あらすじ
<第4回> <第5回> <第6回>

<第4回> 「番町皿屋敷」
 青山播磨(吹越満)は七百石の旗本だが、屋敷の庭には草木が生い茂り、不気味な雰囲気だ。夜になると井戸のあたりに白装束の女の亡霊が出る。
 播磨の用人の柴田十太夫(金田明夫)が、陰陽師・蘆屋道三(竹中直人)の長屋を訪ねた。十太夫は道三に亡霊の話をして、悪霊払いを依頼する。亡霊が出るのは一年ほど前からで、播磨が手討ちにしたお菊という腰元の亡霊ではないかと言う。
 お菊は大店の一人娘で美人で気立てがよく、行儀作法もきちんと身についていた。ところが店が火事で両親が亡くなり、二年前に青山家で奉公するようになった。腰元としては申し分なかったのだが、ある日悲劇が起きた。
 大切な客を迎えての仕事中に、お菊は青山家の家宝の錦の皿を割ってしまったのだ。皿は十枚あって、家に繁栄をもたらす皿として初代当主以来大切にされてきた。皿を割った者は、即刻手討ちと家訓で決まっていた。播磨は、白装束になって死を覚悟したお菊を一太刀で斬った。その拍子に、かんざしが井戸の中に落ちた。
 それ以来、青山家には不吉なことが続いた。明るかった播磨は別人のようになり、血に飢えた獣のようにヤクザと喧嘩をした。酒におぼれ、死に急いでいるかのようだ。決まりかけていた縁談も破談になった。
 道三は十太夫と屋敷に行き、お祓いをしようとするが、「悪霊などいない」と播磨が怒って刀を振り回すので帰宅する。道三は、屋敷にお菊がいるのを見た。
 その夜、道三の家にお菊が訪ねて来た。「播磨殿を許せないであろうな」と尋ねる道三に、お菊は、「恨むなどもってのほか。播磨様こそ私の生きがい。どうかお守り下さい」と意外なことを言った。
 お菊が人生で一番幸せだった日々の話が始まった。二十五歳の播磨はある日、お菊を妻にしたいと言う。身分の違いも乗り越えるという播磨は、母の形見のかんざしをお菊に与えた。二人は結ばれ、お菊は天にも登る気持ちだった。播磨の伯母・真弓(加賀まりこ)が現れるまでは。
 真弓は播磨に、有力者で二千五百石の大身の旗本・大久保の娘との縁談を持ってきた。播磨は、自分はお菊と一緒になると言う。真弓は激怒する。そんな会話をお菊は物陰で聞いてしまった。真弓は何度も来ては、縁談を播磨に勧めた。そしてお菊に、「思い上がるでないぞ。人には宿命がある。分不相応な夢を見ると不幸になる」ときつく言った。
 大久保が青山家に縁談のことで来た。青山家の使用人たちは、「断れば、播磨様は一生出世できない」などと話している。それを聞くお菊に、十太夫が、もてなしには高麗皿を使うように命じた。その時、もし割ったらお手討ちだ、と言って注意した。
 播磨はお菊に、「大久保殿と伯母の前で、お前を妻にするとはっきり言う」と言った。お菊は、「いけませぬ」と言うが、播磨は取り合わない。高麗皿を手にしたお菊の心は乱れた。だが最後には、播磨の出世のためには自分がいてはいけない、と思ったのだ。お菊は皿から手を離した。それが自分の命を捨てることだと知りながら・・・。
 播磨はお菊から皿を割った理由を聞く。動揺しながら、家訓を無視してお菊を逃がそうとする播磨だが、お菊は、「お側を離れて生きるつもりはありません。諦めきれないから皿を割ったのです。どうか斬って下さい」と泣きはらした目で播磨に訴えた。
 道三に、「あの方が命を粗末にしないように伝えてください」と言うとともに、お菊の姿が消えた。後にかんざしが残った。
 道三が屋敷に行くと、播磨はまた喧嘩に行くところだった。かんざしを見せて、お菊の気持ちを話す道三だが、播磨は刀を持って走り出す。腕の立つ播磨だが、今度は多勢に無勢で、ヤクザたちに斬り刻まれる。「菊・・・俺も行く」と言って播磨は息絶えた。
