あらすじ
<第7回> <第8回> <第9回>

<第7回> 「間違われた婚約者」
 秀雄(草なぎ剛)が病気を打ち明けた翌日、みどり(矢田亜希子)は学校を休んだ。「みどり先生に打ち明けましたから」。秀雄は麗子(森下愛子)にそっと耳打ちした。その頃、みどりは金田医師(小日向文世)の診察室にいた。「彼の話し相手になって下さい」。今、みどりにできることはそれしかなかった。
 みどりが秀雄の帰宅を待っていた。「もっと早く事実を話すべきでした。本当にすみませんでした」。秀雄は詫びると同時に別れ話を切り出した。「僕は長く生きられないんですから」「私はずっと中村先生のそばにいたいんです」。病状が進行すれば自制がきかなくなるだろう。みどりがそばにいれば犠牲を強いることになる。「みどり先生に無理をさせることは僕が辛くなるんです」。秀雄の願いは一つだけ。みどりが幸せになってくれることだけだった。
 秀雄は進路相談で教え子の吉田均(内 博貴)と向かい合った。いつもトップなのに今回の模試では悪かった。本人は体調不良を理由に「志望校は変えません」と強がったが、秀雄の目には動揺が明らかだった。秀雄が職員室に戻ると、ささいな言葉じりをとらえて久保(谷原章介)がくってかかった。「ホントは俺のこと、バカにしてたりして」。みどりを秀雄に奪われたうっ憤がふだんの冷静さを失わせたのだ。「どうかした?」。とっさに麗子が割って入ると、久保をいつものバーに連れ出した。「中村先生とみどり先生をそっとしておいて」。麗子から秀雄の病気を教えられた久保は絶句した。
 秀雄は週末の休みを利用して帰省した。もうこれ以上、母親の佳代子(山本道子)に黙っているわけにいかない。実家へ向かう道すがら、少年時代によく通っていた教会に入るとみどりが座っていた。「私、田舎って好きなんです」。戸惑う秀雄におかまいなく、みどりは初めて見る秀雄の故郷の自然を満喫した。通りすがりの人に記念写真まで撮ってもらった。「今日は今日だけのために過ごしたいんです。中村先生と」。しかし秀雄の表情は固かった。「本当にこれで終わりにして下さい」。秀雄は心穏やかにこれからの日々を迎えたかった。押し黙った2人の背後から声がかかった。「秀雄!」。佳代子だった。秀雄はみどりを紹介した。「いつもお世話になっております。そういうことなら、どうして言ってくれないのよ」。佳代子はみどりのことを息子の婚約者だと理解した。「ゆっくりしてって下さいね」。
 みどりは秀雄の実家に泊まることになった。「みどりさんはどっちで寝るものなの?」「じゃあ、お母さんと中村先生が一緒に寝て下さい」。みどりの優しい心遣いが佳代子にはうれしかった。佳代子は亡夫から贈られたネックレスをみどりの首にかけた。「思ったより早く、これを渡せる人に会えてうれしいわ」。
 深夜、寝つかれない秀雄が居間でぼんやりしていると佳代子も起き出して来た。「いい娘さんだね」「母さん、話したいことがあるんだ」。けれど秀雄は病気を打ち明けられず、父親の思い出を聞くことになった。秀雄の覚えている父親はいつも威張っていた。「ホントはすごく気が小さいの」「母さんに甘えてたんだよ」。母と息子の幸せそうな会話を、みどりは布団の中で聞いていた。翌朝、秀雄とみどりは佳代子に見送られた。「秀雄をよろしくお願いします」「はい。」みどりは微笑んで返事すると、佳代子が見ているのを意識してさりげなく秀雄と手をつないだ。
 秀雄が佳代子に言えなかったように、みどりも父親の秋本(大杉漣)に打ち明けられない。心ここにあらずの娘の様子を、秋本は早すぎるマリッジブルーだと勘違いした。その夜、秀雄もみどりもそれぞれの部屋で考えた。これからどうするのが一番いいのかと。そして2人とも同じ結論に達した──。

<第8回> 「二人だけの結婚式」
