あらすじ
<第1回> <第2回> <第3回>

<第1回> 「告知、余命一年」
 私立進学校陽輪学園の2年G組。白衣姿で授業をしているのはこのクラスの担任で生物教師の中村秀雄(草なぎ剛)。きちんとした授業ぶりだが、熱血タイプの教師ではなく、あくまでも仕事と割り切って淡々とこなしている。生徒たちはといえば、生物は受験には関係ないので、隠す素振りもなく数学や英語の勉強をしている。秀雄の授業を真面目に聞いているのは杉田めぐみ(綾瀬はるか)ぐらい。クラスの空気を察した秀雄は自分に言い聞かせるように言った。「自習にします。模試も近いことですしね」。秀雄は教室を出るなり、同僚教師の秋本みどり(矢田亜希子)から声をかけられた。「田中クンが万引きしたそうです」。みどりは陽輪学園の理事長、秋本隆行(大杉 漣)の一人娘で2年G組の副担任。「生徒の指導、ちゃんと頼むよ」。秀雄が田中守(藤間宇宙)を連れて職員室に戻ると、やはり教頭の古田進助(浅野和之)から嫌味を言われた。理事長べったりのこの教頭、なにかにつけ秀雄につらくあたることでストレスを発散させている。周囲もそのことをよく知っているから、英語教師の太田麗子(森下愛子)も体育教師の赤井貞夫(菊池均也)も見て見ぬふりだ。
 「君は自分の将来を台無しにするつもりですか」「将来って何ですか」。秀雄が守を指導しきれないでいると、数学教師の久保勝(谷原章介)が「いい大学に入って、いい会社に入っていて損はないんだから」とくだけた口調でいとも簡単に守を説得した。担任の秀雄のプライドは丸つぶれ。もっとも久保は理事長からも生徒からも信頼厚いエリート教師。秀雄では勝負にならない。社会科担当の岡田力(鳥羽 潤)が昼食の弁当を配っていると秋本理事長が現れた。「先生方、受験シーズンに入りますが今年もよろしく」。足早に出ていこうとする理事長の後を教頭が平身低頭で追いかけていく。
 その日の帰り道、秀雄はみどりと相合傘になった。といってもたまたま帰りが一緒になって、秀雄しか傘を持っていなかったからだ。秀雄は内心ドキドキしていたが、みどりは昼間の弁当の不満で頭がいっぱい。「じゃあ、食べにいきません?」。秀雄が行きつけの焼き鳥屋に誘ってみると「おいしい!」とみどりは喜んでくれた。意を決した秀雄はビールを一気に飲み、思いきって映画に誘ってみた。しかしみどりの反応をうかがいながら「なんかデートみたいですかねぇ。やっぱりやめましょう」と、冗談めかして自分からあっさり諦らめた。
 秀雄は1人暮らしのアパートに帰った。「よかった、足りて」財布の中身を確認した後、コートのポケットから昼間に職員室で受け取った健康診断の封筒が出てきた。
 再検査の通知。「どうせ、なんともないのに」と封筒を置いてうがいをする秀雄。
 後日、面倒くさいが敬明会病院で再検査を受け、検査結果を聞くために再び病院を訪れた。主治医の金田勉三(小日向文世)から「中村さんは奥さん、いらっしゃいますか?」と切り出されて秀雄は面食らった。秀雄は28歳、独身だ。「検査結果について大切な話があります」。金田医師のただならぬ表情に秀雄は緊張した。
 診察室を出た後、秀雄はアパートまでどうやって帰ったか覚えていなかった。心、ここにあらずの秀雄だが、条件反射のようにいつも通りうがいをしようとしていると、新聞の集金人がやって来た。「できたら今度は長期の契約で。2年契約でお願いできますか?」「はい」。集金人が帰った後、秀雄は契約した控えの紙を見ながら呟いた。
 「あ・・・、一年にしといた方がよかったかな」。
 秀雄はさっき金田医師から宣告されたのだ。あなたの余命はあと1年だと・・・。

<第2回> 「読まなかった本」
