あらすじ
<第7回> <第8回> <第9回>

<第7回> 「かぐや姫」
 満月の夜。蘆屋道三(竹中直人)が月を見ていると、美しい女(りょう)が一人で小さな塚に手を合わせていた。女が昔話を始める。時は平安時代。都のはずれに竹取の翁(谷啓)とおうな(田根楽子)が暮らしていた。野山で竹を取り、いろいろな道具を作っていた。
 ある満月の夜。翁は竹林の奥にキラキラ光るものを見る。近づくと若い美しい女(りょう)が横たわり、指先から砂金がこぼれていた。子供がいない翁は、身寄りのない娘を連れ帰った。娘の美しさは例えようもなく、都の貴族たちの評判になった。女は、「なよたけのかぐや姫」と呼ばれた。
 車持の皇子(木下ほうか)に大伴の大納言(皆川猿時)、阿部の右大臣(石井康太)。裕福な貴族たちが反物や砂金などの土産を持って翁の家を訪ね、口説こうとするが、かぐや姫は応じない。翁は高名な陰陽師の蘆屋道満(竹中直人)に相談した。道満は、「貴族に無理難題を与えて、かなえた者のところに嫁ぐ」と言うように助言する。
 車持の皇子には、東海の蓬莱山にある、黄金の茎に白い玉をつけた枝を持って来るよう求めた。阿部の右大臣には、唐の国にある火に入れても燃えない火鼠の衣。大伴の大納言には、龍の首についている五色に光る玉だった。
 時の帝(谷原章介)は一人で狩りに行ったある日、竹林でかすかな鈴の音とともに、美しい女を見た。かぐや姫だった。帝が後を追うと姫は消え、後に鈴が残った。
 難題を与えられた三人は悲惨な目にあった。珍品は手に入らず、一人は破産、一人は恥じて出家、運の悪い一人は命を落とした。しかし、かぐや姫は冷たく笑うだけ。夜になると一人で月を見ていた。かぐや姫は化生の者だという噂が都にたった。
 帝はかぐや姫が竹林に鈴を残した女かと思い、訪ねてくる。そしてそのまま姫の部屋に泊まり続けた。帝がかぐや姫に心を奪われたのは、美しいだけでなく、その孤独な姿にあった。帝もまた、最高位にある者として孤独だった。二人は、たがいに心が通いあうのを感じた。しかし、かぐや姫にとって、帝は敵だった。
 かぐや姫の正体は、朝廷が平安京を築くまでそこに住んでいて、朝廷に滅ぼされた土蜘蛛一族の姫だった。姫も一度は死んだ身だが、復讐のために再びこの世に姿を現わしていた。都の話題になって帝が通うようにするのも、計算のうえだったのだ。
 夜中に、かつての側近の亡霊と相談する姿をおうなが不審に思うと、おうなを殺した。翁が気づくと、翁も殺した。朝廷軍を土蜘蛛一族の砦まで手引きしたのは翁だったのだ。 帝に請われてかぐや姫は御所に上る。姫を抱きしめる帝。かぐや姫は懐剣をかまえて、自らが土蜘蛛の娘であると名乗る。土蜘蛛の兵士が四人現れ、異変に気づいた二十人以上の帝の兵士と戦った。かぐや姫の姫の顔が、土蜘蛛の姫の顔に変わり、「満月の夜に帝を殺せば、一族はよみがえる」と叫んだ。
 土蜘蛛の兵士は強い。斬られた帝の兵は青い炎を放って息絶える。ついにかぐや姫は帝を追い詰めた。帝は、「そなたが民を思う心は、私のものと同じ。私を殺せ」と覚悟を決める。だが、姫には殺せない。再びかぐや姫の美しい顔に戻っている。見かねて側近が帝を刺し、倒れる帝が青い炎を放った。
 それを見た姫が胸に刺さった刀を抜き、傷口に手をかざす。炎が消え、帝が息を吹き返した。見つめ合うかぐや姫と帝。姫は、「この世のことは、すべて一瞬の夢幻」と言い、光り輝きながらゆっくりと天に昇った。土蜘蛛の兵たちは消え、帝の兵も生き返った。
 話が終ると、道三の前の女の姿も消え、満月だけが輝いていた。

