高梨 真智(たかなしまち・27)…水野美紀
大人になってから、人生がつまらない−。
小さい時は誰もがうらやむ最強の優等生だったのに、今では「並み」レベルのいいお嬢さん。両親の転勤で弟と2人で暮らし、階段を降りればすぐの動物病院、それも祖母の経営の元で、医者として働く。行動半径、わずかに10メートル。 たしかに、小さな時から祖母にも、獣医にも憧れてきた。そのために勉強に励み、思春期の様々な誘惑にも負けずに頑張ってきた。それも、そんなに苦ではなかった。が、結果、思ったほどにこの仕事は楽しくない。
「私の人生って、希薄。苦もなし、楽もなし」 思い返せば、心ときめく、恋といえる恋もしたことがない。
この人こそはと思う相手にもめぐり会えなかった。だから最後の一線を超えられないまま。別に、結婚まで守るとか、頑なに拒絶してきた訳ではない。チャンスだって何度かあったのだ。でも、漠然とだが自分は本当に愛している人とするものだと思っていた。 よって、処女。27歳にして処女−。

広田(旧姓房野)拓海(ひろたたくみ・27)…藤木直人
真智とは小学校のほんの一時期、同級生だった。
道行く人が振り返るほどの美少年で、両親の離婚という事情でいきなり挨拶もなしに転校し、その伝説は不動のものとなった。クラスの女子は全員、いまだに「フサちゃん」という彼の愛称を忘れることができない、という存在。 ところが、現在フサちゃんは定職は持たず、ボーリング場で深夜のアルバイトをしながら小金を稼いで生計を立てるアウトローと化している。 真智が再会したのは、そんな変わり果てたフサちゃん。真智が勝手にイメージしていた『優しく、強く、クールでかっこいい・・・・・・』という男ではなかった。
久々に会った真智に、フサちゃんはズケズケとキツイ事を言い、強い者には弱く、クールというより意地悪な皮肉屋で、ちっとも昔の面影はなかった。(容姿以外は) しかし、フサちゃんにしてみれば真智の勝手な思い込みと理想化は迷惑な話でしかない。
今までもそのルックスに寄ってきた女はたくさんいた。でも、そんなことで喜ぶほど、彼は馬鹿でも無垢でもない。むしろ、そんな経験は、彼の性格を捻じ曲げ、人(特に女)とのコミュニケーションのハードルを高くした。時には、それは高飛車な態度に映り、女たちは退散した。いつものように憮然と振舞っていれば、そのうちこの女も姿を消すだろう・・・・・・と今度もまた、そう思っていた。 しかし、真智はそんな今までの女たちとは違っていた。それは、凝り固まったフサちゃんの心を次第に変えていくほどのパワーを持っていたのだ。 リフォーム前の古いマンションで一人で暮らし、これといってやりたい事が見つからない張りのない毎日。そんな彼の日常が、そして彼自身の何かが変わり始める。

榎本由加里(えのもとゆかり・27)…篠原涼子
真智の小学校時代の同級生。
特に仲がよかった訳ではないが、東京に移って以来、琴美を仲介に真智とも付き合いが復活した。腐れ縁的な存在。 小学校時代から勉強はイマイチで、特に目立った存在でもなかったが、不思議な色気があって、モテた。今でも、派手な美人ではないが、私はモテる、という自信とプライドはひそかに持っている。実際、電車に乗れば、ほぼ100%の確立で痴漢に遭う。職場でも上司のオヤジからのセクハラは日常茶飯。言うまでもなく、今まで男に不自由したこともなかった。が、かと言って長続きした付き合いはなかったし、幸せの実感というのも味わったことがない。まして結婚といいゴールにも至らぬままであった。 現在、デパートの香水売場の販売部員として働いている。美に対する向上心はケタはずれ。だから仕事も面白い。そういう意味では今の仕事はまさに天職だと思っている。でも仕事ばかりで人生を送ろうとまでは思えない。年取って醜くなったら、誰も自分のことなんか構ってくれない、なんとか見栄えだけでも若さをキープしなくてはと、日夜、努力に余念がない。 愛することよりも、愛されることが大事。淋しくて一人では居られない典型的な依存タイプ。 目下、長年付き合ってきた恋人に裏切られ、浮気し返してやる、と復讐に燃えている。
表面的には恋愛上手にみえるが、実は恋愛下手。 真智には、その純粋さに業を煮やし、恋のアドバイザー的な役割もしてしまうが、ライバルでもある。友情ともいえぬ腐れ縁のような付き合いが続いていく。 ほんとうは、一人になってメイクを落とした時が一番可愛いのに、本人はまだ気づいていない。

