NONFIX過去放送した番組

【企画意図】

 高齢化社会を迎え、介護問題について日夜、さまざまなメディアが取り上げている。しかし、大半は高齢者自身やその子供へ向けてのメッセージが多数で、若い世代が現実を見る機会は多くない。視聴者の多くが20代である『NONFIX』。そうした世代に、今ある現実を直視してもらうことで、将来自らにどのようなことが起こるのか? 今後日本はどのような対策を考えればいいのか?・・・この番組を機会に考えていただければ、と思います。

【番組内容】

 1960年代まで、日本人は自宅で死を迎えることが一般的でした。
 しかし1977年を境に病院で亡くなる人が在宅死の数を抜き、今や自宅で死ぬ人は、1割程度です。自宅から病院へと死に場所が移行するなかで、延命治療を中心とした医療への反省がなされ、在宅死の意義が浮上してきました。

 川越厚さん(58歳)は16年前から「在宅ホスピスケア」の先駆者として挑戦を続けている医師です。「在宅ホスピスケア」とは末期癌などで間もなく死を迎える人の、最期まで自宅で、自分らしく生活し続けるということを支援する医療です。治療の主眼は、末期癌特有の痛みを緩和すること。痛みをコントロールすることで、その人の望む過ごし方を可能にすることができると考えています。
 一般病院で行なわれている医療が「治す医療」であるなら、在宅ホスピスケアは「癒す医療」であるという考えのもと、川越先生は今まで500人以上の人たちの最期の時を看取ってきました。

D・Mさん(58歳)。
 ベルト製造の職人さんで、奥さんと10歳になる娘さんと3人家族。昨年7月に肺がんが見つかり、その時すでに末期状態と診断されました。入院して抗癌剤治療を続けてきましたが、自宅で家族と過ごすため4ヵ月で退院。その後、川越先生を訪ねました。
自宅で家族と普通に暮らしています。「もう何ヵ月生きられるかわかんないけど、元気なうちに(思い出を)残しておきたいんですよ。まだ幼い娘と一緒に遊んで、少しでも残したいんです。」
 D・Mさんには体が動くうちにどうしてもやっておきたいことがありました。それは家族で毎年行っていた千葉への一泊家族旅行です。娘さんの春休みに合わせて、自ら運転して出発しました。末期癌と宣告されてから初めての家族旅行。病院にいれば不可能と思えることが、自宅にいることで可能にもなるのです。この日の夜、みんなで新鮮な魚料理を堪能し、念願だった旅行の1日目が終わりました。
 2日目、容態が急変。D・Mさんは自宅に戻りました。川越先生も駆け付けます。最後の時間を、住み慣れた自宅で、奥さんと娘さんと手を握りあって、そして息を引き取りました。
 「ひととしての尊厳を保ち、自分の家で、自分の部屋で、いつものような生活を最期まで続ける…」
 日本における医療としての「在宅ホスピスケア」は始まったばかりです。
 川越先生の挑戦もまだまだ続いて行きます。
 人は本来、どこで死ぬのがいいのだろうか。在宅ホスピスケアという、1つの選択肢を考えます。

■企画
吉田 豪(フジテレビ編成部)
■プロデューサー
大隅正睦(スローハンド)
■ディレクター
伊藤みさと(スローハンド)
■制作
フジテレビ
スローハンド