<第8回> 「雨月物語」
 富裕な綿問屋「叶屋」の跡取り息子・正太郎(椎名桔平)と、吉備津神社の神官・香央造酒の磯良(富田靖子)との縁談が持ち上がった。神社に伝わる釜で行った吉凶の占いでは凶と出た。めでたい時には湯を沸かした釜が大きな音で鳴るのに、秋の虫が鳴くほどにも音を立てなかったのだ。
 それでも正太郎は磯良を嫁にした。磯良は誰よりも早く起き、誰よりも遅く床につき、身を粉にして働いて、正太郎の父母にも尽くした。だが、二人は幸せだったかどうか。
 陰陽師・蘆屋道三(竹中直人)はある夕暮れに、美しい女(富田靖子)から頼み事をされる。近くの祠から、妹の縁談の吉凶を占うための釜を持って来て欲しいという。祠の戸口には護符が貼られていた。中には疲れきった正太郎がいた。「自分は死霊に取り付かれている。戸を開けないで」と懇願する正太郎が、戸の外の道三に身の上話を始めた。
 女房としての磯良には欠点がなかった。だが正太郎は、そんな磯良に息が詰まる思いがした。男とは何とも勝手なものである。正太郎はやがてお春(佐藤江梨子)という愛人を作り、別宅に囲った。やがてそのことを磯良が知った。
 別宅の前まで来た磯良は出てきた正太郎に、「自分に至らぬことがあれば直す」と言うのだが、正太郎は取り合わない。この日から、正太郎は別宅でお春と暮らした。磯良は正太郎の親には内緒で、金や暮らしに必要なものを届けた。
 そんなある日、正太郎が出かけた間に磯良が別宅に乗り込んだ。磯良は短刀を取り出して、「正太郎と別れてくれなければここで自害する」と言った。お春は日ごろから心づかいをしてくれる磯良の命がけの願いには逆らえない。うなづくお春に、磯良は大金を与えた。この日からお春は姿を消した。
 「叶屋」に戻った正太郎と磯良の間に、静かな日々が戻った。だが正太郎の心はどこかうわの空である。そしてある日、正太郎は、川の土手で客を引く夜鷹に身を落としたお春と再会する。お春の口から、磯良が因果を含めてお春に身を引かせたことを知った。
 正太郎は磯良にお春と会ったことを話し、これまでのことを詫びるとともに、お春に金をやって故郷に返すのが一番いいことだ、と言う。困惑しながらも磯良は店の金を持ち出して正太郎に渡す。ところが正太郎は金を受け取ると磯良に手鎖をかけ、突き飛ばしてお春と姿を消した。悔しさのあまり、磯良は自害して果てた。
 磯良の復讐が始まった。旅の途中でお春は池に引き込まれて溺れ死ぬ。荒れ野の墓地にお春を葬る正太郎。気がつくと隣の墓の前で、美しい女が手を合わせている。「仕えている奥様が夫を亡くして病に伏せっているので、慰めて欲しい」との申し出に、正太郎は好き心を起こして、とある草庵を訪れる。そこにいたのは死霊となった磯良だった。
 江戸に戻った正太郎は、「死霊がついている」と老修験者に言われた。修験者は、「戸口に護符を貼った祠に四十九日篭れば助かる」と言う。夜毎に磯良の死霊が現れるが耐えて、道三が会ったのが四十九日目だった。
 また磯良が現れた。正太郎は磯良にこれまでのことを詫びる。すると磯良は笑顔になって光に包まれ、昇天する。夜も明けた。「助かった」と思う正太郎の前にお春が現れる。道三から見れば磯良の死霊だが、正太郎は戸を開けてしまう。とたんに正太郎の悲鳴。
 道三が祠に飛び込むと、正太郎の姿はどこにもない。ただ、釜の中に正太郎のもとどりだけが残されていた。釜の中で瞬時に煮られ、蒸発してしまったのだろう。明けたはずの空はまだ暗い。やがて釜が大きな音で鳴り出す。「吉報を告げております」と、磯良の霊が笑いながら言った。