甲田 敦史(こうだあつし・23)…オダギリ ジョー
2浪して現在、都内某有名大学の3年生。真智の弟・歩の級友であり、友達でもある。
快楽主義的な生き方を標榜する無頼な遊び人。性格は明るく、いつも偉そうに聞きかじりの恋愛論やセックスのレクチャーをしているが、実のところ口ほどの経験は積んでない。ワルになり切れない男。 冒頭、主人公の真智と行きずりでラブホに行き、処女と聞いて、何事もないまま逃げ出す。しかし、なぜか心に真智のことが小さな棘のように残ってしまう。
「なぜ処女? 27なのに? ブスでもないのに?」
快楽主義の敦史には、すべてが謎である。 その謎のオンナが友達・歩の姉と判明してからは、真智に対する興味が押さえがたくなり、真智の勤める動物病院にバイトとして潜り込む。真智にとっては、唯一、自分の秘密を知る「恐怖の存在」で、常に緊張関係が強いらされることになるが、どこか憎めない。
敦史にに強引に連れ回され、今まで行ったこともないような所にまで足を踏み入れたりと、さまざまな「初体験」も味わったりする。が、それもまた不快ではない。 敦史の興味は、いつしか好意へと変わっていくが、時を同じくして、真智の前にはフサちゃんが巨大な壁となって現れる。敦史なりの大言壮語と勢いで、フサちゃんに敵対していくが、真智にもフサちゃんにも、なかなか通用しない。そして、由加里も巻き込んだ微妙な4角関係が次第に出来上がっていく。 いつもの口先理論を乗り越え、真実の言葉を口にすることはできるのか。

合田 美佐(ごうだみさ・24)…畑野 浩子
都内某有名大学の学生課の事務員。
男子学生たちの間では、フェロモン系のマドンナ的存在。実際に何人かの学生と深い仲になっている。敦史ともかつて関係を持つが、今はうとまれている。普段クールを装っているが、実は母性が強く、弱いものをほっておけない。懇願されると拒否できない。 経験だけでみれば、真智と真逆のタイプだが、豊富だからといって、けっして幸せではない。 真智の出現で敦史を失いかけてから、どこか歯車が狂い始める。真智の弟の歩から慕われ、何かが少しずつ変わっていく。

高梨 歩(たかなしあゆむ・21)…小泉孝太郎
高梨家の長男、真智の弟。都内某有名大学の大学3年生。
姉と同じく、恋愛には不得手。生まれながらに、人にけっして嫌われない人の良さみたいなものだけは持っている。一億人の弟。弟の中の弟。いいひと。最近、そんな自分を何とかしたい、変えたいと思い始めている。遅れてきた反抗期。敦史との付き合いもそんな思いから始まった。 女の好みは、ややケバめのお姉さまタイプ。事務員の美佐にひとめぼれし、敦史との関係がギクシャクする。前途多難。生まれながらにして、翻弄される運命。

小手島雄治(こてしまゆうじ・35)…八嶋 智人
高梨動物病院の獣医。
真智の先輩だが、凡ミスが多く、AHT(看護婦)からは馬鹿にされている。気弱だが優しい。涙もろい。 彼の恋愛史は、失恋の連続だった。そのせいか、生まれながらのルックスのいい男にコンプレックスを抱いている。真智に淡い好意を抱いているが、臆病なので表現することが出来ない。真智と二人で動物病院を開業するのが夢。世の行き遅れの男性の代表。

椎名 琴美(しいなことみ・27)…坂井 真紀
真智と由加里の小学校時代のクラスメート。
真智とは小学校時代から仲が良く、同じ東京に住む現在に至るまで、途切れず友達づきあいが続いている。3年前には結婚。夫は公務員で専業主婦。 高望みをしない、堅実な性格。小学校時代のあの日も、琴美だけ、フサちゃんにチョコを買わなかった。 今では主婦の貫禄で、すごく露骨なこともサラリと言ったりする。 同姓に好かれる、つまり敵とは見なされない、地味な存在ながら、実は皆の憧れであるフサちゃんとの間に、とある秘密がある。しかし、それを簡単には口にしないという、怖さをもっている。真智の太刀打ちできる相手ではない。

高梨 雅枝(たかなしまさえ・68)…加藤 治子
真智、歩の父方の祖母。高梨動物病院院長。
強くて、他人にも身内にも弱みを見せない。根はいい人なのだが、ドライにふるまうのが好き。優しいと言われるのは気恥ずかしい、という性格。マイペースで独立心が強い。しかし、そのドライな言動の中に実は深みのあるアドバイスが含まれていたりする。 30代の時に未亡人となり、ずっと独り身を通している。毎朝、きりっと化粧をして、出勤の前に行きつけの喫茶店でコーヒー、新聞、煙草が日課。やがて喫茶店店主との間に、恋とはいえぬ微妙な関係が築かれていく。彼女もまた「初めて」を体験する女である。
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