落語びより
第18回「思い出めぐるふるさと」
8月10日放送
 今回も鹿児島ロケの映像だ。通常「実景映像」というのは、せいぜい5秒〜10秒くらいでカットを変えて色々な風景を様々なアングルで紹介してゆく。しかし色々な映像の種類があるせいで、逆に単なる環境映像になってしまい、結局印象に残らなかったりすることも多い。そこでこの番組では、1カットでできるだけ長く見ることができる映像、飽きずにずっと見ていたいと思える趣のある映像というものを目指して、景色が「フィラー(埋め草)」にならないための打開策のひとつとしている。充分に吟味したカメラアングルで、対象物の微妙な変化をしっかりとした視点をもって描写したい。単なる景色でも、そこの何を見て欲しいとか、その画で何を感じて欲しいとか、自己満足でも構わないので、なるべく考えながら撮りたいと思っている。だから1カット撮るのに結構迷ったりして時間がかかってしまう。しかし日程が限られる地方ロケで、このポリシーを貫くって結構つらいのかもしれない。そう思いつつ、2泊3日の鹿児島へ。

 2泊3日とはいえ、3日目は朝イチに東京に戻って編集しなければいけなかったので、僕に許された撮影時間は実質1日半。佐多岬には行こうと決めていた。指宿の単線電車も撮りたかった。でもこの2つはちょうど鹿児島湾を挟んで正反対にある。海を越えられれば距離的には目と鼻の先なのだが、残念ながらその経路のフェリーがない。陸路だと車で鹿児島湾に沿ってぐるりと県を一周するイメージだ。しかも最初に到着する鹿児島空港はちょうどその中心にある。どう経路を組んでも効率が悪い。とりあえず行けるところまで頑張ろう。最初は鹿児島空港からレンタカーで大隅半島を佐多岬へ向けて南下することに。

 まずは国分市の海岸沿いに、まるで人工芝のように青々と敷き詰まる田んぼや段々畑に目を奪われた。日本の南国田舎ならではの景色だ。田んぼと海の間の堤防で、もくもくと釣りをするおじさんの後姿を撮影した。時間の流れを感じない、都会の喧騒を忘れることができる光景だ。
 さらに南下すると桜島の玄関口の垂水(たるみず)市だ。ここには特攻兵の生き残りの漁師の姿を描いた映画「ホタル」の撮影場所となった海潟(かいがた)漁港がある。連なって停留する漁船のたたずまいが内海の漁港独特の風景を作り出し、どこか郷愁をそそる。ほとんど波の立たない水面にのって少しだけ揺れ動く漁船の姿は、ちょっと淋しげにも見える。
 さらにその少し南に誰もいない海岸があった。そこでサンセットを狙うことに。海に沈むオレンジの太陽と煌く水面、紫色のグラデーションに包まれる空、本当に美しい。ふと、この場所にいるのが自分ひとりかと思い、そんな自分にまで酔いしれる。我ながら自意識過剰だ。ここで日没、撮影終了。一路、佐多岬へ。

 翌日、早朝から佐多岬を撮影。その後神川(かみかわ)大滝や途中の海岸線、杉林を撮影しながら北上、鹿児島市内へ向う。垂水から鹿児島市内まではフェリーが出ている。途中の看板には「待ち時間なし!24時間運行!!」と大仰に書いてあった。これはラッキーだ。時間節約と喜び勇んで受付ゲートに入った。しかしそこには「只今夏季ダイヤで運行しています」という小さな張り紙とともに、1時間2本、最終便は23時と記したの時刻表が。いくら夏季ダイヤといえども随分と違うものだ。まあ、世の中そんなものだろう。
 結局30分近く待つ羽目になった。
 フェリーに乗ったほうが時間の節約になったかどうかはともかく、フェリーから眺める桜島はなかなか良かった。まあこれで看板事件は水に流そう。

 鹿児島市内で市電や天文館通りを撮影。日曜日とあってすごい人だ。市電も車とともに渋滞にはまっていて、幾つも連なって駅に入ってくる。垂水でも佐多岬でも、実はほとんど人がいなっかったので、何か久々に人ごみってヤツに出会った、って昨日の朝まで東京にいたくせに、すぐにその土地のムードに影響されるのが昔からの悪いクセだ。
 この後撮影しながら指宿に向うも、みるみる日が落ちてきた。でもそのおかげで、単線の踏み切りや線路子供たちが家の軒先で遊んでいる姿などが、とても情緒的に撮影できた。狙っていたわけではないのだが、これもまたロケの醍醐味だろう。指宿についた頃にちょうど日没。これでロケは終了!

 井上陽水の「少年時代」の映像は、今回のロケの総集編的な仕上がりになった。本当は冒頭にも言ったように、力のある映像を1カットで構成したかったのだが。
 1カットの時間は「感じてもらうために必要な時間」だ。だから見ていて長いな、って感じられたら、僕の「負け」だ。でも実を言うと、自分が完全に「勝った!」と思える1カット映像なんて、情けないことに、未だほとんどない。
ディレクター 

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