オンエア

あなたも他人事じゃない!?
知らぬ間に迫り来る魔の手とは!?

我々に忍び寄る未知なる恐怖….今から18年前、島根県在住の50代女性は、大きな怪我を負ったり大病を患ったりしたこともなく、夫と愛犬とともに穏やかな日々を送っていた。
そしてこの日も、普段と何ら変わらない一日になるはずだった。
「おい どうした?その腕」
女性の腕に経験したことのない、ひどい蕁麻疹が出ていたのだ。

そこで、近所の病院で診てもらうと…特発性の蕁麻疹と診断された。 蕁麻疹の7割から8割は、原因がわからないとされていて、注射と飲み薬で症状は落ち着いた為、特に検査はされなかった。

だが、およそ1ヶ月後。 この日も至って普通の1日だったのだが…夕食から約3時間後。 再び、激しい蕁麻疹が彼女を襲ったのだ。
この時も、処方された薬で症状は治まったものの…さらに、その2ヶ月後。 夕食を食べてから数時間後、またしても蕁麻疹が出現したのだ。

繰り返し現れる謎の蕁麻疹。 女性は不審に思い、翌日、別の病院でしっかりと検査をしてもらうことに。 すると…血液検査の結果、牛肉と豚肉のアレルギーだと診断された。

アレルギー反応とは、体内に入った異物から身を守るための免疫というシステムが過剰に反応してしまうこと。
異物が体内に入ると、それに特異的に反応する抗体が作られる。 その抗体が病原体を攻撃する免疫細胞に結合、再び、同じ異物が体に入ってくると、抗体がすぐさま感知し、免疫細胞に伝達、異物を排除する為に働くというのが本来の免疫の仕組み。
しかし、人体に害を及ぼさない異物に対してこの免疫が過剰に反応してしまうことがあり、 神経や血管に刺激を与えてしまった結果、くしゃみや鼻水・蕁麻疹などの症状がでてしまう。 これがアレルギーの仕組みである。
女性に蕁麻疹が出たのは、確かに牛肉や豚肉を食べた後だったのだ。

そして、それから約3ヶ月、医師の言いつけどおり肉を控えた結果、女性に症状が出ることはなかった。
だが…突然、女性は呼吸困難や蕁麻疹など、激しいアレルギー反応が生じ、血圧や意識の低下が起きる、アナフィラキシーショックに襲われたのだ!
その後、女性は緊急搬送され、迅速な処置により一命を取り留めた。
この日、女性は肉を口にしていなかったため、肉以外の食材へのアレルギー発症が疑われた。 しかし検査の結果、女性にはこの日食べたカレイなどの魚を始め、他の食材に対するアレルギー反応はでなかった。

そこで、専門の病院で詳しい検査をした結果、これまで知られていなかった、驚きの事実が判明した。
原因はカレイの卵だった。
その日、女性が食べたのは、たっぷり卵を抱えた、いわゆる子持ちカレイの煮付けだった。

だが、なぜ女性のアレルギー原因物質である牛肉や豚肉ではないものに反応したのか? それは…交差反応
交差反応とは、Aという物質にアレルギーを持つ人が、Aと構造がよく似たBという物質にもアレルギー反応を起こしてしまうことを言う。 たとえば、ハンノキや白樺の花粉症の人が、りんごや桃を食べて、アレルギー反応を起こしてしまうことがある。
実際にこの女性の診察にあたった千貫先生によると。
「牛肉や豚肉に含まれる物質と非常によく似た物質がカレイの卵に含まれていた為に、体がアレルギー反応を起こしたことが分かりました。」

今回、女性が発症していた肉アレルギーは、肉に含まれる「α-Gal(アルファー・ガル)」という物質に反応するものだったことが判明。
調査の結果、カレイの卵には、α-Galと構造がよく似た物質が、多く含まれており、α-Galにアレルギーを持っている人がカレイの卵に交差反応を示してしまうことが、世界で初めて証明されたのだ。

だが、女性にはもう一つ疑問が…数ヶ月前までは肉を食べても平気だったのにも関わらず、肉アレルギーを発症してしまった原因が分からなかったのだ。
実は、『体に蓄積されたアレルギー物質が許容量を超えるとアレルギーを発症する』というコップに喩えた話をよく聞くが、これでは説明できないことも沢山あり、未だにアレルギー発症のメカニズムは、分かっていない部分が多いのだという。 また、食べることよりも、傷や炎症のある皮膚からアレルギーの原因物質が侵入した方が、アレルギーが発症しやすいということが最近の研究で分かってきている。

だが、この女性にはそのような状況で肉に接したことなど、思い当たる節がなかった。 そこで、今回のケースに関してはある原因が考えられた。
それは…マダニ
マダニとは、家の中にいるダニとは異なり、森や草むらに生息し、野生動物などの血を吸う体長5ミリほどのダニである。 実は、このマダニの唾液には、肉に含まれている「α-Gal」が含まれているのだ。 女性は気がつかない間にマダニに噛まれ、体内に「α-Gal」が侵入。 その結果、体が「α-Gal」を異物とみなし、抗体を生成。 その抗体が肉に含まれた「α-Gal」に反応し、アレルギー症状を引き起こしていたのだ。