 中村秀雄(草なぎ剛)は秋本みどり(矢田亜希子)と2人きりになってしまった。途端に気まずい空気。「あのことは忘れてください」。秀雄は先日、強引にキスしたことを詫びた。「どうしてあんなことしたんですか?」秀雄がためらっていると、教頭の古田進助(浅野和之)が姿を現し、みどりは職員室を出ていった。
 秀雄は放課後、進路相談で教え子の赤坂栞(上野なつひ)と向き合っていた。栞の偏差値では第一志望校は難しかった。本人もそのことは認識していたので、自ら久保勝(谷原章介)に数学の補習授業に出席させてほしいと志願していた。「志望校のレベルを落とすなんて、自分が許せません」。必死な栞に向かってずっと話を聞いていた秀雄は言った。「バカじゃないの。たかが大学受験ですよ。あと1年じゃ無理です」。栞は絶句した。
 「母親からクレームがきたんですよ」。栞の一件はすぐに古田の耳に届いた。けれど秀雄は謝るどころか「生徒の事を思って怒っているのではなく僕の上司として責任取るのが嫌なだけですよね」と言い切り、本心を見透かされた古田は反論できなかった。
 その夜、秀雄は同僚たちに誘われて居酒屋にくりだした。「中村先生、言うときは言うのね」。英語の太田麗子(森下愛子)も体育の赤井貞夫(菊池均也)も社会科の岡田力(鳥羽 潤)も秀雄の変身ぶりをもちあげた。
 心地よく酔っぱらって部屋に帰った秀雄はそのまま布団にもぐり込み、夢を見た。
 子供の頃よく行った教会。誰かの葬儀だ。棺の中をのぞくと自分が横たわっていた。
 秀雄はハッと目覚め、時計の刻む音に恐怖を覚えた。
 翌日、秀雄は授業中に腹部に痛みを感じた。「あとは自習にします」。杉田めぐみ(綾瀬はるか)以外の生徒は何も気づかない。「具合が悪いのは昨日飲みすぎたせいですよね。楽しく飲むのはいいけど授業に差し支えるのはどうかと思います」。みどりの言葉に秀雄は傷ついたが、本当のことを話すわけにいかなかった。
 秀雄はATMで百万円をおろすと、高級中華料理店で豪勢なディナーを1人きりで堪能した。ふと奥をのぞくと、秋本理事長(大杉漣)がテーブルを囲んでいる。久保は周りの教師からもみどりの結婚相手、そして将来の理事長候補と目されている男だ。つまりお見合いみたいなものか。「あっちのテーブルの会計も一緒に払います」。秀雄はお釣りも受け取らず店を出た。
 秀雄の豪遊ぶりは毎夜続いた。タクシーを借りきって深夜のドライブや銀座のクラブ。「楽しい?」とホステスに聞かれ「楽しい」と答えた秀雄だったが、心の底から気持ちが晴れるはずがなかった。
 秀雄が本心をぶつけられる相手は主治医の金田勉三(小日向文世)しかいなかった。「何の痛みも感じないまま、ラクにしてください」。秀雄は訴えたが、金田は冷静だった。「このまま少し入院しましょうか」。しかし看護婦の目を離した隙に秀雄は病院を抜けだした。
 行くあてなどない。もうお金はいらない。財布に残っていた全てのお金を街頭募金の箱に入れ、ふと目についた教会に入ると、聖歌隊が合唱の練習をしていた。一緒に歌っているうちに秀雄はいつしか穏やかな笑みを浮かべ、気づいたら崖に立っていた。迷いも心残りもなかった。秀雄は両手を大きく広げてジャンプした──。

<第3回> 「封印された恋心」
 秀雄(草なぎ剛)はビデオ日記を始めた。「僕は残りの人生を精一杯生きたい後悔しないよう生きたい」。それだけ言うのがやっとだったが、秀雄の決意は固かった。
 翌朝、秀雄は誰よりも早く職員室で授業の準備をして、朝のミーティングでは思いきって些細な事でも発言した。古田教頭(浅野和之)は初めて秀雄が発言した事に驚いたが、みどり(矢田亜希子)はそんな秀雄を黙って見ていた。ミーティングでは、体育教師の赤井(菊池均也)が結婚することを発表した。麗子(森下愛子)、久保(谷原章介)、岡田(鳥羽 潤)たちに囲まれて赤井はうれしそうに告白した。