 かけつけた道三は遺体の胸にかんざしを置く。その時道三の目には、播磨とお菊が微笑みながら寄り添う姿が見えた。

<第5回> 「耳なし芳一」
 陰陽師の蘆屋道三(竹中直人)と娘の小夜(大村彩子)が、雨宿りのために荒れ寺のお堂に入る。深編み笠をかぶった旅装束の老人(織本順吉)が先客にいた。道三が、「暇つぶしに何か面白い話を」と願うと、「では、さる村で聞いた恐ろしい話を」と、老人が語り始めた。
 五百年以上前、壇ノ浦の合戦で平家が敗れて数年後のことだった。ある村に芳一(岸谷五朗)という貧しい盲目の琵琶法師が流れてきた。琵琶と語りは素晴らしく、近在の金持ちから領主までもが芳一を呼ぶようになった。食事の世話などをする、かる(星野真里)という娘にとっても、芳一は誇らしい存在だった。
 そんなある日の夜。芳一の前に甲冑の武者(宇梶剛士)が現れ、「高貴な姫君のために琵琶を語れ」と言う。芳一は武者に従って屋敷に行った。「祇園精舎の鐘の声・・・」。芳一が平家物語を語り始めると、姫君(椎名英姫)ら聴衆のすすり泣きが聞こえた。
 平家物語は長く、語り終えるには六夜かかる。翌日の夜も武者は迎えに来た。断れば命はないと芳一を脅していた。日が経つにつれて芳一は衰弱していった。五日目には起きていることも辛かった。それでも出て行く芳一の後を、かるがつけた。
 かるの目では、芳一は一人で荒れ寺の墓地に行き、地面に座って琵琶を弾き平家物語を語っていた。まわりにいくつもの人魂が漂っている。芳一が語った相手は平家の亡霊だった。芳一を連れ帰ったかるに、芳一が自分の身の上話を始めた。
 芳一は平家の武士だった。壇ノ浦合戦の数日前、主君の能登守教経は、平家の血を守るためにかや姫(椎名英姫)を守って落ち延びよと芳一に命じた。
 芳一はかや姫の琵琶を背負って逃げた。供の者は源氏の兵に討たれ、姫と芳一だけになった。やっと手に入れた粗末な食物を姫は食べずに、「お前はそうまでして生きたいか。供が討たれたのもお前が臆病だからだ」となじった。激した芳一は我を忘れて刀を抜き、かや姫を斬った。そしてその首を源氏に差し出した。源氏の武将は首を受け取ったが、主君を裏切った芳一を軽蔑し、その顔を斬って芳一は失明した。
 話を終えた芳一は、「今夜自分は、仲間の亡霊に取り殺されるだろう」と言った。かるは芳一を守ろうとする。村の和尚が、髪を剃り裸になった芳一の全身に経文を書いた。これで亡霊からは姿が見えなくなる。ただし声を出してはいけない、と和尚は言った。
 夜が更けて、座敷に甲冑の武者が現れた。芳一はじっと心の中で念仏を唱えている。武者は探し回るが、芳一は見えない。やがて甲冑の音が遠ざかる。ほっとした芳一に、かるの声が聞こえる。思わず返事をすると、声はかや姫に変わった。罠だった。
 座敷の中で芳一は亡霊に囲まれた。かや姫は激しく芳一を呪い、狂ったように笑った。他の亡霊の笑い声も高まる。芳一はたまらず両耳を手でふさいだ。不意に笑い声が止み、芳一は恐る恐る耳から手を離した。両耳の経文は汗で消え、かや姫が芳一を見つけた。
 「さあ、来るのだ」と言うかや姫に、芳一は必死で命ごいをする。「それほどまでに命が惜しいか」と言ったかや姫は、「ならば生きて、永遠にわれら一族の物語を語り伝えよ」と言い、「そのかわりに」と、そこだけ見えている芳一の耳を引きちぎった。
 こうして耳なし芳一は、死ぬこともかなわず、永遠に平家物語を語り続けることになった。老人は芳一の物語を終えた。いつのまにか、雨がやんでいた。
 暗い堂から三人は外へ出た。去ろうとする老人は琵琶を背負っている。気がついた道三に老人は、「縁があったら、平家物語を語りましょう。それが定めですので」と言った。笠を上げてニッと笑う老人の顔には耳がなかった。

