NONFIX過去放送した番組

居酒屋の看板が連なる東京・新橋のガード下に
93歳のおばあちゃんが営む理容店・バーバーホマレがある。
「若い女性が外でビールを飲んでる様じゃ、世も末よ」
背筋をピンと伸ばしてはさみを動かす寿賀さん。

年金、高齢者医療の問題、毎日の様に起こる凶悪犯罪…
暗く沈んだ日本。だから今―
忘れられた日本人の心に、32歳の女性カメラマンが触れた。





夜ともなると赤ら顔のサラリーマンでごった返すエネルギッシュな街、東京・新橋は今、ウォーターフロント・汐留との巨大複合都市としてスタイリッシュな街に生まれ変わろうとしている。

「この店は人さまに助けていただいた証。店を閉めるときは、人生も終わり。」93歳の現役理容師である加藤寿賀さんが、ここに店を構えて半世紀になる。

店は完全予約制、とは言っても常連客ばかりだ。
客は寿司職人から、若いOLまでいるから驚きである。
寿賀さんの“顔剃り”は、かつて花柳界で鍛えられた職人技だ。

近所の誰かが必ず毎日、一人暮らしの寿賀さんの様子を見にやって来る。
独り暮らしの寿賀さんを地域が見守る…
そんな関係が都会にもあった。

32歳・町井由佳カメラマンは、おそらく“最後の常連客”となるだろう。
取材初日に、挨拶するや否や突然イスに座らされ前髪をバッサリ切られた。
理髪店での初めての散髪にショックを受ける町井を見て、寿賀さんは大笑い。

店の奥にある急な階段を上ると、まるで秘密基地の様な住まいがある。
「2階の部屋の撮影はダメ。」
そう言い続けてきた寿賀さんが、ある日突然、町井を2階に案内した。
寿賀さんが、ここをずっと離れなかった理由が分かった。

一年間にわたって取材した町井カメラマンは…

「寿賀さんは、少女の頃に見た関東大震災や2.26事件当日の風景を今もしっかり記憶に留めています。私にとっては教科書でしか知らない時代を生きた女性には、若い世代には見られない佇まいと貞操観念があり、忘れられた日本人の心というものに間近に触れる思いでした。寿賀さんに叱られ、励まされながらの取材。本当に多くのことを学びました。」

7月、都会では田舎より一ヶ月早くお盆を迎える。
寿賀さんは毎年、店の前で“迎え火”に手を合わせる。
夫と娘を出迎えるラストシーンに胸が熱くなる作品です。