 「僕に結婚はないんですね」。秀雄は担当医の金田(小日向文世)に確認するように聞いた。今すぐ結婚しても1年後には相手は未亡人になってしまう。「恋なんかしてる場合じゃないし。教師としてしっかりやろうと思ってます」。未来がなくとも今がある。秀雄は第二の人生を歩きだす決意をした。
 「授業中だけでも生物の勉強しませんか?」。秀雄は教壇に立ち生徒たちに語りかけた。
 そして派手なメイクをした鈴木りな(浅見れいな)には「放課後に職員室まで来てください」と指導した。これまでの秀雄なら見て見ぬふりをしていたから、生徒たちは少し驚いたが、りなは廊下で待っていた秀雄を振りきり、帰ってしまった。
 進路相談では医学部を目指していた田岡雅人(市原隼人)が突然志望校を変えると言いだした。「僕は医学部を勧めたいのですが」と指導するが、雅人も秀雄の言葉に耳を傾けようとはしなかった。どうすれば生徒たちは話を聞いてくれるのか。
 秀雄が誰もいない夜の教室でスピーチの練習をしていると、秋本理事長(大杉 漣)が顔をのぞかせた。「遅くまでご苦労さま」。どこか温かさの感じられる一言だった。
 帰宅した秀雄はビデオに向かった。「生徒とは全然うまくいかなかったけど、仕事を頑張った充実感がある。明日もこの調子でやっていこう」。第二の人生の初日が終わった。
 りなの様子がおかしい。「何かあったのなら話してくれませんか。僕にできることがあるかもしれません」「ないよ」。りなの反応はそっけない。理由がわからずに秀雄が悩んでいると、麗子が自信ありげに耳打ちしてくれた。「彼女の悩みは恋よ」。
 どうやら赤井の結婚にショックを受けたらしい。じっと何かを考えていた秀雄は職員室から駆け出していった。  りなを見つけた。「原因は赤井先生ですか」「違うよ」。否定したが、その表情がそうだと語っていた。「どうにもならないことってあるんです。前向きになってください」。
 しかしりなの態度は変わらない。秀雄が職員室に戻るとみどりがいた。「何かあったんですか。今までの先生なら、こんなふうに生徒を追いかけたりしなかったのに」。みどりは秀雄の変化に気づいていた。「変ですか?」。秀雄は冗談ぽくごまかした。
 りなが学校を休んだ。「一緒に行きます」「僕1人で行かせてください。必ずなんとかしますから」。みどりが同行してくれると言ったが、秀雄は1人でりなの家を訪ねた。ところがりなは秀雄の顔を見るなり家にこもってしまった。「出てきてください!」。秀雄がどんなに呼びかけても、結局りなは出てこなかった。
 落胆して帰宅した秀雄はビデオに向かった。「笑っちゃう1日だった」。無理に明るい口調で今日の出来事を振り返った。
 赤井の結婚パーティーがレストランで行われた。赤井と新婦は幸せそうだったが、秀雄が見とれたのはドレスアップしたみどりの美しさだった。「じゃあ、こちらの先生か」。
 秀雄が一番手でお祝いのスピーチを頼まれた。秀雄はちょっと焦ったが、やがて一言ずつ選ぶように話しはじめた。「おじいちゃんとおばあちゃんになっても今と同じように名前で呼び合う、仲のいい夫婦でいてくれたらなあって思います」。
 みどりはドキリとした。彼女の理想の夫婦象だったからだ。さらに秀雄は遠くを見つめるように続けた。「そしていつか・・・、先に旅立つ日が来ても、後悔しないように、たくさんの愛で・・・、お互いを思い合ってください」。会場は一瞬静まり返った。
 その直後に大きな拍手が起きた。赤井と美子がうれしそうに秀雄に会釈した。秀雄も微笑んで頭を下げた──。


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