・・」。 今のこの状態を説明することもできず、「折り返し電話するから」晋平は、すぐさま電話を切ってしまった。 ーーその後、晋平は田中に会うために『大日本広告』を訪れていた。 だが、エントランスを入ってすぐ、晋平が見たものは、なんと!担架で運ばれて行く田中の姿だった・・・。 「ったく田中のお騒がせ野郎は・・・」「頭からいったらしいよ」 「自殺ってこと・・・?」。社員たちのささやく声を耳にしながら、晋平はその時始めて田中が仕事で大きなミスを犯していたことを知ったのだった。

<第3回> 「僕らの再スタート」
 社内で自殺騒動をおこし、救急車で運ばれる田中(市川染五郎)を小林(織田裕二)は必死で追いかけた。桜木(渡辺いっけい)と得意先に再びプレゼンに行くことも、橘(中島朋子)との待ち合わせの約束もすっとばし、とにかくタクシーで救急車を追ったのだ。

 途中、鈴木(ユースケ・サンタマリア)にも田中の緊急事態を伝える電話をいれた。だが結局ヘトヘトになって到着した小林を病院で迎えたのは、先に到着していた鈴木であり、予想に反し自分の足で元気に歩いてきた田中本人だった・・・。 「・・・待ってょ、どういうこと?飛び降りたでしょ・・・?」 「うん、3針縫った」 「何それ!こっちは死んだかと思って」 「死んだ方がよかったってか」。

 その後、三人は例によっていつもの『ジャガークラブ』にむかった。 田中は、ポイント達成のあかつきにもらえるというネーム入りのジョッキを出されたことに、まずは「なんか常連みたいで嫌だ」と文句を付けると、今回の自殺の原因が、この『ジャガービール』社との仕事のトラブルにあったのだと二人に打ち明けた。  それから田中は、どっちでもいいから今晩泊めて欲しいと言い出した。「帰った方がいいよ・・・」と小林はいったが、「親と同居だからめんどくせえんだよ、いろいろ」と田中は譲らない。

 だが、この時再び傷口が流血しはじめた田中は病院へと逆戻り。結局だれの世話になることもなく、それからをしばらく病院ですごすことになるのだった。  その後、小林は得意先へのフォローに、橘への謝罪と走り回った。もちろん田中への見舞いも出かけた。そしてある時偶然にも、著名でテレビにもよく登場しているらしい田中の母・麻美子(大楠道代)と出会い、あまり友達がいないらしいこと、根っからのネガティブ人間であること、そして家ではこもってばかりで、ろくに父親とは会話もしないという田中の様子を聞かされたのだった。 「父親とは三年くらい、口を聞いてないんじゃないかしら・・・」 「ホントですか?」。小林は田中の意外な一面に正直驚いてしまった。

 それから数日後、小林と鈴木は田中家にお邪魔するはめになった。

 田中の退院祝いに懲りずに行った『ジャガークラブ』に、田中が携帯を忘れ、それを届けるためだった。会社にはここのところ出社していないらしい。見るからに厳格そうな父・義宗(竜雷太)とその父の事業を継ぐという兄・一臣(谷原章介)を前に二人が緊張の面持ちで座っていたところ、に、丁度田中が戻ってきた。 「武徳、お前会社に行ってないんだって?・・・じゃあ昨日も今日もどこ行ってたんだよ」。小林と鈴木が居るといないに関係なく兄の追及が始まった!「私をなめるんじゃないっ!」続けざま義宗の罵声が飛ぶ。「私や彼女や一臣の立場が悪くなるように、わざと騒ぎを越こしてるんだろう、違うか!」。その剣幕は、家族の誰の目にも小林、鈴木の存在は入ってないかのようである。だが、その時だった、「旅行行きませんか」小林が割ってはいったのだ。しかし、それは割って入るというにはあまりに唐突すぎる「旅行いきませんか」発言だった・・・。その場では一瞬にしてその発言は書き消されてしまった。だが数日後、小林は麻美子のもとを訪れ、あらためて家族旅行のプレゼンをすると、テコでも動きそうにない父親を旅行にいかせる作戦を伝授、田中くんに今必要な家族の時を作るチャンスを強引に提供するのだった。目的地は・・・・・・

 おそらく無理を聞いてくれるはずの熱海の老舗旅館。小林の実家だった。

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