<第9回> 「ゴースト」
 小間物屋の喜左衛門(仲村トオル)が、女房はつ(松下由樹)に先立たれて五年。商いも順調、男っぷりも良く三十七歳の喜左衛門は時々見合いをするが、なかなか決まらない。今回の相手は、おもん(三浦理恵子)という色っぽい女だ。
 喜左衛門が帰宅すると、はつの幽霊が出た。喜左衛門ははつに、「五回も見合いして、先方に断られた。お前が邪魔しているのだ」と文句を言う。はつは見合い相手の欠点を並べ、「あんたの不幸の火種を払ってやっているの」と、悪びれない。はつの姿が喜左衛門にしか見えないことを除けば、普通の夫婦喧嘩のようでもある。
 おもんが喜左衛門を誘惑し、二人は出会い茶屋に行く。おもんには忠吉(渡辺哲)というチンピラの情夫がいた。店に押しかけた忠吉は、「人の女房に手を出したな。穏便に済ませたかったら五十両出せ」と凄む。
 金を出そうと思った喜左衛門だが、仏壇に置かれたはつの遺品の簪(かんざし)を見ていて気が変わった。二人が若くて貧しかった頃に喜左衛門がはつに与えたものだ。喜左衛門は忠吉に、亡き女房と汗水たらして小さな店を守り立てた話をし、「女房に申し訳なくて、金は出せない」ときっぱりと断った。
 忠吉が懐から刃物を出した。奉公人が息を潜めるなかで、まさ(池脇千鶴)という女中だけは、何とか主人を助けようと、金だらいを持って忠吉の背後に回る。まさは喜左衛門を慕っていた。
 異変が起こった。店の中だけが地震のように激しく揺れ、棚の上の売り物の簪が次々と落ち、まるで矢のように室内を飛んで忠吉の顔をかすめ、おもんの着物の袖や裾を、蝶の標本を作るように壁に止める。おもんは恐怖に凍りついた。はつの力である。忠吉とおもんは、ほうほうのていで逃げ出した。
 この事件を機に、喜左衛門はまさのことを気にするようになった。そのまさが、親類の店で人手が足りなくなったから暇をとりたいと言う。喜左衛門はまさに、「この店の、おかみさんになる人についてだが」と話し始める。派手なのはいけない。人柄も質素で、働くのが好き・・・。いろいろと条件をあげて、「お前はどうかな」と言った。「私でいいんですか」と喜ぶまさである。
 やっといい相手がみつかった喜左衛門だが、心配なのははつのことだ。いつもはつの仏壇に手を合わせていたまさだから、これまでとは違うはずで、事実、はつの幽霊がこのところ姿を現わさない。だが最近まさの周囲に、はつの仕業と思われる異変もあった。
 悩んだ喜左衛門は、陰陽師の蘆屋道三(竹中直人)に相談する。はつの霊を呼び出してゆっくり話をし、本心を確かめたいというのが喜左衛門の本音だった。道三は、「死んだ人間が成仏出来ないのは本人のせいだけでなく、残された人間が心の中で袖を引っ張っていることもある。自分の気持ちに整理をつけること」と道三は言った。
 はつの簪と道三から貰ったお札の前で喜左衛門は、「頼む。成仏してくれ」と言った。それからまさと二人だけで婚礼を挙げた。その夜、二人の寝室にはつの幽霊が出た。簪で眠っているまさの首筋を刺そうとする。「そんなにいやか」とはつに聞く喜左衛門。「いやだよ」とはつ。喜左衛門は、「わかった。じゃ、俺を殺せ」と言う。「お前が死んだ後は余生だと思っていた」。
 覚悟を決めて目を閉じる喜左衛門。何度も迷いながら簪を握るはつ。いつまでたっても何も起きない。起き上がった喜左衛門が庭に出ると、はつの簪が落ちていた。土の上に簪で書かれた「祝」の文字が残されていた。


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