FROM LUCKY Vol.46

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Luckyのタイ旅行記 PART 3

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PART 3 :あっちの世界へ

 で、そろそろこの旅行記も佳境、なんですが、う〜ん悩んでいます、ひとつだ け。
例えば僕は、70年代のヒッピーではないし、ま、まっとうな生活を営んでいる (色々問題はありますが…)社会人の一員でもあります。ところが、この旅行の 一番のポイントは、と言うと、そう“イリーガル”なものとのお付き合いの仕方 なんです。僕は学生時代に、なんかの縁があってゼミの教授に連れられて(?) ゼミのメンバー全員で精神病院に研修にでかけた経験があります。数日間、その 特殊な環境に触れていると、それはそれは心にヘビーなモノがのしかかってきま す。なかでも背筋が寒くなったのが“覚醒剤中毒”を初めとする薬物中毒。みん な年をとると病院で知らず知らずのうちに体験しているはずなんだけど、でもそ の現実を知って枷をはずされることがあれば…、それはそれは大変な事になるん です。絶対に、そんなモノに触れることがあっては、そんなモノに逃げてはいけ ないのです。(学生時代のその経験は涙を流してしまうほど…悲惨なものを目撃 することになりました)

 でも、それはケミカル。ナチュラルなものを安全範囲で…(ま、無理だろうけ れど…)だったらそれはお酒よりは全然安上がりでいいんじゃないの、攻撃的 (モノによりますが)にもならないし。そして南の島で気ままに暮らす人々は、 たとえ国で禁止されていても、上手に上手にお付き合いしているのです。その事 実を肯定できるか出来ないか、で、その島や自然を感じることはできないので す。

 行くと身の回りに存在してしまうから無視するわけにはいきません。自分では 全然体験しなくてもいいんです。でも…、その環境を心から容認できないと、楽 しむことはできません。自らはピュアであっても(この言い回しも微妙だけど ね)気にしてしまうと折角の自然と人々を理解できなくなるのです。
 だから、例えばいわゆる麻から出来てしまうタバコの様なモノの話をしても、 誤解して欲しくないのは、それをやることが決して格好いいわけではなくて、昔 から生活に入り込んでいるものを否定しない、という事なんです。それを持ち込 んで、もしくは率先して楽しむのが一番いい!と言ってるわけではないのです。 普通の煙草のように思っていればいいのです。その匂いが、雰囲気が醸し出す独 特の世界は、そう煙草の煙が充満する昔懐かしい頃の雀荘に置き換えて考えて 貰ってもいいのです。
 そう、そんなお金を出さずに手に入れられる(この地で例えばビールは最高の 贅沢品です)害のない楽しめる(酔える)もの、これを当たり前の様に歓迎の意 で初対面で回し飲みするお気楽さ!が、KohPhaNganのビーチではお目にかかるこ とになったのです。

 マリワンというここのコミューンの女主人は、僕らのようなふらっとやってく る(そう大体ここには電話なんて絶対ないんだから…)ゲストに対して、最初か ら壁のない、と言って図々しくもない、なんだか昔、日本の良妻賢母みたいな雰 囲気の人だったのです。ご主人達は、それは昼間はバンガローを作り、荷物を運 び、モノの修理をして仕事しているのですが、もう日が暮れると、なごめる匂い をプンプンさせてすっかり平和になってしまって使いモノになりません。奥さん であるマリワンは、決して自らは楽しむことはなく、僕が進めるビールを飲むこ とも決してなく、でもニコニコしている。声を荒げる人々など決していないコ ミューンを、自らの人格で作り上げているのです。野望や贅沢な欲はないけれど …、でも最小限で最高に楽しいだろう世界が作り上げられているのです。

 でも、一度、贅沢や奇妙な野望(?)を知ってしまった僕には、決してたどり 着けない、もう手遅れな楽園でもあったのです。


 さて、そんな居心地のいいコミューンの女将さんから聞いた、さらにお薦めのパ ラダイスが、この島からさらに北に船で3時間KohTaoにあると聞いて、4日目に はジャングルに囲まれた小さなビーチを僕は後にしたのです。港まで徒歩も含め て約2時間半。目的地KohTaoの港についた頃には陽はもう傾きかけて、おまけに 気持ちも随分萎えていました。 ダイビングショップが目立つ小さな全長70メー トル位しかないメインストリートのオーシャンビュー・レストランで、もうビー ルをたっぷり頂いて、すっかり酔っぱらってから、教えて貰ったビーチ(?)に 向けて出発したのです。 スーパーカブのタクシーにまたがって途中まで…、降り 立った先には鬱蒼としたジャングルが待っていたのです。
そこから徒歩1時間強。ビールはあっと言う間にだらだらの汗に変わり、「もう駄目…」 と思ったその時、彼方に崖っぷちのバンガローが見えたのです。(写真参照)

 KohPhaNganのマリワンから聞いた宿の主人の名前は、あのYenTownBandのVocalと 同じ名のチャラ。崖っぷちの波打ち際から、遥か上に見えるなんだか舞台付きの バンガローのようなものに向かってその名を叫ぶと、最高に人の良さそうなお兄 ちゃんが顔を出しました。その30分後には崖のてっぺんにあるバンガロー(ハ ンモック付き)に荷物を置いて、舞台付きバンガローでの夕食が始まったので す。チャラと奥さん2人で切り盛りしているバンガロー。全部で約15個あるそ の全てがKohPhaNganのマリワンの旦那さんと2人で手作りで作られたものだと か。砂浜はないここには、最高に美しい、透き通った海!が広がっていたので す。