また、一度噛まれた程度では、基本的にアレルギーになることはないため、気がつかないうちに、女性は何度もマダニに噛まれていたと推察された。
では、一体どのようにして、女性は何度もマダニに噛まれてしまったのか?
この女性の場合、飼い犬についたマダニや、犬の散歩の際、草むらにいたマダニに噛まれてしまったことが原因だと考えられた。

だがここで、もう一つ疑問が残る。 なぜ、同じ環境で生活する彼女の夫は、肉アレルギーを発症しなかったのか?
千貫「アレルギーになるかどうかには、もちろん個人差があります。今回の場合は、このご主人の血液型がB型、またはAB型だった可能性があります。」

実は、血液型は赤血球の表面にある物質の種類によって決まる。 B型とAB型の人が持つ物質は、「α-Gal」と構造がよく似ているため、異物とみなされず、アレルギーになりにくいという。 A型とO型の人はその物質を持たないため、アレルギーになりやすいのだ。

現在、温暖化の影響などにより、マダニの生息域が徐々に北上。 それに伴い、日本全国でマダニによる肉アレルギーの患者数が増えているという。 そして、その患者の多くが犬などのペットを飼っているのだ。 では、防ぐ方法はないのだろうか?
千貫「草むらや山に行く際は、肌の露出を避けて、出来れば虫除けスプレーも使って、マダニに噛まれないことが一番です」
さらに、動物病院に行って(ペット用の)マダニ駆除剤を処方してもらうなど、ペットのマダニ対策を行うことも重要だという。

また、症状が治まるまでは、牛肉や豚肉は控える必要があるものの、鶏肉やカレイ・ヒラメ以外の魚卵は、基本的に食べても問題がないという。 今回の症例の女性も、マダニに噛まれない工夫などをした結果、3年ほどで牛肉や豚肉を食べられるようになっている。
千貫「今回のアレルギーのように、本当の原因が分かれば、対策を行って治すことができる可能性があるわけです。もし、アレルギーに関して悩んだり、困ったりしたことがありましたら、ぜひ、かかりつけの先生とご相談の上で専門医を受診して頂ければと思います。」

今回の事例のような、食べ物に関連したアレルギーだけでなく、特殊な原因によって起きるアレルギー反応は数多く存在する。
例えば、金属に触れることで皮膚の赤みや、ただれなどが出てしまう金属アレルギーは…汗などで溶け出した金属イオンが体のタンパク質と結合し、その結合物に対してアレルギー反応が起きている。 食べ物に対して起きるアレルギーの多くが食べてからすぐに症状が出るのに対し、金属アレルギーは、金属に接触してから症状が出るまでに数日かかるといった特徴がある。
また、日光が当たった場所に蕁麻疹が生じる日光蕁麻疹という病気もアレルギー反応の一つである。 これは、日光の照射を受けたことで変性してしまった体のタンパク質に対して、アレルギー反応を起こしているのではないかと考えられている。

そして他にも、変わった事例として、このような症例がある。
この日、20代のある女性が、いつものようにお風呂に入っていると、突如として、息苦しさと蕁麻疹が彼女を襲ったのだ。 その後、救急外来を受診し、点滴と薬で症状は改善した。

だが、その翌朝。 この日も普段と同じように過ごしていたにも関わらず、顔面に蕁麻疹がでてしまったのだ!
果たして、その驚くべき原因とは!?

日常生活を送っていただけにもかかわらず、女性を襲った蕁麻疹。 彼女にはこれといった持病もなく、思い当たる節もなかったのだが、その後、精密な検査によって彼女に起きていた驚きの事実が判明した。
この症例について詳しい福永先生によると…
「病名というのは水蕁麻疹と言いまして、水と関連する蕁麻疹が出る病気です。もの凄く稀な病気なので検査法とかもあまり確立していない。なかなか診断に苦慮する場合が多いと思います」

巷では「水アレルギー」とも呼ばれるこの病気は、水に接した場所に蕁麻疹ができ、場合によっては、アナフィラキシーショックが起きることもあるという。 世界的に見ても報告された症例は数少なく、その具体的な原因やメカニズムはまだ分かっていない。 一説では、皮膚の表面についた何らかの物質が水に溶け込むことで体内に侵入し、それに対して、アレルギー反応を起こしているのではないかと考えられている。
水そのものに対してアレルギー反応を起こしているわけではないので、水を飲んでも症状は出ないという。 そのため、水の温度は症状に関係がなく、お風呂やプール、海水浴や雨などでも症状が出てしまうという。

しかし、個人差はあるものの、この病気も症状をコントロールする術がある。
福永「一般的な蕁麻疹全てに使う抗ヒスタミン薬を飲むと(症状の)コントロールが良くなる傾向があるので、抗ヒスタミン薬を飲むことで、水に入って貰うことは結構できるようになっています」
実際にこの女性も薬を上手く調節し、現在では問題なくお風呂に入れるようになっているという。

福永「こういう病気があるんだということをまずは知っておくと。診療する方もそうですし、患者さんもそういうことが起きないような気はするかもしれないけれど、起きることがあるんだということを知っておいて貰うと、だいぶ違うかなと」
未だ謎が多いこれらの病気、あなたにとっても他人事ではないかもしれない。