 秀雄(草なぎ剛)はみどり(矢田亜希子)と結婚することを金田医師(小日向文世)に報告した。「明日、結婚の挨拶に行きます」。その頃みどりは父親の秋本(大杉 漣)に秀雄の病気のことを打ち明けていた。「手術も無理で、もう治らないの」。娘の結婚を心から喜んでいた秋本の表情が曇った。「どうして死ぬとわかっている男と結婚するんだ」父と娘の考え方はどこまでも平行線のままだった。
 翌日の食事会は重苦しい空気に包まれた。「みどり先生と結婚させて下さい」。秀雄に頭を下げられた秋本は穏やかな口調ながら、きっぱりと言った。「申し訳ないけど、結婚には賛成できないんだ」。秀雄も娘の幸せを祈る秋本の気持ちが痛いほど理解できた。「お父さん、すぐに中村先生と暮らしたいの」。家を出て行くみどりを、秋本は止めなかった。
 みどりは秀雄の部屋で一緒に暮らしはじめた。みどりは秀雄と付き合っていることを職員室で公言した。「ええっ!」。大声を出したのは岡田(鳥羽潤)だけ。他の同僚たちはそれとなく察していた。
 秀雄は3年G組に向かった。3年生になって最初の生物の授業だ。最前列の吉田均(内 博貴)が突然「落ちつかないんです」と席替えを要望した。均は勝手に机を動かし始め、田中守(藤間宇宙)ともみ合いになった。「受験のストレスじゃない?」。秀雄が麗子(森下愛子)に話すと彼女も同意見だった。均は前回の模試で成績がかなり落ちていたのだ。「頑張りすぎて出口が見えないんでしょう」。秀雄も小学生の時に似た経験を味わったが、教会の聖歌隊に参加することで救われた。みどりがにっこり笑った。「次にやること、決まりましたね」。
 秀雄はホームルームで生徒たちに合唱を提案した。「今日から放課後に体育館で歌を歌いませんか?」。しかし生徒の大半は無関心。結局やって来たのは歌手を夢見る杉田めぐみ(綾瀬はるか)だけ。「そろそろ始めましょうか」。指揮は秀雄、ピアノはみどり。譜面を手にしためぐみはキラキラした表情で歌いだした。
 「先に帰ってくれませんか」。秀雄はみどりに内緒で秋本を訪ねた。「理事長には、おめでとうを言ってもらいたいんです」「みどりが結婚すると言ってきかないのは、分かる。でも君はどうして?みどりの将来を考えたら、こうはならないんじゃないの?」。秋本の口から最後まで結婚を認める言葉は出なかった。
 「おめでとうございます」。翌朝2人は同僚教師たちに結婚を発表した。結婚式はみどりの提案で秀雄が子供の頃に通っていた教会であげることにした。「じゃあ将来は中村先生が理事長ですか?」「当たり前じゃん」。秀雄の病気を知らない岡田と赤井(菊池均也)は真顔で言った。そっとその場をはずした麗子を久保(谷原章介)が追った。麗子は屋上で泣いていた。「結婚だなんて、あまりにもステキで」。麗子は久保の胸に顔をうずめた。
 教頭の古田(浅野和之)は秋本から秀雄の病気の事を聞きショックに固まっていた。「できる限り教師を続けられるよう、配慮してやってほしい」。秋本は苦しい胸の内を打ち明けた。「娘のこととなったらこのザマだよ。僕は彼の余命を知った途端、差別的な目で見ている。立派な教育者だなんて、ちゃんちゃらおかしいよ」。秋本は自嘲気味につぶやいた。
 みどりは秋本が風邪で寝込んでいると古田に教えられ実家に帰った。リビングには少女時代のみどりを撮影した8ミリビデオが出しっぱなしになっていた。「来てたのか」パジャマ姿の秋本が出てきた。「お前はこの悲劇的な状況に酔っているだけだ」「私は自分自身の人生を生きたいの」。みどりに背を向けた秋本はただ黙っていた。
 2人だけの結婚式が明日に迫った。秀雄は母親の佳代子(山本道子)に電話で知らせた。「しっかりね。とちらないように、母さん祈ってるから」。秀雄はみどりに代わった。「みどりさん、ありがとう。本当にありがとう」。みどりも父親に電話したが、留守番電話に切り替わった。「明日2人で結婚式をあげます」。秀雄に代わった。「今は僕達のことを信じて下さいとしか言えません」。秋本は2人の声を聞いていた――。