 チャラ夫妻と共に始まった夕食の間は、2人がここにやってきてまだ1年半。奥 さんはスラータニの町で弁護士を目指して勉強していたけれど、ここの自然に魅 せられてチャラと一緒になり移住してきた…とか、なんだかそんな身の上話を すっかり聞き出す事に終始したのです。酔いも随分回って、崖を危うげな足どり で自分のバンガローに向かった頃は既に深夜。一度は1メートル程落下して、し こたま腰を打ってしまいましたが…、さらにもっとスリリングな出来事が待って いたのです。
 寝てからしばらくすると、周囲を駆け回る足音で目が覚めたのです。
 「ここって崖の上だけど…」
 バックパックにくくりつけてあるマグライトで周囲を照らして見ても、何も見えない!でも、足音は聞こえてくるのです。
 KohPhaNganでは深夜、握り拳程の大きさの“蛍”がジャングルから砂浜に出て くるの目撃して肝を冷やしたのですが、んが!!今度は一体……?
 「おかしいな?気のせい…」なんて思って床に再びつこうとしたら、居たのです! 小さな小さな子供が…。でもドアが開けられた形跡は絶対ない!目が覚めたときは 確かに誰も居なかった!…でも子供がいる。

ひょえ〜…


 そう、振り向いて見えたのは、小さな小さな子供。でも、声も出さないし…物音も聞こえなかったし…「ひょえ〜」。
 その時、まだ外では複数の足音が聞こえています。崖っぷちにあるバンガローなのに、その周囲をものすごいスピードで駆け回る足音。あかん!コレは幻聴だ!幻覚だ!そうじゃなかったらきっと夢。でも、定番通りつねったら、しっかり痛いじゃねえか!どないしよ〜と、思い切ってドアをあけて外に出ようとしたら…背筋に強烈な寒気が走ったのです。
 振り向くと誰も居なく、そして静かな静かな海…。沖に見える船の明かり。カンボジアの方向には稲光が時折…。一体、いままでの…?  なんだか判然としないまま、もう一度眠りについた私だったのです。

 その後、沖合いからやってきた船と、崖向こうから出てきた小舟の、どうやら怪しい海上取引を数時間後には目撃したり…となんだか眠らせて貰えないバンガローだったのです。

 翌朝、そんな出来事にもめげず(チャラ夫妻に聞くと「そんな事もあるかも…」とあっさりしたお返事でした…)朝食を取るとすぐに海へと…。フィンとゴーグルだけをもって岩の間を潜ると、そこには無数の熱帯魚。はるか数十メートル先まで見渡せる澄み切った海水。あぁ…、こんな美しい海が…。

 しかし、数時間後に僕はチャーターした小舟の乗客になっていました。島を大回りして港まで。実は、予定のフライトに間に合わせるためには、半島への船の時間にまにあわせるため、前もって港にたどり着いておかなければならないことが判明したのです。慌ただしい滞在となったチャラのバンガロー。私は秘かに“ReturnMatch”を誓ったのです。あの謎を解くために…。あの不思議な体験は何だったのだろう?(と言うことで、次回は同行者を募集しようかな、KohTaoまでの旅行、ま置いといて)


 「港なんかねえよ!」
 そう僕が叫んだのは、もう船旅に飽き飽きだったからだけではありません。KohTaoを出発してもう5時間。炎天下のデッキで寝ていて、体中まっか!もうそろそろつく時間なのに、目の前には草木の生い茂った海岸線。港なんかどっこにも見えないのです。で、だだをコネ始めて約20分。行く手に河口が見えてきました。小さな灯台があるだけの川岸の岸壁、上流から降りてくる何だかいびつに背の高い船。「ひょえ!これで対面交通??」と言うほど狭い川に、驚くほどの量の船が停泊していたのです。
CHUNPON STATION あの「深夜特急」で沢木耕太郎先生が野宿したというチュンポンを目指している連絡船です。が…、見えるのは川に停泊した、大きめの漁船群。いつまでたってもこの船が留まれそうな桟橋は見えてこなかったのです。時間にルーズな事には慣れっこになっていたのに…、んがしかし、桟橋について、目指すチュンポンの駅に到着したのは、予定時刻をもう2時間も超えていました。駅の窓口に慌てて駆け込み…閉まってる?!中で休憩した駅員に問いただすと、バンコク行きの夜行は、な〜んとまだ5時間待たなければならない。で、無理矢理チケットだけは買って、町に出かけることにしたのです。
 夕闇が迫るにはまだ間のある時間。舗装もされていないメインストリートまで歩いて20分。2フロア、エスカレーターのあるデパート。ひとつだけだけど、ロビーにカフェ、そして生バンド演奏まであるホテル。やたら天井が高い、市場のような食堂。 2人も3人も無理矢理乗って走り回るスーパーカブ。耳に入ってくる人々の喧噪…。

もう、このチュンポンの夕刻で、旅は終わっていました。

 わずかまる1週間あまりしかいなかった別天地。喧噪も埃もない、緑と青、白。それだけのパラダイスから、もう、遥か遠く離れた所まで戻って来てしまったのです。
 「また、あの人たちに会えるのだろうか?」
 旅の終わりでいつもしてしまう、些細な問いかけに、またしても自分で答えることができないまま、バンコクへ向かう夜行列車の人、となっていました。取り戻すことに半分は成功していた何かに、結局今回もたどり着けなかった、取り戻せなかったのです。

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