<第6回> 「狼男」
 鍛冶職人の正吉(窪塚洋介)は人柄が良く仕事も出来る。だが内気で喧嘩などは出来ない若者だ。親方の善吉(平田満)に目をかけられ、善吉の娘のお袖(水川あさみ)とはお互い憎からず思っている。
 このところ江戸は物騒で、善吉が親しくしている酒問屋に盗賊が入って一家皆殺しとなった。お袖とは幼ななじみの奉公人の娘も犠牲になり、お袖がひどく悲しんでいる。そんななかで正吉は、街でならず者にからまれても、抵抗出来ない自分がみじめだった。正吉はつくづく、「強くなりたい」と思った。
 大店の米問屋の主人・伊勢屋喜左衛門(奥田瑛二)は、正吉を幼い時から可愛がってくれる。「お袖が喜びそうなものでも買って慰めてやれ」と言って小遣いをくれた。
 数日後、正吉は上野の市でお袖のために簪を買う。お祓いの店を出していた陰陽師の蘆屋道三(竹中直人)が声をかけた。断り切れずに相談事を言う正吉は、「もっと勇気や力があったら。お袖ちゃんに悲しい顔をさせないために、盗賊を見つけてこの手で・・・」と言った。
 相談を終えて道を行く正吉の前に、空から銀の腕輪が落ちてきた。獣をあしらったような彫り物に、異国の言葉で何か書いてある。その夜、腕にはめたとたんに、腕が熱くなった。なんと指先から長い爪が生える。顔に牙が生え、髪の毛が伸びる。正吉があげた悲鳴は獣の声だった。こうして正吉は狼男になった。
 盗賊団の一人、矢平(松澤一之)が殺された。胸には深く大きな傷があるが、刀傷ではなく、獣が引っかいたようだ。朝、現場近くの草むらで正吉は目覚める。元の顔で爪も伸びていないが、指先には血の痕が付いている。昨夜、狼のような顔になってから後の記憶はほとんどない。「自分が自分でなくなった」と正吉は思った。
 お袖が正吉の腕輪に気がついた。その直後に頭痛がして指から爪が伸び始める。正吉はあわててお袖の前から走り去った。
 盗賊団の佐助(京晋佑)と次郎平衛(柴崎蛾王)が盗みに入るところに狼男が現れ、次郎平衛を殺した。逃げた佐助は、血まみれの正吉が立っているのを見た。正吉を知っているのは、一味の首領が実は伊勢屋だったからだ。
 腕輪がどうしてもはずれない正吉が、道三を訪ねる。不思議なことに道三の娘の小夜(大村彩子)が触れるとあっさり抜けた。道三が南蛮の古書を調べた。同じ腕輪の絵があって、「この腕輪を手に出来るのは選ばれた者のみで、獣のような力を得て世の悪事を裁くのは運命」と書いてあった。「運命だなんて、冗談じゃない」と、正吉は仕事用の槌で腕輪を壊した。
 伊勢屋が動いた。正吉をおびきだすために善吉の家を襲い、善吉を斬り、お袖を連れ去った。正吉が駆けつけると、善吉は「伊勢屋にやられた」と言って息絶えた。
 正吉は腕輪を壊したことを後悔した。捨てた場所に行って壊れた腕輪の前で、「運命を受け入れる。犠牲も払うから力が欲しい」と天に訴える正吉。すると異変が起こり、腕輪が再生した。腕輪をはめた正吉の姿はやがて、狼の姿になって月明かりの道を走った。
 伊勢屋が手紙で指定したのはとある荒れ寺。狼となった正吉は盗賊の仲間を次々と倒した。しかし、喜左衛門は柱にしばりつけたお袖に拳銃をつきつけ、正吉は動けない。お袖はその姿を見て驚いたが、変わらない瞳を見て「正吉さん」と言った。
 死闘の末に正吉は喜左衛門を倒したかに見えたが、最期の力を振り絞って撃った一発がお袖に当たり、お袖は息絶えた。「結局お前は誰も救えなかった」と言う喜左衛門に止めを差したものの、正吉はすべてを失った。狼男の孤独な闘いは続く。


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