<第9回> 「一枚の写真」
 「僕たち、無事結婚式を挙げることができました」。職員室で同僚教師たちに挨拶する秀雄(草なぎ剛)とみどり(矢田亜希子)の薬指には結婚指輪が光っていた。結婚式では写真は撮らなかった。「あとに残すためのものですから」。赤井(菊池均也)と岡田(鳥羽 潤)は首をかしげたが、古田教頭(浅野和之)から秀雄の病気を教えられてショックに打ちのめされた。
 「結婚しました。相手はみどり先生です」。秀雄は3年G組の生徒たちにも報告した。拍手してくれたのはめぐみ(綾瀬はるか)だけ。つられて他の生徒たちも拍手してくれたが、どの顔も驚きを隠しきれない。「似合ってるよ、中村とみどり先生」。秀雄が教室を出ていってから、生徒たちは2人の結婚を祝した。いつしか秀雄は生徒から愛される教師になっていた。放課後の合唱もにぎやかになってきた。めぐみと守(藤間宇宙)だけだったのに、りな(浅見れいな)、雅人(市原隼人)、萌(鈴木葉月)、愛華(岩崎杏里)が加わった。「続けるかどうかは分かんないよ」。そう言いつつも秀雄の指揮とみどりの演奏に合わせて、6人は楽しそうに歌いだした。
 「僕たちは死にむけて決めなきゃいけないこともありますから」。秀雄は金田医師(小日向文世)に遺影のことを相談した。「どっちでもいいんじゃないの」。金田ははぐらかせたが、秀雄は1人で写真館に向かった。しかしいざカメラの前に座ると戸惑った。「今日はやめておきます」。人生最後の写真だからステキな顔で写りたかった。
 秋本(大杉 漣)が祝儀袋をもって秀雄の部屋にやって来た。みどりの作った手巻き寿司を3人で食べた。「良かったらウチで一緒に暮らさない?」。帰り道、秋本はそう言ってくれたが、秀雄はみどりが再婚する日のことを考えていた。「たとえ短期間でも、僕はあのウチには住まない方がいいんじゃないかって」。秀雄の気持ちは秋本に伝わった。
 秀雄が合唱コンクールへの出場を生徒達に提案すると、均(内 博貴)がくってかかった。「合唱に何の意味があるんですか?」。均はひたすら受験勉強に打ち込んでいた。合唱なんか時間の無駄だと、その表情が物語っていた。秀雄は決められたレールの上の人生を例にとった。「その道には自分の足跡が残らない気がします。将来を考えて生きる事も大切だけど、その時その時もしっかり生きてほしいんです」。生徒たちはじっと秀雄の言葉に聞き入った。ただ1人、均だけは自分の勉強に戻った。
 「もう片づけようと思って」。秀雄はビデオ日記をやめることにした。「僕はもうちゃんと足跡をつけて歩いてますから」。みどりは賛成したが、秀雄がこれまで撮ったビデオも処分すると言いだして複雑な気分になった。2人一緒の写真1枚すらないのだ。
 雅人の母親でPTA会長の久美子(銀粉蝶)が父兄たちを引き連れて乗り込んできた。「今の時期、受験より大切なことなんてないはずです」。合唱のことで一部の父兄からクレームが出ていることは、秀雄の耳にも届いていた。「高校生活はそれだけじゃないはずです」。しかし久美子は強硬だった。「合唱部は廃止すべきです」。
 久美子は体育館にも姿を現した。「合唱部は解散よ。たった今、先生に話をつけてきたから」。生徒たちの間に動揺が走った。その頃、秀雄とみどりは古田教頭に合唱の継続を訴えていた。「君の気持ちはよく分かるが」。古田も辛い立場にいた。「合唱を通じて生徒に伝えたいことがあるんです!」。その時秀雄が突然倒れた。「しっかりして!」「救急車、呼ぼう」。救急隊員に運ばれていく秀雄の姿に雅人と栞(上野なつひ)が気づいた。開けっ放しの職員室のドアから、取り乱した岡田の声が聞こえた。「まだ死なないですよね!」。


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